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天穹の彼女

著編者 : spica

第四話 乙女のお頼み

著 : spica

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 次の日のこと。太陽の眩しい、朝の終わりだった。

「ってわけで、来てみたのはいいけど…」

バニラが隣で呟く。ヨゾラ達がいるのは──
島、だった。

「…で、どこにいるんだよ。ラヴァちゃんとやらは」
『わかりました。このペンダントは、わたしが責任を持ってお預かりします』

謎のペンダントをセレスとカテドラルに託し、少し休憩しようと歩いていたところ。

『ちょっと頼みがあるんだけど…』

と、話しかけてきたのはオトだった。
正直なところ、思った。
嘘だろう、と。
オトの頼みは、『遠くに住む妹が旅に出るというので、荷物を届けてあげてほしい』というものだった。

『心配するなーって何回も何回も言われたんだけど、やっぱり姉として心配になっちゃうんだよね…』

 オトの気持ちが、ヨゾラには痛いほど分かった。誰かを失ったときの喪失感、ああしていればという後悔を、ヨゾラは知っていた。
 体力もそれなりにあったので、ヨゾラ達は引き受けることにした。

そして、今、島にいる。
そこら中に立ち並ぶ木々には虹の果実がわんさか実り、島を飾っていた。しかし、オトと同じニンフィアであるというラヴァの妖の気配は全くもって感じられず、水や草のポケモンのエネルギーばかりが満ちていた。

「すみませーん、ラヴァちゃん知りませんか?」

 バニラが子ポケモンの円陣に突っ込む。だが異色になかなかの巨体の彼が怖がられないはずもなく、ポケモン達は散り散りになって逃げていった。

「あーもう…しゃあないなぁ」

ビターがバニラを引き摺ったのちにサイコフィールドを張り巡らし、マジカルシャインを放つ。超と妖以外の気配を消してラヴァを探す策略だ。

「…はぁ?」
「な、何っ?」

突然切れたように声を荒げたビターに、レイが戸惑いの声を漏らす。

「バカ遠いんだけど、4キロ強はある」
「え?ビターならそれくらいすぐ着」
「…お前は周りのこととか考えたことねぇの?」

バニラが周りを見回すと、ぱちぱちと瞬きし、目を合わせるヨゾラ、レイ、イリジェの姿。

「ぁ…」

ははっ、と軽快に笑うイリジェとレイ。

「まあまあ、観光だと思って無理せず行きましょう」

…少しのんびりし過ぎて着いたのが真昼なのは、言うまでもない話である。




 景色は一変、上品さと荒々しさの混じる洞窟の前に、ヨゾラ達はいた。

「ほ、本当にここにいる…?ズバットとか出そう」
「気配がここにしかないから入らねーと無理」

 暗く少し湿った洞窟に、ヨゾラ達は一歩足を踏み入れる。
その瞬間目に飛び込んできたのは、極彩色と感動だった。
池は光源なしにぎらぎらと青紫に輝き、その中央には、黄金の縁の真紅の大輪が君臨していた。狭苦しく生えた木々から伸びるツルと葉さえも、真緑を宿す。

「これは…」

イリジェが感嘆の声を漏らすのと、奥からどさどさと何かがやってくるのは同じ時であった。

「お客さんか?女王なら奥だぜ」

大柄なバンギラスが砂埃を纏いながら、ヨゾラに問いかける。

「えっ…えっと、わたっ…」
「私達が探しているのはラヴァなるニンフィアだ。ここに妖の気配があった、故に来たのだが違うか?」

イリジェが淡々と返す。旅路で積んだ経験が、彼女に余計貫禄を持たせていた。

「ああ、ラヴァか。…オトの姉御の連れかい?」
「はー…そうだよ」

おーい、と声を張ってバンギラスはラヴァを呼んだ。

「なーにー?…姉さんのお友達?!」

先程とは一変、たたたたっと軽く可愛らしい足音でやってきたニンフィア。彼女こそがオトの妹、ラヴァだった。

「はじめまして!ラヴァです!多分姉さんの無理聞いてくれたんだよね、ありがとう…!」

纏う桃のリボンをなびかせ、ラヴァは言った。

「おっと俺は名乗ってなかったな、ヘビーだ。よろしく」

 ヘビーとラヴァが肩を揃える(なんてことはできない)。すると、さらに奥からかつかつと、上品な音と共にもうひとりポケモンが現れた。

「ごきげんよう、わたくしはスウィーナ。何の御用かしら?」

 紅紫の脚を揃え、大きな瞳を此方に向けて、小柄なアマージョ──スウィーナが言った。

「はじめましてっ、私はヨゾラ。…えっと、ラヴァちゃんに荷物を届けるようオトから言われて来たの」

慌てて出た言葉を順々に並べ、ヨゾラはスウィーナ達に例の荷物を差し出した。

「成程、感謝するわ。長旅だったでしょう、少し休んでいきなさい」

スウィーナは葉包みの荷物をラヴァに手渡す。その口を噛んでラヴァは、荷物の封を開けた。

「おーっ、いいきのみが沢山!これ美味しいんだよねー!…でも、腐る前に出発できるかなぁ…?」

心配の目でラヴァが辺りを見回す。ヘビーがすかさず答えた。

「コールに冷やしてもらえば大丈夫だろ。だからといって遅れていいわけじゃないが…」

マコエの面々は顔を合わせる。思うことはみな同じだった。

「あの…すぐ出発するんじゃなかったの?」

レイが問う。くるりとスウィーナは向きを戻した。

「わたくしのこだわりで、何とかして人の姿で旅ができないかと試行錯誤しているところなの。なかなか上手くいかないけれど…それより」

そう語ったあとスウィーナは、ヨゾラの手首を指差した。

「その花。香りが強すぎて気に食わないの」

わたくしが霞むわ、と付け足して彼女はそっぽを向いた。

「これ…?これはセレスさんに貰ったのだけれど…余り物らしいし嫌なら外すわ」

ヨゾラの手首には、青と赤紫の花弁を合わせた腕飾りが嵌められていた。青はセレス本人の、赤紫はセレスの妹のものだそうだ。『妹のお花は色違いとも違う珍しい花なのです!』と、嬉しそうに話すセレスの姿が脳裏をよぎる。

「ええ、外して頂戴。それからわたくしに預けなさい、なんだか気味が悪い」

ヨゾラが腕飾りを渡すと、スウィーナは片手でそれを摘み岩に置いた。

「女王、それをどうするつもりなんだい?」

ヘビーが言うと、ふん、と鼻を鳴らしてスウィーナは、

「対岸の女王に許可を取って浄蜜の毒沼に落とす」

と答えた。負けず嫌いがすぎるだろう、とは言わない約束。

「…まあいいわ。荷物も花も、渡してくれたお返しとでも言おうかしら、好きに歩いて好きに飲み食いしなさい」

ようやく笑顔を見せた女王に、ヘビーがほっと息をつく。

「じゃあ皆で行こうよ!ラヴァちゃんにマコエの話したい!」
「やった、喜んで!」

バニラとラヴァが、満面の笑みで駆けていく。

「私は昔各地を旅していたのだが、女王の理想について興味が湧いた。お聞かせいただけるだろうか?」
「あら!旅人さんだったのね。いいわよ、いくらでも語って差し上げましょう。代わりに旅の話も聞いてよろしい?」

ルンルンでステップを踏むスウィーナと、笑いながら着いていくイリジェ。四つの影が遠ざかると、その場に広がったのは沈黙以外の何でもない。

「…あ、僕達も行こ。…」
「…わかったよ」
「お、おう。それなら姉御の様子でも聞かせてもらえるか?もちろん話したいこと話してもらえばいいけどよ」

レイとヨゾラ、ビターにヘビーも、続いて歩き出す。

「オトのことね。あの子はいつも通り元気で、最近は───」
「ふんふん。マコエの超の技術で少しは情報も入ってくるが、そんなこともあったんだな」
「あっ、スウィーナさんは女王って言ってたけど、実は───」



 八人は様々な会話を弾ませ、色とりどりの島を回り、たくさんのポケモン達と食事や遊びを楽しんだ。
…綺麗で整った景色が素晴らしく、果実があまりにも美味しく栄養満点だったせいで、一週間も滞在し、大量のお土産を積んで帰ったのはまた別の話である。

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【アトガキ】
あのね、
一ヶ月以上更新できないとは私も思ってないです!!すみません!!!!!!!!!
展開ばかりでもあれかなーと思い平和回にしてみました。
女王のわがままさやラヴァちゃんの健気な感じ、ヘビーさんの荒そうだけど優しい感じが出せていたら嬉しいです。
次回!ちょっと展開する!!
オタノシミニッ

あっあっあっ表紙イラスト投稿しました!
(次回で第一シーズン終わるんですけどね…)

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2023.11.21  19:13:44    公開
2024.6.8  19:21:35    修正


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