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天穹の彼女

著編者 : spica

第二話 誰かの救い

著 : spica

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 満開の桜が煌めき、ポケモン達が舞い踊る輝かしい夜。
わいわいと賑わう広場の外れに、エルレイドのレイはいた。
エルフーンとマリルリが配るきのみを受け取り、レイは呟く。

「あの人がやってきたのも、こんな夜だったっけな」

ふ、と笑い、レイは目を閉じた。



 その日は、満開から少し過ぎたころの桜が舞っていた。
今日よりかは静かでささやかな祭りだったが、レイ達は存分に楽しんでいた。
子のポケモンが眠りにつき、真っ白な月を眺めるのが大人だけになった頃。
 さわさわと、入り口の方の草が揺れる音がした。ポケモン達は身構えたが、近づいてくる気配は超と妖のものだったので、ポケモン達は客をもてなそうと音の方へ寄った。
やってきたのは、世にも珍しいサーナイトだった。
快晴の空の色の頭に、儚い夕焼けの色の瞳。
彼女、特にその眼には、レイと似たものがあった。
そう。レイも色違いのエルレイド。まるで運命のようだな、と勝手に感じていたのをよく覚えている。
 そのサーナイトはヨゾラといって、この森に魅力を感じたらしくそのままマコエに住むことになった。だが彼女はレイとは全くもって違う性格で、ポケモン達に好かれ、優しく、決断力もあって、あっという間に長にも気に入られた。話しかけようか迷っている間に、まるで手が届かない存在になってしまったのだ。はるか高くの天穹(おおぞら)のように。
見つめているだけでも見惚れてしまうような輝き。問題に真っ向に向き合う真剣な眼差し。その一つひとつが美しく、彼女に己が抱いた感情は変哲もない好意かそれとも恋か。

「ヨゾちゃん?笑顔が素敵で、とってもいい子だよね」

聞けば誰もがそう答える。実際、彼女の笑顔は優しさに満ち溢れているので、妥当な答えだろう。
 だが、レイはヨゾラの笑顔に、何か違和感を感じていた。裏表のない純粋な笑み。だがその奥に、哀しみが潜んでいるような気がするのだ。不幸とまではいかないが、時々昔を思い出すような表情で笑むことがある。心なしか辛そうに見えるのは、いつもそんな時だ。
 誰かを救う──それが自分の宿命だと、昔々に長は言った。まだキルリアだった自分は少し怯えながらも頷いたのだった。そして翠色の石に選ばれ、怖がりなりにポケモン達を助け、自分の道を貫いた。
 そしてある夜、苦しそうに涙を零す彼女を見たのだ。
今までやってきたことはきっと、この為にあるのだ。でも。
臆病者の僕に、彼女を救うなんてことができるだろうか。
そんなことを思いながら、今日もまた大空に手を伸ばす────



 目を開けると、桃色のオドリドリが仲間を連れて踊り出すところだった。

(…平和だ)

その時、さぁっと花弁が舞ってきた。それは桜ではなく、天色に煌めくポケモンの花弁だった。その方向を見れば、フラージェスのセレスが此方にやって来ていた。

「こんばんは。今年の夜桜は見ものですね」

ふわりと優しい甘い香りが漂い、可憐な花が揺れる。

「あ…ああ、ですね。僕が見てきた中では一二を争う華やかさだ」

そう言いながら、レイはセレスがいた方向が森の入り口であったことに気づいた。

「そういえば…さっきは何をしていらっしゃったんですか?」

セレスは微笑みながら答えた。

「先程、ですか。ヨゾラさんが少し出かけると仰ったので、お見送りをしておりました」
「ぁっ…そうでしたか、お疲れ様です」

しまった。明らかな動揺を見せてしまった。だがセレスは特に気にせず、

「お気遣いありがとうございます。長が呼んでおります故、わたくしはここで失礼いたします」

と、優しく笑んで言った。
 そうしてセレスは去っていった。それから数十秒もしないうちに、ダッダッダッと物凄い足音と共に焦茶の羽のポケモンが現れた。仲間のクエスパトラ、ビターだ。
何やら慌てた様子でビターは、レイに向かって叫んだ。

「今すぐ魂霊山に行け!さもないと死ぬぞ、あいつっ」
「あ、いつって、誰が何を」

苛ついた顔でビターは返す。

「それくらい察せ、お前の好きな奴に決まってんだろがっ」

レイはびくっと跳ね、震えた声で返した。

「ちょっ、と待って、それってつまり」
「そうだよ、夜風に当たるなんて嘘吐いて魂霊山飛び込みにいったんだよ、あいつ!」

その時レイは、長が今日話していたことを思い出した。

『お前以外の異色の者らに、今日伝えようと思う』

 色違いの超と妖は永遠に生きる──生まれて少しした時から、レイは知っていたことだ。だがヨゾラ達は今日、初めて知ったのだ。重荷を背負うのが苦手な彼女のことだ、レイが感じていた何かも相まって狂ってしまったのだろう。

「…長がヨゾラに次の王になってくれって頼んだのも、崩壊の理由だと思う」

レイはぱちぱちと瞬きした。確かに優しく強いヨゾラに王は相応しいが、不死の件で衝撃を受けた精神状態では、そんな頼みなど追い討ちでしかないだろう。

「だ、か、ら!早く行け!お前じゃないと無理だ!」
「で、も、僕なんかで」

ビターはくわっと口を開いて怒鳴りつけた。

「そこが駄目なんだよこのヘタレ!!誰かの救いになりたいって言ったのは誰だよ!」

はっと、レイは息を呑んだ。

『レイ、お前は確かに怖がりかもしれない。臆病な子かもしれない。だがな、勇気を出せば誰かを救える正義の心を持っている。いつかこの石に選ばれるその時まで、正しいと思う道を突き進むのだ』

 さっき、思い返したばかりの決心。そうだ。自分が行かないと、彼女の道は途絶える。ビターはきっと、誰かの救いになるという自分の夢に手助けをくれたのだ。

「分かった。…僕、行くよ」
「……その意気だ」

ビターは笑い、ワイドフォースで森の出入り口までレイを吹き飛ばした。その勢いに乗って、レイは全速力で走り出した。



(…聞こえる。踏み出せずに寂しがっている声)

 そうして前にした魂霊山。霊気など気にもせずにレイは駆け上がり、襲ってくる疲れに耐えながら頂上に登った。
 ヨゾラの後ろ姿があった。触れたら死ぬという紫の沼に、彼女は足を伸ばしていた。

───生きるという選択肢は、彼女の幸せに繋がるだろうか?

そんな考えが頭をよぎる。でも。
今はそれどころではないのだ。ここを乗り越えなければ、全て終わってしまうのだから。

「待って!」

レイは叫んだ。そして、彼女の腕を思い切り掴んだ。

「あな、たは…」
「……僕が言えることじゃない」

…だけど。
困惑の眼差し。吹きつける風を追い風にするように、勇気を振り絞りレイは言った。

「……死なないで、君の救いになるから」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【アトガキ】
勢いで書きました。そして思いました。
このまま書いたら表紙イラストが追いつかないのでは?
ざっくり分かれたシーズンでイラストを変える予定なので…
三話まで書いたら一旦イラストの方に専念しようかなと思います。
なんかロマンチックな終わり方をしましたが、二人はこれからどうなる…?!
ジカイモオタノシミニッ

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2023.10.8  16:59:10    公開
2024.3.3  09:11:20    修正


■  コメント (2)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

またまたまたありがとうございます!!
頑張って書いてるのですぐに感想くださるのがものすごく×いっ(ry 嬉しく思っています!!
イラストも頑張ります!

23.10.9  08:49  -  spica  (kirarin)

またまたこんにちはきのこと1(ry
やっぱり文章力がすごいですね!
イラスト楽しみにしてます!
時間がないのでまた、次か、その次か

23.10.8  23:15  -  キノコ13  (13777)

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