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短編ノベル集

著編者 : 北埜すいむ + 全てのライター

ぼくのピカチュウ

著 : ぴかり

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「もう起きなきゃだめだよ、何時だと思ってるの?」
 そう言ってピカチュウはぼくの頭を小さな手でぺちぺちと叩いた。
 うるさいなあ、もう起きるよ。だまってよ。そう言ってぼくはまた布団の中にもぐって、きれいな夢の続きを見ようとする。
 すると決まってピカチュウは赤いほっぺたをぷっくりとふくらまして、僕の腕に噛みつくのだ。
「あとちょっと、ちょっとだけ」
「ママが怒っても、しらないよー」
 そういいつつ、ピカチュウもぼくの隣にもぞもぞと潜り込んできて、腕の中で寝てしまうのだ。

「べーこん、ひとくちちょうだい!」
「だめ、これはぼくのベーコンだからピカチュウにはあげない」
「なんでなんでーぼくもべーこん食べたい食べたい食べたい!」
「……しょうがないなあ、ひとくちだけだよ。――って全部たべるなッ!」
 そう、あのころ、ぼくは“ピカチュウと話せた”のだ。
 ピカチュウの声が聞こえた。ピカチュウに向かって話しかけられた。人間に話すのと同様に、本当に自然に。まわりの大人たちが、なんであの子はピカチュウと話しているのかしらとやたらと不思議がっている光景を、よく見たものだ。
 幼いぼくは、人見知りが激しかった。十歳になっても、友達がひとりもできなかった。話しかけたくても、話しかけられなくて、いつもピカチュウとだけ話していた。
 ピカチュウといつも一緒に居た。どろんこになるまで遊んで、けんかして怒って、泣いて。
 そんなある日、いつものようにピカチュウと話していると、ピカチュウはふいにぼくに向かって言った。
「ねえ、ぼくよりもっと楽しいことが、君の前には待ってるよ」
「ピカチュウといるのが、ぼくにはいちばん楽しいよ」
 ピカチュウがそんなことを言うのは初めてだったので、ぼくはおどろいた。
 ピカチュウは頭を横に振って、
「そんなことない。――見てて。ぼく、君に、ぼく以外の、もっとたくさんの世界を知ってほしいんだ! 君のことが大好きだから!」
 そう言って、ピカチュウはとてもきれいに笑って、駆けだした。
「待って、待ってよ!」
 ピカチュウを追いかけて、靴もはかずに扉を開けた。はだしで地面を走った。
 けれど、いつのまにかピカチュウは見失ってしまっていた。ピカチュウと一緒に行った場所を、ひとつずつ巡った。ふたりでモモンのクレープを食べた、商店街のクレープ屋さん。ピカチュウのだいすきなベーコンが売っているお肉屋さん。ふたりで追いかけっこをして遊んだ原っぱ。
 どこにも、ピカチュウの姿はなかった。
 途方に暮れたぼくがとぼとぼと歩いていると、子供たちの声が聞こえてきた。ぼくは周りを見渡して、子供たちがいない方に逃げようとした。
 なのに、
「すげえ、ピカチュウだ!」
 そんな声を聞いてしまったら、そうするわけにはいかなくなってしまった。
 声のする方に、ゆっくりと歩き出した。電柱の陰から、その場所を見ると、ピカチュウが数人の子供に囲まれていた。
 どこ行ってたんだよ、ピカチュウ!
 そう言って抱きしめたいのに、おくびょうなぼくはなかなか足が踏み出せない。
 そんなぼくを見つけたピカチュウは、ぼくに向かって駆けだした。
「ぴっか!」
 小さな足で地面をけって、ぼくの胸元に飛び込んできた。
「おい、それ、おまえのピカチュウ!?」
「う、うん……」
「かわいー」
 子供たちがぼくの周りに集まって、ピカチュウのあたまを撫でた。ピカチュウは撫でられてうれしそうな顔をしながら、ぼくを見ていた。
 その日をきっかけに、ぼくはその子供たちと一緒に遊ぶようになった。その子たちと一緒にモモンのクレープを食べて、原っぱで追いかけっこするようになった。
 ピカチュウとは段々遊ばなくなっていった。
 けれど、ピカチュウは寂しそうな顔ひとつ、しなかった。
「ただいま!」
 友達と遊んで帰ってきたぼくの胸元に、
「ぴっか!」
 あの日と同じように抱きついてきた。

 時が経つにつれて、僕はもう服を汚さなくなっていった。
 人見知りもしなくなった。あのときの子供のひとりとは、親友になった。
 ピカチュウとは、いつのまにか話せなくなってしまった。
 僕は、それを悲しいとは思わなかった。
 その言葉づかいは、しっかりと僕の胸に刻まれている。たとえ、ピカチュウがもう話してくれなくとも、ピカチュウはいまも僕の隣に居てくれている。
 それで、十分だった。
「ぴーか、ぴか、ぴかかっ」
「ねえ、ピカチュウ。どうして、君は僕と話してくれなくなったの?」
 そう問いかけるたびに、ピカチュウはあのときと同じくらい綺麗な笑顔をみせて、
「ぴか、ちゅ!」
 そう言うのだ。

 ……もちろん、なんて言っているかなんて、分かるわけないけれど。







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2010.7.4  19:27:22    公開


■  コメント (3)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

まさか短編ノベルでコメントいただけるなんて……!
シェリーさんはじめましてこんにちは!以後よろしくお願いします><**
いつも読んでる……だと!?うああああめちゃくちゃうれしいです、ありがとうございます!Σb
内容は短いですがそれなりにわたし好みにできたと思っていますのでなにかを感じ取ってくださって嬉しいです!><**

わたしに憧れてだと……!
シェリーさんはもっとほかの人を選ぶべきだったんではとか思いつつあああ嬉しはずかしです、でもほんとはすごくうれしいです、ありがとうございます!
満月の夜、読ませていただきました!表現がとてもきれいですてきな印象でした、素敵なお話、本当にありがとうございました><**


ではでは!コメントありがとうございましたー!><**

10.7.31  15:50  -  ぴかり  (pika)


初めまして、シェリーといいます!

ぴかりさんの小説いつも読んでます☆
今回のもすごくおもしろかったです^^
ピカチュウはとてもいい子ですね。
この話を読んでもっと友達を大切にしようと思いました!

シェリーはぴかりさんに憧れて小説を書いてみました!
このスレにある「満月の夜」という話です。
読んでいただけると嬉しいです><*

これからも頑張ってください!


10.7.16  21:48  -  不明(削除済)  (ymm65274)

初投稿です驚くほど短くてごめんなさいΣ
皆さんの短編をみててたぎったので つい……!
とても楽しかったです!素敵なスレありがとうございました><**
またよかったら使用させてください!**

10.7.4  19:28  -  ぴかり  (pika)

 
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