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キミノタメニ
サイカイ
著 : 夜光
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「―スギッ、アスギ!」
「なんだ?」
場所は大学の教室の一角。声が聞こえ自分の名前が出てきたから首を動かす、そうするとサークルの仲間の一人が呆れたような顔をしていた。なぜだろうか?
「何回もお前の名前を呼んだのに気付かないってどうよ」
覚えがない。その言葉にただただ困惑する
「悪ぃけどノート写させてくんない。ねちゃってなんも書いてないんだわ」
軽薄そうだが両手で手を合わせて頼んでくる。断る義理もないしノートを貸そうと思って自分の手元を見た。
何も書いていない。
授業の内容は聞いていたような気がするが頭に一切入っていない。いつ講義が終わったのかすらわからない
「すまん。俺も寝てた。別の奴に頼んでくれ」
「えーこの講義取っている奴でノート取っているのお前ぐらいだと思って頼んだのに」
非難された。だが頼みごとされたという立場の上ではなにかやるせない気持ちになる。
「どうしたんだよ。アスギ。いつものお前なら真面目にノート取っているだろ? 調子でも悪いのか?」
「なんでもねぇよ」
「さては失恋でもしたな。今度失恋パーティでもしてやるから元気出せよ」
「失恋……そうだな……失恋かもしれない」
「うわっ!マジかよ。 アスギに好きな奴がいたなんて知らなかった。で、どんな彼女なんだよ」
「俺は彼女のことはほとんど知らないんだ。名前しか知らない」
「珍し、論理派のアスギにしては一目ぼれって奴!って失恋したからもう関係ないわな。はやく立ち直れよ〜」
そういってサークル仲間の一人は教室を出た。確かにこのままではいけない。
そう思っていてもアスギのアメリアの会うための調整は習慣になりつつあって気がつけばアメリアとであった場所にいたりしていた。忘れようにも彼女のことを忘れて本当にいいのかと自問自答する。そうして悶々とした気持ちになり夜の公園から背を向けて家に帰るを幾度となく繰り返した。アメリアと出会うための調整も急には止められないらしい。
バイトのシフトも夜は一日おきになっている。だが忘れるためになにかに我武者羅になろうとも思えない。空虚を抱えてアスギは日々をすごす。
そんなある日の夜。アスギは自室でレポートを書いていた。提出期限は明日。
時刻はあと一時間もしないうちに日付が変わろうとしていたときだった。
花の香りがした。
家に花を飾る習慣もこ洒落た趣味もない。
「アメリアッ!」
根拠もなにもない。だがアスギは直感的に叫んでいた。気がつけば窓が開いている。
レポート用紙や筆記道具が散乱するが無視して急いでベランダに向かう。
いた。ベランダから見える下の景色の中にアメリアはいた。そして小さく微笑んだ。
鍵を閉めるのももどかしくエレベーターを起動させ待つ時間すら惜しく階段を駆け下りる。
到着したときアメリアはまだその場にいた。初めてであったときと同じ服装(とはいえアスギはその服しか見たことない)でその場にいた。待っていてくれた。
上から見ていてもわかったが今も顔色は悪い。
「ごめんなさい。どうしても……アスギに会いたくって。この前ひどいことしたのに会える立場じゃないのはわかっている。でもどうしても伝えたいことが……あったの」
アメリアは病人のような顔色で切れ切れに声を発する。それはとても無理をしているように見えた。
「いいよ。俺もアメリアに会いたかった。けどどうして俺の場所が?」
「幻想を……追ってきたの。あと私の……付けた花……の付いた匂いを追って。上がっても……いい?」
「ゲンソウ? それと花の匂いって落ちにくいのか? 風呂入ってるんだけど」
ゲンソウ、恐らく幻想という辞書的意味ならわかる。だがそれをどう追うというのだろうか? 意味がわからない。そのためアスギは後半の疑問を問うた?
「ええっとなんていったらいいんだろう。固有存在痕跡……っていったらいいのか潜在世界面構築量? とにかく幻想っていうの。普通の人にはわからないでも私にはわかるもの。
ニオイは私がつけた幻想の痕跡」
とにかくアメリアにしかわからない知覚でアスギの場所がわかったらしい
「いいよ。あがっても。そこでしばらく休めばいいよ」
「ありがとう」
そういうとアメリアは淡く微笑みアスギのほうへもたれるように倒れ、それをアスギは受け止めた。
「大丈夫か?」
「すこし休めば平気……安心したらふらついちゃった……」
そしてアメリアはアスギに寄り添いながらエレベーターに向かいあがっていった。
アメリアの様子はとてもすこし休めば回復しそうな様子ではなかったがアスギはなにも言わなかった。いや言えなかった。
アスギの部屋は日ごろから人を招くことはなくても整理整頓していた。日々の掃除は欠かせない几帳面な性格が幸いしてかすぐにアメリアを家にいれることができた。もし散らかっていたらアメリアを入れるのに抵抗が生じてしまうがそれどころではない。
一人暮らしで人も招かないためあるのはベッドと勉強用の端末を載せた机と椅子、本棚あとはテレビとそれを眺めるための座椅子があるだけであった。
座椅子かベッドかアスギは迷ったがアメリアの体調を気遣ってベッドにする。
ベッドに腰掛けていたアメリアはそこで一息をつく。ようやく落ち着いたような表情をみせる。
「ごめんなさい。この前はどうしたらいいのかわからなくって逃げちゃって」
そこでアメリアは一度目を伏せて何かを決意するかのように顔を上げる。
「話すにしても飲み物飲んでからにしないか?」
そしてその後の発する言葉を遮るようにアスギはいった。
「でもとても大事な話なの。できれば今すぐ聞いて欲しいの」
「大事な話だからこそだ。飲んでからにしないか」
圧力に負けてアメリアは承諾をする。今はわずかな時間でもアメリアといたい。だがアメリアは正式な別れを告げようとしていることはアスギにはわかっていた。
「コーヒーは切らしていて紅茶だけど」
稼げた時間はあっという間だった何も言わないままにキッチンに逃げたアスギはお湯が沸くのを待ち紅茶を入れる。その間は無言で無意味に時間を引き延ばしたに過ぎなかった。
そして盆の上に自分用とアメリア用を用意して出す。
アメリアは一口飲んで「おいしい」 といってくれる。
そしてアメリアは言い出した。
「もう帰らなきゃいけないの」
「もう?次はいつ会えるんだ?」
「ううん。今日はお別れを言いにきたの。この国にはもういられないから」
「そう」
そういえば彼女は旅行者だった。そのことをアスギは思い出した。
「もう二度と会えない。だからちゃんとしたお別れをしたかった。アスギが私を忘れないで度々あの場所にいっているから想いを断ち切りに来たの」
「そんな」
「アスギと過ごした時間は忘れない。私の力を見ても受け入れたアスギはとても大事な人」
「いやだ。アメリアと離れたくない。行かせるものか」
アスギは叫んだ。自分が無茶なことをいってることがわかっている。だがそうしても離れたくないという気持ちがあった。
「どうしてわかってくれないの? 前みたいに眠らせて去ることだって私にはできるんだよ。わかって……求めても届かないことがある。私はここに住めないから別れるしかないじゃない」
「連絡は?手紙とか通信とかは?」
「私の国には通信手段はないの」
「どういうことだ」
「それは……」
そこでアメリアは下唇をかんで黙る。言いたいことがあるのに言えないそんな感じだった。
「それは彼女『花園の舞姫』はこの世界の住人ではないからだ」
声がした。いつのまにか部屋に人影がいた。紫のローブを纏っていて顔が隠れて表情が読めない。
「誰だよ。お前」
小さい部屋だ。ドアが開けば自然と気がつくなのに急に部屋に現れた人にアスギは声を荒げる
「私は『面毒の蟒蛇』ボークア」
相手は名乗る。若い女性の声が聞こえた。
「やめて。ボークア。彼を傷つけないって約束でしょ。それに彼を巻き込まないで」
アメリアがアスギの前に立ち仁王立ちになって庇う姿勢を出す。しかしボークアと名乗った女がアメリアのに手をかざすとアメリアはその場で倒れる。
「アメリア!」
「触れるな!この方に気安く触るな。眠らせただけだ時期に目を覚ます」
駆け寄ろうとしたところで拒絶の声が飛ぶ。敵意の混じったその声にアスギは体が動かせない
「お前は危害を加えてはならないとアメリア様からいわれている。まったくなぜこの方は現世の人間と交わろうとするのか理解できない」
「お前たちはなんなんだよ」
「アメリア様に巻き込むなといわれたがここまで関わってしまっては無理というもの。話そう全てを。我々はこの世界の住人ではないのだよ」
唐突に相手はそう言った。
世界は幻想に溢れていた。そして世界を支えあうように存在する異なる世界。世界は一つではなく無数の要素によって支えられているそしてある人物の願いは人や動物、生けとし生きるものの精神の生み出す心の世界。精神世界とでもいうべきその世界がある日分裂した。原因はある人物。夢と希望を願ったある人物。その日を境に彼らは生まれた。夢と希望、怨嗟。願いが詰まった夢物語。幻想世界それがすべての始まりだった。
「我々はその幻想世界の住人、ポケモンという存在なのだよ」
「なんだよ。それ……そんなこと信じられるかよ。唐突に自分たちが異世界の存在だって」
「なら証拠を見せよう」
そういうと相手の姿がぶれた。次の瞬間そこには毒々しい紫色の大きなコブラがいた。
『これが私の真実の姿。私の姿だけでは信じられないというのならアメリア様の姿を見るがいい』
ご無礼をと一言言うとアメリアの姿が一瞬ぶれる。そこには緑の葉に覆われた人型の姿はあった。人の形はしているでもそれは人間ではない。髪も腕も瑞々しい葉でできている。服を着ているように見えるが継ぎ目はなく体の一部のようである。
「これが……アメリアの正体。でも彼女はハナゾノの姓じゃ。こっちの人間の名前だろ。ハーフだって」
自分の光景が幻覚でも見ているかのように信じられないという風にアスギは呻く。一歩下がった床を踏む感覚。そして後ろ手で手をつねってみると感じる確かな痛覚。わかっていても信じられないようになんとか彼女が人間である証を探す。
『ハナゾノはお前は勘違いしているだけだ。それはお前の勘違いに頷いたに過ぎない。我らにとって名は重要のもの。存在を縛るもの。真名から存在を操られぬように二つの名をもつ。アメリア様の二つの名は『花園の舞姫』』
そしてコブラは短い嘆息をへてこういった。
『なぜ?アメリア様は自分の身が危うくなるというのにこの世界に留まれたのか理解できん』
「危うくなるだと」
疑問にボーグアは語った。真実を
「我らポケモンには嗜好がある。それは現実世界にいるということ。いるだけで人間で言う悦楽と休息を得ることができる。だが我々は本来は異物。長くいると世界に侵される」
そういってボーグアはアメリアの気遣うようにし次の言葉を言い放った
「長くいると自我と体は蝕まれる。そのため本来我々はすこしの間しかこちらにはいられない。だがアメリア様は自分の身の危険を顧みずお前と会うために世界に留まり続け、そしていま危険な状態にある」
「そんな……」
アスギは愕然とした。なんてことだ。あんなくだらない話のために彼女は自分の身を削っていたのかよ
「治るのか?」
「無論。今は危険な状態であるが至急、元の世界に返り休養すればよくなろう」
その一言に安堵する。だがアメリアとの別れには変わりない
「世界が違うから連絡できないんですよね。もう会えないんですか?」
「こちらとあちらは時空軸がわずかに異なる。休養して復帰したときどれだけ時が経っているかわからん」
「俺がそちらの世界に行く方法はないんですか?」
「ただの人が幻想世界に渡ることはいまはできない。人が人であるが故、人は夢を見るが夢にはなれまい、おぬしには幻想あるにはあるが世界を渡るほどではない」
ボーグアは縋るアスギを叩き潰す。
「今はできないってどういうことだよ!」
「そう声を荒げるな。口止めされていなかったらお前を喰らっていただろう。幻想世界の摂理はいま変わりつつあり、いまは人はただの人は幻想世界にいくことはできない。そう決められている」
「ただの人ってなんだ?」
「我らの糧にして体を構成する要素。人の持つ夢見る力、それが幻想だ。幻想が多ければ昔は幻想世界に渡れたらしいがお前には無理だ」
「畜生。もうアメリアに会えねぇのかよ。俺がアメリアのところにいければいいのに」
「一つだけ。方法がある。抜け道をいってもいい」
ボーグアは真っ直ぐアスギを見つめていった。
「お前が人間をやめればいい」
2011.9.3 18:25:04 公開
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