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キミノタメニ

著編者 : 夜光

デアイ

著 : 夜光

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その日、『彼女』に出会ったのは運命といったら嗤われるだろうか
 それとも自分の決断は正しくないといわれるだろうか、もし間違っていたら君はなんていうのだろう。
 何度思っても結果は変わらない、時はもう戻せないから
 それはある日の出来事。ある青年の最後の記録。しかしそれは誰の記憶にも残らない。記録されない。その青年の生きた証はすべて剥ぎ取られて消えてしまって青年がいたこと自体がなかったことにされたからだ

ある日の夜のことだった。その日は都合よく課題は出題されず、提出期限あるレポートもすべて書きおえ、バイトもシフトに入っていなく暇を持て余していたときだった。
 惰眠を貪り昼におき昼飯を適当に作って近くの本屋にいって雑誌を読み家に帰ってゲームをするという生活をしていた。大学に行けば話す友達やサークルの仲間程度はいるが遊びに誘うような親しい人はアスギは作っていなかった。一匹狼が好きで黄昏るのがかっこいいとかおもっているわけではないが無駄に輪に入って騒ぐより自分のペースで好きなことをするのが好きなだけだった。
 「あ、そういえばあの漫画読み忘れたっけ」
 一人暮らしのマンションの一室、アスギの下宿先であるわけだが自分の家といっても刺し違えない、家賃を払っているのは両親だが
 夕食を終え片付けも終わりだらだらとテレビを見ていたがそれほど面白いものでなく、唐突に昼間読んだ雑誌の中の漫画雑誌の中で読み忘れた漫画があることを思い出す。それはたまたま作者が休載していたかもしれないが見落としたかもしれない。気になってテレビを消して外出の準備をする
 「散歩ついでに確認するか」
 そう呟き食後の軽い運動と思えばいいと思ってアスギはジャケットを羽織り戸締りをして家を出た。


わざわざ散歩を兼ねて一番近い本屋でもコンビニでもなくそこそこ離れた自然公園の側にあるコンビニエンスストアにアスギは歩いた。
 ダイエットのつもりでもないが歩くのは健康にいいことだと言い聞かせてアスギは歩いていった。同じ店に二度入って立ち読みする勇気がなかったともいうが
健康云々をいうならジョギングでもすればいいのだがサークルとか他の仲間と一種にするのならともかく誰かに見られるというなら何だが恥ずかしいそのためアスギは歩いてウォーキングを気取って目的地に着き、やはり読み落としていた漫画を読み、なにかついでに買おうと思ったが財布の中身の少なさと特に惹かれる商品がなかったためその場を離れ。何を思ったか夜の暗い自然公園へと足を踏み入れた。
 なぜかといわれれば気まぐれとしかいえない。単に同じ道を辿って帰るよりは寄り道して違う道で帰ったほうが気分がいいと思ったのかもしれないそこで彼女と出会った。

夜の公園はいつもと時間と違う姿を見せる。朝や昼と違い日の光から点在する街灯の頼りない明かりに写るからだからか。薄暗くどこかおどろげな印象を受ける。
 こんな時でもたまに夜のランニングしている人はいるはずなのだが今日に限って姿が見えない。無数の木々の生み出す影が無数の闇が濁っていることと時折烏や他の鳥類の時間はずれの声が不気味さを際立たせる
 「やっぱ。普通に帰ればよかったか」
 不気味さにびびっているわけではないが暗く誰もいない雰囲気に早くも回れ右して帰りたくなった。しかし一度決めた道を戻るのは癪で意地でも通したくなる。そのためアスギは早くこの道を抜けようと思った。しかし走らない。
 競歩一歩手前の速さで薄暗く両サイドに聳える針葉樹林や広葉樹の街路樹を抜ける
 すると開けた芝生と池が見える。そのあたりは昼間は子供や恋人同士、老人たちの遊び場であり愛を語らう場所であり憩いの場所でもあった。
 今は街路灯と開けた場所を煌々と月明かりが照らす。その月光が街路灯の足りない部分を補うようにささやかながらも光が照らす。開けた場所でアスギは今夜の大きな月と存在と星々の明かりに気がついた。
 そこでしばし夜空を見上げる。夜気が気持ちよく。このときだけは夜の公園の不気味さを忘れて星を見た。
  どれぐらい星に魅入っていただろうか、時を忘れていた
 その時だった。
 「―!?」
唐突に見上げた顔を元に戻す。歌声だ。今のまで気がつかなかったが歌声が夜気に混じって響き渡っていた。殊更に存在を主張するような派手さはなく、ひっそりと慎ましいその旋律があたりを包み込む。歌のリズムからして歌い始めたばかりではないようにアスギに思えた。星に魅入っていて気がつかなかったのかそれとも控えめな歌声にいままで気がつかなかったのか?
滑らかに変遷するそれはどこの言語かすらアスギにはわからない。だがそれは歌だった。

開けた芝生の中で小山というにはなだらか過ぎる小さな小さな丘のところに一本の大きな木がある。それはあたりの街路樹から離れて一本だけ記念樹のように立っている。歌はその木のほうから聞こえる。気がつけばアスギの足は歌のほうへと向いていた。
そしてその木の側に一人の少女が歌を歌っていた。
  それが『彼女』との出会いだった。

 最初、それが本当に人かと疑ってしまった。
 思わず息を呑む。理由は簡単。その少女の姿が容姿があまりにも日常とかけ離れていたからだった。肩で切りそろえた黒髪はつややかで肌は初雪のように白い。顔立ちはやや童顔だが彫像のように美しい。整った華奢な体を覆うのは深緑色のストールに若草色のワンピース。まるで童話かなにかの森の精が世界を飛び越えてきたように見えた。
 馬鹿みたいに口を中途半端にあけたままアスギは少女に魅入っていた
 初めてあったその瞬間、アスギは少女に恋をした。
 まさしくそれは一目ぼれという奴で少女はいままで出会った誰よりも可憐だった。

 歌が止む。いつまでも続いていてほしいと思いながら歌い終わって少女に話しかけたいという気持ちが揺れる。歌を聴きながらどう話すべきか考えていたはずなのに頭の中は真っ白でどうしたらいいかわからない。
 ただただ案山子のようにその場につったっているだけだった。
 「ねぇ」
 気がついたら目の前に少女がいた。背の小さいようで長身のアスギを見上げる形だった。
 「うわぁ!?」
 思わず声をあげてその場にしりもちをついてしまう。
 (近い! 近すぎる)
 幻想から抜け出してきたような少女がいつの間にか目の前に現れて驚きと心拍数が急激に上がったかのように胸の鼓動が激しく感じるドキドキ感としりもちをついて無様な格好をしてしまった羞恥が混ざり合ってどうしたらいいかわからない。
 歌い終わった少女は単にアスギに気がついて声をかけてきただけのなのだがそのようなことはアスギは気がつかない。
 「大丈夫?」
 少女が不思議そうに小首を傾げてこちらに手を差し伸べる。歌っていたときの声と若干声の質が変化している。地声でもそれは魅力的な声だった。
 少女の声に首をがくがく上下に振ってなんとか立ち上がる。まだ気が動転して声が出せない。
 「よかった」
 少女はそういって微笑む。自然と笑って過ごしていたからだろうか見るものを幸福に誘う笑みだった。
 「あの……聞いてましたよね?」
 少女は伏目がちに戸惑うような表情を見せた後ためらいがちに聞いた。
 「誰も来ないと思ってましたので」
  そういうと両手で手を覆う。観客がいたことが恥ずかしいのだろう。白い肌が見ててわかるぐらい赤くなっていた。
「ご、ごめん。たまたま歌が聞こえてきたから。勝手に聞いちゃって、で、でも上手だったよ」
 なんとかアスギは返事をする。
「本当に?」
「え?」
少女は両手の隙間を空けてアスギを見る。隙間越しの瞳は不安に揺れる。
「その……私の歌。上手だった? 変じゃなかった?」
「どこの歌か知らないけれどいい歌だったよ。変じゃないよ」
「そう……よかった〜」
 そういうと少女は安堵の溜息をつき文字通り胸を撫で下ろす。
「私の故郷の古い歌なの、私は『花園…』」
そこで少女はすこし困ったような表情を浮かべたのち再開した
「こっちじゃ名乗る必要ないんだった……ええっと、なんでもない。忘れて。アメリア。私の名前。貴方は?」
「アスギ。アスギ=グレイワーズ。ハナゾノ・アメリアさん?」
「ええっと。うん」
「名前の響きからするとハーフなのかな?」
「そ、そうなの!」
アメリアは妙に力を込めてそう言った。
「私、今日この町に着たばかりなんだけどここはいいところね。緑があって落ち着く」
「そうなんだ。この自然公園以外特徴のない町だと思うけどね。この街には引っ越してきたのか?」
「えっ?ううん。私はここには住めないの。でも来たかったんだここに」
ここには住めないということは彼女はこの国の人間ではなにのだろうか? 観光ではない。だが来たかったということは彼女の縁ある場所あるいは彼女の血縁などが関係する場所なのだろう。そうアスギは納得した。
「いろんなところにいってみたかったけれど田舎育ちだからかな。人ごみよりこういう場所が落ち着くの。ねぇ。アスギさん」
「何?」
「私、この国のこと、この町のこと、貴方のこと。どんな些細なとでも私には新鮮なの。できたら話してくれない?」
「いいよ」
 そういってアスギは自分の知るべき限りの国の成り立ちを話し始めた。
 
 「ねぇ面白い?」
 「面白いわよ。私は何も知らないからなにもかもが面白いの」
 歴史の説明なんてそう面白いものなのかとアスギはひと段落着いたところでアメリアに声をかけた。正直いってアスギにとって歴史はそれほど興味が薄いものであり学科に必要だったから勉強したに過ぎない。面白いかどうかは実は確認するまでもなかった。話している途中アメリアは興味深々な様子で両目を輝かせて聞いていたのだ。
「俺がもっと歴史勉強していたらもっと詳しくわかるんだけど」
「いいの。詳しく知りたいならガイドにでも聞けばいいの。私の歌を聴いたくれた人のことを知りたかったの」
「それってどういう意味?」
「いい人かどうかってこと。歴史は実はおまけ」
「ひどいなぁ」
 いつの間にかアメリアとアスギは打ち解けていた。いざ話してしまえば止めどなく話ができそうな気がアスギにはしてきた。まだ彼女を見て胸の鼓動は収まらないが緊張で話せないことはもうない。
「じゃあ本題。俺のこと」
「あ……」
彼女が面白がるような話をしよう。そう思っていたら唐突にアメリアはその場に立ちあがった。
「どうした?」
「ごめんなさい。時間だ。内緒で抜け出してきたのがばれちゃったみたい。もうすぐここも見つかっちゃう。心配していると思うから」
「そう、俺の話はいつすればいい?」
「また今度お願いします。ねぇもうさん付けしないでアメリアって呼んで。私もアスギって呼ぶから。また来るから」
 そういうと彼女のワンピースの裾が大きな蕾が花開くように広がる。それは彼女が勢いよく振り返った証だった。
「といってもアスギが私に会いたくないなら別だけど。いつか近いうちにまたここに来ます」
そういって彼女は光の届かない暗い夜の世界へと姿を消した。
「いつ?」とか細かい時間まで聞く暇がないほどあっさりと彼女は春に吹く風のように去っていった。

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2011.8.25  17:38:50    公開


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