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EPISODE OF MEW

著編者 : 結月

EPISODE 2 少女との邂逅

著 : 結月

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Episode2



今はお昼頃かな…

ところ狭しと密集した木々からの木漏れ日がすごーく心地好い、僕のお気に入りの時間。

いつもなら、今の時代には珍しい林の中を、鼻唄でも歌いながらゆったりと飛行しているところだろうが、今の僕は違った。



『おぇぇ…』



僕は完全に酔っていた。

だって毎度の事だけど、空間の神様の通路を拝借するんだもの、そりゃ酔いもするよ。

とりあえず…



『水…』



僕はその辺をほっつき歩き始めた。

初めての土地だったから、当然土地勘もないし、水の在処なんて知る筈もない。

でも、その日の僕は付いてたみたいだね。



『あった…!』



すぐに、透明に澄んだ、綺麗な池を見つけることができたんだ。

僕は一目散にその池の縁に座って、その水面を覗き込んだ。

すると当然だけど、水晶のような水面に映るのは、ピンクの体にマリンブルーの瞳を持つ僕の顔。

当然なんだけど…これじゃマズイよね。



『久し振りに“変身”してみようかな』



僕は誰に言うともなくそう言うと、気を集中し始めた。

すると次の瞬間にはもう、僕には、すらりと長い手足を持った人間の姿が手に入るんだ。

なんて便利なんだろうね、この技!



『よし、水飲も!』



でも人間の姿をとったからって、別に人間の村に入って居候するわけじゃない。これはせめてものカモフラージュだ。



ーーーこれ以上、人間に期待しちゃいけないんだ



コクコクと、ただ静かに水を飲む音が、閑寂な林に木霊する。



シンーーーー



…その音が不意にピタリと止んだことに、気付いた生き物は、一体いたんだろうか?



トサっ



木々は身じろぎひとつしないで、このなり行きを見守っているかのように黙っていた。



ーーーーーーー


初めて彼女を見たとき、胸が高鳴って、一瞬息ができなかった。

これ以上ないくらい綺麗な水辺に倒れているのは、これ以上ないくらい綺麗な人。

長くしなる髪はうっすらピンク色で、こんな田舎では見られないような綺麗な服を着ている。この人はきっと、はるばる都会からここまで来たんだろう。



でも…

私は彼女に近づく。

近くから見た彼女の顔はさらに美しく、そして全く生気が感じられなかった。

やはり、この美人さんはもう死んでしまっているみたいだ。

私はしゃがみこみながら、そう思った。

この池は実は、清らかな外見とは裏腹に、恐ろしいほどの猛毒を含んでいる。もうこの世に本で読んだような、純粋な"自然"というものはもうなくなってしまったのだ。木々でさえ政府から普及された酸素供給装置として扱われ、大抵の水は薬がなければ飲むことが叶わない。

そんな世の中で、躊躇わずに池の水に口をつけるなんて、彼女はよっぽどお嬢様だったようだ。



「ここにずっと置いていても可哀想やし…」



私は誰にともなく言うと、よっと彼女を担ぐ。そして元々の目的だった、このあたりだけに生える薬草を数本抜き、家路を急いだ。



一一一一一一一



「ん…」


重い瞼を開けると、ぼやけた視界の中で家のなかにいるのだと確認できた。頭が痛いし、眩暈もひどい。まさかあんなに綺麗に見えた池の水が、ここまで汚染されていたなんて…

辛うじて身を起こそうとすると、人が1人、凄まじい顔で僕を覗き込んでいるのに気が付いた。


「あ…あれぇ!?死んでなかったと!??」


ドテーーーーン!!

頭に響く大きな音。

幽霊でも見るような目で素っ頓狂な声を上げる彼女は、椅子から転げ落ちてわなわな震えている。


そうか、気を失った僕をこの子は家まで運んでくれたのか。

理解はするけれど体がだるすぎて、僕は


「生きてるよ…」


と言い残し、もう一度意識を手放した…





次に起きた時には、窓から青い月明かりが差し込んでいた。

僕はゆっくり体を起こして大きな伸びをする。体調も良くなっていて、昼よりはだいぶましな思考ができそうだ。

先ほど素っ頓狂な声を上げた女の子は今はいなくなっていた。

結局人間と接触することになっちゃったことに苦笑しながら部屋を見渡すと、ここはこの前までいた都会とは全く違う、古い木造の家だとわかった。部屋には装飾がほとんどなく、僕が寝ている質素なベットの他は最低限の家具しか無い。枕元のサイドテーブルには、「飲み水です。飲んでください。」というメモ書きとともにコップいっぱいの水が置いてあった。
ポケモンから搾り取ったエネルギーを一切感じさせない、とても懐かしい家。その落ち着いた雰囲気に僕は思わず涙ぐんだ。


これからどうしようか。


改めてこれからのことについて思考を巡らす。
さすがの僕でも人間の記憶は弄れないから、僕らが出会っちゃったことはなかったことにできない。それにお礼も言わずに出て行くのも気が引けるし。


女の子にお礼を行って、朝一番にここを出発しよう。


そう心に決めて、僕は枕元のコップを手に取った。
ふと昼間に見た少女の様子を思い出す。素朴な顔立ちに黒曜石のようなまっすぐな瞳が印象的だった。僕と目があった時、彼女はその目を大きく見開いて、二つにくくった長い髪を大きく揺らしながらコミカルに倒れこんだ。
人間のそんなに純粋な感情を見たのはとっても久しぶりな気がする。

フフフっと漏れ出てしまう笑いを押し込むように、僕は勢いよく水を喉に流し込んだ。



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2019.7.10  01:09:34    公開
2019.7.10  01:14:35    修正


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