生あるものの生きる世界
95.sideユウト×アヤ 炎の名前[ホノオノナマエ]
著 : 森羅
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side紅蓮(ウィンディ)
・・・・繰り返すのは記憶。
・・・・溢れるのは恐怖。
零れる炎には『名前』が『無い』。
・・・・・アカイロのものは?
炎と血と、それから・・・・、記憶。
灰色の壁には窓が無い。扉が無い。
木霊するのは・・・悲鳴か恐怖か喜びか。
《どうしてどうしてどうしてぇ!!?》
《こんなはずじゃなかったのにっ!》
《死にたくない!死にたくない!痛いよぉっ!》
耳にこべり付いたつんざくような声は一生かかっても消える事は無いだろう。
嬉しそうな笑い声も。
生き残るのに精一杯だった。
生き続けることのみが求められたのだから。
他に構っている余裕など、・・・・・どこにも存在しなかった。
なぜ、また自分の前に現れたのか。
目の前の薄く笑う、忌まわしい物が形を成したかのような彼は。
心を占めるのは、恐怖。
嫌だ。怖い。
怖いから、嫌だから、
来るな。来るなくるな・・・・来るなぁあぁ!!!
・・・・・・・・・・・・・・・?
自分は、どこか、アタタカイ場所を知っていたはずなのに。
どこだったのだろう、あれは。
どこを探せば、見つかったのだろうか?
覚えず漏れた『赤い』炎に、何かが頭をよぎって、
そして、消えていった。
sideユウト
表情がフードのせいで見えなくても、そいつが笑っているとはわかる。
嬉しそうに、楽しそうに。無邪気に。
対するオレは先程火の粉を浴びて火達磨になって転げていたマグマ団の一人に目を落としていた。
「んー?気になるのぉ?
・・・・・安心しなよぉ、殺してないからさぁ!だって、こいつ邪魔だったんだもん」
「そうか。オレには関係ねぇよ」
「そぅだよねぇ!だって自分が怪我したわけじゃないしねぇ」
けたけたとあっけんからんに笑うそいつの笑い声は周りの他のマグマ団にとっても異様なものだっただろう。一応はひとつの組織としてまとまっているはずなのだから。
だが、オレはそんなことよりも聞きたいことがある。
オレはその疑問をそのままに口に出した。
「『遊んでた』だと・・・・?」
「そぅだよぉ。ねぇ、『ソレ』、どこで捕まえたのぉ?」
間髪無く帰ってくる子供っぽい声と共に人差し指が迷うことなく紅蓮を指し示す。
紅蓮はまだ唸っているが飛び掛る様子は無かった。
そしてオレは答えない。
「当ててあげようかぁ?『クロガネ炭鉱』ぅ?」
「・・・・・・」
オレは知らない間に拳を握り締めていた。
・・・・・・こいつが紅蓮の、紅蓮を捨てた『元・主』・・・・。
オレのその様子を見てか、マグマ団のそいつは口を裂いて喜びを表現する。
「あははははははは!!もしかして、当たりぃ?あはははははは!!
んー、あぁ、別にいいよぉ。返してくれ、なんて言わな」
「どうして捨てた?」
耳障りな笑い声にオレは途中で口を挟む。
喉から出た声は思ったよりも低く、冷静で、鋭かった。
オレに話を途中で途切れさせられたからだろう、すこしの間沈黙が場を支配する。
だが、その沈黙はすぐに切り裂かれた。
「・・・・ぁ・・・あはっ。何を聞いてくるのかと思っちゃった!
どうして捨てた・・・かぁ。
『不要物だ(いらない)から』に決まってるよねぇ〜」
「あんたっ、信じられない・・・・・っ」
いままで黙っていたアヤが振り絞ったのは怒りを押し殺したような声。
両肩はわなわなと震えている。
だが、オレはそれを無視した。
そしてそれは目の前のそいつも同じらしい。
「そぅだねぇ、捨てた理由、もっと細かく言ってあげようかぁ?
ガーディがウィンディになる時、特定の石がいるのは知ってるよねぇ?」
そう言えばそんな進化の仕方もあったなと、どこか頭の冷静すぎる部分が記憶を逆たぐってオレに伝えてくるが、オレは何も答えない。
「レベルで進化するポケモン、石で進化するポケモン、交換する事によって手に入るポケモン。色々居るんだけどさぁ、全般的に『進化って言うのはリスクが大きい』んだよねぇ」
・・・・・・・・?
それが、紅蓮とどう関係があるのかオレにはまったくわからない。
だが、そいつの饒舌はオレが聞く聞かないに関わらず止まる事を知らないようだ。
「だってさぁ、『今の自分の姿とまったく違う姿になる』わけでしょぉ?
どう考えても体の組織のそのものが組み変わっているようなのだって居るしねぇ。
だから、普通、『レベルという安全弁』がポケモンには存在する」
レベルと言う、安全弁。
このレベル以上なら進化に耐えられます、という最低ライン。
それは逆に言えばそのライン以下なら『生命の危険が伴います』と同意だ。
「けどねぇ、『通信進化』と『道具使用』の進化方法には『安全弁が存在しない』。
わかるぅ、この意味ぃ?」
『安全弁』が存在しない進化。
早い話がレベル1でも最終進化形態になることができる進化方法。
その進化が安全だからそれがないのか。
・・・・違う。
進化方法が特殊すぎて『普通には起こりえない進化』だからだ。
オレは饒舌で語るそいつをにらみつける。拳がさらに強く握られていった。
オレのそんな様子を見て嬉しそうににっこり笑ったかと思うと、そいつは言葉を続ける。
「そろそろわかったぁ?
『道具進化』の道具は希少価値が高いものが多い。だからぁ天然のものを見つけるのは普通は不可能なんだよねぇ。ま、シンオウの地下には埋まってるけどぉ、それは『人間が掘り起こした』もの。野生のポケモンにとってそれを見つけることは結構難しい。そして『通信進化』。これなんかは完全、人間の力を借りないと進化は無理。野生では『ありえない』『存在しない』進化形態」
・・・・こいつの言わんとするところがオレにはわかってきた。
つまり、こいつは、
「・・・はははっ!その顔じゃわかったみたいだねぇ〜。
そぉだよ!僕は『試した』んだ。
どこから、どのレベル辺りからその『石を使ったポケモンが狂うかどうか』」
「ひど、ぃ・・・」
オレの耳に入ってきたのは悲鳴にも近いアヤの声。
だが、それに対してもそいつのその笑みが崩れる事は無いようだ。
秘密ごとを明かすように、嬉しそうに楽しそうに自分の成果を見せびらかす。
・・・・・・・・『くだらない』。
オレはただ、ひたすら冷めていくのを感じていた。
《ぅぅううぅううぅぐるるるるるぅ・・・・ガゥぅうぅ!!》
「あれぇ?それさぁ、僕を殺すつもりぃ?
・・・・・ひどいなぁ!ひどいよぉ!怖いよぉ!
あははははは!せっかくさぁ」
紅蓮を見て嘲笑うそいつは一呼吸置いて、口元の笑みをさらに上に吊り上げる。
「『せっかく面白いと思ったから、放置してあげた』のにぃ」
・・・・・・・。
オレはもう、何も感じない。
握られた拳は解けて力なく垂れている。
心に残ったのは怒りでも悲しみでもなく、「くだらない」と言う虚無感。
だがその言葉で後ろの紅蓮が動くのが前を向いていてもわかった。
オレはそれにはっとして紅蓮の方に振り返る。
《ガァルルッ!!》
《阿呆!やめろっ!!》
夜月が紅蓮を抑えにかかるが体型が違いすぎた。
紅蓮に簡単に振りほどかれ、吹っ飛ばされた夜月はバックステップで紅蓮と距離をとる。
チッ。
考えるよりも迅(はや)く、体が勝手に行動した。
気が付いたころには、狂った紅蓮の前に立って紅蓮を抑えようと両手を広げている。
「紅蓮!」
《退け!邪魔を、・・・するなッ!!》
紅蓮にオレの声は届いていない。
まずい、そう思った頃にはもう遅かった。
「《ユウトッ!?》」
アヤと夜月の声が遠くで聞こえた瞬間、
紅蓮の右爪は容赦なくオレの頭をえぐり、床にぶつかったオレの全身を襲うのは激痛。
とっさに頭だけ手で覆ったが、口の中には鉄の味が広がっていく。
つぅ、と何かが左頬を伝う感触。
無意識に左手で拭うと、それは紛れも無く『血』だった。
sideアヤ
ユウトがふっとばされた、その次の瞬間には夜月が紅蓮の横腹に突進していた。
突然の攻撃に驚いたのか、痛みに紅蓮の顔がゆがみその動きを止める。
夜月が紅蓮に何か言っているようだけど、あたしにはわからない。
それに、紅蓮には聞こえていないみたい。『敵』と認識した夜月を威嚇している。
紅蓮の右足の爪にとっさに目をやると何か赤いものが付いていた。
・・・あれ、もしかして、血・・・・?
犬といえども爪がある。猫にも牙があるように。
・・・・・・・・・ユウト?
あんた、死んでない、わよ、ね?
あたしはユウトに目を移そうとして、あのマグマ団が目に入った。
けど、あちらはあたしのことなんかに目もくれてない。
夜月が紅蓮の攻撃を避けながら何かを言っているのにだけ目が行っている様子。
そして、紅蓮に向かってあおりをかけてくる。
「どぉしたのぉ?速く僕を殺してみなよぉ?」
「・・あんた・・・。いい加減にしなさい、ょ・・」
時間にすれば8、9秒の出来事。
それに対してあのマグマ団は一度も攻撃してこなかった。
何もせず、傍観を楽しんでいた。これが、ただの寸劇であるかのように。
あたしは怒りに唇をかみ締める。
こんなの、狂ってる。
マグマ団のそいつは初めてあたしの存在に気が付いたみたいに首をかしげてあたしを見た。
「君、だぁれぇ?あのブラッキー、君のぉ?」
「あたしは」
「・・・全員、黙れよ・・・・」
低く鋭い、命令。
その声は、紛れも無くユウトのもの。
冷や水を浴びせられたようにその場が静まりかえる。
夜月が何かを言い、紅蓮はユウトの方を振り向き、そして、
マグマ団のフードから覗く目にこれから起きる事に対する好奇心があたしには見えた。
「・・っう・・痛ぇ・・・」
ふらふらと立ち上がるユウトの左のこめかみ辺りから頬に血が伝っている。
左手で抑えても間に合わずにそれは時折、床を赤く染めた。
ぐるるるる・・という唸り声は紅蓮の口から。
ユウトはその紅蓮に対してふっと力を抜いて笑いかける。
「『紅蓮』」
一字一句区切るようにはっきりと、ユウトは紅蓮の名前を呼んだ。
それに対して紅蓮の態度があからさまに変わっていく。
戸惑うように辺りを見回し、怯えたように身をすくませた。
「お前は『紅蓮』だろ。・・・な?
紅蓮。大丈夫だから。な?怯えなくていい」
唸り声はだんだん小さくなっていく。
ユウトはそれを見て安心したように笑っていた。
こいつがこんな笑い方もするのだと、あたしは初めて知った。
side紅蓮(ウィンディ)
「『紅蓮』」
遠くで聞こえた、小さな呼び声。
その名は誰の名?
目の前の人物は、・・・一体誰?
「お前は『紅蓮』だろ。・・・な?」
誰が・・・「ぐれん」?
ぐれんって・・・一体何?
「紅蓮。大丈夫だから。な?怯えなくていい」
怖くて怖くて怖くて。
なぜって誰も助けてくれないから。
だれも自分を救ってくれないから。
こんなにも痛いって、苦しいって、叫んでるのに。
暗い暗い闇の中、光を求めてあえいでいたのに、
『どうして、気が付いてくれないの』って。
「紅蓮。・・・紅蓮?」
いつの間にか自分の目の前に立つ人間。
誰?知らない。
「紅蓮」
どうしてそう何度もぐれん、と言う?
紅蓮って、ぐれんって・・・・どういう意味だっただろう?
口から漏れた炎は赤色。
・・・この色が『ぐれん』?
「お前の名前だよ。紅蓮。
お前の炎の色。・・・・だから『紅蓮』」
そう言って笑う、あなたはだれ?
ほのおのなまえは「ぐれん」。
じぶんのなまえ、それも・・・「ぐれん」?
ぐ、れん?
ぐれん。
紅蓮、のほのお?
目の前の人間の右手が伸びる。
びくりと身がすくみ、恐怖のあまりに目を閉じた。
手が当たる感触が首元をくすぐる。
温かい・・・?
「紅蓮」
目を開ける。
目に入るのは、黒色?赤色?・・・の目。
・・・・・あぁ、知ってる。
見たことがある。この目の色を。
暗い洞窟の中から連れ出してくれた、自分に名前をくれた。
・・・・名前は、名前は・・・。
「紅蓮。・・・・もう大丈夫だろ?もう怖くねぇだろ?」
《ユ、ウト殿・・・・?》
「よぉ。・・・オレに今日何度紅蓮って呼ばすつもり、だよ?紅蓮」
にっ、と笑うユウト殿。
それにつられるようにしてわずかに笑う自分。
《・・・・申し訳ないんですな、ユウト殿》
『我』の答えにユウト殿が本当だ、とぐちる。
それは、とても暖かくて。
それは、とても明るくて。
『紅蓮』
そう呼ぶ声が、自分を必要としてくれていて。
安心が、我の心を占める。
だから、
「お・・?・・・ちょっと、まず・・・ぃ・・?」
我の爪についた血にも、床を汚す赤い水溜りにも
気が付いていなかった。
2010.1.8 02:27:50 公開
2010.1.10 22:52:35 修正
■ コメント (4)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
10.2.19 19:56 - 森羅 (tokeisou) |
マグマ団のお方、なんかマッドサイエンティストの面と情報屋みたいな面がありますね。あくまで夜光の抱く勝手なイメージですが 進化するレベルは進化に耐えうる細胞変化に耐えれる状態ですかその発想はなかった。となるとときどき進化レベルより低い進化系はと考えるといろいろ面白いですね 通信進化最大の謎は野生のゲンガーの正体。通信進化もどういった過程で起こるのかわかりませんね 一応理系に分類されている限りなく能力の低い私ではいつから道具に耐えうるかは面白いテーマですが 実験ラットなどという命を使わなければならないため容易にできるものではないですね レベル1でも一応進化するのだから培養細胞で進化の石の欠片を照射するわけにもいかないし細胞が変化して終わりのため 肉体の変化が精神を及ぼす影響のため やはり本体にポケモン実験しかないのか? 紅蓮が今後早熟進化のため途中で倒れたりして調整のため研究所送りとかやーよ 10.2.17 17:33 - 夜光 (iteboe) |
こんばんは、ハミングさん!! コメントありがとうございます!! マグマ団がいい感じどころか書いてて泣きそうなくらい怖いですね(ぶっ壊れすぎだよ、こいつ・・・TT)ゆーと早くなんとかして(てめーがしろ) 進化過程は・・・思い付きです。そんなたいそうな意味があるのかどうかなど知った事じゃありませんとも!(寧ろ知れ) 僕はゲームからの広げ方より寧ろ一から物語を作っていく才能が欲しいですよ。 本当に何やってくれんだこのマグマ団。可愛い紅蓮になにしやがる。 ハミングさん、是非あのマグマ団に一発正義の鉄拳をお願いしm(終了) 紅蓮の爪モロに食らいましたね、ユウト・・。なんだか、どんどん人間側のアクションが増えていっているような気がする、この小説orz いえ!もちろんですとも!ユウトが大丈夫じゃないとお話になりませんから!だって恐れ多くも、そして荷が重くとも主人公ですし!(主人公だったら死なないのか?)なによりゆーとですk(やめろ) side紅蓮感動していただけましたか!何よりの励みです!!ありがとうございます!! ユウトが異常に優しいですね。どうした?壊れたかユウト君。 ま、ときどき優しい子・・・のはず^^; それでは、コメント有難うございました! 失礼を。 10.1.16 01:36 - 森羅 (tokeisou) |
こんばんはです、森羅様。 マグマの人がいい感じにぶっ壊れてて怖いです;ダメだこいつ早くなんとかs(ry 成程、進化にはそのような意味があったのですか…まるっきり注目してなかった点でしたので見事に意表を衝かれました。ゲームからの広げ方をもっと見習いたいです^ ^; あぁん?実験台に紅蓮を使っただと?ちょい表でろこの(強制終了 紅蓮の爪をまともに喰らったゆーとですが大丈夫でしょうか!?大丈夫ですよね!だってゆーとですし!(何その超理論 最後の紅蓮サイドは凄い感動しました!やっぱりゆーともやる時はやる子ですね!正気に戻った紅蓮との復讐(?)期待してます! ではでは乱文失礼しましたっ! 10.1.14 22:58 - 不明(削除済) (lvskira) |
返事が遅れてしまい申し訳ありません。
マグマ団はマッドサイエンティスト!?
僕的なイメージとしては彼は『アリの行列を一つずつ踏み潰していく子供』なのですが(たとえ怖ぇ)
進化論に関してはまったくの想像ですので、Lvの低い進化形や野生のゲンガー&ゴローンなどは無視の方向です(最低)
実際にポケモンが存在すると仮定して実験を行うのであれば、やはりラットや生体実験になるのでしょうが、文系の僕にはアウェイすぎます。すみませんm(−−)m
紅蓮が研究所送り!?絶対嫌ですので絶対やりません(断言)
それではコメント有難うございました!
失礼を。