生あるものの生きる世界
87.sideアヤ 家族ゲーム[ファミリーゲーム]
著 : 森羅
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明るい、キッチンと一緒の部屋にあるリビング。
背の低い机の前のソファの隅っこの方に座わるあたし、あたしの隣にスピカ。
目の前にお母さん。
部屋には紅茶の匂い。お茶菓子はなぜか和菓子だけど。
あたしの旅話(『生の世界』だとか『死の世界』だとか、『契約』だとかの話は抜かしている)の間に見せるお母さんの零れるような微笑が少しだけ気恥ずかしくて、
温かくて。
本当に、久しぶり。
「なによー、何がそんなにおかしいのよ?」
「ふふ、だって、ねぇ?スピカちゃん」
《ふふ、だって、ねぇ?アユミ》
半ば本気、半ば冗談でむくれてみせるあたしに、お母さんは笑ってスピカを見上げた。
スピカはその笑顔に同意と言わんばかりに満足そうに笑って口真似をしている。
一見するとスピカとお母さんの意思疎通は成り立っているようにも見えるけど、お母さんにスピカの声は聞こえない。
鳴き声としてスピカの声に反応しているだけでしかない。
そこは、ちょっと寂しい。
「博士、懐かしいわねー。
アヤちゃんが行ったときに会いに言ってればよかったのに、私駄目ねぇ。
あとで後悔しちゃうんだから」
目を細めて、昔を思い出すように遠くを見ながらお母さんがつぶやく。
お母さん、アユミはマサゴタウン出身。
そこであたしの義父にあたる人と結婚して、ノモセに越してきた。
もっともあたしはその人を知らない。あたしを迎えてくれる前に亡くなったそうだから。
マサゴではナナカマドの博士にもかなりお世話になったらしく、あたしが人を探すために旅に出ていい?と言った時、まっさきに博士に電話して話を取り次いでくれた。
『絶対行っておいた方がいいの』って。
そこまでしてもらっても、あたしには返せるものなんか何もないのに。
そう思うといつも情けなくて申し訳ない気持ちになる。
貴女の笑顔をあたしはいつまでなら見ていてもいいの?って。
「アヤちゃん?どうかした?」
《アヤ?》
スピカとお母さん、2人のそっくりに首をかしげた顔があたしを見ていた。
「な、なんでもない!!」
ちょっとだけ顔が火照ってくるけど首を振り続ける。
その様子を見たスピカとお母さんが優しく笑った。
「ねー、それでね、アヤちゃんっ!
話に出てきた、えっと、ユウ、トくんとゲン、さん、だったけ?
・・・・・どっちが本命なのっ!?」
《駄目よ、アユミ。アヤの中では探している人が一番。でしょ?アヤ》
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
一瞬、脳が機能を停止した。
「いつからそういう話になったのーーーッ!!?」
バーンと机を叩いてあたしはソファから立ち上がる。
なんで、あたしが、あんな馬鹿たちの相手しなきゃならないのよっ!!
「えー、違うの?残念・・・」
《やっぱり、違うの?ざんねーん》
「残念じゃなーーーい!!」
あたしはつい叫んだ。
もちろん両手にしっかりと握りこぶしを作って。
スピカとお母さんはあたしの行動が面白くて仕方がないとでも言いたげに顔を見合わせて笑っている。
笑い事じゃないわよ!!
《きゃー、アヤが怒ってるー》
「スピカぁ!いいかげ・・」
スピカに右手のぐーを振りかぶりかけて、
ドバガーーーーッン!!!
「何!?」
《外よ!!》
あたしたちはそのままの状態で固まった。
顔だけを窓に向けて。
黒い煙が立ち上(のぼ)っているのは、あそこは・・・ノモセ湿原、サファリパーク。
明らかに悪意を感じる。多分、間違いなく人災。
外からの騒ぎ声は徐々に大きくなって行って、水に入れた小石のようにパニックという名の波紋を広げている。
反射的に飛び出しかけて、
「・・・・アヤちゃん・・・?」
お母さんの声に動けなくなった。
振り向くと外の騒ぎがまるで関係がないみたいに落ち着いたお母さんが見える。
少しだけかしげた首につられるようにくるみ色の髪がふわりと浮いた。
お母さんは独り言でも言うみたいに、それでもあたしに向かって言葉を紡ぐ。
「行くのね・・・?
そうね、アヤちゃんなら行くわよね・・・・。
駄目ねぇ、私。何もしてあげられない」
「そんなことっ!」
あたしはそれだけの言葉で反論する。
何にもしてあげられないのは、あたしなのに、と。
わがままを言ってるのはあたしなのに、と。
見放されるのが怖くて、
気味悪がられるのが怖くて、
自分の事をほとんど教えていないのは、
あたしなのに!、と。
そう、お母さんはあたしがスピカたちと話せることすら知らない。
隠し続けて、見ないフリをし続けていたけど、
あたしはちゃんとそれに気づかなきゃならない。
それは、あたしの、恐怖と臆病さが作り出したものだから。
時がたつにつれ、どんどん言いづらくなって言えずにいたものだから。
・・・・・・・今なら、言える・・・・・?
小さな自分の言葉にはた、と気が付いた。
湿原の爆発音が、遠い昔の事のように感じる。
外の騒ぎ声も聞こえなくて。
まるで、この家と外の『時間』の流れが違うみたいに。
「・ぁ・・のね、お母さん、あたし」
怖くて、怖くて、言えなかった・・・言いたくなかった言葉。
でも、多分今なら。
色んな人と出会って、ちょっとだけでも前に進めてるはずだから。
だから、もう一歩、もう一歩があたしは欲しい。
そう、
『この未来(いま)』を『選択』したのは、『あたし自身』だから。
「あたし、スピカたちの言葉、わかるの」
「・・・・・アヤちゃん?」
不思議と自然に笑えた。
「あたしね、スピカの言ってる事がわかるの」
驚き、戸惑い、当惑、目まぐるしく変わっていくお母さんの表情。
少しだけ戸惑ったような悲しそうな、そんな顔でお母さんは言う。
「私、気が付かなかったわ」
「でしょ?」
にっ、とあたしは笑ってみせて言う。
「まだあるのよ?話してないこと。
あたしがここにいる理由とか」
全部全部話してしまいたい。
今まで、黙ってきたことへの償いに。
あの人のことは話していても、その人個人の事だからあたしは本当に何も話してないことになるのよね・・・。
リスクを負わずに優しさだけを手に入れようとした結果がこれ。笑っちゃうわよね。
見切られたかもしれない。あきれられたかもしれない。
けど、それでもいい。
あたしが望んだことだから。
お母さんの言葉を待つあたしに、ついに言葉がかかる。
「そうなの・・・。
何も知らなかったわね、私。
いいの?私なんかに教えても?」
あたしにどっ、と安心が襲ってくる。
もちろん。決まってるでしょ。
だって、あたしが守りたいと思う人に貴女はちゃんと入ってる。
「黙ってたのは見切られるのが怖かったから。
許してくれる?お母さんが悪いんじゃなくてあたしが悪いの。
信用してなかったんじゃない。あたしが意気地なしだっただけ」
またお母さんの表情がくるくると変わっていく。
言い切った言葉にあたしは後悔なんかしてない。
どんな言葉が返ってくるとしても、それはあたしのせいだから。
やっと、お母さんの表情の変化が止まった。
それは、零れていく砂糖菓子(コンペイトウ)のような笑顔に。
「是非、聞きたいわね。『アヤ』の話」
あたしは口を開きかけた。
けど、お母さんはそれをさえぎる。
「そうね、次、帰って来たら。
今は、行かなきゃ。ね?外がおかしいもの。
気をつけて。いってらっしゃい、アヤ」
うん、とあたしは頷いた。
お母さんがあたしの言葉を遮ったのは、あたしが次に逃げ出さないように、
ちゃんと、自分の言葉に責任が取れるように、
そうおもったからだと思う。
そして、爆発の起こった外へとかけ出していく。
あたしは、ちゃんと、一歩、踏み出せたはずだ。
side???
ヒトはいつもいつも一歩を、と想う。
近づくのをなによりも恐れているくせに、
それでも近づくことをなによりも欲している。
一歩進んだら、奈落の底に落ちてしまうんじゃないかって踏み出せずにいて、
一歩進んだら、周りの全ての状況が変わってしまうんじゃないかって戸惑って、
そのくせ、
一歩進んだら、何かが変わるんじゃないかって期待して。
怖がって怖がって恐れているくせに、
それでも一歩が欲しいと望む。
動かずに居たら何も変わらず安定していると盲信しているのに、
それでも、
自分と誰かの距離を縮めたいと、そう願う。
一人は嫌だとつながりを求める。
その一歩が踏み出せるかどうかは、自分次第だけれども。
ボクは良く知っている。
あの女の子は自分で『選んだ』んだ。
踏み出す事を、
今と言う名の未来を。
望んだものも、どうしてと尋ねる声も、
全てに優しく首を振られてしまったから。
それでもどうしてもと求め続けて、
セカイと言う迷路の中、闇雲に探し続ける事を条件に。
曖昧なキオクのかなた、今も探し続けるんだろう。
2009.11.19 20:20:23 公開
2011.4.14 00:46:32 修正
■ コメント (6)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
09.12.5 14:51 - 森羅 (tokeisou) |
森羅さん、ものすごぉ〜〜くお久しぶりです^^; バンバンドバーッと読みました。 ケイヤ君は、なにやら凄い展開になっていましたねー。 最初のその殺戮者様(無駄な敬語)が、一体どんな怖い人物かと思っていたら、実は心優しく真っ直ぐな人物だと分かり安心しました。 それに、言葉一つ一つが重く、ココロに何か来ますね(TT) また、敗北者ですか……それを受け止め、曲がりながらも真っ直ぐなんですね。 ケイヤも無事(?)でいけそうな気が……するようなしないような^^; そして『罪』ですか……。 罪って、何ですかね? 悪い事?正しい事?逆らう事?立ち向かう事? 実は、自分も最近色々な『問題』を経験してきたのですよ……。 10人中全員が「お前は間違ってない」と言われますが、自分が今思うのは「自分にも間違いがある」と思ったり……。 森羅さんの小説で奥深いですね。凄いです。 ささ、気分変わって(←最低)、アヤさんの家ですか! ノモセにあるですねー……。 それに義母ですか……む、む、むな感じになります。 それに、色々な「疑問」が残りましたね^^; 一歩ですか。本当に、森羅さんの小説で色々考えさせられますよ^^; まあ、その一歩がどうなるか。分かっていながら踏み出す人も時々居ますね。まあ、それは確実に「失敗or成功」します。でも、分かってしまったのなら、踏み出さなければならないと言う鉄則があったりします。誰もね、失敗なんか嫌ですが踏み出さなければならないですよ。 もちろん拒否して良いですが、今度は呪われるですよ。 今の自……まあ、そう言ってしまうと、アレなんで^^; 何ていうですかね……。 自分は、もう少し早く読むべきでしたorz 勿論!森羅さんのせいではないですよ! では、ゴチャゴチャとさせてしまうので、失礼します^^; 相変わらず、次回を期待してまっています^^b 09.11.28 17:58 - 不明(削除済) (45syost) |
コメントありがとうございます!!夜光さん!! コメントの返信おくれて申し訳ありませんm(−−)m シリウス(オオスバメ)がカウンターを覚えるのってもしかしてホウエンだけでしたか・・・?^^;いえ・・・、はい(ごまかしたな) アヤの出身はノモセです。 スピカとアユミ(義母)仲がいいですよね〜。羨ましいっ! ケイヤサイドとは比べ物にならないくらい優しい時間で、ギャップが無茶苦茶に激しいですよ・・(汗) ユウトとゲン。アヤにとってはどちらが本命なんでしょうかねぇ〜。どっちもタイプ違いますし・・(あ、アヤが来『ゴツッ!』・・・殴られました・・・TT) 近づくのは、怖い。けど、一人っきりは嫌。 「自分の選択ってこれで正しい?」そう確かめたいのに確かめる術などどこにも無いくて。 「一歩進んでも何も壊れない?壊れたら取り返しは付かないんだよ?」けど、その問いには答えが無くて。 夜光さんのおっしゃっていることはそういうことと受け取ってもよろしいのでしょうか? そうですね・・。夜光さんのおっしゃっていることはまさにそうなのだと思います。 僕の持論なのですが、人は迷う事ができるのですよ。 進むのを恐れて、そのまま突っ立っている事に安心を覚えるのに、どこかでそれでは駄目だ、思うからこそ迷うのでしょう。 後に悔やむから後悔なんです。だからまず踏み出してみるのも一興じゃないですか?失敗すれば取り返せばいい、謝ればいい。駄目もとで成功すれば儲けもの。 ぼくは、最近そういうプラス思考で生きてます。 ・・・・完全に余談でしたね・・。 底なし沼!!良いですね!! 楽しそうです♪(なにゆえ!?) ・・・・もう少しシリアスな展開です。 それでは、コメントありがとうございました! 失礼を。 09.11.26 19:06 - 森羅 (tokeisou) |
アヤの出身が明らかになりましたね シリウスがカウンター覚えているからてっきりホウエンかと思っていました。 義母さんとスピカの中のよさに嫉妬 優しい時間ですね。どこまで話したんでしょう。ゲンさんとユウトのことはどこまでなのか気になりますね。 歩み寄りたくても歩めない。選択が正しいか迷って怖がって進めなくってあとで後悔する。 寄り添うのをあきらめて強がってはいてもいつかむなしい寂しいっておもう。でも歩むのは怖い。下手に干渉して壊したくないから いまの停滞している自分ですけどね。アヤは一歩進んで先が見えたようですね。また一歩方向が見えました。 ノモセで爆発ですか!大変底なし沼が大量発生!(そこか! 今後も楽しみにしています。 09.11.23 22:30 - 夜光 (iteboe) |
こんばんはです、kkさん! コメントありがとうございます!!! 続きが楽しみですか!ありがとうございます!なによりの励みです。 物語が重いですか、やっぱり(汗) 蛇足かもしれませんが、これからどんどん重たくなります(暗くなります)特にユウトとケイヤとダブルで。 どうぞ、見捨てないでくださいませm(−−)m わぁー!カッコいいですね!kkさん! 嬉々として転作させていただき(犯罪です) ・・・とそれは冗談ですが(本当か) そうですね。人は貪欲なんでしょうかね・・。 恐れている反面、欲しいと望むんですよ。 踏み出すのが怖いと言うくせに、なによりも一歩を欲しがるんです。 歩き出さない、そのまま待っているという選択肢も確かに存在するはずなのになぜなんでしょうね・・・。 そこはやはりkkさんの言うとおり、後悔したくないからなのでしょうが・・・。 「ああしていれば」、「こうしていれば」それが怖い。だから前へと進みたがる。それが最上の選択かどうかは本人次第となりますが。 なにもしないよりも自分が納得できる、だからこそ一歩を望む、 きっとそういうことなのでしょう。 最後となりましたが、「未完」となっているサブタイトルの部分は大幅変更がありえます。 これも相当書き直しております、ご了承ください。 それでは失礼を。 09.11.23 21:11 - 森羅 (tokeisou) |
お久しぶりです! kkでございます。 続きが楽しみでなりません! ノモセに家があったとは!そして、義母…。 またひとつ、物語が重くなってきたような…。そして、余計に一つ、待たして面白すぎの範囲に入っているような…。 人はいつもいつも一歩をと想う、ですか。確かにそうですね。そして、確かにそれを恐れてもいます。それでも、人はその一歩を踏み出さなければいけない。それがどんなにつらい運命への道への一歩でも。そうでなければきっと後悔するという恐怖のせいで。 でも、その恐怖は正しいのかもしれませんね。もしその一歩をあきらめたら、人は成長しませんから。そして、諦めるたびに時の歯車の回転は変わります。ですが、一歩を踏み出した場合にもきっと変わるでしょう。人生とは、自分では気づかないほど、案外自由なのです。 ま、そんなものなのでしょうね。 ちょっと余計だったかもしれませんが、引き続き愛読させてもらいます。 09.11.22 17:16 - 不明(削除済) (coco) |
テスト中なもので、(今もですが・・)コメント返事できず申し訳ありませんでした。
はい、ものすごくお久しぶりですね。
ケイヤはすごい事になって来ちゃいました☆(☆じゃねぇ!!)
殺戮者様は怖い人ですよー。優しくもありますけどね。
それでも、「人を殺したから」こそ思うところもあるのでしょう。
ケイヤは無事に元の時代&世界に戻れるでしょうか・・・・(汗)
『罪』ですか・・・。
僕的、この話的には、『罪』というのは人によって違うものだと思っています。45さんの例をお借りすれば悪い事も良い事も立ち向かう事も逆らう事もその人の主観によりますよね。確かに10人中10人が「間違っていない」と言っても、それは一般論もしくはその人の考え方であり、もちろんそれは正しいです。が、自分自身が間違っていると思う所があるならそれも確かに正しいのだと思うのです。もちろんこれは僕自身の考え方であって、45さんには45さんの答えが存在すると思いますよ。
アヤの家ですよ〜!アヤはとりあえずはノモセ出身です。
色々な「疑問」!!?
ええ・・え、何かありますか・・?(最低)
あ!もしかしてアヤ本人のことですか!?アレは・・もうすこぉーし後ですね。ここで種明かしをしてしまうと、『あはは』なことになってしまうんです(←この時点ですでにネタバレ)
はい、一歩ですよ。
『色々考えさせられる』!?本当ですか!?
『適当な良い言葉の組み合わせ』と言われてしまえば反論できないのですが・・。嬉しいです。ありがとうございます!
そうですね。45さんのおっしゃるとおり踏み出さなければ何も変わりません。踏み出してこそ、ですね。その結果は人それぞれですが。迷ったり間違ったり後悔したり失敗したりするのがわかりきっていると思うならそれを前提に腹をくくって踏み出していけばいいんじゃないでしょうか?恐れて、童話のような『親切な魔法使い』役の誰かを待っているだけでは何も変わりません。
まぁ、僕が言うのも何なんですけどね(笑)
色々と大変なようですが、頑張ってくださいっ。
『脳ポケ』の方にはテストが終わり次第コメントに行きますっ。ご了承くださいm(−−)m
それでは、失礼を。