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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

86.sideアヤ 還る場所[ノモセシティ]

著 : 森羅

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タンッ。

軽快な音であたしはシリウスから飛び降りる。
雨の降った後のような少しだけ他よりもやわらかい地面はノモセ独特のもの。
ちょっと、懐かしい。
ミオシティから飛んで一泊二日、冗談みたいにシリウスは速かった。

「シリウス、ありがと。疲れてない?」
《・・・心配するな・・・》

そう聞いたあたしに対するそっけない答えにあたしは少しむっ、として横を向いてみせる。

「いっつもそう答えるから心配してるのに」
《・・・・・・》

そぉーと視線だけシリウスの方に移しても、シリウスは表情を崩さない。
『心配するな』やその類義語の言葉がシリウスなりの優しさだって知ってる、知ってるんだけど。

「何も言わなかったらわからないでしょ!」
《・・・・・・む・・・・》

大きくなっていく声にシリウスはほんのちょっとだけ反応を示して、

《アヤに言われたらおしまいよ。ね、シリウス?
ハクタイでワンワン泣くまで、それともゲンに負けるまでかしら、までずぅーーーっとそうやって我を通していたの、一体誰だったかしらね?》
「スピカっ!あんたいつの間に・・・っ!!」

予想外の鈴を転がすような笑い声にあたしは驚いた。
ムウマのスピカがシリウスの飛ぶスピードについていけるわけがないから確かにボールに戻してたはずなのに、勝手に出てくるなんてずるいわよ!

《そうねぇ、“いっつもそう答えるから”辺りからかしら》

くすくすと笑うスピカにあたしはシリウスと顔を見合わせるしかない。
お、覚えてなさいよ!いつか絶対笑い返すんだから!!
心の中で誓うあたしにスピカは涼しい顔して、あたしに言ってくる。

《そろそろ行かない?
このままナギサに行くの?それとも、せっかく帰ってきたんだし、
顔見せに行ったらどうかしら?》

スピカの言葉にあたしは固まってしまった。
シリウスが、ノモセに飛べた理由、

それは、ここに『家』があるから。

もっとも、血の繋がった家族はいないんだけど・・・・。
あたしの固まりようにスピカはため息をつきながら、つぶやくスピカ。

《そんなに固まることないのに・・・。
大丈夫よ、アユミはアヤにとって他人じゃないでしょ?
アユミにとってもそうなのよ?》
「わ、かって、る、けど・・ぉ・・・・」

つい情けない声になってしまうあたし。
わかってる、けど。
・・・・うぅ〜、行かないわけには行かないし・・・。
てか、本当は、

《つまりは行きたいわけね》
「・・・・うぅ〜・・・・」

スピカの言葉につい半泣きみたいになってしまう。
行きたい、けど。

《あーもう!ほら、行くわよ!いつまでもそうやってしてても意味ないでしょ!》
「・・・・いやぁーーー!!やめてってばーー!」

シリウス&スピカに強制的に引きずられ、あたしは家に連れて行かれていく。

如月家前・・・・。

ありきたりなインターフォンを目の前にあたしは右人差し指を戻して引いてを繰り返している。
見慣れた扉に見慣れた家。
でもあたしはこの最初のインターフォンがなかなか押せない。

《早くしなさい!じれったいわね、もう!》

ピンポーン

スピカが押したインターフォンが気の抜けた音を立てる。
あたしにはそれが世界の終わりにも感じた。

「はぁい?」
「・・・・・・・・・・」

インターフォン越しにノイズ混じりに聞きなれた声が聞こえてくる。
あたしは、そのままの状態でまた固まった。
・・・・・・・・・・・・・・。
何か言わなきゃ、と思っても喉がからからになって声も出ない。

「・・・・・?ちょっと待ってね」
「・・・ぁ・・・!」

あたしの小さな悲鳴は向こうに聞こえる事なく、聞こえるのはブツッというインターフォンが切れる音。
その次にはぱたぱたというスリッパのすれる音、ドアの鍵をあける音と聞こえてくる。

「アヤちゃあぁーーーん!」

バーンという巨大なドアを開く効果音をバックミュージックにふんわりした感じのくるみ色の髪の女の人が飛び込んできた。
あたしはまだ、固まったまま。
ということで家から出てきたその人に抱きつかれ、言葉の嵐を受けることになる。

「どうしたの?途中で寄っただけ?ナナカマド博士は?元気?良くしてくれた?
そういえば見つかったの?アヤちゃんがいつも言ってた人!
無茶してない?怪我とかは?みんなは?元気?
きゃーー!アヤちゃんどろどろじゃないの!早く入って入って!!」

やっと解放されたあたしの頭はぐらんぐらんと揺れている。
話の展開が速すぎてついていけない・・・・。

《久しぶりね、アユミ》
「スピカちゃん!久しぶりねっ。元気そうでなにより。
シリウスくんも?元気だった?」

話しかけたスピカに“お母さん”はにっこりと笑って答える。
そして、あたしの方を見直してから、

「『お帰り』、アヤちゃん」
「た、だいま・・・」

あたしのぎこちない答えにお母さんは微笑した。

そう、彼女があたしの義母。
フルネームは、

如月 愛美(きさらぎ あゆみ)。

やさしさと、還る場所と、

何より温かさを、あたしにくれた、その人。






















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2009.11.17  00:36:10    公開


■  コメント (2)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

コメントありがとうございます!!ハミングさん!!
こんばんはです。

ケイヤサイドは相変わらず重たいですね・・・(読み直してこれでいいんかい!と思いました・・;)
壮絶でしたか!ありがとうございます!!
『彼』にとっては善悪というものは観点の違いによって変化するものと定義されています。自分のやったことに『正義』も『悪』も感じているからこそ「悪だというなら悪だろうし、正義を唱えて欲しいなら唱えてやる」とまで言うのでしょう。
書きながら何かずしずしと重たいものが乗っかってきm(帰れ)
彼とケイヤの話はまだ続くので、殺戮者(名前出せ)はまた色々なことを言うと思います。
そんなかかわりの中でケイヤもまた変わっていくのではないか、と思っています(なぜ他人事!?)
中途半端なところでのアヤside転換で本当に申し訳ありませんm(−−)m
実はアヤsideがここら辺りの話で一番多くなると思うんですが、このアヤsideが終わらないと孤立しているケイヤsideはともかくユウトsideがまったく先に進まないという事態になってしまうんです(計画性皆無)
申し訳ありませんが、おつきあいくださいm(−−)m

スピカは相変わらずですよ。それが確かにハミングさんのおっしゃるとおり良い所でも悪い所でもあるのでしょう。
ノモセ故郷という設定はもともとはなかったのですが、物語上、“そらをとぶ”が使えていいな、と決定しました(計画性皆無×2)
アヤの素性はもっと先になりますね。ケイヤのあの場所が終わった後くらいだと思います。
伏線は色々引くつもりですのでよろしければ探してみてくださいませ。
それでは、テスト頑張ってくださいっ><
失礼を。

09.11.18  23:29  -  森羅  (tokeisou)

こんばんはです、森羅様。
ケイヤサイドのラストは壮絶でしたね!あんなにも善悪を論ぜられてしまうと自分の存在がいかに脆いかって事を思い知らされてしまいます^ ^;
とりあえず彼とケイヤの間に敵意は無くなったみたいですが、その分更に複雑な関係となってしまいましたね。今後の二人の動向に刮目必至です!
さてさて、所変わってアヤサイド突入ですか!良くも悪くもスピカは相変わらずですね^ ^;
そしてまさかノモセがアヤの故郷だったとは…
本名も明らかになって遂に素性が明かされるのでしょうか?義理の、という点も引っ掛かります。テストなんて蹴散らして続きを楽しみに待ってます!
ではでは、乱文失礼しましたっ!

09.11.17  22:59  -  不明(削除済)  (lvskira)

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