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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

85.sideケイヤ 罪の重さ[ツグナイ]

著 : 森羅

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「ふわぁー。なんて言うか、不潔そうだね」
「文句を言っている暇があるなら、さっさと来て手伝え」

彼の『家』を見上げて言うぼくに対して彼は『家の中』から身もふたも無い答えをぼくにくれる。
彼の『家』は、まぁ、なんていうか・・・一言で言うなら洞窟?
家と言うよりは秘密基地に近いよ、これ。

「さっさとしろよ。入ってすぐに薬籠があるから持ってこい」
「なんで命令口調なのかなぁ?」
「この獣を手当てして欲しくないのか?」

うっ、とぼくは口をつぐんで急いで洞窟のなかに入っていく。
ぼくが口で負けるなんて・・・。
燐のことがあるから仕方ないけど、やっぱりちょっと悔しい。
少しだけ口を尖らせながらそんなことを思っていると、洞窟中は意外に明るかった。
上を見上げると明り取りの穴が開いている。
その穴から見える空は茜色。夕暮れは近いみたいだ。

ぼくらはこの時代の何時くらいに来たのかな?
森の中は薄暗くて、時間なんかわからなかったし。
歩いたのは何分くらいだっけ。慣れない道、悠々と歩く彼を見失わないよう付いていくのに精一杯でそんなこと考えもしなかった。
茜色の空を見上げて突っ立っているともう少し奥に入った彼の声だけが響いてくる。

「その上着も持って来いよ。
・・あぁ・・結構綺麗に塞がるか、これ・・・」

ぶつぶつ独り言を言ってると、サビシイ人間に見える。
・・・実際寂しい人なんだろうケドね。
ぼくは薬箱と思われる入れ物と羽織に似た服を持っていって彼に渡す。
お礼も言わずに受け取る彼は、寝かせた燐のすぐ隣に座って血を止めていた包帯(より正確に言うなら、彼が殺した人が着ていた羽織を破いたもの)をほどいていく。

「・・・燐・・・」

ぼくは思わず呟いた。
切られた所は血でよく見えないけど、見かけはふさがっているようにも見える。
けど、血のりがついた燐の毛並みはお世辞にも綺麗とは言えなくて、痛々しかった。

ぼくのせい、なんだ。

ぼく、ぼくが、
・・・・・ぼくが燐の忠告を聞いていたら。
あの黒い穴に入ろうとするぼくを、燐は「危ない」と言ったのに。
燐はいつもぼくのそばにいてくれたのに。
なのに、どうして、

ぼくは燐を守ってあげられなかった・・・・・?


ぼくは両手をグーにして爪が食い込むくらい握り締めて、魅せられたように燐の傷口を見続ける。
この光景を、忘れないようするように。

「おいっ!」

バシンッ!

「ひゃうぅ!!」

いきなりの大声と背中の痛みに本当に悲鳴を上げるぼく。
夢から覚めたような現実感がぼくをおそって心臓がばくばくと音を立てる。
びっくりした目で声の発信源と痛みの原因を探してきょろきょろするぼくは不機嫌そうな顔で見上げてくる彼と目が合った。

「どうかしたか?」
「・・・・・・・うーうんっ!なんにもないよっ!」

ぼくは首と手をぶるんぶるんと音が鳴るくらい振り続ける。
それをつまらない映画でも見るような目で彼は見てから、おもむろに立ち上がってすっ、と奥に消えてしまう。
ぼくはその場に座り込んで、壁に背中を預けた。
少し、ひんやりした石と土の感覚は気持ちがいい。
少しだけ上を仰いでからもう一度燐を見つめ直そうとして、いきなり目の前に手が伸びてくる。
手の先には彼。

「血を見て気分が悪いなら、外に出て風に当たって来い。
それでも見るって言う覚悟があるなら、呑め。
・・・・・・水よりはいいはずだ」

差し出されたコップのような入れ物からタプンとしぶきが跳ねる。
受け取って中を見ると中は液体、匂いは少しだけするけどほとんどわからない。
わけもわからないままとりあえず一口飲んでみて、

・・・・・唾液腺が悲鳴を上げた。

「〜〜〜ッ!!!?ぶはぁっ!なっなっ・・・何!?何これ!?」

レモンを5つくらい丸ごと絞ったようなすっぱさに思わず吐き出し掛ける。
思わず放した手から原因の入った容器が転がり落ちた。
舌が上手く回らない。
がばぁ、と上を見上げるぼくに耐えかねたように彼は笑う。

「ぶははははっ!!・・・お、お前さ、毒が入ってるとか考えねーのか?
まさか本気で飲むなんてな。・・・くっ、あはっ、はっ!」

大笑いする彼に呆然とするぼく。
ぼく、端から見たらすごく呆けた顔をしてる、多分、絶対。
ヒィヒィと笑い疲れたように息をする彼が初めて同世代、もしくは年下の人間に見えた。
笑い方があまりにも子供っぽくて、邪気が無さ過ぎだよ・・。
さっきまでの余裕たっぷりと言った感じの笑みとはかけ離れた悪戯が成功した子供のような顔。

・・・・君、誰・・・?

ついぼくはそう考えてしまう。
それくらい彼の笑い方にはギャップがあった。
笑いの最高潮は終わったらしい彼はまた燐の前に座り直して薬が入っているらしい箱を開ける。
灰緑色の軟膏のようなものが中には入っていて、青臭い匂いが鼻を突いた。
燐にそれを塗りながら彼はぼくの方を見ずに言う。

「・・・罪の重さに潰れそうになったのか?」
「え?」

突然の質問にぼくは視線が泳いでしまう。
またいきなり元に戻ったような落ち着いた声。
それに気にすることなく彼は続けた。

「この獣の傷はお前のせいだ。そして俺のせいでもある。
お前はそれに罪を感じているのか?」
「・・・・・」

ぼくは何も言えない。
燐の傷はぼくのせい。そして彼のせい。
彼があまりにもあっさり言うから、それを否定するチャンスなんかなかった。
・・・・ううん、彼はぼくにそれを否定する事を許してくれなかったんだ。

「罪を感じているならお前はヒトだ。罪を感じないならお前は獣以下だ。
罪の重さに潰れたいなら潰れてろ。一生因果に怯えて暮らすんだな」
「・・・・・罪の重さ・・」

ささやくようにぼくは呟く。
罪の重さに潰れたら、自分も同じ事をされるという事に怯えなければならない。
それくらいに罪は『重い』。鉛でも飲み込んだみたいに。
ワンテンポ遅れて彼は続ける。
それは、謳うように。

「罪を忘れて、否定したいなら勝手にすればいい。
それが、逃れれるものだというのなら。
逃れる事などできないのに、逃れたよう振舞えるのなら。
忘れる事ができるなら、そいつはもうヒトじゃない。
ヒトでいたいなら、忘れるな。その罪の重さを。
潰れる事もおぼれる事も赦されない。潰れたなら、そこでお前はヒトじゃなくなる。
その重さを受け止める事ができないなら、いっそ獣にでも堕ちてしまいな。
その方が楽だ」

あまりにも重い言葉。
それはぼくにとってはあまりにも重たすぎた。
否定も、逃げも、許されない。
受け止めてから忘れる事も、潰れる事も禁じられてしまった。
彼はぼくの方に振り返ってからあまりにも澄んだ目でまっすぐにぼくを見る。
避ける事はできなかった。

「忘れるな。絶対にだ。この獣が大切なら、その傷を絶対に忘れるな。
半分は俺のせいだ。だが、残りの半分はお前のせいだ。
罪は消えない。あがなっても、あがなっても、この深紅(あか)はお前の罪だ。
目を逸らすなよ。逸らした時点でお前は自分の罪を否定する事になるんだからな」
「にげちゃ、だめなんだ・・・。うん、にげないよ・・・。
これは、ぼくが悪いんだから。
ね、君は?君はずっとそうして来た・・・・?」

放心した頭は繰り返し繰り返し彼の言葉を響かせる。
なんとか考えをまとめて、ぼくは彼にそう問うた。
彼は目を逸らせることなく答える。
彼の目には黒ずんできた空が映っていた。

「あぁ、そうだ。
俺は剣を振るう。
自分が生き残るために、血の海を渡り続ける。
償いが必要だと言うのなら、
血の色、罪の重さ、全てが俺自身だ。そこから逃げねーし、それを否定もしない。
それが俺の贖罪だ」

澄んだ声。
それはある意味、ある種の覚悟。
ある種の懺悔。
強く、強く、どこまでも迷いなく。
潔いほどに。

「お前は俺のやっていることを『正しい』となんか言わなくていい。
俺も正しいと思わねーし。そうしないと生きられないと言い訳して欲しいならしてやるし、
誰かが俺を『悪』だと言うのなら、俺は悪なんだろう。
俺に正義を唱えて欲しいなら唱えてやるぜ。『これが俺の正義なのだ』と」

まっすぐな目とまっすぐな言葉。
ぼくに彼を否定する権利はない。
ぼくにあの、悲しい『英雄』を否定する権利がなかったように。

あ、
突然にぼくは気が付いた。
彼と『英雄』の違うところ。

『英雄』は、罪を背負っていた。
あがなってあがなって、あがないきれないと泣いていた。
自分は偽善者だから、と。
責め立てて責め立てて、自分にはそれすらする権利は無いんだ、と。

けど、彼は、

『彼』にとって罪は自分自身の一部だと思ってる。
償いなど意味も無いと、強く強く笑ってみせていている。
自分は悪人だと言うのならそうなのだろう、と。
世界が敵だと叫ぶなら、喜んでそれを受け入れよう、と。

どちらも正しく、どちらも間違っている。

そして、どちらも悲しく、どちらも優しい。
どう考えようと彼ら2人の道は修羅の道。
同じように血と叫びに彩られた屍の道。

ぼくには真似できないほど、強く強く、まっすぐな彼ら。
優しくも悲しい彼らと出会えたぼくは、彼らから何かを学べていると思う。

多分、きっと。

side???

誰かが、輝くばかりの純白の光に身を包むなら、
自分は、漆黒の夜を身に纏おう。

誰かが、正義を唱えると言うのなら、
自分は、喜んで悪だと誇ろう。


つまりは、そういうコトなんだよね。

正しいも、間違ったもなくってさ。

ボクにもないよ。
彼らの道を否定する権利も義務も。

ただ、ボクは・・・・・


彼らの寂しさと叫びだけは感じられたんだ。

痛々しいほどに。




























































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2009.11.5  21:35:26    公開
2009.11.15  23:29:57    修正


■  コメント (4)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

コメントありがとうございます!!夜光さん!

一気読みしていただいたのですか!!ありがとうございますm(−−)m
いえいえ、目を皿にしてコメント探しますのに!!
お腹いっぱいですか?お粗末さまですm(−−)m大満足とまで言っていただけて、こちらもお腹いっぱいです!!ありがとうございます><

あー、やっぱり話の筋がややこしいですからね・・。
整理は僕自身ですら大変なんです・・・(おい作者!)
読み直すポイントとしては各sideごとに読み直すほうが多分楽ですよ(ユウトならユウトだけ、ケイヤなら・・以下略という感じで)
本当に、誠に、申し訳ありませんっm(−−)m

ケイヤサイドは重たいですね・・・。書くのは楽しいのですが。
ありがとうございます、本当は全然書ききれてなんかないのですが・・(あれもしたいコレも言わせたいと思っていたら肝心な事が抜けてたりします・・^^;)
夜光さんの言葉を励みに精進いたします。
忘却できることは確かに素晴らしいと僕も思いますが、やはり忘れるべきこと、記憶に埋もれてしまうもの、そして忘れてはならないものが存在すると思い、書かせていただきました。

ハクタイの森は、多分そうなハズです!!
いや、多分、きっと!そうであれ!!
いいえ、そうであってください!マジで(泣)!
・・・・・ちゃんと確認した方がよろしいと思います・・・・・。

それでは、失礼を。







09.11.18  23:03  -  森羅  (tokeisou)

なんとか途中コメは探す森羅様も大変かなぁと思って一気読みしました。お腹いっぱいです。ご馳走様です

メタモンは誰のもの?とかシリウスカッコええ〜とかメリッサさんはまりすぎとかアヤの悩みとかいろいろともう大満足です

ただ脳に情報が整理しきれていないのでちょくちょく読み直しますね。

ケイヤサイドは重いですね。複雑です。そしてそれをかききるのがすばらしいです。
忘却が人間ができる唯一の逃避ってなにかに書いてましたけど忘れちゃダメですよね。

ハクタイが永遠の森だと・・・まったくスルーしてました。メモメモ

では乱文失礼しました。

09.11.18  13:43  -  夜光  (iteboe)

こんばんはです、daikさん。
コメントありがとうございます!!
所用で返事が遅れてしまいました。
誠に申し訳ありませんm(−−)m

ハクタイの森はイベント的には大好きな場所ですが、『永遠の時間』のフレーズは特に意味がないんです・・・(ゲームでハクタイの森にあった看板そのままなですので・・・;)
『彼』が言っていたようにハクタイの森は「ただの森」だと思います、多分(どっちやねん)
変に期待させてしまい申し訳ありませんっm(−−)m

それでは、失礼を。



09.11.15  22:20  -  森羅  (tokeisou)

どうもこんばんは。daikです。

なんか今回のハクタイの森はいろいろ不思議な感じですね。
ここだけ永遠の時間が流れているとかの神話的ですし何か重要なポジションなんでしょうか?

ここの話も完成したらまた見に来ます。
ではまた

09.11.7  00:36  -  不明(削除済)  (daik)

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