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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

83.sideケイヤ この世の理[ヨノリクツ]

著 : 森羅

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目に入ってくる赤色の液体。
ゆっくりゆっくり生暖かいその絵の具がぼくに飛び散って襲ってくる。
目を閉じる暇も無くて馬鹿みたいに呆然としていたぼくに、あるはずの痛みはなかった。
あれ、と思った次の瞬間にぼくは全てを理解する。

「・・・・燐ッ!」

綺麗な黄昏の金の毛皮は胸の辺りから赤い色に上塗りされて、真新しい鮮血は大地に零れた。
かろうじて立っていた、という感じの燐は耐えかねたように倒れこむ。

「り・・・ん・・・?」

返事は、ない。
ぼくはぎこちない動きでゆっくりと顔を上に上げる。
目に入るのは、ぼく以外唯一の『生きている』人間である、ぼくより少し年上らしい少年。
そして、彼の持っている刀にも似た刀剣。
彼は自分の剣に付いた血に少しだけ目を開いて驚きを示してからぼくらを見下ろして言う。

「・・・逃げないのか?せっかく『お前の』獣が庇ってくれたのに。
今までのヤツはみんな逃げたぜ。獣たちに見向きもせずに」

嘲笑うかのような声にぼくのリミットゲージが満タンになる。

ぼくは・・・・・・・、ぼくだって、怒る。
叫んだり、泣き喚いたりしてぼくは怒らないけど、

ぼくの大切なモノたちを傷つけるなら、ぼくは怒るよ。

ぼくはまっすぐに彼を見つめ、燐を守るように彼と燐の間に割って入る。
いつもの笑顔が顔から消えているのは自覚していた。

「ふざけ・・・ないでッ・・・欲しい・・・。
燐は、・・・・燐は『ぼくの』じゃない。
燐の手当てをして。・・・・・君が傷つけたんだから」
「ハッ。なぜだ?
なんで俺が俺を殺そうとしたやつを助けなきゃなんねーんだ?」
「ぼくは君を殺そうとなんかしてない。
早くしてよっ!燐が死んだら、・・・・・・死んだら・・・君、生き返らせることができるの!?」

ぼくの剣幕に少しだけ彼がひるむ。
けど、それはすぐに元に戻ってひゅん、という風を切る音の後血の付いた刀剣がぼくの眼前に置かれた。
それで脅しているつもりなら、ぼくは怖くもなんとも無いよ。
ぼくは少しも動じることなく、無表情のまま彼を見つめる。
彼の口から零れるのは死刑宣告。

「今すぐ、殺してやるよ。それで問題ないだろう?」
「燐を治して、今すぐに!」

早くしてよ。
理屈なんかどうだっていいんだ。
早くしないと、本当に燐が死んだらどうしてくれるって言うの!?

一瞬だけ不思議そうな顔をした後、彼は剣の切っ先をぼくに向けたまま獣のような強烈な笑みを浮かべて言う。

「教えてやろうか、ガキ。
この世の中、正しいも間違ったもねーんだとよ。
生き残ったものが勝者だと、正しいとこの世が言うなら、お前が俺に勝ってみろよ。
そうすれば、お前は生きられるぜ」

・・・・・・・・?
どうして?

「・・・・・本当に、そう思ってる・・・?」

ぼくは疑問を口にする。
自分で言った事なのに彼はどこかそうは思っていないようぼくには思えた。
ぴくっ、とわずかに剣の刃が揺れる。
しっかりと定まっていたはずの太刀がその方向を見失っていく。
下唇を噛み締めて、吐き捨てるように彼は答えた。

「・・・・・仕方ねーだろう?
それがこの世界の理。それがこの世界の理屈。
勝ち続けないと生きられない。負ければあるのは死だけだ」
「そっか。でもさ、それって考えていて楽しい?
勝ち続けて、生き残って、君には一体何が残るのかな?」
「・・・・・問答は終わりだ」

ぼくと同じく感情を消したような無表情で彼は一寸のためらい無く剣を振りかざす。
ぼく、今度こそは死ぬかもね。

ゴウッ!

「ッ熱(ち)!」
「燐っ!?」

ぼくの後ろから放たれた赤い炎に彼は剣を持った手を軽く焼かれ、剣を取り落とす。
ぼくは驚いて後ろを振り返った。
見えるのは、首を少しだけ持ち上げて倒れこんでいる燐。

《ま・・・ったく・・・。無茶苦茶なんで・・・すよ、ケ・・ィは・・・。
早く、逃げ・・・》
「動いちゃ駄目だ、じっとしてて。死んでしまう!」
《そこの、ヒト殺し・・・。ケイに手を出したら・・・すぐに、引き裂きま、す・・・》

牙をむき出しにしてうなる燐はボタボタと血を流す。
ぼくは彼のほうに向き直った。
彼はやけどした手を押さえてこちらを見ている。

「お願い!ぼくは手当てをしてあげられない。
助けてよ。お願いだから・・・」

懇願するぼくを彼は苦渋の表情で見つめる。

「お前は、・・・・違うのか?
俺を殺しに来たわけでもなく、あの獣の主でもない、と?」
「ぼくは君を殺しになんか来てない。
燐は、ぼくにとって大切なヒト。・・・人じゃないけどね」

沈黙が、たった一瞬の沈黙が、永遠にも近い時間に感じる。
ざわざわと木々が風に揺らされて、木の葉を飛ばした。

すっ、と唐突に彼は地面に落ちた剣を拾って様子を見る。
血でべったりの剣を見て、彼はその場にそれをぽん、と捨てた。
それからおもむろに自分が殺した人たちの方に行ってあまり血に汚れていない羽織のような上着を死体から剥ぐ。

・・・・追いはぎだよ、それ・・・・。

「その獣におとなしくなるよう言いな」
「えっ、あ、うん。・・・・ありがと!」

パッ、とぼくは笑った。
優しいじゃん、この人。
ぼくの表情の変化を彼はさも面倒くさそうに見る。

剥いだ羽織の綺麗な部分をビリビリと破って包帯の代わりに燐に巻きつける。
ぐっ、と言う燐の苦しそうな声がときどき漏れた。

「・・・ギリギリ急所外したからな。
あんまり深く切ってねぇし、後は薬でもつけときゃ直るだろ」
「・・・・急所、外したんだ?」

まったくもって手加減なしだった気がするんだけど。

「この獣が突然飛び出してくるからだ。
お前だったら、即死するように切ってる」

・・・・あはは・・・。そうですか。

「ポケ・・・獣は切らないんだ?」
「そうでもねぇが、獣に罪はねーだろう。・・・質問が多い。黙ってろ」

あー、なるほどね。
ポケモンは人間の言う事を聞かなきゃならないから、彼を襲ってるだけだもんね。
人間のように自分の意思じゃない。

燐は気を失ったのか、目をつぶってぐったりしている。
ぼくは燐のそばで彼の手際のいい手当てを見ながら聞いた。

「あのさ、さっきの質問に答えてよ。
『勝ち続けなきゃ生き残れない』。
君はそんなこと考えて楽しい?
それをし続けて、一体何が手に入るの?」
「無理やり血を止めてるだけだから、大してもたないな、っと。
・・・・しゃべってる暇があるなら、そこらの着物かき集めろよ」

ぶるぶるとぼくは首を振る。
死体から服取れって?勘弁して欲しい。
彼は怪訝そうな顔をして燐を離れて自分で死体から服を剥ぎ取っていく。
刃こぼれのしていない剣もしっかり手に入れていた。

・・・・・いいのかな。そんなに無茶苦茶して・・・・。

・・・・そういえば。
ぼくは彼らの服に目をやる。
羽織、着物・・・。『英雄』が居た時代とはまたかなり変わっている。
彼の服は羽織だろうが、着物だろうが、下の辺りが黒っぽいのははなんでかなぁ。
まぁ、その上にさらに血の赤が上塗りされているんだけど。

「・・・・・楽しいわけねーだろ。
そうやって生きても何にも手に残らない。
勝者か敗者かしかいないというのなら、皆敗者さ。
その戦いに負けたものは死ぬしかないが、生き残ったものも」

ポツリ、と彼が言った言葉はさっきのぼくの問いの答えだった。

「生き残ったものも?」

ぼくは続きを待つ。
それは、彼が持っているとぼくが思いもしなかったものかもしれない。
それは、
人を殺すことに対する、恐怖。またはためらい。
それに対する善悪。
ぼくとはまた、考え方が少し違うのかもしれないけど。

そう、どちらかと言えば彼は、あの『英雄』に近い存在なのかもしれない。
ぼくはなぜかそう思った。

「生き残ったものもな、敗者の返り血を浴びるんだ」




















































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2009.11.1  00:31:53    公開
2009.11.2  03:15:41    修正


■  コメント (6)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

初めまして、コメント有難うございます!!ユリさん!
明けましておめでとうございます。お返事が遅くなってしまい、申し訳ありません。
サイドのまとめ読みしてくださっているんですね。一回すべて読んでくださったとは……! ありがたいお言葉です、本当にありがとうございます!!
2016年がユリさんにとって良いお年でありますよう。
失礼を。

16.1.3  10:17  -  森羅  (tokeisou)

サイドまとめ読めをしています。一回すべてを読みました

15.12.30  15:57  -  ユリ  (ゲスト)

コメントありがとうございます!!kkさん!
初めまして、ですね。

結構前からですか!それはそれは・・ありがとうございますm(−−)m
嬉しい限りです!!
〜は癖なんですか。気にしませんよ。
それでは、コメント誠にありがとうございましたっ!
失礼を。

09.11.3  14:43  -  森羅  (tokeisou)

はじめまして〜。連載当初とはいきませんが、結構前から見てたkkです。daikさん、連載当初ッて、かなり前じゃないですか!?すごいです〜。あ、この、私の、“〜”ですが、癖なので、特に気にしないでください。
次の更新楽しみにしてます〜。頑張ってくださ〜い!

09.11.2  08:11  -  不明(削除済)  (coco)

初めまして、コメントありがとうございます!!daikさん!

連載当初からご覧いただいているのですか!?
感動です!ありがとうございます!!嬉しい限りです!!

未熟者だなんて!そんなことないですよ!
コメントして良いに決まってるじゃないですか!
パソコンの前で飛び跳ねまくりますよ!!(テンション高ぇ)

なれなれしいくて全然大丈夫です!
また、コメントくださるのですか!?
ありがとうございますですm(−−)m

ハイテンションで申し訳ありません。
それと、せっかくコメントくださったのに、題名が変わってしまっています。申し訳ありませんm(−−)m

それでは、コメント誠にありがとうございました。
失礼を。

09.11.2  03:34  -  森羅  (tokeisou)

はじめまして、daikといいます。

森羅さんの小説は連載され始めた時から見ており、更新されるのがとても楽しみでした。

いつもはただ見ただけで終わってしまうのですが、今回は勇気を出してコメントしてみました!っていうか自分みたいな未熟者がコメントしていいのかわかりませんが(汗

何かなれなれしくてスイマセン。今度コメントするときはもっとまともな文書こうと思います。
ではまた。

09.11.1  22:24  -  不明(削除済)  (daik)

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