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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

80.sideユウト rain song[アメノオト]

著 : 森羅

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パタン、パタタ・・・ザァー・・。

斜めに降る雨が窓に当たる。風が少し出てきたようだ。
小雨をひっきりなしに吐き出す鉛色の雲と降る雨をする事もなしに眺めている自分が馬鹿らしい気もするが、することと言えばせいぜいポケモンセンターの一室に備え付けてあるベットを椅子代わりに座ってシロナさんからもらった卵をいじくるくらいなのだから仕方が無い。
そういや、オレが事故にあったのも雨の日だったか・・・嫌な思い出だが。
まぁ、それはどうでもいい。

《なぁーなぁ、ユウト、お前大丈夫かー?》
「・・・・何が?」

フローリングの床でごろごろと寝そべって転がっていた夜月が唐突に聞いてくる。
ワンテンポ遅れて答えるオレに、夜月は言葉を続けない。
・・・・お前が聞いてきたんだろうが。
雨のせいもあるだろう、ただでさえどこか重苦しい空気がさらに重たくなった気がする。

《う・・・いや、だからさー、俺が寝てる間に何があったんだ、ってことだ。
ロストタワーってとこに行ったって言ったけどさ。ユウト、どう見ても様子おかしいだろ?》
「何もねぇよ」

夜月の方には目もくれずにほおづえをついてぼけーと窓の外を眺めながらオレは即答した。
再び沈黙が部屋を覆う。

《・・・・雨、止まねーな・・・》
「そーだな」

夜月とオレ、どちらともなくため息。
紅蓮は寝ているのだろうか、目をつぶったままじっと動かない。

この雨はオレが知る限りですでに2日は降り続いている。
ズイタウン、という名前の大通り一本の村とも言えるだろう町に着く辺りからこの雨が降り始め、街中に着く頃には大雨に変わっていた。
どうせ泊めてはもらえないだろうとわかってはいたがとりあえず雨宿りにポケモンセンターに行ってみるとロビーにはすでに数十人の先客。

そいつらが足止めを食らっているのには少々理由があった。
そしてその理由がオレがここでぼーとしている理由でもある。

『210番道路の方面への立入り禁止』

実にシンプルかつ209番道路の道のりを徒労と感じさせてくれる内容だ。
さらに210番道路への立入り禁止の理由を言うとなると、この雨のせいと言うことになる。
もともと雨の多い場所らしいが、すでに1週間以上降り続いるとなるとさすがに異常らしい。
そして、万が一土砂崩れなどが起きたら責任を取れない、と言うのが立ち入り禁止の理由になる。
不運に見舞われ右往左往していたトレーナーやらオレたちやらはろくに身分証明もしないままセンター付属の宿泊施設に部屋をあてがわれ、じっとしていろというお達しが来た。
当座の寝床と食料が手に入るのは嬉しいが、問題は。
とにかく暇だ。
そして暇を持て余す暇人たちは各自の部屋でじっとしているか、ロビーにて談笑やらポケモンバトルやらに講じているか、もしくはあまり品揃えの良くないショップを日に数回もうろつくぐらいしかすることがない。もちろん、オレも含めて。
さらに言うならば、オレの部屋には異様なほどに重苦しい沈黙と空気といういらん付録がつく。
気分は最悪。・・・・まぁ、半分は多分確実にオレのせいなのだろうが。

・・・・・・・・。
なんでだ?どうしてオレはロストタワー(あそこ)を知っていると思った?
わからない。
わからないから、気持ちが悪い。
にごってどよんだ空気はまともに呼吸すらできていない気がした。

なんだかな・・・・。
おもむろに立ち上がってオレはコートを羽織る。

「夜月」
《ど、どーした!?》

なぜそんなに挙動不審になる?
そういえば、心なしかコイツも最近様子がおかしい気がする。
避けられていると言うか、なんというか。
・・オレの考え過ぎ、か?

「ちょっと出てくる。行くか?」
《・・・雨はぁ?》
「かなり降ってる」
《じゃ行かない。お土産よろしく、楽しみにしてるからなっ!》
「・・・・なんもねぇと思っとけ」

やはりオレの考えすぎかもしれない。
いや。
そう思いたい、そう思っている自分に気がつき思わず苦笑した。
どうやらかなりこちらの世界に慣れてしまったらしい。
すでにオレがさっきまで座っていたベットにもぐりこんで丸くなっている夜月が目を丸くさせる。

《どうしたんだ?いきなり笑い出して?・・・へーんじーん》
「うるせぇよ。じゃーな」
《・・・・》

何か、言ったか?
夜月のほうを振り返ってみるが夜月はすでにこちらを見ていない。
気のせいか?
少し釈然としないままとりあえず、ドアを閉じた。


「はあぁぁぁ・・・・」

ため息と言うよりも深呼吸と言うのがふさわしい長い息が漏れる。
久しぶりにまともに呼吸した感じは冗談ではなく本当だ。

さて、
どうするかな・・・。
部屋での居心地が悪かったからこそ外に出たかっただけであって、特段用があるわけではない。
だが、さすがに10分くらいはどこかに行っていないとさすがにどこに行っていたんだ、という話になる。
そんなことを思いながらロビーまで出てきたはいいが・・・・。

外から聞こえてくるのは、雨音。
何をするわけでもなしに、ふらふらとセンター備え付けの透明ビニール傘を引っつかんで外に出た。

外の方が、空気が良いだろう。

誰も居ない道路と雨音以外音も無い静かな世界。
吐く息はかすかに白く、ひんやりとした寒さに体が無意識に縮こまる。
ハクタイの夜とはまた違った静かさ。
一定のテンポの雨の音になぜか安心を覚え、傘に当たる雨の音にしばらく耳を澄ませていた。

side夜月(ブラッキー)

《早く帰って来いよ?》

俺の声はユウトまで届かなかったらしく返事は無い。
・・・・・まぁ。いいか・・・・。
ユウトが出て行ったドアが完全に閉まるのを確認してから息を吐く。

《はあぁぁぁ・・・・》

ため息と言うより深呼吸に近い長い呼吸が漏れる。
長い間まともに息をしていなかったような・・・。

つーかさ、どういうわけであんなに雰囲気暗かったわけだ?
無駄に湿度高かったわけだ?
あの話すなよ、みたいな重い沈黙はなんなんだ!?

いや、まぁ、俺のせいもあるんだろうけど、さぁ・・・・。

《なぁなぁ、狸》
《狸ではありませんな》

狸と呼んでやった紅蓮が即座に目をつぶったまま答える。
やっぱり起きてたのか。紅蓮、お前これから狸寝入りの狸だ。そう呼んでやる。

《なぁ、なんであんなにユウト暗いんだ?
・・・いや、元々から明(あっか)るい性格ではなかったけどさっ》

本人が居れば俺の脳天にぐーが飛んでくるだろう。
あれ、痛いんだからな!!

紅蓮は片目だけを開けてこちらをにらむように見てくる。
・・・・なんだよ・・・。

《その前に一つ。夜月殿、どうして最近の行動がおかしいんですかな?》
《おっ、おかしくねーよっ!!》
《視線が右往左往してますな・・・・。ユウト殿よりさらにわかりやすいですな・・・》

あきれたような紅蓮の言葉。
なんでそんなクールに言うんだよ!!狸のクセに!
・・・・う・・・・うぅ・・・。

《当てて見せましょうかな。あれ、ソノオでの『深紅』ですかな?
最近妙にはしゃぎまわっていたのもそれの影響でしょうかな》

言葉に詰まった俺に更に第二撃を放つ紅蓮。
まさに図星、の俺はそっぽを向くしか反抗する事ができない。

《・・・あぁあ!その通りだよ!!そーだよ!!なんか文句あるのかよ!!》

開き直った俺は大声でまくし立てる。
言いきった後に部屋を覆うのはなんとも言えない沈黙・・・・。
非常に気まずい。
・・・・・・・・・なんか反応してくれよ。俺、さびしーやつみたいじゃねーか・・・。

紅蓮からふぅ、とため息が聞こえて来た。

《続きを》

続きって言われてもなぁ・・・。
俺は紅蓮を無視して頭を毛布に突っ込む。

だってさ、だってさ。
『怖かった』。

誰だかわからない別人のユウト。
血の匂いのした、深紅の瞳。
あいつならためらいも無く人を殺せるだろう。そして俺たちも。

その上、
俺を知っている・・・・?

俺はまったく知らないのに。
あのとき感じた焦燥感は小さくなる事はあっても消えはしてくれない。
ただ、
嫌な感じではなかったんだ。

それなのに、『深紅』が何なのか、誰なのかわからない。
あれはユウト?それともそれ以外?

『俺はこいつでこいつはあいつ』
その謎掛けのような言葉の意味もいまだわからない。

《嫌な感じでは無かったですな》

突然の紅蓮の言葉に耳がぴくっと動く。
それがわかっているのかいないのか紅蓮は続けた。

《血の匂いは嫌でありましたが、向こうに敵意が無かったでありますから、
奇妙な感じではありましたが、嫌な感じではなかったですな》
《・・・・・俺もだよ・・・》

血の匂いも、ためらいの無いくらいの殺気も、そこに確かに存在したのに。
それらは俺たちに向けられることはなかった。
俺たちに向けられたのは、

ひどく、優しい感じと子供っぽさはなかったが邪気の無い笑み。
それは、
からかったり、馬鹿にされている様子はあっても、
俺たちを傷つけないようにひどく気を使っているようで。

《今は深く考えてもしかたないですな。
また、出てくるかもしれないでありますから、そのときまた聞けば良いんですな》
《・・・・あ、そーか・・・・》

そーか、あいつがまた出てくる前提で考えねーからややこしくなってたのか。
あっさり解決してくれるじゃねーの、紅蓮。
俺が悩み続けたのはなんだったんだ?
そのせいでぶっ倒れるし、池には落ちるし最悪だったってのに。

お?そう言えば、また出てくるのは無理っぽいことあいつ言ってなかったか?
・・・・・いやいや、それよりも、だ。

あいつがまた出てくる前提で考えて良いのか?俺たち。

・・・・・・まぁ。いっか。
とりあえず満足した俺は布団の温かさにまどろみかける。
ユウトが座っていてくれたおかげでフローリングよりはあったかい。いい感じだ。

《さて、本題ですな》
《本題・・・?》

話は終わったとばかり思っていた俺は疑問符を浮かべる。
紅蓮は俺にいくがわしそうな目を向けて、言葉をつなぐ。

《本題?と聞かないんで欲しいんですな。
ユウト殿の暗いわけ、と聞いてきたのはそちらですな》

・・・・・あぁ。
すっからかんに綺麗さっぱり忘れてたな・・・。

《そーそ、それそれ!忘れてたんじゃないからなっ!ちょっと記憶が飛んでただけだからなッ!》
《・・・忘れてたんですな・・・》

はああぁぁ・・とこれでもかと言えるほど長い息を吐いて紅蓮はこちらをにらんでくる。
さっ、と目を逸らす俺。

《あれ、俺が寝ている間に何があったんだ?》

side紅蓮(ウインディ)

どう言えばいいんでしょうな・・・・。

夜月殿の質問に答えかねた我はふと2日前の出来事を思い出しながら夜月殿に語って聞かせた。

「待っていてくれ」と言われ、待つこと2時間ほど。
帰ってきたユウト殿は泣きそうな、笑いそうな、困ったようなそんな顔をしていた。
《どうしたんですな?》と聞く我に、
「何にも無かった」とだけ短く答えて我の横に座り込むユウト殿。
ぐしゃくしゃと赤とも黒ともいえない髪をかきむしって当惑めいた声を上げた。

「無かったんだよ、何にも。
ポケモンの墓とゴーストタイプのポケモンだけだった。あそこにいたのは。
なぁ、オレあそこを知ってると思ったんだがな。
気のせいじゃねぇはずなんだがな・・・・もうわかんねぇよ」

我に言っている様にも自答しているようにも聞こえる言葉。
ソノオのことを言うかどうかかなり迷ったのを覚えている。
結局言わなかったのだが。
代わりに我は問うた。

《なぜ、知っていると思ったんですな?》
「さぁ。・・・・あぁ、夢を見た。そんな夢。
オレが墓穴を掘っていた。骨も何にもいれない、土を被せただけの墓。
あそこを見たら、・・・・あそこがその墓の場所だ、と思ったんだよ。そんだけ」

どこかうつろな目でそれだけの言葉を夢の内容をを思い出すようにつぶやいたユウト殿。

その後は、そのままこのズイについてあとはずっとあの調子。
今、語り終わって夜月殿は目を閉じる。

《わかんねーな。俺たちも、ユウトも。何が起こってるのか》
《・・そうですな》

夜月殿のつぶやきに答える我。
部屋を再び沈黙が支配する。

雨の音は決して優しくはなかった。

side???

雨が奏でる一つの旋律。

オルゴールのように一つの詩(うた)しか知らない雨は、

あるいは優しく、
あるいは冷たく。

全てのものに分け隔てなく、限りなく等しく降り注ぐ。

それは、生と死の理(ことわり)のように。


キミ達は今、大きな渦の中心に居るんだ。
ただ、そこが台風の目のように風も無く穏やかだから、気がつかないだけ。
渦の中心があまりにも居心地が良いから、周りを取り囲む渦を見ようとしないだけ。

すでにキミ達の周りで全ては動き出しているんだ。
キミ達が気がつこうと、つかまいと。

何が起ころうと世界の時間が進み、空間が変化していくように、
キミ達も時間に飲まれ、空間の中に取り込まれていくだろう。




































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2009.9.27  22:59:27    公開
2009.10.9  22:33:22    修正


■  コメント (2)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

コメントありがとうございます!!篝さん!!

お久しぶりです。テスト終わったのにまたテストなんですか・・。
大変そうですね・・・・。と言う僕自身もテスト中なんですが(汗)

ケイヤサイドは盛り上がってますよねー。今一番書いていて楽しいサイドですよー(え
本当にこの状況判断能力は分けて欲しいです。状況どころか空気すらまともに読めない人間なんで(ただの人間失格
シロナさん好きですか!!それはそれは・・・。
また活躍すると思いますよ♪
アヤサイドではゲンを書くのだけが楽しかったです!(待て
本当に、アヤの成長に乾杯!!ですよね。
レグルスの意味は、本当は知りませんでした^^;
ただ、しし座の星のひとつ、とだけ知っていたので、電子辞書を引いてみるとそう言う意味だったという・・・。
篝さんの方が絶対的にセンスが良いです!!!
そして、ゆーとくんですが、実質問題彼が一番何にもわかってないですよね・・・。ケイヤが出会った人物との関係は、あるかもしれませんし、ないかもしれません(どっちやねん)。
書いている本人もたまに訳がわからなくなります(それは自分の許容量の少ない脳のせい)。

それでは、コメント誠にありがとうございました!
失礼をっ!




09.10.14  14:56  -  森羅  (tokeisou)

お久しぶりです。篝です。
テストが終わったので、連休使って一気に読ませてもらいました。
でも明日またテストですorz

随分と前の話になってしまいますが、ケイヤsideのときの頭のキレの良さには印象に残っていますー。
どうしてこんなに状況が判断できるんだ!自分にも分けて欲しい…!(
あと森羅様の描くシロナが好きです(マテ
アヤsideではゲンの登場、そしてレグルスの進化…。アヤがまた一歩成長したことに乾杯!(黙
余談ですけど、レグルスってラテン語でそういう意味があったんですね…。森羅様のセンスには脱帽ですd
さてさて、そして本題のユウトはロストタワーに行って何が…。夢を見たとかをユウト本人が言ってますけど、やはりケイヤが出会った男と繋がりが…?
全く訳がわからnnnnnn(氏ねばいいと思う
あと夜月と紅蓮の会話で和みました(*´Д`)←

常にハイテンションです; もう一度じっくり読み直してみようと思います!
更新楽しみにして待ってます♪ ではでは、乱文失礼しました!

09.10.12  22:40  -  不明(削除済)  (Vlack)

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