![dummy](http://img.yakkun.com/dummy.gif)
生あるものの生きる世界
76.sideアヤ 偽りの仮面[トゲ]
著 : 森羅
ご覧になるには、最新版の「Adobe Flash Player」が必要です。 また、JavaScriptを有効にしてください。
むぐっ・・・ぐっ・・。
あんまりおいしくない保存食料を押し込むようにして食べていく。
辺りは静寂が覆っていて、時々ポケモンが徘徊する音だけが聞こえてくる。
「ね、あのさ、さっききみは言ったね?『強くなりたい、そして誰かを守りたい』と
それはどういう強さだと自分で思ってるんだい?」
「・・・・ッ!」
エコーがかかって少しだけ響く静かなゲンの声。
あたしはその問いに心臓が一瞬止まったかと思った。
『オレが言っているのはお前の言う強さって何だってことだ』
ユウトが聞いてきた言葉と異口同音なセリフ。
あたしは答える事ができない。
今までだったら、即答できるくらい簡単な質問だったのに。
「・・・・わからないの」
「わからない?」
さも不思議そうに首をかしげてあたしの言葉を繰り返すゲンにあたしは頷く。
スピカたちは何も言わない。
ただ、なりゆきを見ていてくれている。
「わからないのよ。わからないの。
あたしは誰かを守りたい。そのために力が欲しいの。
でも、どうすればいいの?わからないのよ、わからないの・・」
あえぐような意味を成さない言葉の羅列。
自問の声と自答の言葉。
どの自問の声にも満足に答えられず、
どの自答の言葉も知るのが怖いと耳をふさいで首を振った。
上辺だけ普通に振舞うのなんか簡単。
振り切った、と思い込むのも簡単だった。
そのときはすぐに見つかると思った答えが見つからなくて、ズルズルと期限を延ばして逃げるのなんか息をするのと同じくらい、簡単。
でも、心底に残ったトゲは抜けるどころか毒でも持っているみたいに広がって侵食していく。
ユウトに言われて、がむしゃらにやっても駄目と気がつかされて、
振り切った、と思っていた。
もう一度、やり直してすぐに上手く行くと思っていた。
『あたしにとっての強さって何か』すぐに見つけれると思っていた。
自分に対する『甘さ』。
それが、ゲンとのバトルで、露出してしまった。
偽りと嘘で塗りこめた自分を守るための仮面は
あまりにもろくて、あまりにつたなくて、出来が悪くて、壊れやすかった。
たとえ一度でも、負けてしまったら砂のように簡単に崩れていく。
その程度の、はりぼてのような『立ち直り』だった。
声一つ出せないあたしを気にする風でもなく明るくゲンが独り言のように言う。
「『わからない』か、そーだねー。ルカリオ、どう思った?きみがアヤちゃんと戦ってみて」
突然に話題を振られたルカリオは少し考えてから難しそうな顔をして答える。
《小生?ふむ、実践的なことじゃが、そちらは速攻タイプじゃの。
じゃが、そういうことではあるまい?》
「速攻、速攻・・・確かにそうだったね・・けどね、そういうことじゃないんだけどな」
《わかっておる。じゃから『そういうことではあるまい』と言ったじゃろう》
「わかってるなら、質問の意味で答えて欲しいんだけどな、ルカリオ」
わざとらしくあきれてみせるゲンを無視してルカリオは考えるかのように黙ってしまう。
そして、
《小生にはよくわからんのぉ・・。人はどうしてそこまでことを難しく考えたがるのかのぉ。
『強さ』とは、『強さ』とは『力』だけではあるまいて。
・・・主、小生に言わせずに主自身で言えばよかろう?主が言い出したのじゃから》
遠くを見つめて言うルカリオ。
・・・・・『強さとは、力だけではない』・・・?
ルカリオの言った一言があたしの中で響く。
一方のゲンはルカリオの方に口を尖らせて、むくれてみせていた。
「あーあ、せっかくルカリオに言わせて、わたしは楽(らく)しようと思ったのにな・・。
仕方が無いか」
すっ、とまじめな顔に戻ったゲンはあたしをまっすぐに見て呼びかける。
「アヤちゃん」
「あ、んたに『ちゃん』付けされる覚えは、ない、わよ・・っ」
予想外の答えだったのか目を見開き、そして笑うゲン。
「それは、残念、・・まぁいいや。それは後からゆっくり口説かせてもらうとして。
本題本題、ってね。
わたしから言わせてもらえばね、きみは『強い』よ。
『物理的には』確かに強い。
そしてなまじ腕っ節が強いからなかなか『負けない』んだろう?
『負けない』ってことがきみの中である種の『当然の出来事』になっているんだと思ったんだけどね。だから、負けたときのショックが大きいんだ。立っていられなくなるくらいに。
『精神的に』もろいんだよ。
きみの中で『負けない』と言うプライドが育ちすぎているんだ。
だから、まずは『強さ』云々と言うよりも、きみのプライドを無くそうか。
何度でも、打ちのめしてあげるよ」
そう言って立ち上がったゲンを見上げるあたしは、
すごく幼い気がした。
side???
あの娘(こ)の闇は強さへのプライド(思い)。
あの娘の光は過去の思い出。
けれども二つは同じもの。
強さはあの娘の支えであり、あの娘の求める所でもある。
どうするのかって?
さぁね。どうするんだろうね。
それはあの娘が選ぶ事だよ。
沢山のヒトと関わって、そして選ぶことがらだから。
『自分にとって』『強さとは何なのか』、をね。
2009.9.17 22:41:08 公開
2009.9.20 15:06:31 修正
■ コメント (0)
コメントは、まだありません。