生あるものの生きる世界
71.sideケイヤ 疑問[レキシ]
著 : 森羅
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《早まらないでください!》
「早まってないよ!それに、死ぬ気じゃないてっば!」
自分の家のぼくの部屋。おかあさんがいないからどれだけ騒いでも大丈夫。
なので、燐が必死でぼくを抑えようとしているのにぼくも必死で抵抗する。
もうちょっと、もうちょっとで届くのに!
《向こうに行ける保証はないんですよ!?》
「わかってるけど!確かめないといけないんだって!」
ぼくの部屋の壁にぽっかりと開いた黒い穴。
それはこの前ぼくらを飲み込んだものよりはるかに小さい。
この世界とあの世界をつなぐ、ほころび。
それに触ろうとするぼくを燐が必死で説得している。
《わかってないです!無茶苦茶ですよ!たった一回その黒い穴から行けたからと言って、次も行けるという保証はどこにもない、と言う事をわかってくれていません!》
「だって、前は行けたじゃん!時代合ってなかったけど。どーしても気になることがあるんだってば!」
そう、前に行ったあの時代。
あの時代でぼくはヒントとも思わぬ収穫とも厄介な問題とも言えるものに気がついた。
まだ燐には言ってないけど、それが気になって仕方がない。確かめる方法も他に思いつかない。
というわけで、
「絶対行くんだってば!行けるって、多分」
《どうして、そこまでしてあちらに行きたいんですか?気になることの正体を教えてください。
・・・・・それじゃないと絶対に行かせません》
・・・・・・・・ぼくは少しだけひるんだ。
これ、燐に言ったら怒られないかなぁ。
いや、・・・もう怒ってる、よね?
《これ以上、怒らないので言ってください》
ぼくの心の中を読んだみたいな燐の言葉。
ハイ・・・・。降参します。白状します。
脳内イメージではぼくは燐にひれ伏していた。
「あのさ。この前行った、あの時代あるじゃん。あの戦争やってた時代」
《墓を作ったところですね》
燐に説明するまではほころびのところに行こうとしても無駄だと思ったぼくは、椅子に座ってシーソーしながら話し始める。燐もカーペットの上に座って落ち着きを取り戻していた。
「そう。けど、墓の事はとりあえず置いといて。
ぼくが気になったのは、鉄剣」
《剣がどうかしましたか?》
ぼくは、ちゃんとそれについて調べたわけじゃない。
だから適当な知識から出た疑問なんだけど、
「ぼくらは剣、って言われるとイメージはだいたい西洋の剣(つるぎ)みたいなのとか、日本刀みたいなのを考える。・・『鉄剣』のね。あの人が持ってたのもそれに近い感じだった」
《それがおかしいんですか?》
ここからって本当に想像なんだけどなぁ・・。
けど、ここで話をやめるわけにはいかないし。ぼくは続ける。
「ちょっとポケモンがいる分、時代とか、科学技術みたいなものの発展時期がどこまであってるかわからないんだけど。あの時代、ぼくらの言う縄文時代みたいだった」
服とか、土の砦とかそんなのからの考えだから、どこまであっているかわからないんだけどね。
《それが、何か?》
「うーん。ちょっとさ、北海道ってそのまま続縄文文化になるからわかりにくいんだけど、
あれが縄文の時代なら、製鉄法は存在しない」
《つまり?》
「つまり、・・・・・・・・・『鉄を使った剣』は『ない』んだ」
息を呑む音は燐のもの。
ぼくだって変だと思った。
けどこっちの世界の歴史で言うと製鉄法が伝わったのが、弥生時代。
演繹(えんえき)法で行くと、縄文時代には製鉄法はない。
もっとも、どこまでこっちの世界と同じだと考えていいのかわからないんだけど。
《存在しないものが存在することが『気になること』なのですか?》
「違うよー。それは別にいいんだ。日本では弥生時代に製鉄技術が伝わっただけであって、
世界的に見たら、もっと早くから製鉄法を持っていた国もあるから。
だから、それは別に不思議じゃない。誰かがどれだけ速く気づくか、気づかないか、だし」
なら、と続けようとする燐を制してぼくが先に続ける。
「鉄剣そのものは問題じゃないんだ。
存在しないはずだと決め付けて、それを不思議がっているわけでもないよ。
問題は、その製鉄方法。鉄剣の作り方」
《作り方、ですか?》
不思議そうな燐にぼくはうん、と頷いた。
実はぼくの頭の中では一応、一通り説明がつく。
つくけど・・・、確信がない。実物(ほんもの)を見てないから。
ゲームはどこまで行っても『ゲーム』と言う枠組みを超える事はできないんだ。
というわけで、ぼくの考えは今のままじゃどこまで行っても机上の空論。
それを確認したい、確かめたい。
それが、どう繋がっていくのかわからないし、まったくの無駄足かもしれないけど。
「確かめたいんだ。確認が出来たらそれでいい。
燐が行きたくないなら来なくてもいいよ。無理を頼めないしね。
ぼく一人で行ってくる」
ぼくは椅子から立ち上がって燐に背を向け、小さな穴に手を伸ばす。
どうか、繋がっていますように。
・・・と言うより、無事に向こう側に行けますように。
早くも、やっぱり怖いなぁ、という後悔が渦巻く中それでも負けないように手を伸ばす。
「連れて行ってくださいっ!」
なぜか穴に向かって敬語で頼んで目をぎゅっと閉じる。
そのまま一気にてを穴に突っ込んで、
ぐにゃり、という気色悪い効果音。
目を開けたぼくの手はしっかり穴(他人から見たら壁に)にはまり込んでいた。
ずっ、と引き込まれるような感覚がぼくを襲う。
仕方ありませんね、という小さな声は燐のもの?
ぼくははっとして横を見る。
《わたしが居なければ、どうやって自分を守るつもりなのですか、貴方は。
着いていきますよ・・・どこまででも》
優しい紅(くれない)の瞳と目が合った。
その瞳(め)にぼくは最高級の笑顔を向ける。
時間が静止して、空間が保存された世界。
ぼくらがこの世界から消えるその一瞬にぼくはそれを確かに見たんだ。
・・・・・・じゃあ、行こう。
2009.8.18 23:00:25 公開
2009.8.19 01:24:42 修正
■ コメント (2)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
09.8.22 22:29 - 森羅 (tokeisou) |
こんばんはです、森羅様。 Σいつの間にか二話も進んでる…という事で早速読ませて頂きました^ ^ ゆーとサイドではゲンガーが意味深な台詞を残していきましたね…ある意味同族っぽいので共感出来る部分があるのかもですが。 メリッサさん広場まで何しに来たんだ^ ^; そしてヨスガを出てロストタワーに突入ですか。夜月や紅蓮置いてけぼりで大丈夫なんでしょうかね? ケイヤ君の方は再び穴が出現しましたね。何だか難しい会話が飛び交ってましたが…いや、そこそこは理解しましたよ!(そこの日本史選択者 燐も不満を抱きつつも着いて行くんですね。何だかんだで微笑ましいコンビです♪ 次回でケイヤ君の疑問は解消されるのでしょうか?上手い具合に望む時代に飛べれば良いですが… 次も更新楽しみに待ってます♪ ではでは、乱文失礼しましたっ! P.S.メールの返信はどれだけ遅くなっても構いませんので、お気になさらないで下さい^ ^b 09.8.19 17:29 - 不明(削除済) (lvskira) |
コメントありがとうございます!!ハミングさん!
ゲンガーのセリフは本当はメリッサさんが言う予定でした。
でも、そうですね。ゲンガーも『ゴースト』と呼ばれるポケモンですから、ゆーとが自分に近いと感じたのかもしれませんね・・・。ゆーとの存在ナゾですし(誰だよ!作者!!)
ゆーとの再登場はちょっと待ってくださいね・・m(−−)m
ケイヤの方は穴がなきゃ話が進まないんで・・・(汗)
会話がややこしくて仕方がなかったです、ハイ。すみません。
嗚呼、ちゃんと書けてるのか自分・・・。
ハミングさんは日本史選択なのですか・・。僕の学校は3年から社会どれか選択なのでいまは世界史・日本史両方受けてるんですよ。おかげでややこしい事この上なし!です。
話がそれました・・・。
燐はケイヤの保護者です。間違いなくそうです。
自分で書いておきながら、いまさら確信しました。
このコンビが一番上下関係はっきりしてるかもしれないですね。
もちろん、燐>ケイヤで(笑)
ケイヤの望む時代・・・どうでしょうか?
無事いけるといいですね(何ゆえ他人事!?)
それでは、コメントありがとうございました!
失礼を。