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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

70.sideユウト 夢[ロストタワー]

著 : 森羅

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これは、多分、あの広場に行く前の夢の続き。

聞けなかった、その答えがオレは知りたかった。

一体何が言いたいのか、それが聞きたかった。
そして声の主が一体誰なのか、も。
けれども、

どれだけ声を嗄(か)らそうと、声は届かず融け消えていく。

見えるのは遠景(えんけい)。
遠い景色。
そこがどこなのかさえオレは知らない。知るはずもない。

ただ、先の夢と同じように、泣いている声が聞こえた。

すすり泣きのような泣き声。押し殺したような小さな悲鳴。
聞こえるのはただ、それだけ。

静寂が包む静かな世界。

そこでやっとオレは気がつく。
泣いてるのは、夢の中の『オレ』だった。
何が悲しいのかはオレは知らない。

霞のかかったような夢の中、『オレ』は何かを繰り返す。
ひざを地面について、丁寧に、丁寧に。
涙を流す権利など存在しないかのように零れかけた雫を何度も何度も押し戻す。
それでも間に合わなくて、頬を伝った水滴は大地を濡らした。
小さく嗚咽が漏れた。

「・・・めんなさぃ・・・ごめっ・・・」

繰り返す言葉。それは懺悔?
それとも後悔?
オレの問いに答えるように『オレ』がつぶやく。

「これは、懺悔じゃない。ただの自己満足。ただの偽善。
馬鹿だ。本当に。赦(ゆる)しを請うたところで、罪が消えるわけじゃないのに」

それは、自分に言い聞かせるように。

大地に歪(いびつ)な円を描くのは真っ赤な色をした絵の具。
それは『オレ』の握り締めた拳から、滴るように零れ落ちていく。
開いた両手は思った以上に真紅に染まっていた。

「こんな両手で何が出来る?罪を犯したその手で。
洗っても洗っても、血の匂いを消すことができるはずがないじゃないか」

言い聞かせるように、すがる自分を突き放すように。
繰り返し繰り返し、自分に何かを刻み付けるように。
『オレ』は立ち上がった。

「これは、君達が生きた証。その証明。
お願いだから、もう二度と」

・・・・もう二度と?

「こんな悲しい時代に生まれてこないで欲しい」

『オレ』の目でオレは見た。
『オレ』が何を作っていたのか、を。

それは、塚にも似た土をかぶせただけの、

中身のない虚空の墓。

そこで目が覚めた。


光に慣れない目が何か黒いものをとらえる。
何か、やけに重たい。・・・・なんでだ?

《お目覚め〜?良い夢は見れた〜?》
「なっ!・・・なんで、お前!」

ズッシリとオレの上に乗っかっていたのは、ゲンガー。
オレが飛び起きたのも当然だろう。
昨日(もしくは今日)ポケモン広場で世にもおぞましい技を見せてくれたそいつだ。
ちなみに夜月たちはまだ寝ているらしい。
時計が指すのは9時半、久しぶりに良く寝た、・・気がする。

《聞いてるのはこっちよ〜?それと〜、おはよう、の一言ぐらい言ったらどう〜?》
「・・・おはよぅ・ござい、ます・・・」

なぜか敬語になるのは多分昨日見せていただいた影のせいだろう。
事実、影から何か出てるし。

《まったく〜、せっかく来てあげたんだから〜、はやく起きなさいよ〜》

誰も来てくれなんて言ってねぇよ。
オレはゲンガーに聞こえないように反論。
とりあえず、ゲンガーが動こうとしないので、仕方なくベットの上であぐらをかく。
にっこにっことした笑顔なのだろうが少し不気味な感じが消えないゲンガーが言う。

《昨日は〜楽しかったわ〜。“シャドークロー”も破ってくれるし〜?》

あれはやっぱり“シャドークロー”なのか。
それからもう一つ。
・・・・・・・オレは楽しくもなんともなかった。

《大丈夫〜。警察には〜、言ってないから〜。
メリッサ自身が〜、騒音で怒られてるけど〜。それは〜、自業自得よ〜》

それはなによりだ。助かった。

《それで〜、今日は〜》
「何だ」
《う〜う〜ん、別に〜たいした事じゃないんだけど〜。何者〜って思って〜》
「?」

主語を言ってくれないと、意味が通じないんだが。

《だから〜、アンタ〜、何者〜?》
「何って・・」
《人間じゃ〜ないでしょ〜?幽霊でもないでしょ〜?
生きてもいない死んでもいない、アンタはなぁ〜に〜?》
「それは」

言葉が続かない。
誰、と聞かれればわかる。
オレはオレだ。
だが、オレは一体『何』?

あの変な管理者も似たようなことを言っていた。

『死んでない、けど生きてるわけじゃにゃい』

舌をかんだ事までは思い出さなくても良かったんだが・・・。
シリアスが一時ぶち壊れる。
・・・とりあえずは、そんなことを言われたんだった。
追い討ちを掛けるようにゲンガーはニィ、と口を裂いて続ける。

《これは〜、人間が幽霊(ゴースト)と呼ぶモノだからわかるんだけど〜。
アンタね〜、存在が成り立ってないわ〜。
言うなれば〜『在り得無い(ありえない)』存在よ〜》

それは、ここがオレにとっては『死の世界』だから。
今のオレにとっての『生の世界』じゃねぇから。

そう思っているのに空中霧散する言葉。
「本当にそれだけなのか?」と言う疑問がオレにそれを言わせてはくれない。

《わからないの〜?まぁ〜そうかもね〜》

ゲンガーの言葉に我に返る。

《自分の事ほど良くわからないものなの〜。知っていると思い込むのは過信よ〜。
それならいいわ〜。帰るし〜。ヒマならまた遊びに来て頂〜戴〜》

言いたいことだけ言ってゲンガーは壁を抜けていく。
このままだと何か悪い気がした。

「昨日は悪かったな」

取ってつけたようなオレの言葉に、
ゲンガーは半分くらい壁にめり込んだ状態でこちらを振り向く。

《あれは〜当たり前でしょ〜?なんで謝るの〜?
アンタってやっぱり、おかし〜。アンタにそうさせる何かがあったのね〜。
じゃ〜、どういたしまして〜》

今度こそゲンガーが壁を抜けて消えていくのを半ば呆然とオレは見送った。


「いい加減、起きろ」

時刻は11時。
紅蓮とタッグで夜月を蹴り飛ばす。

くすー、という聞くだけなら可愛い寝息はかなり強く蹴っても揺るぐ事がない。
昨日の今日で疲れているのかもしれないが、それはお互い様だ。
つか、責任はこいつにあるはずなんだが。

「よーづーき?」
《・・・・うぅん・・》

駄目だ。寝ぼけてやがる。
飯で釣ろうにも、何も無い。

「仕方ねぇ。背負うか」
《・・・・手伝いますな》
「さんきゅ」

一人と一匹でため息一つ。
・・・・・はぁ・・。


その夜月がやっと起きたのが、209番道路のど真ん中あたり。
そのころにはオレと紅蓮はそれなりに疲れ始めていた。

《どーしたんだ?》

そう言って駆け回る夜月に殺意を覚えたのは言うまでもない。
やっぱり、夜月用にボールを作るべきか?
無駄だと思いつつもそう思わずにはいられなかった。

先へ先へと突っ走る夜月はとりあえず放っておいて、
オレと紅蓮はペースを崩さず歩く。
好き勝手ばらばらなペースで駆け回る夜月はどこかでバテて座り込んでいるはずだ。

案の定というべきか、
30分も歩けば道のど真ん中でへたり込んでいる夜月を見つけた。

《えー、追いついたのかー?せっかく最高時速出せたのにー。
休憩しよーぜ、きゅーけい!》
「それはお前が無茶苦茶に突っ込んでいったのが悪い」
《同感でありますな》

さっきからほとんど疲れていないオレたちは夜月の提案を無視する。
反論の余地がない夜月はえー、と言いつつも立ち上がってよろよろと紅蓮の後ろに付いた。
・・・・おいおい、大丈夫か。

ふらついて千鳥足になっている夜月は見ものだが、あまりに危なっかしい。
そのうち倒れるんじゃないだろうな。

《あのなー、何か塔みたいなのが立ってるのが見えたんだ》
「塔?」
《灰色のとーうー。あーもう駄目だー》

訳のわからんことを唐突に言い出す夜月。
しかも文が繋がっていない。相当ヤバい状態らしい。

《あれー、塔がいつの間にかこんな近くー?
なんでだ?あれ、俺、歩いたっけ?》
「よ・・づき・・?」

バタ、と夜月が視界から消える。
ぎょっ、と一瞬驚いて夜月が視界から消えたのは倒れたせいだと気がついた。
慌てて駆け寄ろうとすると、ふにゃあ〜、と言ってノックアウトしてしまう。

「・・・こいつ、おかしくねぇか?」
《同感ですな・・・》

・・・いや、まて。
さっきこいつ、最高時速がどうのとか言ってなかったか?
夜月は完全な短距離走向き。
歩いて30分かかる道のり、短距離気分で走ったとしたら?
・・・・・・・・・。

「・・・・こいつ、馬鹿だろ。完全に」
「・・・右に同じ、でありますな・・・」

本日二回目、ため息の大安売り。
・・・・はぁ・・・。

「よいしょ・・っと。・・・めんどくせぇなぁ」
《ですが、塔のことは本当のようですな》

夜月を背負っていると紅蓮がそう言ってくる。
あぁ、そういや言ってたな、そんなこと。
確かに少し行ったところに灰色の塔のような建物が見える。
何のためのものかは知らんが。


・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・いや、違う。
世界から、音が消える。静寂が世界を包む。
今朝の夢と同じように。

『知っている』んだオレは。
アレが何のための建物なのか。

・・・なんでだ・・・?

響くのは自問の言葉。
その答えはあまりに易しすぎた。

それは、ココが夢に出てきた、その場所だから。
もっと言えば、

あの場所は墓の存在(あ)る場所のはずだから。

・・・・・・・・・・・。
・・・・・・だが。
何で・・、オレ『が』、そんなことを『知っている』、ん、だ・・・?

行き当たった最後の質問に、オレは自分に愕然とする。
唐突に、自分が怖くなった。

『自分の事ほど良くわからないものなの〜。知っていると思うのは過信よ〜』

ゲンガーの言葉が頭の中に反芻(はんすう)する。
確かめなければ、わからないままだ。
混乱した頭が、なんとかその答えだけを搾り出す。

「紅蓮、夜月を頼む。頼むからここで待っていてくれ!
頼むな。頼むから待っていてくれ。
・・・・・必ず戻る!」
《ええ、え・・・?・・・え?》

紅蓮の答えを聞くことも無いまま夜月を放り投げ、塔に向かって駆け出した。

side紅蓮(ウィンディ)

・・・・・。
二つの選択、二つの道。

一つは言われたようにここで『待つ』こと。

もう一つは、『追いかける』こと。

どちらの選択も、選ぶ事ができる、自分。

『頼むな。頼むから待っていてくれ。
・・・必ず戻る!』

思い出される言葉。
それは信じても良いのか、捨てられたと見るべきか。

《・・・わからないでありますな・・》

どれだけ考えても、どちらも正しい気がして。
どれだけ考えても、どちらも選ぶ事ができない。

けれども、

《頼む、と言われたのでありますから、信じてみますかな》

小さくつぶやき、寝ている夜月殿を布団代わりに自分にもたれさせる。

どこか、つかみどころの無い人間。
我がここにいることで彼が戻ってくると言うのなら、


標(しるべ)となって差し上げますな、ユウト殿。

風が辺りの草を薙いで、駆け巡ってからどこかに消えた。









































































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2009.8.14  22:21:36    公開
2009.8.17  23:48:02    修正


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