生あるものの生きる世界
69.sideユウト 夜を駆る者[ナイトウォーカー]
著 : 森羅
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「・・・めんどくせ・・」
たった一言、空の上のジムリーダーに聞こえないようにつぶやく。
あーあ、適当に逃げられねぇかな・・。
・・・無理か。
戦闘狂の夜月は嬉々としてこの『イベント』を楽しむつもりらしいし、
紅蓮はとりあえずは戦闘体勢を取っている。
逃げれると思うんだけどなぁ・・。多分駄目だろう、夜月のせいで。
めんどくせーのに。
とりあえず立ち上がる。
向こうがいきなり攻撃を仕掛けてこないことを願いながら。
「紅蓮、夜月。森の中はいるぞ」
《なんで俺の名前が後なんだ!?》
「どうでもいいだろ!?」
細かい事を気にするヤツだ。
ぐちぐちと文句を言う夜月を引っ張って紅蓮と森の中に駆け込む。
《どうしますかな?》
《戦う!戦う!だってさ、だってさ、楽しーだろー!》
「頼むから夜月、黙ってくれ」
オレの希望としては、ポケモンセンターに戻りたい。
そして、寝たい。
だが、それを許さないのが夜月だ。
さてと、オレがここにいるのは直接民主制のせいだったな。
「このままヤツらを振り切って逃げるを希望するやつは?」
挙手者なし。
細かく言えば、オレが内心で手を上げた。
さらに細かく言えば、オレの中ではそれが支持者圧倒で通った。
「・・・んじゃ。戦うのを選択するのは?」
《はーい!俺!》
やっぱりか。
夜月が元気よく返事をする。
この時点で1対1。
「紅蓮は?」
《どちらとも言っていられないのでありますから、決まりでありますな》
「は?」
オレは紅蓮の言葉の意味を理解し損ねた。
『戦う』もしくは『逃げる』のどちらも言っていられない・・?
《選択肢がない、という意味でありますな》
「どう言う・・・・」
「逃げよーとしても無駄デース!」
意味だ、と言いかけたところで拡声器の声がかぶさってくる。
キーンという無駄に大きな金属音。耳が痛い。
次の瞬間にはヒュンヒュンと風を切る音だけが聞こえてくた。
そして、『何か』がオレたちのいるすぐ傍の木の枝を切り落としていく。
オレは紅蓮の言葉の意味を正確に理解した。
「・・・・容赦ねーな・・」
《次が来ますな》
《インターバルもねぇみたいだぜ。よかったな》
ここの木をそんなに好き勝手に切り倒していいのか?
疑問に思ったが、そんなことを言ってる場合じゃねぇか。
《“マジカルリーフ”だな。ほぼ必中だからなっ!覚えとけよ!》
「見えねぇし」
小さくぼやくが実際問題視界が悪すぎる。
空(うえ)からの狙い撃ちを避けたいがために森の中に入ったが、森の木々が月の光をさえぎるので最悪的に視界が悪い。
「必中って言ったよな。追いかけてくるってことか、あの技」
《せーかーい!》
その上、あちらは“マジカルリーフ”のような必中技が使えるらしい。
見えていようが見えていまいが同じって訳だ。
《ついでに、あちらはゴーストタイプでありますな。
夜目はよく効くはずですな》
うげ・・最悪だな。
勝てる確率が急降下していく。
この暗闇をどうにかできればなんとかなるかもしれないが。
ぬるり、ズルッ・・・ズルズルズル・・。
《ぎゃあーー!なっ、なっ、なっ・・!》
「どうした・・・・。・・・げ・・」
夜月の声に我に返って、オレは言葉を失った。
・・・ホラーか、これは。
ひじの辺りから地面から生えている、影の『腕』。
真っ黒な腕が軟体動物のごとくうごめいているのはあまり気持ちの良い光景ではない。
つーか、はっきり言って、怖い。
本来手のひらであるはずの部分が爪のようで、一体何本あるのか数もわからない。
「“シャドー、クロー”?」
知っている技で唯一当てはまりそうなのはそれだが、この前見たものとあまりに違う。
《“シャドークロー”!?“シャドークロー”と呼んでいいのか!?これは!!?
・・・うぎゃーー!なんか襲ってきたぞ!!》
オレがまさに言いたいことを見事、夜月が代弁してくれた。
その間にも黒い爪は降るように襲い掛かってくる。
ゴオォ。
「いッ!?」
《広場が燃えても、非常事態でありますな》
紅蓮の火によって照らされた影の爪はその光を嫌うように一時退(しりぞ)いた。
それでも紅蓮の火の光は継続的なものではない。
ほぅ、と紅蓮が火を切らせたとたんに影はまた勢力を取り戻して襲ってくる。
オレたちは、・・・・とりあえず逃げに徹することにした。
「なんか照らしたりする技ってなかったか?」
秘伝だったか、そんな技で洞窟とかを照らす技があったはずだが。
走りながら思い出した曖昧な記憶だが、確かなはずだ。
《“フラッシュ”な。持ってたらいいな。誰かが》
「持ってないってことか」
さて、どうしたもんだか。
人事のように言っているが人事じゃねぇ。
これでもかなりあせっている。
《二手に分かれたほうが良いと思いますな。敵は、一匹ではないようですからな》
「何匹いる?」
走っているのでかなり口早になるが、紅蓮にはちゃんと聞こえたようだ。
《3匹くらいですな。ですがゴーストは匂いが少ないので、わかりかねますな》
「あの風船みたいなのもあわせて、か?」
《それを入れれば、4匹ですな》
あ、やっぱあれもポケモンなんだな。
気球か何かかとも思ったんだが。
《つまり、浮いてるヤツ。さっきの“マジカルリーフ”のヤツ。
それからあのグロテスクな影の爪のヤツともう一匹ってことか》
追いかけてくる影の爪(想定、“シャドークロー”)がよほど恐ろしかったらしい。
夜月はブルブル、と後ろを振り返って身震いした。
「まるで生き残り戦(サバイバル)だな。これじゃ」
《無事生き残れる事を祈っといてくれよ、ユウト。それか、アレを消してくれ!》
「お前なら死なねぇよ、多分。後のほうは、無理」
そう言っている間にも走っているすぐ隣の木の影から爪のある腕が生える。
特に意味もなく、ぐにゃぐにゃとその腕がよじれた。
まるで亡霊。それなりに気味が悪い。
そんなことを思ったら、真下から生えた爪が切り裂きにかかってくる。
間一髪で避けると、存在意味がなくなったかのように元の影に融けて消えた。
オレは確信を持って言う。
「一番厄介なのがこの影使いだ。影なんか倒しても倒してもすぐ生える。
・・・ついでに言うと夜月の精神ダメージが大きい」
半分瀕死に近い夜月はすでにオレの肩まで駆け上って爪を立てている。
・・・そんなに怖いか。オレはお前の爪のが怖いんだが。
《目の前から、4匹目のお出ましのようですな》
「うっわ、最悪だな」
後ろから、爪。
前からは、何が来る?
ピキピキピキキキピキキ・・・。
「・・・氷?」
《そのようでありますな》
ゴーストタイプじゃなかったか?
オレの素朴な疑問は完全に無視されて、足元の草や周りの木々が急速に凍っていく。
足まで一緒に凍らされると、マズい。
「紅蓮、頼む」
《承知ですな》
ゴゴォ、と紅蓮が吐いた息が氷を溶かす。
その熱が影の爪を退け、氷を無効化かさせた。
・・・・・?
・・・・・・・・・・。
オレたちは立ち止まった。
追いついてきた影の爪が囲むようにゆらりとうごめく。
ムウマの変種のようなポケモンと白い着物を着たようなポケモンが初めて姿を見せた。
残念ながら、見たことがない。
《あの氷タイプは我がしましょうかな?
その状態の夜月殿がどれほど役に立つかが不安ですがな》
《うるせー!あんなうぞうぞしたもん大嫌いだぁーー!!》
夜月の爪がさらに食い込む。正直痛い。
「あの影は、少なく出来れば夜月は復活するよな?」
《どうにかできるか!?》
「暗いからいけねぇんだ。明るかったら、影の範囲は格段に少なくなる。
視界も広がる」
《森を全て燃やせば、明るくなるかもしれませんな》
怖いこと言うなよ・・・。それに、それをしたらさすがに街中にバレるぞ。
まだ、確信はないんだが。
そんなことしなくても済むかもしれない。
「紅蓮。ものは相談なんだが」
《なんでしょうかな?》
ヒュン、と襲ってきた葉を紅蓮が燃やす。
“マジカルリーフ”は、ムウマの変種。
「お前の技で、照らせねぇか?ほら、なんつったけ・・・」
“ふぶき”らしき技が辺りを凍らせる。
氷タイプはあの白いやつ。
《・・・・?・・・・・・・あぁ。納得ですな》
わかってもらえたらしい。
きょとんとしていた紅蓮が獰猛な笑みを浮かべる。
「じゃ、さっそく頼むな。・・・おい、夜月。復活しろ」
《うー。うぞうぞしてるじゃねーかー》
上手く行ってくれよ。
行かなかったら、・・・・考えない事にしよう。
「紅蓮、“にほんばれ”」
《いいですな》
「・・・・うわっ」
唐突に、すさまじい熱量によって人工的に作り出された光。
その光が闇に慣れてしまった目を焼く。
影の範囲が急速に減り、その分影の爪が姿を消す。
「な、なんですカー?」
久しぶりに聞こえたジムリーダーの声。
“にほんばれ”の効果はそのフィールドの範囲だけ。
その他は夜のままだ。
「反撃開始。夜月、動けるだろ」
《わー!よかったー!!うぞうぞが消えた!まかせろっ!動けるぞ》
「頼んだ」
目が見えれば、こっちのもの。
悪タイプである夜月はもともと相性がいい。
“にほんばれ”の効果で紅蓮の炎も攻撃力が上がる。
上手く行って、本当に良かった。
そして、本当にあっ、という間に氷のやつとムウマの変種を倒してしまった。
突然の光で向こうの目がつぶれていたというのもあるだろうが。
ラスト、一匹。一番厄介な影使いのポケモン。
「ゲンガー!“シャドーパンチ”!」
さすがに無指示じゃ無理だと思ったのか指示がでる。
今度はパンチか。
こいつだけは姿が見えない。
闇を絞ったような黒の拳が紅蓮の影から出てきて紅蓮を襲う。
紅蓮がそれをモロに食らって倒れこんだ。
「影は消えたが、足元に影を生んじまったな。へたしたら自分の影にやられる」
《最悪だな、ユウト》
「オレのせいか・・・」
紅蓮をボールに戻して、影を減らす。
パキパキパキ、と関節を鳴らすような音がどこかもしれず聞こえてきた。
「影の中にいる・・?」
《かもな》
めんどくさい。
とりあえず、自分以外の影が届かない光の範囲に逃げる。
夜月は肩に乗っけた。
これなら、気をつければいいのはこの影だけだ。
この影から攻撃してこないなら、出てくるしかない。
《ふわ〜、面白くないねぇ〜》
「・・・・出てきたな」
初めて聞こえた声。
間違いなくこのゲンガーのもの。
《あら〜、聞こえてるの〜?めずらしい〜》
「・・・そりゃどうも」
たるそうな女の声。
夜月は怒りに燃えている。
・・・だから、爪が痛いんだが。
《めんどくさいから〜、一発勝負で決めましょ〜?》
《絶対倒す!ぜってー、殺す!》
・・・夜月、よっぽど怖かったんだな、お前。
声が半泣きだぞ?
《じゃ〜、はじめ〜》
《いきなりっ!?》
声はゆっくりだが攻撃スピードはそれに比例していないらしい。
はじめ、と言った瞬間には夜月の影からあの爪が出ていた。
《逃がすか!》
決死でそれを避けた夜月が特攻を開始する。
途中まで突っ込んだと思ったら、“かげぶんしん”で背後を取った。
勝った、と思った。
が、
《やる〜》
ゲンガーも“かげぶんしん”をしていたらしい。
夜月の攻撃が空を切る。
そのさらに背後を今度はゲンガーが。
だが、そのゲンガーの攻撃も空を切った。
《逃がすか、って言っただろ》
《・・残念ね〜》
《“だましうち”》
一体何匹になっていたのか、あの夜月も分身だったらしい。
人間の動体視力じゃ到底追いつかない。
ドサッ、と言う音と倒れたゲンガー。
いつの間にか本物の夜明けが近いのか、辺りが少し白っぽい。
「オレの事、言わないでください!」
とりあえず、聞こえたかどうかは置いておいて、空(うえ)に向かって声を上げた。
紅蓮をボールから出して、乗せてもらう。
「帰るぞ」
《はーい!》
《同感でありますな》
あぁ、オレの睡眠・・・。
帰ってから意地でも寝るぞ。
それから目が覚めたら、夜月をぶん殴る。
・・・・とんだ散歩になったもんだ。
そんなことを思いながら、すっかり冷めたであろう布団を想った。
2009.8.9 17:52:08 公開
2009.8.13 23:28:51 修正
■ コメント (2)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
09.8.15 16:27 - 森羅 (tokeisou) |
こんばんはです、森羅様。 とりあえず表紙絵のゆーと君に大いに萌えさせて頂きました(ヤメレ うっはー、絵で見ると更に素敵ですね!普段の掴み所の無さがかなり出てる感じが(うるさいZE☆ ゆーと万歳!森羅様万歳!常磐様万歳!(宗教? さて、本編では夜月が全く自重していないようで…いいぞもっとやれ(死 「池に落ちた!」「あっそ」にツボりました(あっそ そんでメリッサさん何やってんですか^ ^; お化け嫌いの夜月かわええ(kdい 闇には光で対抗。とりあえずはゆーと達の作戦勝ちですね。また改めてジム戦する事になるのかな? ケイヤ君の因縁(?)の土地ですが、特に目立った関連性は見られませんでしたね。今後の動きに期待しますです^ ^b ではでは、乱文失礼しましたっ! 09.8.15 00:27 - 不明(削除済) (lvskira) |
表紙、素晴らしいですよねぇ。常磐さん万歳!
ゆーとにはもったいないから僕がもらいま(消えろ)
夜月、自重してないですね。浮かれきってます(多分)
「池に落ちた!」「あっそ」はいつもの2人が目に浮かぶようです。多分いっつもこんな感じ(なんというやる気のない主人公・・)メリッサさんはこうじゃなきゃメリッサじゃないですよ!(勝手な思い込みもいいところ)
お化けのネタはアヤでやったなぁ、と思いつつです。
多分、アヤ・スピカ/ゆーと・夜月/ケイ・燐それぞれのコンビでそれぞれお化け屋敷に行くと一番反応薄いのがゆーとでしょうねー。そして一番おどかしがいがあるのがアヤ(笑)
“にほんばれ”はそのネタを書いた時点で僕が力尽きました。だから後のほう色々考えていたもの全部パスして、一瞬でバトル終わっちまった・・。もっと丁寧に書ければよかったのですが・・、眠気は何物にも勝ったのです!(いばるな)ジム戦、改めてすることは多分ないですね(ぶっちゃけた!)ゆーとが「別に良いんじゃね?」と脳内で言ったので(ユウト「人に罪を着せんな」)
もし、するとしても今度はダイヤ・パールでのメリッサ戦あたりまではパスです。その頃に出来たらしたいです。話の筋にもよりますが・・。
ケイヤの因縁・・おぉ!!ちゃんと覚えていただいていましたか!!ありがとうございます!それは次回辺りででて(ネタバレ禁止&強制終了)
ポケメまだ返せなくてすみませんm(−−)m
8月中には返せると思いますので、気長にお願いしますm(−−)m
それでは、失礼を。