生あるものの生きる世界
62.sideケイヤ 水葬の土地[イクサバ]
著 : 森羅
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「う・・・・嘘でしょ・・・?」
《いいえ。真実です》
夢だよね?
幻だよね?
こんなこと、ありえないよね?
そんな含みを持った言葉は燐の一言で両断される。
燐はぼくに現実逃避を許してはくれない。
「だって!こんなこと・・・!」
《事実です。夢でも幻でもありません。貴方は選んだ。
その責任は自分自身で負うということもわかっていましたよね?》
ぼくは何かを言いかけて、・・・口を閉ざした。
燐の言っている事はまさしく正論。
ぼくが選んだ、その結果。
ぼくは自分でその責任を負うと、決めたはずなんだから。
「・・・わかってるよ。わかったよ。
これは夢でもなんでもなくて現実。
・・・・ぼくらは『過去』に来ちゃったってことだよね」
《そうですね。過去のシンオウ地方です。ほぼ、確実に》
バサバサ、とぼくの声とほぼ同時にムックルらしい鳥ポケモンが木から飛び立つ。
燐の話によると、燐の時代、つまりぼくらの時代は戦争はやっていない。
窓から覗いた景色、人々の着ている服装、乾いた土の砦。
それらの全てから考えるに間違いなく、ここはぼくにとっての『過去』。
どこかで鬨(とき)の声が上がっているのが聞こえた。
「さてと、・・ここにいても仕方がないよね。行こう。
あの声の通りだというなら、真実の欠片があるはずだし」
それがどんなものなのかぼくは知らない。
それでも、何かがあるハズ。
世界の真実を知るためのパズルのピースが。
燐が答える。
《そうですね。ですが、どこに?》
「・・・・・さぁ?」
燐の質問にぼくは首を傾げるしかない。
ただ、ここにいたら危ない気がする。
ぼくらはここの砦の人にとって部外者。
血気盛んな兵士さんたちはぼくを見れば襲い掛かってくるんじゃないかな?
そんな事を考えている間にトントントンとこの部屋に近づいてくる足音が。
まずい・・。
ぼくの頬にいやな汗が伝う。
燐が口早にそして少し切羽詰ってぼくに言った。
《逃げますよ。つかまって下さい》
「え?えぇ・・・」
わけもわからないまま、ぼくは燐の首元にしがみつく。
スゥ、と燐は深呼吸をして、
「燐、それ・・・・!」
ごおおおぉぉおおおおぉぉ・・。
ぼくは自分がひきつった笑いを漏らしていることに気がついた。
乾いた土壁は燐の火にもろく崩れ去る。
む、無茶苦茶だぁ・・・。
でも、それからがもっとすごかった。
燐は躊躇なくその穴から飛び出す。
え、ちょっとーーーーっ!!
ぼくの絶叫は声にならなかった。
だって、さっき窓から覗いたらけっこうここ、高かったんだよ?
ぼくは自分の体が宙に浮くのがわかった。
体が自由落下を開始する。
胃がひっくり返るような浮遊感。
そのうち地面にダン、と着地。
軽く足をまげて着地の衝撃を減らす燐。
すごっ・・・・。
何はともあれ助かった。
ほぅ、と一息つこうと思ったら、
《しっかりつかまっていてください。
できるだけ離れます。・・・振り落とされても知りませんよ?》
はい?、とぼくに発言のチャンスを燐はくれずに弾丸のように飛び出す。
じょーだんーーー!!!
とりあえず振り落とされると困るので死んでも放さないくらいに強くしがみつく。
ヒューヒューと風を切る音がぼくの聴覚を支配する。
《・・嫌なにおいです。これは鉄と血・・・》
燐のつぶやきがぼくの耳に聞こえてきた。
鉄と血・・?
それは何?そう聞こうと思っても風圧で口を開けることすらままならない。
長い間、走っていた気がする。
燐はようやく歩みを止める。
ぼくは呼吸困難に陥りかけていた。
《大丈夫ですか?》
いつもと変わらない燐の声。
息一つ乱れていない。
「な・・んとか、ね・・・」
ぼくは深呼吸を繰り返しながら答える。
走っていたわけでもないのにキツかったです、本当に。
なぜか敬語になってしまうぼく。
「そういえば、川があったよね?
水、飲みたいなぁ・・・」
燐が走っている間に一応流れていくような景色を見ていた。
確かに川があったはずだ。
《やめた方が言いと思いますが》
「どうして?」
《理由は2つです。
一つは川に行くのに戦場の真っ只中を通る事になるということ。
もう一つは、・・・覚えていますか?
昔話の一つを》
「・・・・・ぁ」
思い出した。
『川で取ったポケモンを食べた後、綺麗に骨を洗って川に流す。
すると、そのポケモンは再び肉体をつけて戻ってくるのだ』
そんな昔話があった。
その通りだというのなら、シンオウ地方には水葬の風習があったということになる。
骨が浮かぶ川の水。
・・・あんまり飲みたくない・・・・。
仕方なくぼくらはゆっくりとどこに行くでもなく進む。
ぼくは、燐が走っている間につぶやいた言葉の意味がわかって来た。
血の匂い。鉄くさい血の匂い。
戦場は遠いはずなのにはっきりとその匂いが鼻を刺した。
たくさんの悲しみ。
それから狂気の狂喜。
鬨の声。悲鳴。ほえる様な絶叫。
断末魔。
聞こえたわけじゃない。
けれど、確かに感じた。
ガサッ。
好き勝手に生え茂った木々の垂れ下がった枝を無造作にどける。
人がしゃがんで何かをしていた。
「あ・・・」
マズい。こんな所に人がいるなんて。
その人はいやにゆっくりと振り返る。
その一瞬後。
その人は人とは思えないようなすばやい動きでいつの間にかぼくの目の前。
銀色の軌跡がやっと見えた。
ごおおおお!
燐の反応は速く、ぼくとその人の間合いに滑り込んで炎を吐く。
その炎はその人が持っていた銀色のものをその人の手から弾き飛ばした。
くるくると弧を描いて地面に突き刺さる、それ。
剣だった。
「・・・ケイ!・・え?・・子供・・?」
驚いたような、静かなハスキーボイス。
かすれた声は風邪なんじゃないかと思ってしまう。
そして、ぼくも思わず言ってしまった。
なんでぼくの名前を知っているのか、という事よりも。
まったくありえない名前を、つぶやくように言ってしまった。
「ゆーと?」
まったく違うとわかっていたのに。
頭が考えるよりも速く、そう言ってしまった。
2009.7.19 17:48:11 公開
2009.7.19 18:30:01 修正
■ コメント (8)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
09.7.23 19:22 - 森羅 (tokeisou) |
コメントありがとうございます!!篝さん!!! ケイヤと燐のコンビは書いていて最高に楽しいです。 (もちろんゆーと×夜月・アヤ×スピカのコンビもですが) また雨ですよ。僕自身が雨の日が好きなので・・・(え?) おぉ!穴の中で聞こえた声、覚えていてもらえましたか!素晴らしいです!!あれは伏線ですね。(ぶっちゃけた!)なんとなく覚えていていただければいいと思いますよー。 時間が変わっていますね。その時代にそれなりに理由があるから行っている、という事にしておいてください。 生の世界と死の世界の年表、一応日本史の教科書引っ張り出して書いたのですが、ポケモンがいる分ズレが出ますね。なんとなく一緒、くらいです。 “ゆーと”の登場は、どうでしょう?(聞くなって) 『子供?』と言っているので・・(強制終了!) 自分自身でも飽和状態です。整理せねば支離滅裂になってしまう・・・!(おいおいオイ!) 夏休みについてですが、あんまり更新ペースは振るわないと思います。一応受験生なもので・・。塾と部活とその他宿題や勉強などで板ばさみ状態です。(親に殺される・・・!!!)何とか時間を見つけて書くようにします。未完、という状態が続く事もあると思いますがご了承を願います。 それでは失礼を。 09.7.23 19:13 - 森羅 (tokeisou) |
コメントの返信が遅れてしまい申し訳ありません。 コメントありがとうございます!!45さん!! はい、ケイヤサイドです。 過去のシンオウ地方で間違いはありません。 戦争は怖いですよね・・。そして、戦争の中にいると怖い、という思いが消えていくのがさらに怖いです。 まぁ、ケイヤにはお守り役の燐がいますからね。大丈夫でしょう。 “ゆーと”の登場です。ケイヤが『違うとわかっていたのに』と言っていたので違うっぽいですけど。さて、どうでしょう?(聞くな) え、・・そうですか・・・。ありがとうございます! 登場人物が少ないのはどうしても自分で処理しきれないからなのですが。機会があれば沢山登場人物が出てくるやつを書きたいですね。 コメント遅れてしまい本当に申し訳ありませんでした。 それでは失礼を。 09.7.23 18:59 - 森羅 (tokeisou) |
すみません!本当にすみません!!旅行に行っておりました。コメントを遅れたことを深くお詫びいたします。 時間順となりますが、コメントありがとうございます! ハミングさん!! 本当にケイヤくん久しぶりです。存在忘れるくらい久しぶりです(オイ!) “向こうからのアクション”・・・確かに早かったですね・・(自覚なし)もうちょっとマシな送還方法は、なかったんじゃないでしょうかねぇ〜(投げやり) 過去の戦争中の世界。もちろんただ単にやってみたかったから、という理由ではございません(当然ですよね・・ハハハ・・・) ケイヤは知らなければいけないことがあるんですよ。ケイヤをブラックホールにぶち込んだ声が言っていましたよね。『真実を知ってもらう。その苦しみこそ望みの代償。“約束”を思い出せ』って。 飛ばされた時代、時期、場所が全然違うのもそれなりに訳があります。ネタバレになるのでこれ以上は・・。 “ゆーと”の登場、これがこの話のキーワードの一つです。ですが、ゆーとは現実問題“現在”の生の世界にいるわけですから、yd(強制終了) 書いた本人も時々整理しないと脳みそ破裂します(汗) なんつうややこしい話を考えたんだ、俺は・・って泣きたくなります。マジです。 夏休みの課題・・多すぎなんだよ!! 忙しいんだよ!学生は!!宿題なんかできるかぁあぁ! ・・・失礼しました。 それでは、暴走してしまい申し訳ありませんでした。 コメントありがとうございました、失礼を。 09.7.23 18:49 - 森羅 (tokeisou) |
どうも、お久しぶりです。 今度はケイヤ君は過去へですか。 さりげなく、ケイヤ君たちはミオの図書館の文献を全肯定してますよね。 個人的には私も肯定したいですけど、あれらすべてを鵜呑みにするとどうもやはり矛盾がいくつかでるんですよねぇ。 まぁそれはそれ、これはこれ。 シンオウ地方に鉄の匂いがしたということは、どうやら有史以降の時代ではあるようですね。 まぁ、危険なのは時間跳躍の類には付き物。 まぁ、今回はなんらかの作為あって、ケイト君たちは過去に飛ばされたのでしょうが、とりあえずケイト編が始まるのなら、なんとも期待大ですね! では、これからもがんばってください! 09.7.22 15:08 - 不明(削除済) (fantasic) |
こんばんはですー、森羅様。 ケイヤ&燐の出番ですね!このコンビは意気投合できていて読んでとても面白いですっ!^^d さて、また雨の日に事件がッ(何それ 黒い穴に急に吸い込まれたときの途中で聞こえた男性の声…一体何なんでしょう? そして行き着いた先は過去のシンオウ地方。移動するときは時間も変わってしまうんですね…。 それにしても、やはり戦争はどの世界にもつきものなんですよね((ぇ 昔はやっぱり荒れてたんだなあ…生の世界と死の世界の年表がそっくりで驚きました; で、砦から出たら今度はゆーと登場!?でもアレですよね、時間が過去になっているんで直接会うことは無いはずじゃあ…。 やばい脳味噌が破壊されてr(マテマテ でも呼ぶときに「子供?」と言ってるのでやはり別人?? あれ、全く脳の機能が停止しました(( そういえば森羅様は更新ペースが異常に高速なんで、夏休み中にかなり進むんでしょうかね? やばいです楽しみにしてまっす♪ 次回に期待して頑張ってくださいです! ではでは、乱文失礼しましたっ。 09.7.19 22:44 - 不明(削除済) (Vlack) |
ケイト側に突入しましたね〜ドキドキの展開ですねw ……いきなりの穴への突入と、思い切っていますねww で、送られた世界は、『血と鉄の匂い漂うに戦場』――過去のシンオウ地方で、あっているでしょうか? 本当に……ケイヤ生き抜いてくださいよ〜戦争は怖いですから〜。 あれ? 砦から出た先の……目の前に現れたのは……ゆーと? 『・・・ケイ!・・え?・・子供・・?』と言っている事から、年上ゆーと? ん?ん? ドキドキの展開来ましたね^^!! 森羅さんは、コチラでは登場人物の多さを褒めてくれましたが、森羅さんは、登場人物を確りと動かせていていいですよ^^ 自分だと……多過ぎて処理できない事もただありますので……^^; そこが、森羅さんの作品の良い所ですよーー^^b 今回も面白展開でしたよ。次回を期待してコチラも待っています。 大変少ない感想ですが、失礼します^^; 09.7.19 19:11 - 不明(削除済) (45syost) |
こんばんはです、森羅様。 おおぅ、ケイヤサイドラッシュ突入ですか!あの脱力感懐かしいです(( …で、唐突に黒い穴から燐の世界に強制送還…ええっ!?← 意外と早かった「向こうからのアクション」とケイヤ達のリアクションに不覚にも吹いてしまいました^ ^; 首謀者さん、もうちょいマシな送還方法は無かったのかい(何 それでやって来た世界は戦争中の過去の世界ですか…一体誰がどんな目的でこんな事をしているのでしょうか。ただの愉快犯である筈は無いと思いますが… パラレルワールドに飛ばされる事は、何らかの役目を果たす事であると何かで聞いた事がありますが、ケイヤが何をしなければならないか全く想像がつきません。飛ばされた時代も位置もバラバラですし、ゆーとと違って普通に生きているのに…ぬむむ。 さて、砦から脱出後のケイヤと燐の前に現れた人は。 んん?まさかのゆーと登場…??あれ、段々頭がパーンしそうになってきたぞ(落ち着け 展開に追いつけるよう努力しつつ、全力で夏休み課題を終わらせますです(ゑ …文系なんだから現文と古文さえ出来れば良いじゃないか!数学とかマジで(ry ではでは、乱文失礼しましたっ!続き超期待して待ってますです♪ 09.7.19 18:43 - 不明(削除済) (lvskira) |
コメントありがとうございます!!!KaZuKiさん!!
お久しぶりです。
おぉ!鋭いですね!!ミオ図書館の文献内容の話が出てまいりましたか!!
ぼくも全肯定したいのですが、確かに難しいです。
わけのわからないものもありますし。なので取捨選択での肯定となりますね。あと『契約者』などオリジナルの話でのカバーもありますしね。
鉄の匂い、そうですね。シンオウ地方の有史以降の時代です。ネタバレとなるのでこれ以上は!!
ケイヤサイドは一つの真実を見つけるためのものです。
何かが見つかる筈ですよ
それでは、しつれいを