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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

55.sideユウト×アヤ 小細工[コザイク]

著 : 森羅

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さてと、どうしたもんだか・・。

選手交代と言っては見たものの、だ。
初めてのポケモン。
どんな技を持っていて、どんなポケモンに強くて、
何タイプで、どういう攻撃方法が得意か、
そういう情報がまったくない。
おまけに、

「あいつは何だよ・・?」

目の前に居るスカンクのようなポケモンにオレは見覚えがない。
この地方特有のポケモンなんだろうが、何タイプだ?こいつ。
だいたいオレはそこまで熱心にゲームをしていない。
ルビーまでは確かにしたが、もう4年は経ってるな、記憶も薄れるつーの。

「スカタンク。悪・毒タイプよ。唯一効果を与えられるのは地面技」

・・・うげ。
アヤの説明は良くわかった。
こいつらはどう見ても“地面”技なんか持ってねぇだろう。
紅蓮なら使える技もあるが、

この勝負は『スピカたち(こいつら)で勝たないといけねぇ』し・・。

ややこしいな。
ゲームならとりあえず攻撃技でねじ伏せれるが、どう考えても今は向こうの方がレベルも戦術も上。
小細工を考えないと、勝機はなさそうだ。
・・そう言うのはケイの独壇場だったんだがな。
・・・おお、忘れる所だった。これだけは聞いとかねぇと。
オレは目をこすってからスカタンクと呼ばれたスカンクを見て言う。

「最初に聞いとく。
・・・お前はいいんだな?」
「何が、かしら?」

聞き返してくる女性。
だが、オレはお前には聞いてない。
スカタンクの答えは実にシンプルだった。

《ヒャヒャヒャー!馬鹿か?てめぇはよぉ》
「・・・りょーかい。遠慮なしってヤツだ」

狂ったような甲高い耳障りな声のスカタンク。
オレは嫌悪感をあらわにした。

「始めましょうか?改めて自己紹介。
ワタクシはジュピター。マーズと同じ幹部の一人」

・・・・まだ始めて欲しくねぇなぁ。
だが、どうやらそれは許されないようだ。
オレはボールを放り投げる。
選ぶのは、濃紺の翼を持つポケモン。
オオスバメ。

「シリウス」
《・・・・・む?》

アヤと違う人間にボールから出されたらそりゃ驚くだろう。
だが、協力してもらわなければならない。
オレはもう一度目をこする。
・・・なんだ?見にくい・・・・?

「悪いが、手伝ってくれ」
《・・・なぜ?》

容赦のないシリウスの言葉。
淡々と言っているのが怒って聞こえる。

「アヤを助けたいんだろ?
今、アヤ本人に指示出すのは無理だ」
《・・・・だからと言ってなぜ従わねばならない?》
「従えとは言ってない。手伝ってくれと言ってんだ」
《・・・・意味は同じだ》

むぅ。
理屈っぽいと言うよりアヤに対して絶対なんだろう、これは。

「“きあいだめ”から“き・り・さ・く”」
「・・ッ左だ!」
《むッ!?》

オレたちの話し合いに痺れを切らしたのか、向こうが攻撃を仕掛けてくる。
オレの声に反応してかシリウスは綺麗な旋回で避けてくれた。

「オレはさっさと帰りたい。アヤは今まともな判断はできない。
あと・・・・・・と言うわけだ。利害の一致ってことでいいか?」

にっ、とシリウスに向かって笑うオレ。
これを言って協力してもらえないならオレは夜月たちに頼るしかない。
『切り札』は切った、さて、どうなることか。
しばしの沈黙。

《・・・よかろう》

おしっ!交渉成立。
次は作戦立案と行くか。
まず、はじめに、

「お前、何が使える?」
《・・・大丈夫か?・・》

かなりあきれられた気がする。
・・・仕方がないだろ?

ボソボソと技と効果について言い合う(言い争う)オレとシリウス。
だが、向こうはオレたちのことなんか待ってくれない。

「初めて扱うポケモンをどこまで上手く扱えるのかしらね?
スカタンク、“シャドークロー”!」
「さっきの爪か!!右だ、シリウス!」

シリウスは指示通り右に避けて、

「馬鹿ね」

影の爪が伸びた。
その爪はシリウスをかすっていく。
・・・・・影に実体はないって訳かよ。すげー技。

「大丈夫か?」
《む》

遠距離からの攻撃は諦めた方がよさそうだ。
あの爪、やっかいだな・・。

レベルが違う。シリウスは結構強いが小細工ができるポケモンじゃない。
どう考えても真っ向勝負型のポケモンだ。
逆に向こうは小細工型だろう。相性は、最悪。
スピカを出すと言うのも考えたが、ゴーストじゃ悪は倒せなかったよな・・。
もう一匹のレグルスとやらはすでに『ひんし』、大目に見てぎりぎり一発。
どうしたもんだか。
さっきから、ちょっとずつ撒かれているのも気になるしな・・。

「シリウス、接近戦だ。”こうそくいどう”で“つばめがえし”。
・・・はずすなよ」
「近づけさせないで!“かえんほうしゃ”!」

向こうの声よりも速くシリウスが行動にうつす。
まさに一瞬。オレには軌跡しか見えなかった。
次に見たときシリウスはやっぱりと言うか攻撃をはずしていた。

つか、向こうはそんな技まで使えんのか!?
悪・毒タイプだろ!?なめんな!
そして、

《む?》
「・・・“えんまく”か、これ?小細工すんなよ・・」

技名はほとんど勘だ。つか、覚えている技で命中率を下げるのはそれだけだ。
だが、どうやら当たりのようだった。
ジュピターが拍手をくれる。

「素敵。どうしてわかったの?」
「・・・なんとなく」
「馬鹿にしないでほしいわ」

顔は笑っているが目が笑ってない。
アヤ本人に対しての“シャドークロー”も考慮に入れて考えると、
ジュピターは完全に戦い慣れをしている。

『人やポケモンたちを殺す』ような。
そんな戦いに。
オレは吐き気を覚えた。

そんな事を考えている間、向こうは動かずこちらを見ている。
オレが話すのを待っているように。
オレは否応なしに答えなければならない。

「人間の『暗順応』を利用したんだろ?
ときどき目の焦点が合わなかった。後は勘」

暗順応は目が「暗い」という状態に慣れること。
もし、少しずつ薄い“えんまく”が撒かれていたら、
それにあわせて目は勝手に修正を行ってしまう。
もともとあんまり明るくない部屋だしな。
つまりこいつは、トレーナー(オレたち)に気が付かれないように視力を奪って行っていたんだ。オレがシリウスを出す、その前から。
それにしても、
一生使う事はないだろうと思っていた生物の授業が役に立つとは・・。
案外馬鹿にできないな、学校。

「ってことはレグルスはッ!?」
「その通りよ。お嬢さん」

アヤの叫びににっこりとジュピターが微笑む。
その顔を見たアヤは唇をかみ締めて、一言を搾り出す。

「卑怯者・・」
「それが戦略、それが戦い。
ワタクシは平和ボケして、正義の味方を気取っているお嬢さんとは違いますもの。
さてと、ネタもバレてしまったし、このままぐだぐだ戦うのもつまらないわ。
・・・・・・・・終わりにしましょう」

ジュピターの顔に浮かぶ笑みが表すのは紛れもなく喜び。
それに呼応するかのようにスカタンクが狂喜の声を上げた。
そろそろ本気でマズい。

「シリウスッ!」

オレは手早く指示を出す。
イチかバチか。
クロガネ炭鉱の時と同じロシアンルーレット。
だが、当たってもらわなければあるのは死だ。

シリウスはオレの指示に一瞬抵抗しかけて、
無言で滑空を始める。
ポケモンってどれだけ速いんだろうな。
低空飛行、床ぎりぎりをすさまじい速度で飛んでいく。

「自殺志望かしら?スカタンク、“かえんほうしゃ”」

・・・・・指示を、間違えたな。
“シャドークロー”だったらオレの『作戦』は上手く行かなかったかもしれない。
“かえんほうしゃ”はどれだけ威力が高かろうと直進コース、その範囲だけだ。
あの爪のように変則的な動きはない。
シリウスのスピードなら、避けるのは容易。

オレの予想通りひらりとシリウスは“かえんほうしゃ”をかわす。
シリウスのスピードはさらに増していく。
“かえんほうしゃ”が途切れた所でシリウスはスカタンクの懐に突っ込んで、

「“かえんほうしゃ”!!」
「ッ上昇!」

ジュピターのあせった声はこの戦い中初めて聞いた。
それとほぼ同時にオレのシリウスへの指示。

“かえんほうしゃ”を寸前のところで上昇してかわし、狙うのは、

ザンッ!

一秒、異常に長く感じられる一秒の沈黙。
それは、永遠にも感じられた。

「・・・・どういうマネかしら・・・?」

さっきの慌て具合はどこへやら冷静さを取り戻したジュピターの声。
それが沈黙を破った。

「言ったよな?自分で。これが戦略だって。
・・・・オレもそれをしたまでだ」

オレはジュピターに向かって歩を進める。
シリウスの“はがねのつばさ”を向けられたジュピターに向かって。

「オレの、勝ちだ」
「・・・『坊や』に人が殺せるかしら?」

殺す?まさか。
殺せないさ。・・・・殺さない。

もう、いやだから。

「殺す必要は、ない。
消えてくれたらいいんだよ。この町から」
「うふふ・・・。楽しいわね。
ポケモン像の調査も終わったし帰ってあげてもいいんだけど。
・・・・・・コケにされた仕返しはしなきゃね。
スカタンク、“だいばくはつ”」

・・・・・・・・・バタ・・・・。

スカタンクは爆発することなくその場に倒れこむ。
戦闘不能。オレは賭けに勝ったようだ。

「どうして!?」
「・・・なんのためにオレがお前の目の前にまで歩いてきてると思ってんだよ?
な、レグルス?」

オレはジュピターに見えるように少しだけその場を退く。
オレの陰に隠れていたのは満身創痍のレグルス。
その爪が深々とスカタンクに突き刺さっていた。

「ほとんど『ひんし』だったが、戦うって言うからな」
「クルシオ・・・・爪から流す電気で相手を気絶させる・・・」

半ば呆然とした様子でジュピターがつぶやくのが聞こえた。
オレはほぅと肩の力を抜きかけて、

「レグルスッ!逃げてッ!!!“ゆうばく”が起きる!!!!」
「ッ!!!!?」

アヤの声が響いた。
ゆうばく?ゆうばくっ・・・・誘爆!?
オレとシリウスも危ねぇじゃねぇか!!

「シリウスッ!!」

オレの声よりも速くシリウスは鋼鉄の翼を翻してその場を離れる。
オレもとにかく横っ飛びにその場を離れた。
その瞬間。

ボンッ!

小さな爆発音と爆風。
真っ白な煙が部屋を覆う。
その中でジュピターの声が聞こえた。

「今日はこれだけ。残念ね。
まぁまぁ楽しかったわ。また遊びましょうね。
・・・・・・さようなら」

煙が晴れた頃にはその場にジュピターもスカタンクも居なくなっていた。
オレは立ち上がって服のほこりを払う。

シリウスは無事。レグルスもかろうじて無事。
・・・・よかった・・・・。

そういや、アヤたちは?そう思って見回すともともといた位置が爆発の範囲外だったようでその場で爆風を避けるためか床に伏せているだけだった。
そっちも無事。

「ピッピ!それからこのミミロルは!」

・・・このおっさん誰?
・・・・・・・・・・・・あぁ、話に出ていた自転車屋の。
オレはぽん、と手を打つ。

その自転車屋のおっさんは物陰から出てきたピッピと茶色いウサギを抱き上げる。
言っちゃ何だが、・・・・似合わない事この上ない。

そしてアヤのほうを見て、

「本当にありがとう!!!君のおかげでピッピたちを助けられたよ!!
本当にありがとう!!」

これでもか、と言うほど礼を言い続ける。
オレは無視。まぁ、だから何だとかねぇけど。

《無茶苦茶だな、ユウト》
「よぉ、夜月。傍観してる気分はどうだった?」
《暇で暇で仕方がなかった。
俺ならもっと楽に勝てるのにー》

どうやら戦いたかったらしい。
悪いな、と言えばいいのか?この場合。

オレと夜月が話している間にアヤとおっさんの話が終わったようだ。
おっさんが階段を下りていく。

アヤはそれを見送り、おっさんが階段を下る音が小さくなっていくのを確認してから

「・・・・返してよ・・・。卑怯者!
あんたもジュピターと同じじゃない!!!
ポケモンを使って、相手を脅してッ!!
そんなの強くもなんともないんだから!!!!!」

すごい形相でオレをにらんできた。




































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2009.6.14  22:08:05    公開
2009.7.4  02:49:39    修正


■  コメント (2)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

コメント有難うございます!!ペガサスさん!
ここでは初めましてですね。2つもコメントを溜めてしまってすみませんm(−−)m

シャドークローはアヤ本人を狙っているのでシリウスのタイプは関係ないのですよ。
いえいえ、どんなことでも嬉しいですよ。
それでは、失礼を。

10.12.31  21:46  -  森羅  (tokeisou)

ペガサスです!
必中技のつばめがえしが外れたので何でかと思ったら暗順応のせいでしたか・・・
でもノーマルタイプのシリウスにシャドークローは効きませんよね。
初めてのコメントなのにどうでもいいことばかりでごめんなさい・・・

10.12.28  00:54  -  不明(削除済)  (30002500)

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