生あるものの生きる世界
54.sideユウト×アヤ 助太刀[ギンガビル]
著 : 森羅
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バンッ!
オレは勢いよくジムのドアを開く。
その大音量にびっくりしたのか手に持っていたおちょこを取り落とすナタネ。
・・・・つーか、てめぇ・・。
また呑んでんのか!!!!
懲りろよ、少しは。
いや、それよりも、だ。
「悪いが教えて欲しい。ギンガ団のビルってどれだ!?」
しばしの沈黙、ひじょーに気まずい。
沈黙を破ったのは、
「・・・・はぁ?」
というナタネの気の抜けた言葉だった。
オレはつい、脱力・・・・。
sideアヤ
「あら?どうしたのかしら?さっきまでの威勢は?」
「レグルス!“スパーク”!」
バチバチバチ、とレグルスの周りが電気を帯びる。
その電気は空気中で火花を散らした。
そしてそのままジュピターのスカタンクに突進していく。
けど、
「ふふふ・・。は・ず・れ、ね」
「・・・またッ!?」
レグルスは全然違う方向に突進していく。
これで攻撃をはずすのは5回目。
無視できる数じゃない。
「“か・げ・ぶ・ん・し・ん”よ」
スカタンクの高速での移動。
それがスカタンクの分身を作る。
本物を見分けるのはあたしには無理。
「・・・回避率を・・ッ!」
レグルスが攻撃をはずしていたのは向こうの回避率が上がっていたからなの!?
どうも、それだけじゃない気が・・・?
・・・ううん、迷ってる場合じゃない!
「レグルス!“じゅうでん”から“かみなりのキバ”ッ!」
「馬鹿ね。“スパーク”よりも命中率の低い技を出して」
当たれえぇぇぇぇ!!!
あたしの願いもむなしくレグルスは見事に攻撃をはずす。
やっぱりコレ、なんかおかしい!
「どうしたのかしら?」
ジュピターは笑顔のまま聞いてくる。
「そろそろいいかしら?こちらが攻撃をしても?」
にっこりと微笑むジュピターにあたしは唇をかみ締めるしかなかった。
sideユウト
馬鹿げたビルだな・・。
オレはぐるぐる回る変な飾りを見上げて思った。
いや、誰でもそう思うだろう、多分。
「・・・なんか、オレ入るのすげーためらうんだが・・」
《安心しろ、俺もだ》
オレの言葉に間髪なく答える夜月。
いやだなー、こんな恥ずかしいビル入んの。
周りがみんな祭で出払っていて本当に、本当によかった。
いや、冗談抜きで。
誰かに見咎められないようにさっさと中に入るオレたち。
中は、ちょっとばかり悲惨なことになっていた。
そう、“ちょっと”ばかり。
「すげー暴れようだな」
野生の象が暴れてもここまでひどくはならないんじゃねぇか?
窓ガラスは粉々、床にはいたるところにえぐれた跡と、
ぶっ飛ばされたのか何人か人間が倒れ・・いや、寝ている、と言う事にしておこう。
「・・・うるさいなここ」
いたるところから声が聞こえる。
動いている人はほとんどいないのになんでだ?
《あー、ちなみにこれは人の声じゃないからな》
「・・・そりゃ、どうも」
夜月の補足がありがたい。
つまりこの声はポケモンのものって訳だ。
「一体、やつらは何を考えて・・・?」
・・・・どこかで聞いた声が・・?
気のせいか?
「・・ってうわッ!!?・・・・キミは、どこかであった、かな?」
一瞬遅れてオレに気がつく自称国際警察の・・なんだったか。
つか、オレもオレだが向こうも人のこと忘れてやがる。
とりあえず、挨拶。
「・・久しぶりです。オレと同じくらいの女がここに来ませんでしたか?」
何しているのか聞こうかと一瞬思ったが馬鹿らしいのでやめた。
どうせ、こいつらの事を調べてるんだろう。
「女の子?・・あぁ!会ったとも!
ここを調べて、夜なべで作った地図があってね。
一番上に行きたいと言うから見せてあげたが。
ポケモンを持っているようだったし、大丈夫だろうと思ってね」
・・・・・・ぶ、ぶん殴りてぇ・・・。
独断で自分が調査しているような場所に子供(ガキ)を入れるなよ!!!!
何かあるって思ってるから調べてんだろーが!!!
それとも、この世界ではそういう考えが当たり前なのか?・・謎だ。
いや、まぁそれはいい。
オレは出来る限り丁寧に聞く。
「地図を持っているんですか?見せてください」
「キミも上に上がるのか?やつら何を考えているのかまったくわからない。
危険だと思うのだがね」
「いいから、見せてください」
さっさとしてくれ。
前フリが長いんだよ。
話が長いのはオレの高校の校長だけで十分だ。
「・・・これだよ」
「どうも」
《俺も!俺も見るッ!!!》
「黙ってろ、夜月」
とりあえずうるさい夜月を黙らせてオレは道順を覚える。
・・・けっこう単純だ。
確か、緑(グリーン)をしていた時の敵アジトはメモを取りまくった気がするが。
この際、ありがたいので文句は言わない。
「ありがとうございます」
「いや、なにかまわないよ」
じゃ、さっさと上に・・・。
・・・・・・・・・・。
「わかったよ!」
「ど、どうした!?」
突然オレが声を出したからだろう。
地図をしまおうとした国際警察がおどろいた声を上げた。
オレはそれには答えず、手短で寝ているギンガ団に近づく。
《助けるのか?》
「しゃーねぇだろ?」
夜月の声に短く答えてオレはボールを探し出す。
中身を開けると、くるくるの尻尾をした黒い猫が出てきた。
それから、そいつに言われるがままそのボールを壊す。
それを見ていた国際警察が慌ててオレに聞いてくる。
「何をしている!?」
「手伝ってください。逃がします」
「なぜ!?」
「もともとはこいつらのポケモンじゃない。
誰かから奪ったらしいんで。
元の誰かのところに戻るか野性に返るかまではオレは知りません」
オレの説明に納得したのかどうなのかは知らないが、その人は手伝ってボールを壊し始めてくれた。
「お・・い。おれのポケモン・・」
「黙れ」
「なんてことを!いいじゃないか!ポケモンなんてそこら中にいるんだから。
盗られたヤツはまた捕まえればいいんだよ」
「黙れ、と言っているのが聞こえねぇのか?
・・・そういう利己的な考え方が嫌いなんだよ」
気がついたらしいギンガ団の一人に自分でも驚く程冷たい声が出た。
ポケモン(こいつら)は生きてんだから、ヒトが好きにしていい命じゃない。
ボールをあける。
中のポケモンを逃がす。
ボールを壊す。
ひたすらこれの繰り返し。
単純作業は頭を空っぽにしてくれる。
「・・・こんな・・・・」
《どうかしたか?ユウト?》
・・・・・・?
「何か、言ったか?オレ」
《言ってないのか?》
聞き返してくるなよ。オレが聞いてんだ。
「あらかた、終わったよ。
上階(うえ)のことまでは知らないが、
大部分が下に下りてきていたからこんな物だろう」
「ありがとうございます」
国際警察の言葉が言っているようにポケモンの声はなくなった。
もう、大丈夫だろう。
「夜月、上がるぞ」
《りょーかい》
やっとだな。
sideアヤ
「あら、なかなかしぶといわね・・。まだ生きてたの?」
「勝手、に、殺さない、で、よね・・」
満身創痍のレグルスはもう限界。
よく耐えてくれたと思う。
レグルスを代えてあげたいけど、シリウスは室内(ここ)じゃ無理。
・・・スピカは・・・駄目。
「レグルス!“まもる”ッ!」
「残念ね。“フェイント”」
「嘘ッ!?」
“フェイント”されたら“まもる”は効果を成さない。
レグルスは死角から思いっきり吹っ飛ばされて壁に激突する。
「レグルスッ!」
「『ひんし』よ。終わりね。
それともまだあがいてみてくれるのかしら?正義のお嬢さん?」
「・・・くッ!」
レグルスをボールに戻す。
あたしが、もっと強かったら・・・・・ッ!!!
もっと強かったら、レグルスはこんな事にはならなかったのに。
スピカに『否定』されなかったのに。
ユウトに、ひどいこと言わなかったのに。
すべて、全てあたしの責任。
あたしが弱いから、誰も救(まも)ってあげられないから。
「さようなら。お嬢さん」
ジュピターの言葉と同時にスカタンクが自身の最高の技を繰り出そうとしているのがわかった。
スカタンクの前足に影が集まって巨大な爪を構成する。
「“シャドークロー”」
冷たくて感情の入っていない声。
にっこりと笑って小さく手まで振ってくる。
あたしたちをここで殺してもなんとも思わないのね、この人は。
いや・・・。いやなのよ・・。
あたしはまだ、死にたくない。
探さなきゃいけないんだから『あの人』を。
会って聞かないといけないんだから。
けど、体は動いてくれない。
振り下ろされる影の爪。
実体を持った影は夜の闇のように黒い。
ゆっくり、ゆっくり死が近づく。
・・・いや・・・。
いや。嫌嫌嫌嫌いやぁあぁあぁぁーーー!
誰か。
誰か。
・・・・けて。
小さな祈り。それは誰にも届かない。
ハクタイの森の時と同じようにあたしは目をつぶる。
怖い怖い怖いよおぉ!
死にたくない、死にたくない!
ふわっ。
ザグッ!
“シャドークロー”が床に突き刺さる音をあたしは暗闇の中で聞いた。
・・・・・生きてる?
おそるおそる目を開ける。
いつの間にか誰かに抱きかかえられるような形で床に座っていた。
あたしにはその人の背中しか見えない。
でも、見覚えはあった。
「・・・ユ、ウト・・・?」
「なんだ?どうした?・・・・あーあ、滑り込みなんてするもんじゃねぇな」
なんであんたがここにいるのよ!?
わけがわからない。
ユウトもギンガ団を倒しに来たの・・?
「素敵。騎士(ナイト)の登場ね」
面白そうなジュピターの声。
ユウトは無言であたしをどけて立ち上がる。
あたしは『物』扱い!!?
「で、あなたもわたくしを倒しに来たのかしら?不思議な目の『王子様』?」
完全に人を馬鹿にした言い方。
ユウトはキレるんじゃない?って思ったけど意外な事を言い出した。
「・・・なんで、オレがお前を倒さなきゃなんねーんだよ?」
さも不思議そうな声。
・・・あんた、それが目的じゃないの・・・?
「そこのお嬢さんみたいに『正義の味方』ごっこをしたいんじゃなくて?」
「・・・・『正義の味方』?・・・馬鹿らしいな。
オレはそんなもんじゃない。
オレはただ、暴風でふっ飛ばされた『凧』を探しに来ただけだ」
・・・・・凧ってあたしーーーー!?
女の子に対して失礼でしょうが!!
サイテー!
「じゃ、そういうことで。ほら、帰るぞ」
言うだけ言ってユウトは行こうとする。
あたしは立ち上がらない。
駄目。このままじゃ帰れない。
「駄目。このままじゃ駄目なの!」
「・・・」
「被害が広がっちゃう」
頭上で盛大なため息。
「よこせ」
「え?」
「さっさとよこせよ。手持ち」
え?え?なんで?
あんたポケモンいるじゃない。
そう思いながらもあたしは3つともボールを差し出す。
「夜月、紅蓮、傍観で悪いな。
・・・お前らはちょっとオレの言う事を聞いてくれ。
シリウスにレグルスにスピカ、か」
「あら?何を始めるのかしら?」
「決まってんだろ。本当はめんどくさいんだが」
ユウトが獰猛な笑みをジュピターに向ける。
そして、一言。
「選手、交代だ」
2009.6.12 00:12:59 公開
2009.6.14 03:18:50 修正
■ コメント (2)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
09.6.14 13:39 - 森羅 (tokeisou) |
こんにちはです、森羅様。 ゆーとは闇の人格(?)に何とか飲み込まれなかったですが、今度はアヤのピンチ…全部自分が弱い所為であると自己嫌悪に陥っているのが可哀想で; と、そこでゆーとの助太刀ですか!とりあえずアヤと険悪な関係にならないみたいで本当に良かったです! HOOOOOO、ナイスタイミングゆーと、やってくれるぜゆーt(煩い アヤを凧扱いしてるのも彼らしいです^ ^; 国際警察の人はさりげなく何やってんだ^ ^#ビキビキ そしてナタネさん、いい加減お酒を自重して(ゑ 傷付いたアヤの手持ちでどう戦うか気になります! 続きを楽しみにしてますです♪ではでは、乱文失礼しました! 09.6.14 10:50 - 不明(削除済) (lvskira) |
ゆーとは飲まれませんでしたね。
と言うより実際は助けてもらったって感じです(作者が何を・・)
アヤとゆーとの関係はゆーと本人はもうあんまり気にしてないようですねぇ〜。アヤのほうがまだ引きずってるって感じです。アヤのバトルシーンは省けるだけ省きました、すみませんです、はい。アヤは正攻法ばっかり好むので応用が利かないんですよー(言い訳)
それでなくても書くのが苦手なのに・・・(泣)
ケイヤのねt(自主規制)
アヤの事を『凧』って言うのは彼ならではですかね・・多分。(文章をつなげろよ・・・)
本当に国際警察!お前何やってる!?
書きながら、「あぁ、そーだなー」とかゆーとの言葉が正論のような気がしてきました・・・(作者は誰だ)
何気なく自分の仕事はいいんですか?とか思ったり・・。
そしてナタネもですね。
なんでまだ呑んでるんだ、お前。反省したんじゃなかったのか!?ジムリーダーとしてバトルシーンが一回も出てないぞ!?いいのか!?(落ち着け)
それでは、期待にこたえられるように頑張ってゆーとVSジュピターさんを書きます。
ありがとうございました!!
失礼を。