生あるものの生きる世界
41.sideユウト×アヤ worry[シンパイ]
著 : 森羅
ご覧になるには、最新版の「Adobe Flash Player」が必要です。 また、JavaScriptを有効にしてください。
sideアヤ
あたしに向かってその人は言う。
あたしと目を合わせるためにかがんで、
ためらうようにしてからあたしの肩に手を置いて、
見ていられないくらい悲しそうな顔をして、
その人は言う。
「僕のようになりたいなんて思ってはいけないよ。
僕のようになりたいなんて願ってはいけないよ。
お願いだから、そんな事を願わないで。・・・・お願いだから。
僕は強くなど無いのだから。僕は偽善者でしかないのだから。
だから、君はそんなことを願わないで」
でも、貴方は!!!
あたしの声はその人には届かない。
「・・ふにゃ?」
・・・えーと、夢、よね?
なんというか、
「懐かしい夢ねー」
ソファに掛け布団という無茶苦茶なベットの上であたしはつぶやく。
その声に起きたのか、
《どうしたの?》
と寝ぼけたような声でスピカが聞いてくる。
あたしはおはよ、と言ってから
「夢見たの」
とだけ答えた。
スピカはそれ以上追求してこない。
あたしにはそれがありがたかった。
怪我の治療が終わったシリウスが部屋の端っこで寝ているのが見える。
ちゃんとしたポケモンセンターに連れて行ってあげたかったけど、
あんな事があった後にソノオタウンに戻るのは居心地が悪い。
あたしの脳裏にはあの警戒心で一杯の親子が消えてくれない。
あの人とあの子は怯えていた。
ギンガ団よりももっと。
『ユウト』に。
あたしだって怖かった。
そう、
『怖かった』。
動く事ができなくて、
動いたら殺されそうで。
アレは一体何だったの・・?
あたしは無意識にベットで寝ているユウトの方に目をやる。
ベットがうらやましいけど、気を失ってる人をソファで寝かせる程あたしは鬼じゃない。
「・・・ぅ・・」
ユウトの声にあたしは反射的にビクッ、としてしまう。
それから、そんな自分に対して自己嫌悪に陥る。
もし、あのままだったら・・・・?
そう思いながらも様子を見ようとあたしはベットに近づいていった。
sideユウト
引き続いて何も無い世界。
暗いのか明るいかくらい教えてくれてもバチが当たらないだろうに。
・・・・いじめか、これは。
少し前に聞こえた声のような物もあの後はうんともすんとも言いやがらない。
オレ自身、声を出そうにもなぜか出ない。
・・・どうしろってんだよ・・。
ずっとこうしているわけにも行かないが、どうしたらいいのかわからない。
戻らないと・・・。
そう思うが、一体『どこに?』
どこだっけ?
えぇっと・・・・、
そうそう、オレの『生の世界』に。
どうやって?
ここがどこかもわからないのに『どうやって』帰ればいいんだ?
【戻って・・・・。君はここに来なくていい】
・・・誰だ?
唐突な声に先程の声とは違うとわかる。
男の声らしいが遠いのか、かなり聞き取りにくい。
【ここは墓。悲しみの墓場。君の来る場所じゃない】
・・・墓・・・?
【そう、墓。・・・・の】
何の?
【戻って】
どうやって?
【大丈夫だよ。ほら・・・君は・・・だから・・・】
声がどんどんかすれて聞こえる。
最後の方はほとんど聞き取れない。
待て。お前は一体・・・・・。
【僕は、黒い、・・ぃで・・・・を・・・】
黒・・・?
その言葉は確か、クロガネ炭鉱で・・・・!
空耳(そらみみ)じゃなかったのか!?
オレの意識はそこで何かに引きずり込まれた。
「・・・ぅ・・」
天井が見える。
体が動かない・・いや、動かしにくい。
背中の方は妙に痛むし、なにより眠い。
もう一回寝たい・・・。
「ユウト?」
・・・誰だ?
寝ぼけた目で音源を探す。
そして、それはすぐに見つかった。
「アヤ・・・?」
相手がうなずくのが見える。
つーか、ここどこだよ?
あれ?オレ、そういや、何がどうなって・・・?
ソノオタウンから少し出て、風力発電所に行こうとして、
・・・・その後から記憶が無い。
いやいや、まてまて。
確か、メタモンがいて、その後、なにか後ろから衝撃食らって・・・。
誰かに担がれたところまで記憶がある。
その後は・・・・?
・・・・・・・・・・・・・?
考えようとすればするほど、頭が思うように働かない。
いくら考えても霞が増えるばかりだ。
「ここ、どこだ?
ついでにオレ、どうなってんだ?
つか、今日何日?
・・・あれ?なんでお前らこんな所いんの?」
ダメだ・・・。自分でも言葉がおかしいとわかる。
アヤはため息一つ。
「あんた、完全に混乱してるわね。
ここは、知り合いの家よ。ハクタイの森のすぐ近く。
・・・・といってもわからないでしょ?とりあえず、宿を貸してくれるとこがあんの。
あんたは半日寝てたから、今日はソノオタウンについた次の日よ。
わかった?」
オレは素直にうなずくが、そんなに偉そうに答えなくてもいいんじゃないか・・・?
オレの感じる理不尽さは万人共通の考えだと思うぞ。
「あんたは風力発電所にいたの。覚えてる?」
「いいや。まったく」
アヤは一瞬変な顔をしてからそう、と短くつぶやく。
何だ、何だ?
なんかしたのか、オレ?
「とにかく!何でかは知らないけど、ギンガ団のとこにつかまってたのよ、あんたは。
それをあたしたちが救助してあげたんだからね!
感謝しなさいよ!!」
・・・だから、なんでそんな偉そうなんだ?お前は。
いや、まぁ、助けてもらったんだったら、
「・・・・さんきゅ・・・」
やっとのことでそれだけ言う。
あー、とりあえずオレは眠いんだが・・。
「もうちょっと感謝してますって感じで言えないの?」
・・・これ以上何を言うか・・・。
「メタモンのせいだ・・・・」
「はぁ?」
「メタモンがいたんだよ。そんで“へんしん”してたんだよ・・・」
「あんた・・・、言いたい事があるならちゃんと整理してから言いなさいよ?」
アヤの目が点になっているのが見える。
・・・メタモンみてぇだな・・・・。
・・・・・・、ダメだ・・。
自分が何を言ってるのかわからなくなってきた・・。
「・・・とりあえず・・、寝かせてくれ・・・」
眠い。眠い。寝たい。
頭を支配するのはそれらの言葉だけだ。
「いいわよ。・・・ただし」
・・ただし・・?
何だか嫌な予感がするんだが・・。
はー、と拳(こぶし)に息を一かけ。
「なんとなくムカつくから一発だけ殴らせなさい」
・・・・は?
《あ、俺も!》
《すみませんが、我も》
《ごめんねー、ユウトくん》
・・・・じょ、冗談・・・・・。
夜月、紅蓮、スピカ、・・・後ろの方で無言で翼広げてるのはシリウスだったか?
パキパキと関節を鳴らす乾いた音が聞こえてくる。
「・・・・・拒否できるか・・・?」
「無理」
やっぱり、無理か。
つーか、動けよ。オレ。
アヤが躊躇無く拳を振り下ろす。
「ひとに心配かけるんじゃないわよー!!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!」
バキッ!
ボコッ!
メキッ!
このシチュエーションに慣れてしまったオレが悲しかったが、
慣れてしまって気絶できないオレはもっとねたましかった。
2009.5.5 23:28:54 公開
■ コメント (0)
コメントは、まだありません。