ポケモンノベル

ポケモンノベル >> 小説を読む

dummy

生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

40.sideアヤ×ダレカ  深紅[チノニオイ]

著 : 森羅

ご覧になるには、最新版の「Adobe Flash Player」が必要です。 また、JavaScriptを有効にしてください。

速くもなく遅くもなく普通に歩くように目の前の少年はこちらに向かって歩いてくる。
誰もが呆然とその成り行きを見守っていた。

当然のようにマーズの横を通り過ぎても、マーズは身動き一つしない。
きっとその場にいた誰もが、

これは何かの間違いだ、と。
夢か幻だ、と。

そう思ったんだと思う。
あたしも、例外なく。

だって、まるでまったく関係のない映画が、
極端に言えばホラー映画の一番怖いシーンで突然にコメディに切り替わったみたいな
そんな違和感がそこにはあった。

「あんた・・・、誰?」

最初に沈黙を破ったのはあたしの声だった。
自分でも何言ってるの?って思ったけど、

『コレ』は、
ここにいる少年は、

あたしの知っている人(ユウト)じゃない・・・・・・・・。

「ん?俺が誰かだって?何でそんなことを聞くんだ?」

深紅の左目をした『彼』は歩みを止め、あたしにそう笑って聞き返してきた。
人懐っこい(ひとなつっこい)無邪気な笑顔。
それはあたしにとって安心させるものではなくて、

異常なものでしかなかった。

「アンタ!なんなのさ!!
眠らせておいたはずなのにッ!!」

金縛りから解けたようにマーズはまくし立てる。
その声にはさっきまでの笑顔はどこへやら急激に冷めた目を『彼』はそちらに向けた。
初めてマーズの存在を確認したかのような顔をする。

「ダメだな。ちゃんと縛っておかないと。
それから・・・・鈍(のろ)い」

人を馬鹿にしたような声とその顔には『嘲笑』、
その目は、
『人を殺した事のある人間』の目だった。

あたしはその目に金縛りを掛けられる。
動けば、殺される、

そんな妙な確信があたしにはあった。

「アンタ、誰?」

あたしと同じ質問をマーズは繰り返す。
その質問につまらなさそうな顔をする『彼』。

「俺は『俺』だって。他に何がある?
・・・お前は何だって聞かれたらなんなんだよ?」
「・・・・ア、タシは、マーズ。ギンガ団の幹、部・・」

しどろもどろに答えるマーズの声を『彼』は最後まで聞いてないと思う。

「マーズ・・マルスね。戦いの神にしたら、弱いな」

フッと人を見下したように笑う『彼』。
年齢はあちらの方が上でも立場は完璧に逆だった。
最後のセリフにマーズはキレたみたい。

「舐めてんじゃッ・・・・!!」
「別に、事実だろう?」

最後まで言わせずに口を笑みの形にゆがめる『彼』。
それだけ言うとまたこちら側に向きなおす。
あたしも周りの人も動けない。
辺りをゆっくりと『彼』は見回して、『何か』を見つけた。

「・・・夜月!久しぶりだなァ!」

『彼』からこぼれる笑顔が表すのは純粋な『喜び』。

子供のような『彼』
冷徹な『彼』
・・一体どっちが本物なのよ!?

side夜月(ブラッキー)

「・・・夜月!久しぶりだなァ!」

その言葉に俺は後ずさる。

・・・・・こいつは誰だ・・・・?
目の前にいるのは紛れも無くシンジ湖以来見知った顔。
話し方も良く似ている。
しかし、本能が告げていた。

別人だ、と。
・・・・そいつからは血のにおいがした。

《貴様、誰だ?ユウトじゃないな?》
「へぇ、お前が話すのははじめて聞いた。『俺』は、だけどな」

俺はかなり警戒しながら尋ねたが、それには答えずに、
最後の言葉は独り言のようにも聞こえた。

《誰だ、と言っている》

もう一度、鋭く尋ねる。
訳のわからない焦燥感が俺の中にあった。
その言葉に目の前のヤツはきょとんと首を傾げて、

「忘れちまってるわけ?俺のこと?・・・まぁ、仕方ないか。
俺としてはもう一度夜月に会えてうれしいから、さ。それでいいや。
・・・つまらない物でも信じてみるもんだな」

笑いながら俺と目線を合わせるためかしゃがむ。
最後の方の言葉は泣き笑いのような顔でその深紅の目に俺が映っているのが見えた。

《・・・どういう意味だ・・?》
「そういう意味だよ。他に意味なんか無い。
・・そういやさ、夜月、お前まだ耳の後ろ、苦手なのか?」
《ッな!?・・やめろ!!》
「ハッ、かわいーヤツだな」

スッと手が伸びて俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。
・・・力が強いんだよっ!

くしゃくしゃというよりぐりぐりといった感じだ。
それでもそれを

いつか、ずっと昔に・・・・・・・・・・・・・?

俺の中のわけのわからないものはどんどん膨らむ。
俺はそれが気持ち悪い。
けれど、それを消し去る術(すべ)を俺は知らなかった。

「人を馬鹿にするのもいい加減にッ!!」

さっきから変にうるさい女、マーズとか言ったか?がいい加減怒り出した様で、声を荒げる。・・・・俺としては当然と言えば当然気もするが。
その声に反応してか周りの人間達がズバットやらなんやらとに命令を繰り出してきた。

・・・チッ!・・・・・数が多い!

俺は身構える。そして、
驚いた様子で突っ立っていた紅蓮もあわてて構えなおすのも俺は見た。

「ハッ、向かってくる気か?雑魚(ざこ)が。
・・・夜月。久しぶりだが、“サイコキネシス”」
《ッな!・・そんな技が出来るわけ・・・》
「出来るって、・・・夜月なら」
《くそっ!》

ドーン

俺から円形に広がった紫がかった色の衝撃波。
それが向かってきたヤツらを片っ端から弾き飛ばす。

・・・・・・やった当人が一番驚いてるってことはこの際置いておこう。

「できるじゃん。流石(さすが)」
《・・どうなっていやがる・・?》
「さぁて?俺は知らねーな」

まるで謎賭け(なぞかけ)だ。
意味の無いような言葉になぞめいた言葉。
理解しようとすればするだけ当惑する。

「ブニャット!!」
「動くな」

マーズとやらの声に動きかけたブニャットがそいつの声で停止する。
そして怯えたように身をすくませた。
抑揚の無い、冷たい声。

「・・ポケモンのほうが賢いな。
戦うべき相手でないことを知っている。俺のにおいを嫌ってるんだろうな。
お前はどうだ、戦いの神?」
「どうしたのさ!なんでなのさ!?ブニャット!攻撃!!」
「わめくしか出来ないのか?」

わめき散らすマーズとは対照的に冷めた表情を浮かるそいつ。
そして、ゆっくりとマーズに向かって歩を進めはじめた。

「はぁ・・・お前は何がしたいんだ?」
「ッ!アタシたちが正しいのよッ!」
「そんなわけ無いじゃない!!!」
「ふーん。そうか。俺にはその意見を否定する権利は無い」

言葉は通じているはずなのに、かみ合っていない気がするのは俺だけか?
そいつの「何がしたい?」の問いに、
マーズは己(おのれ)の正しさを主張した。

突然会話に入ってきたアヤの「そんなわけない」に
そいつの「否定する権利は無い」
まったくもって両極端だ。

俺の考察もそこそこ、そいつは言葉を続ける。
マーズに向かって歩き続けているのに誰もとめようとはしない。

「俺はそんなことが聞きたいんじゃない。
お前が俺の邪魔をするか、しないか、だ。
・・・・俺の邪魔をする気なら容赦なくたたきつぶす。
俺が自分を守るためだからな、当然だろう?」
「・・・・・訳わからないよッ!」
「わからなくて結構だ。
つまりはな」

そいつは歩みを止める。
気が付けばマーズの目の前まで来ていて、マーズを追い詰めた事を見てそいつの口が薄く笑みを作った。鼠を追い詰めた時の猫の笑みを。

「死にたいか、死にたくないかってことだ」
「ひっ・・・」

カチカチカチ。

歯と歯が触れる音。
それはマーズの口から聞こえてきた。

恐怖。

それが今頭を占めているのだろう。

「答えろよ。どっちがいい?」
「・・・ぃ・・や・・死に・・・・くな・・・」
「聞こえないな」

すがりつくような小さな声は冷たいまなざしに両断された。

「死に、たくな、ぃ」
「なるほど」

寒気を覚える程強烈に笑う、そいつ。
それは死刑宣告にも等しい。

「なら、消えろ。今すぐに。
よかったな。俺はもう『神になる』のは疲れてんだ。
・・・人の生死を決めてしまう神サマにはな」
「では、帰ろうかな?マーズ」

初めて聞く声。
老人の物らしい声はそいつ・・と言うよりもユウトがいた所より少し手前から出てきた。

「誰だ?お前?」
「わしも幹部の一人じゃよ。プルートじゃ。
お前さん、面白そうじゃな。・・・・・人殺しの目じゃ」
「人だけじゃねぇが。・・・昔の話だ」
「そうか、ではわしらは消えるとするか。発電所のエネルギーもかなりいただいた」
「そうしてもらいたいね」
「・・・では、な」

老人が合図すると人間達がザアァと引いていった。
ものの30秒ほどで発電所内は俺達だけになる。

「さて、俺もそろそろか、な?
ん?・・・・・おぉ!?目が紅い!!なんだこれ!!?」

オイイイイィィィィーーーーー!!
気づいてなかったのか!?マジで!!!?
ちょっと待てよ。そんなベタな。

そいつはガラス窓に写った自分を見て驚いた顔をする。

「・・・・うわぁ・・・・こりゃ、絶対あいつの嫌味だな・・・」

・・あいつ・・・?

「こんなことしなくても、十分知ってるって。俺の・・・くらい」

俺の・・・なんだって?

「ちょっと。あんた!・・誰なのよ?」

アヤが寄ってくる。
強気だが、かなり無理を感じるぞ?

「・・・・しつこいな。俺は俺だって。何度言わせる気だ?」
「あんたはユウトじゃない」
「そりゃそうだろう」
「じゃあ誰よ?二重人格?」
「まさか。大はずれだ」
「じゃあ・・・・」

そいつはアヤから目を逸らせて小さく舌打ちをしてから言う。

「俺は俺以外何者でもない。
俺はこいつでこいつはあいつ。
それだけの話だ」

また謎賭けか?

「何よ!それ!わからないし!」
「他にどういえばいいんだ?これ以上なく丁寧で適切な説明だぜ?」
「わからないわよ!そんなこと言われても!!」
「お前がこれからこいつと関わっていくなら嫌でもわかるさ。
これ以上関わる気がないならこれ以上は知る必要もないし、知っても意味を持たない」

こいつ、のところでユウトを指差すそいつ。

「・・・・そろそろ時間切れだ。
じゃな、夜月。また会えるといいんだが・・・無理な話か。
・・・紅蓮だったか?こいつは選んだんだな。その方法(みち)を。
頼んだぜ?・・・・・・こいつの存在は不安定だから。
あぁ、・・・そう、いや・・・・・・俺の、・・いは・・・・・・・」

ドサッ。

目の前で『ユウト』が倒れた。

《お、おいっ!!》
《大丈夫でありますかな!?》
「あんたたちこいつとシリウス、ポケモンセンターに運ぶわよ!!
手伝って!!」

アヤはユウトを紅蓮に乗せてシリウスと呼ぶオオスバメをボールに入れる。
それから、
ふと、奥のほうに目をやって、

白衣を着た男が小さな子供を抱きかかえているのをじっと見つめた。

男はアヤの目線に気づいたのだろう、子供を強く抱きしめた。
護るように。

その目は警戒心で一杯だった。

あぁ、俺達も変わらないのか、ヤツらと。
あの人間達にとっては俺達もあいつらも同じレベルの物なのか。

アヤは少しだけ哀しそうに一礼してから俺達を急かしながら、
逃げるようにその場を立ち去った。































⇒ 書き表示にする

2009.5.2  18:42:59    公開
2009.5.3  01:28:32    修正


■  コメント (4)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

こんばんは。お久しぶりです。
コメントありがとうございます!!篝さん!!

アヤについてはゆーと&ケイヤ同様可愛がってあげてくださいm(−−)m
“おどろかす”の時のスピカはさすがって感じですねー。本業本職ですから。
ギンガ団に合掌しながら書きました(笑)

謎ばっかりですよ、本当に。
ある意味ぼくは少しづつ答えを出していくのは冗談抜きで苦手なので、謎はちょこちょこ出てくるのに対して答えは一気に書く事になります。ダメ人間です。
ですので、答えが出るのはもっと後になると思いますが、許してくださいm(−−)m

紅ゆーとについては決して敵じゃないんですよ・・・(汗)
答えは・・(ネタバレ禁止!)
ゆーとと紅ゆーとについては完全な同一人物ではありません。それには理由があるのですが・・・。それでも、紅ゆーとが「俺はこいつで・・・」と言っているのでまったく無関係人物ではないんですよ。
書いていて楽しいですけどね、紅ゆーとは。

神については・・・あわわわぁぁぁわゎぁ・・・・。
すみません、本当にすみません。
45さんのコメントにも書いたのですが・・あんまり関係が無いんです・・。まったくと言うわけじゃないですけど・・。
マーズって言うのが火星なんですね。
それで何かの神話でマーズ(マルス)って言うのが闘神だったはずなんです(自信が無い・・)
それにちなんで紅ゆーとがマーズに対して連呼しているんですよ・・・。
自分に対して「神になるのは疲れてんだ」といってるのには意味がありますが・・・。
うわあぁぁぁーーー!!本当にすみません。
許してくださいーーー!!!

それでは失礼を。

09.5.5  22:00  -  森羅  (tokeisou)

かなり進展がありましたが、お久しぶりです!森羅様。
ちょこちょこコメントして申し訳ないですー。
では、早速ですが少々まとめて感想を。

アヤが結構自分の中でカタチが作られて、ゆーとやケイヤ同様想像し易くなりました♪
話が戻ってしまいますが、スピカの“おどろかす”の場面を頭の中で描いていたらギンガ団の気持ちも解る気がします;

ソノオタウンの気配といい、ギンガ団の作戦といい、左目が紅いゆーとといい…。
本当に謎のオンパレードですね^^;
自分の予想はいっつも違う方向にぴゅーんと消え去ってしまうのですが、展開が毎度のこと大ハズレだ!(あ
そして今回の話ではいつもと違うゆーとが…。夜月やアヤでさえも直感で感じる威厳さ、というものがあるんですね…。
神、ですか…。…うー、また新しい広がりですね。
紅ゆーとも夜月との対面経験がある!?
これはゆーとと紅ゆーとは同一人物…ではないんですよねえ…。
ふーむ、シナリオが進むごとにますます解らないことが増えていきますね;
そんな自己妄想を広げながら頑張っている篝ですー。

さてさて、また間が空いてしまうかもしれませんが、陰ながら応援してます♪
では、更新頑張ってください!

09.5.4  22:48  -  不明(削除済)  (Vlack)

こんにちは。返信が送れて申し訳ありません。
あちらの方のコメントにいたっては本当に申し訳ありません。
コメントありがとうございます!!45さん!!

トップには上がりましたよ。
多分皆さんがちょうど書き込んだのではないでしょうか?

ゆーとが・・やばいですね。書いた僕がビビッてます(汗)
『彼』は嘘をついてはいないので、『彼』の言葉は全て信じてあげてください。ただし、夜月の“サイコキネシス”の時の「さぁて?俺は知らねーな」だけは少し夜月の疑問と違うことを『彼』は想像しているので“知らねーな”なんです。
夜月は「なんで自分に“サイコキネシス”ができるのか、
それからなんでそのことを知っていたのか」と言う意味だったのですが、『彼』は違う意味ととらえています。

それから、『彼』はアヤとは知り合いではないですよ。
そんな雰囲気が出ていたらすみません。
アヤと直接的な知り合いではありません。ゆーと目線で知っている、と言った感じでしょうか?(聞くなよ・・)
アヤと知り合いなのは・・・あのbgw(強制終了&強制連行)
・・と、とりあえず楽しみにしていただければ光栄です。

あー、やっちゃいましたね、僕。
『彼』がマーズの事を“戦いの神”と呼んでいるのにはさして意味がありません。
これはギリシア神話(多分ですが・・)のマルスにちなんでいます。マーズと言うのは火星を指していて、そのマーズ(マルス)と言うのが“戦いの神様”なんです。
ちょっと確かめずに書いたので記憶があいまいなのですが・・・多分あっていると思います。
『彼』が自分の事に関して『神サマ』と言っている方には意味がありますよ。

ではでは失礼を

09.5.4  15:57  -  森羅  (tokeisou)

あれ?トップに上がりませんでしたよね?
それとも、気が付かなかっただけかもしれません^^;

ゆーとであって、ゆーとじゃない。
?今回は、いっそうゆーとに対する疑問が深まりましたね…。

というか、ゆーと(裏ゆーと)怖いよ;;
マーズが、ビビッチャっているじゃないですか^^;
しかも、押しつぶされちゃっているし…プルートがナイスタイミングに来ましたね…。
いや〜…どうなっていた事やら…。

……まじで、何が起きたのですか!?
神…重要なワードになりそうですね…。それに、夜月とアヤの事を知っている人物…。
思い出されるのは、アヤの前の言葉ですね…。

う〜ん…やはり、ココは次回に期待しますね^^:

失礼します。

09.5.3  20:07  -  不明(削除済)  (45syost)

パスワード:

コメントの投稿

コメントは投稿後もご自分での削除が可能ですが、この設定は変更になる可能性がありますので、予めご了承下さい。

※ 「プレイ!ポケモンポイント!」のユーザーは、必ずログインをしてから投稿して下さい。

名前(HN)を 半角1文字以上16文字以下 で入力して下さい。

パスワードを 半角4文字以上8文字以下の半角英数字 で入力して下さい。

メッセージを 半角1文字以上1000文字以下 で入力して下さい。

作者または管理者が、不適切と判断したコメントは、予告なしに削除されることがあります。

上記の入力に間違いがなければ、確認画面へ移動します。


<< 前へ戻るもくじに戻る 次へ進む >>