
生あるものの生きる世界
34.sideユウト×アヤ 危険[ソノオタウン]
著 : 森羅
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『ようこそ、ソノオタウンに!』
ソノオタウン入り口にでかでかと書かれた文字をオレは力なく見上げる。
確実に目は死んでたな。
「何よ?シャキッとしなさいよ!!」
・・・・・てめ・・・・・。
オレは全ての元凶であるアヤの言葉に右拳(みぎこぶし)を握り締める。
殴りかからなかったのはオレの鍛えられた精神力のおかげだろう。
お前のせいでどれだけひどい目にあったことか・・・。
昨日あの後引きずられて進む事、夕方、世界がたそがれに染まるまで。
ポケモンの攻撃はなかったが、距離がすさまじい。
わけのわからん抜け道(と言う名の洞窟)まで通らされた。
その上、
「起きなさいよ!」
とたたき起こされたのはまだ辺りが暗い時間帯。
かすかに昇りかけている朝日が唯一の光源。
ふざけるな、とオレは泣きたかった、
つーか泣いた。
ザアァァァァ・・・・・・・。
「ぅ、わ・・・」
そんな事を思い出していると強い突風が吹きぬけてくる。
風は咲き乱れている花々の間を走りぬけ、いくつもの花びらをさらっていった。
「風が強いな」
「風力発電所があるからねー。それなりに風は吹くでしょ」
オレのつぶやきに答えるアヤ。
へぇ・・・・風力発電所、ね。
行った事はねぇな。
行ってみたいとも別に思わねぇが。
「それで?」
「それで、何よ?」
お、ま、えッ・・・・・・・。
何のためにオレを地獄の激走ツアーご招待いただいたのか聞かせてもらおうじゃねぇか。
内容によってはキレるぞ。
アヤは「あぁ、そのことね」と前置きしてから、辺りを見回す。
一体何なんだよ?
「ぅう〜、やっぱり気持ち悪〜」
アヤは顔をしかめて言うが、オレにはさっぱりわけがわからない。
「あんた、ここ気持ち悪くない?」
「・・・・・・・・・・いや、まったく」
オレの返事を聞いているのかいないのか、街中の方にずんずんと進んでいくアヤ。
・・・・・・・気持ち悪いと言っていたのは一体誰だ?
多分誰が見ても、気分が悪そうにはまったく見えないと思うが。
そう思いつつも、ここに居ても仕方がないのでオレも町に入る。
後ろについてくる夜月にどこか元気がないのは、
アヤに朝っぱらにすさまじい蹴りのモーニングコールで起されたからだろう。
オレは絶対にまねできない。真似しようものならどうなるかは1+1=2になるのと同じくらい明確だ。
そんな夜月は唐突にオレに向かって言う。
《ユウト、腹減った》
夜月よ、お前はそれしか言えねぇのか。
オレが夜月の方を見たからか、アヤはこちらに目をやって聞いてくる。
「なんて言ってるの?」
「腹減った、そうだ」
「あぁ、それなら・・・・・・・・」
それなら、何だ?
言いかけて口をつぐむアヤ。
・・・忘れたわけじゃねぇだろうな。
《花のアイスを食べるんでしょー?》
「ッスピカ!!」
《あ!食う食う!!》
スピカの言葉に食べる気満々の夜月。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
なるほど。
なんとなく言いかけて途中で止めた訳がわかった。
なので言ってやる。
「・・・・オレは食わねぇよ」
《俺は食う!》
「当然でしょ」
そうか、オレが食べない事は至極当然、あってしかるべき事か。
・・・・・・って、んな馬鹿な。
まぁ、別に欲しいとも思わない。
それを聞いて安心したのか、どうでもいいのか、
いつの間にやらガイドブックを片手に意気揚々と先頭を進むアヤ。
比較的、大通りと呼べるであろう道の中央を占領している。
・・・・・気持ち悪いと言ってたのは、夢だったのか?聞き間違いか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
そうだな・・・・。このまま付いて行っても仕方がない。
「アヤ」
「何よ?」
「オレ、適当にうろついてるから夜月を連れて行ってやってくれ。
オレがいねぇ方がいいんだろ?」
「・・・・・・いいけど、はい」
アヤは笑顔で手を出す。
・・・・やっぱ、頼まねぇ方がよかったかもな。
オレはいまさらながら後悔。
その手の意味はよくわかっている。
オレは素直に500円を取り出した。
「おつりはもらっとくからね」
・・・・しゅ、守銭奴・・・・・・。
オレは500円のつり銭をあきらめて横道に入っていった。
へぇ・・・。
結構綺麗な町だな。
町並みは高層ビルやアスファルトの舗装された道ではなく、
低い屋根の一軒家が圧倒的に多い。
植えられた花はちょうど季節なのか満開状態。
花畑の中にあるような町だ。
だが、
「明るい・・・・・」
オレは小さくつぶやく。
オレは決して灰色の人間ではないハズだが・・・・。
どうにも明るすぎる。
オレ、と言う存在は必要のない世界。
オレが居ようと居まいとここの風景は変わらないのだろう。
それがどうにもオレの居心地を悪くしているようだった。
暗いな、オレ。
ネガティブさ120%。どうにも良くない。
気分を変えようと思うが、高校生にもなった男がひとり花畑、と言うのはさすがに気持ちが悪いだろう。オレも嫌だ。
どうしようか・・・、そう思ったオレの目に町の出口が入る。
花畑は続いていない。
ちょっと出るか。
入ってきたところまで戻るより、こちら側でいいだろう。
夜月はいないが紅蓮はいる。
問題はないはずだ。
この選択はしなかったほうが良かったかもしれない。
それとも、
この選択こそ、正しかったのか?
今のオレは知りえるわけがない。
2009.4.21 21:02:13 公開
2009.4.24 22:54:42 修正
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