生あるものの生きる世界
エピローグ side??? 生あるものの生きる世界[セイアルモノノイキルセカイ]
著 : 森羅
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side???
【お前の言う期待は、希望は『願う』か『願わない』じゃないのか?】
その通り。当たっている。
ボクはユウト君に向かって笑った。
ボクはね、君が『選んだ』ら。
何も願えず、望めず、悲鳴を上げることさえできないはずの君がそれでも『生きたい』って言ってくれるなら、
エゴでも何でもいい。“生きたい”“死にたい”“死ななきゃならない”“生きなきゃならない”。そんながんじがらめのボク達の鎖、その感情に押しつぶされず君が君として生きていたいとそう覚悟を決めてくれるなら。
そう思って君が行動すると言うなら。
「ユウト君、ボクはね・・・」
にっこりと笑う。
「『願う』よ」
ボクも我儘になってみようとそう思っていたんだよ。
天下無敵の“かみさま”にはなれなかったから。ならせめて。
「君の願いを叶えてあげる」
エゴだね、あぁ知っているよ。でも、たった一人のささやかな、当たり前の願い事さえ叶えてあげることが出来ないなんてあんまりじゃないか。“かみさま”?笑わせるな。それさえできないと言うのなら、ボクが存在する意味なんてどこにもない。いてもいなくても同じじゃないか。
ユウト君一人を犠牲にすればそれで済むそれが一番簡単な計算だって知っているけれど、それが最大幸福だとそうわかってはいるけれど、それはもううんざりだ。正しいであろう答えを選び続けて、ボクは世界の狭間にいた。そこで何もせずに、何もできずに世界を見ていた。悲しいも寂しいも楽しいも嬉しいも全て感じないようにして。それは本当にボクにとって幸せだったの?違うでしょう?ねぇ。違うよね、“創造神(アルセウス)”?
【・・・お前、それ】
驚いたようなユウト君の声にボクは笑う。うん、と頷きながら。
だってボクが全部幸せにしてあげたいって祈っていてもそれは何もせずには叶わない。結局どうあがいてもボクは全てを救ってあげられる“かみさま”になんてなれやしないんだ。“何もせずには何も叶わない“んだから。最善として、これこそが少しでも多くの人を幸せにする結論だってそう思い込んで閉じこもっていたつもりだったけれど、それさえ下らない自己満足だった。ただの独り善がりだった。だって、それは誰も救わないんだから。
それならいっそ。
「ユウト君は死ぬ、いや消えるつもりだったでしょ?終わったら消えてもいいってそう思ってたでしょ?
でも君は自己犠牲が嫌いじゃなかったかな?無理して主人公なんて気取らなくてもいい。そんなの君に似合わない」
くすくすとボクは官能的に笑う。ぐっ、と黙るユウト君を見ているのは楽しい。
そう、楽しい。とても、とても。それは懐かしい記憶。世界の初め、創った世界が愛しくて、生まれてきてくれて嬉しくて。そこで生きる彼らと遊ぶのはとてもとても楽しかった。彼らのことが大好きだった。今もそしてきっとこれからも。
「そうだね、繰り返すようだけれど君を消すのが正しいだろう。ボクでもわかるし、君もそう承知していたはずだ。世界から拒絶され、生きている権利を与えられない君。世界とユウト君一人を秤にかけて世界を取らない者はきっと少ない。それは最大幸福だからね。でもね、そんな安っぽい結末を一体誰が望んでいると言うんだい?」
生きていて良いのかと、そうユウト君が尋ねる。矛盾はどうするのかと壊れてしまう世界はどうするのかとそう尋ねる。ボクはそれに笑った。どこまで安心させるように、優しく。誰かにずっと言いたくて、優しく優しく言ってあげたくて、それなのに言えなかったその言葉を心の中でそおっと囁いた。
『大丈夫だよ』と。
「生きていて良いよ。だってそれなら、繰り返すことになるけどそれならボクはどうなるのさ?一番最初に世界に矛盾を作ったのは世界を創ったボクなのに。大丈夫、確かに君は世界を壊す要素ではあるけど、というか二つの世界にヒビを入れた張本人だけど、でも本当は君が思っている以上に世界は頑丈にできているんだ」
驚くような訝るような表情がユウト君の顔に映る。ボクはそんなユウト君に向かってえへんと胸を張った。どこまでも無限に広がり、何色でもない夢幻の世界が目の前には広がっている。何も感じないようにして、その代償に傷ついて救われていた心が、いつの間にかひっくり返っていた。傷ついていたものが救われ、救われていたものが傷ついていく。それは優しくて切なくて・・・一生救われない痛み。きっと、きっとボクはこの選択に後悔するだろう。うん、知ってるよ。それでも構わないんだ。
「『瞬きにも足りない時間』。・・・ボクにとって、いや、世界にとって君たちの人生なんてそんなものなんだよ。虹よりも儚く、一瞬よりも短い。今回は千年単位で時間や空間が移動したからおかしくなっただけ。崩れはじめた世界に君がぶち込まれたからこそ世界は強烈な過剰反応を起こしたんだもん」
【おい、お前。それじゃ・・・】
少しだけユウト君が慌てる。それは怒りとも羞恥とも驚愕ともつかない。そのすべてが混ざったようなそれにボクはにやりと意地悪く口を歪ませた。確かにあれだけどん底にまで叩き込んだんだ。この答えは拍子抜けを通り越して怒りを芽生えさせるだろう。だけど、君が何もしなくても救われたんじゃないかと思うならそれは違う。それは違うんだよ。
「でもね、ユウト君。違うよ。これは約束された答えじゃない。君はいつまでたっても与えられるだけの生き物なのかい?ケイヤ君もアヤちゃんも皆自分で選び、傷つきそれでも進みたいと言って進んだのに。君だけがただ与えられるがままに救われて、傷つけられて、消されるの?違うでしょう?ボクがそのことを君に話したのは君が与えられたレールから逃れようとした結果だもん。君が諦めたらボクは君を助けたりしなかった。ボクは黙って『いつもと同じように』その結末を記録していた。何もせずにね。勿論願ってはいたけれど。心の底から願っていたけれど。
そして、君は動いた。クレセリアに言われ、夜月君に言われ、ケイヤ君言われ、支えられて救われて、なんだかんだで君は選び続けてここまで来た。だからボク達は動くんだよ。君の選んだ結果としてボクは我儘を願うんだよ。生きていて欲しいって。生かしてあげたいって」
【つまり、選んだのはオレたちだと?お前を巻き込んで、オレを『生かしてくれる』選択をさせたのはオレたちだと、そういうことか】
「うん、そう」
君が選んだからこそ、この結末ができた。なぜなら、救われたのは、ボクもなのだから。
本当はね、ボクは君を通して、自分自身を見ていたんだ。君を自分と重ねていたんだ。小さく蹲る君に、ボクはボク自身を見ていたんだよ。だから、君が選べば選ぶだけボクにも何かできるのではないかとそう思えたんだ。これはその結果なんだよ。ボクも君達と何も変わらず選んだんだよ。君の願いを叶えてあげると、そうボクに言わしめたのはユウト君たち自身なんだよ。・・・そんなこと、君には教えてあげないけれど。
力が抜けたようにユウト君はその場に座り込んだ。いや、足場と言うものがこの世界にはないのだから座り込むと言うのはおかしいかもしれないけれど。苦笑と共にユウト君は顔を上げる。
【なんだか、上手く載せられた気がするんだが・・・】
「そうかな、・・・うーん、そうかもね。でもさ、もしボクが本当に君達を、生あるものを好き勝手できるなら、ボクの創ったシナリオ通りに動かすことができるなら、ボクはもっと遊んださ。最悪の結末に君を叩き落としてみたり、突き落として、突き落として最後の最後にドラマチックに救いを持ってきたりね。そんなことができるならボクはゲームで遊ぶように君達の人生を弄んだよ。でもね」
でもね。
ボクはそんなことできやしない。だってボクはただの。
「でもさ、残念ながこの世界に都合の良い、完全無欠の神様はいないんだよ。いるのはただ、無力な生き物(ポケモン)さ。だから、ボクは君を物語のエンディングに導いてあげることなんてできない。ボクは結末なんて知らない。知りたくない。だから、君が、君達が思うままに選んだからその結果としてボクが少しだけ手助けをしようと決めただけ。ボクだってただの物語の登場人物。ボクを創った神様とやらがもしいると言うのならボクはそのヒトの手駒でしかないのかもしれないね」
ボクは微笑む。綺麗に、綺麗に。ユウト君はボクを見つめたまま何も言わない。
ここにいるのは、ボクはどこまでも不完全な“かみさま”だ。誰かの手駒でしかないかもしれない生き物だ。だからボクに“かみさま”であることをやめる選択肢を選ばせたのは、その選択肢をくれたのは君達。そのことを強調するようにボクは言葉をゆっくりと紡いでいた。
【矛盾は、どうするんだよ・・・】
納得できたようなできていないような微妙な感情を言葉に含ませているユウト君の質問にボクは答えを返す。話を逸らすようにそんな質問をするユウト君の心は少しだけ揺れていた。ボクが話したことではなく、何か、違うことで。たぶんきっと、それはボク自身に対することで。悲しいでもなく、辛いでもなく、寂しいでもなく、憐れむでもなく、どちらかと言うとそれは怒りにも近い感情。けれどユウト君自身はその感情の名前を解してはいない。ボクもそれに対して何も言うつもりはなかった。ただ少しだけさっきまでとは違う意味で笑ってユウト君の質問に答えることにする。矛盾はね、心配しなくても君がそう選んだ時のために答えは用意している。抜け穴にも近い、取って置きの答えを。
君達誰もが『しあわせ』になれる方法を。
ボクにできる、最大限の祝福を。
「君は『しんく』だよね?そして『しんく』である限り、アヤちゃんの願いもケイヤ君の望みも叶えなきゃならないね。なら、決まってる。単純明快な答えがそこにあるだろう?行き来すればいい、二つの世界を。そうすればバランスも綺麗になるしね」
呆気にとられているような、そんな間抜けた顔がユウト君に張り付いていた。
ボクはその表情が面白くて笑いを噛み締める。だってミオ図書館で言ったでしょう?そしてさっきも。君はきちんと“ボクに許可をもらった”って。ボクはユウト君に向かって笑う。ほうら、これで『めでたしめでたし』。みんなが笑顔になれる、最高の答えでしょう、と。
・・・勿論代償がないわけではない。そのことに対して対価がないわけではない。けれどそれは君達ではなくボクが、いやボク達が支払うもの。だから君には何も言わない。絶対に教えてあげない。ただただ君達は幸せを享受してくれればいい。今まで沢山苦しんだのだから。これからもきっとどこかで苦しむのだから。でも、まぁ君は、
「君の願いはこれで叶った。じゃあ、次はボクの、いいえ私の番。貴方は叶えてくれるんでしょう?》
【・・・それでいいのか?】
でもまぁ、君はその代償を理解してしまっているようだけれど。
『傷つく』と。
深く相手を知れば知るだけ相手が愛しくなって、愛しくなって。
大切に思えば思うだけ、失ったときの悲しみがつらいと。
深く深く傷つくと。その傷こそが代償だと、そう気づいているようだけれど。
だってボクの生命ほど君達の生命は永くない。繰り返し繰り返し生まれてきてもそれは『そのヒト』ではないのをボクは良く知っている。ボクの生命が永遠だと言うのならボクは永遠に今よりもっと深い傷と痛みを得るだろう。そして、その傷を癒してくれるヒトは二度とボクの目の前には現れてくれない。でも、それでもいいんだよ。なぜなら―――。
「もちろん」
ボクは笑う。それが願いなのだからと。だから叶えてほしいのだと。ユウト君はボクの笑顔を何とも言えない表情で見上げていた。けれど結局ユウト君はそれで良いなら構わないと言った。何も言わないのがこの子らしいのだろうと、そうボクは心の中でそっと笑う。
「ねぇ、ユウト君。これはエゴだよね。この選択が必ずしも幸せとは限らないのに。でもボクは願わずにはいられないんだ。予定調和な安っぽい結末なんて、“正しいと思われるであろう“結末なんて、そんなの望んでいないんだ。物語はもっと楽しくハッピーエンドじゃなきゃ。そう思わないかい?」
「あぁ、お前は悪党だ。・・・・・・『白闇(はくあ)』」
にっ、と笑うユウト君にボクも同じように笑った。
―――なぜなら。今はただ、この陽炎のようなこの刹那が愛しいのだから。
その傷さえも優しく切なく愛しいのだから。
*
生あるものは明日を祈る。
この世界に絶望し、望みは無いと吐き捨てる。
それなのに、
いつもいつも待っているんだ。
一秒一秒『何か』に期待して、何も起こらないことに失望して、
それでもまた。
こっそり、そうっと。
誰にも気づかれないように、自分にさえも悟られないように。
ボク達は明日(みらい)を願い続けるんだ――――――。
The End.
And, To Be Continue.
2012.8.26 00:55:15 公開
■ コメント (3)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
12.8.28 00:41 - 森羅 (tokeisou) |
コメント有難うございます!!chipmunkさん!! こちらでは初めまして。そしてお久しぶりですね、忘れるわけないじゃないですか。しまりすさん!ツイッターも最近お見かけしなかったので、お忙しいのだろうと思っておりました。 いえいえ読んでくださっていただけでも感涙の極みですよ…!!本当にありがとうございます、無事に完結いたしましたm(__)m 視点がそれぞれ入れ替わる一人称形式でしたが、それによって彼らを少しでも巧く書くことができたなら、それに惹かれたと言ってくだされば何よりです!!読みづらい部分も多々とあったことと思いますが……有難うございますm(__)m 謎解きはもうごちゃごちゃしていて本当にすみませんっっっ(滝汗)あっちに飛びこっちに飛びとかなり読みづらかったことでしょう。申し訳ない限りですorzそれなのにジグソーパズルのようだと謎解きが面白かったとそう言ってくださって本当に嬉しい限りでございます(土下座 そうですね、作者の小恥ずかしい話ですが、僕は主人公は一人ではないと思っております。ゆーと達、″かみさま”達、『しんく』、謎と答え、chipmunkさんのおっしゃるように彼ら、それらはパズルのピースであり全体ではありません。単体では何であるかすらわからないものです。ですので、そう感じて下さったchipmunkさんには感謝しかございませんっ(;ω;) エピローグの副題は王道ですね。本編最終話に使おうか悩んだものでもあるのですが、まぁそれは余談ということで置いておいて。ちょっとなぁと色々考えたものですので、内容と合ってると思って頂ければ安堵です、何よりです>< ユウト一行ケイヤチームアヤパーティ、それぞれ少しでもうまく書いてやりたいと思うばかりでしたが。。感情移入してくださったのであればそれ以上の幸福はありません。幸せです。 ちょっと文字数オーバーしてしまったので続きます。すみません!! 12.8.28 00:38 - 森羅 (tokeisou) |
こちらでは初めまして、chipmunkという者です。以前ポケコンチャットでお世話になっていました。もう1年近く前のことですし、忘れてしまわれたかもしれませんが…汗 チャットをしていたころからこの作品を追いかけていましたが、ついに完結してしまったということでコメントにやってきました!チキンなので今まで来れなかったんです><! 色々な人物、ポケモンの視点から語られていく物語のスタイルが、最初に読んだ時とても印象に残りました。それぞれの気持ち、叫びが事細かに描かれていたのも、この作品に惹かれた大きな理由です。 作中でも登場することばですが、まさにジグソーパズルのように謎が解かれていくのがとても楽しく面白く、追うごとにはまりこんでいきました!「契約者」、二人の「しんく」、神様たち、願い事…。一つ一つのピースが集まって、この作品を形作ったんだなあ、なんて、しんみりと思ってしまいました。読むごとにすっきりしていったのもすごく楽しく、今ではいい思い出です。 エピローグの副題にしても、一種の王道ともいうべきかもしれませんが、作品タイトルがここに入るということ、そしてその内容にぴったり当てはまっているということに、感慨のようなものすら覚えてしまいます。 ユウト君の一行に和まされ、ケイヤ君チームの面々にいつも顔がほころび、アヤちゃんのパーティにはよく笑わせてもらいながら、どこかではっとさせられることもありました。 これだけ長くに渡って連載されてきた作品が終わりを迎えると、嬉しさとそれ以上の寂しさを感じるものです。けれども、登場人物たちそれぞれの道しるべ、これからの生き方が物語の結末ではきちんと示されていて、改めてこの作品は完結したんだ、と思わされます。なんというか、こういう最後まで全てを書ききらず、言わば行く末を見守るような終わり方が、余韻を感じられるという面からも大好きなもので…。 とにかく、とても素敵な作品をここまで書いてくださって、ありがとうございました!!! 上手く言葉にできていない上に、なんかごちゃごちゃ長く書きまくり過ぎた気がしますが(すみません!)、一番言いたいのは今の言葉なんだと思います。そして、お疲れさまでした! また、森羅さんの新しい連載作品が読める日が来ることを祈っております! この辺りにて、失礼いたします。 12.8.27 01:57 - chipmunk (cwidder) |
すみません、続きです。
本当に長かったですねえ。予定では1年ほどで終わるつもりだったのですが。おかしいな。
「寂しさ」。それはなんだかむず痒い気分です。いえ、僕に対してではなく、ユウト達に対してなので僕がそれを感じるのは少しおかしいのかもしれませんが。いえ、その、僕も感じているんですけどね。なんだか満たされるというよりは空っぽになった気分です。道しるべ、これからに関しては生あるの物語が彼らの物語のほんの一部でしかなく、「一区切りしただけ」のつもりだからだったのです。余韻なんてこれっぽっちも考えてなかったんですよ(笑うところ
素敵だなんてとんでもないです。有難うございます。
うまく言葉にできていないなんてそんなことありませんよ。とても嬉しいです。はい、有難うございます。おつありですm(__)m
それではユウト、ケイヤ、アヤ達の旅路にお付き合い下さり、また物語のワンピリオドまでご覧下さり、もうこちらは返す言葉が御座いません。有難うございますばかり安っぽく繰り返しているようですが、もう本当に感謝の一言なんです、それ以外の言葉が見つからないんです……!!!
長々しいコメントになってしまい申し訳ございません。
本当にありがとうございましたm(__)m
それでは、失礼を。
P.S.し、新連載……?(返事がない。ただの屍のようだ