生あるものの生きる世界
17.side ユウト 欠片[ポケモンセンター]
著 : 森羅
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あいまいな景色。
それは、これが夢である事を証明するかのように。
ぼやけて見えるのは、夢だからか、泣いているからか。
見えるのは白。
一面の、穢れなき純白。
誰かが胸の前で手を組む。
あたかも、祈るように。
何への祈りかは知りえない。
「・・・・・・・お?」
気がつけば片手を上に上げていた。
オレは寝転がっているから自分の手が空に手を伸ばしているよう思える。
「あぁ・・・そっか。泊めてもらったんだっけ・・」
そう言いながらソファーをつなげて作った簡易ベットから起き上がる。
髪の毛が寝癖ではねているのがわかった。
ここはコトブキシティのポケモンセンター。
もっと正確に言うとそのロビー。ゲームには無いが実際はここは宿泊施設も兼ねている。まぁ、当然必要な設備だろう。そして、もちろん、無料(タダ)で。しかし、泊めてもらうにはある『条件』があった。
『トレーナーカードの提示』
その言葉はオレにとってある種の絶望に近かった。
ある一定年齢になった時に申し込みをすればもらえるカード。
『この世界の人間であれば』誰もが普通に書き込める住所、氏名、年齢もろもろを書類に書き込み申し込みをすればその日のうちにもらえる。誰か一人が持っているならその1グループまるまる泊まれる。が、しかし。
オレはそのカードを当然のことながら持っていない。
申し込みなさいますか?」と笑顔で聞いてくれたここの人には悪いが、氏名、年齢は書けても、住所、電話番号なんかは確実に無理だ。博士のところの住所を書き込んでやろうか、とふと思ったが、
さすがにこれ以上迷惑を掛ける訳にも行かない。というより、住民登録なんかで確認されると一発でバレる。
『オレが存在しない人間だ』って。
つまりは、
オレはペンを握ったままあいまいな笑顔を向けざるを得なかった、と言うわけだ。
「ロビーでもいいんで泊めてください」と交渉すること昨日の夜8時ごろから気がつけば10時に至るまで。「どうして住所なんかが書けないの?」ともっともな質問を繰り出すセンターの人の言葉を避けるのは、ある意味道路を突っ走るより大変だった、とだけ言っておこう。
そして、やっとのことで泊めてもらった。
本当はベットが恋しかったが、野宿よりは数倍マシだ。
オレは立ち上がって固まった体を軽くほぐす。
時計を見ると時間は大体6:30ぐらいで、それは陸上部の朝練の時に起きる時刻とほぼ同じ。
習慣と言うものは恐ろしいもんだ、と一人思った。
辺りを見回すともうそろそろセンターが開く時間らしく、ばたばたと準備に追われている人があちらこちらにいる。ポケモンセンターにも営業時間があるんだな、昨日の12時くらいにはシャッターが下りたし。
オレはその人たちの邪魔をしないように貸してもらった毛布を出来る限り綺麗にたたんで、ソファーを元の位置に戻す。そして床でまだ寝ているブラッキーを起こそうと声をかけた。
「夜月、起きろ。いつまで寝てる気だ?」
《・・・・・・・・・》
返事、なし。
オレは思いっきり耳をつねってみた。
《・・・・・・・・・・・・・・離せ》
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
地獄から響くような恐ろしい声にオレは命の危険を感じる。
すぐさま耳から手を離した。
すー、すー。
少し経つとまた寝息が聞こえ始める。寝息だけ聞くと子猫みたいだ。
実態は獅子だが。
次は鼻をつまんでみる。
少し苦しそうにしてから前足で鼻の方をかく。
引っかかれないうちにオレは手を離した。
・・・・・・・・どうしたもんだか。
こう言うタイプは寝起きの機嫌がかなり悪い。
人に起こされるともっと悪くなる。
・・・・・・最悪だ・・・・・・。
とりあえず、夜月のことは置いといて先に毛布を返してきた方が賢そうだ。
そう思ったオレはたたんだ毛布を受付に持っていく。
「あの、すみません。ありがとうございました」
出来る限り丁寧にお礼を言って、毛布を返す。
受け取ったセンターのおねーさんは完璧な営業スマイルで対応してくれた。
オレはついでに一つ思いついたので、聞く。
「すみません、買い物とかできる場所どこかにありますか?・・・もう開いてますか?」
確かゲームでは大概それぞれの町に一つずつあったはずだが。
ここにもあるだろうか?
「フレンドリィショップですか?ありますよ。青い屋根の建物です。・・・すぐそこですよ。もう開いているはずです」
「ありがとうございます。・・・・・・・・あの、すみませんが、夜月・・あのブラッキーを置いておいてもいいですか?起きないので・・・。すぐ戻ってきます」
「・・・・いいですが、モンスターボールに入れたらいいのではないですか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・そりゃそうなんだが。
「とりあえず、お願いします」
「わかりました」
無料(タダ)の笑顔がありがたかった。
2009.3.27 12:55:42 公開
2011.10.27 01:18:19 修正
■ コメント (6)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
12.7.15 03:26 - 森羅 (tokeisou) |
ポケモンセンターのジョーイさんは素晴らしいですよね でも全員揃うと全員同じ顔なので不気味です あっ これは多分アニメの場合です ゲームでは種類に応じて 同じ顔が複数いますよね と・・・ ここまで書いて気付きました 同じ顔が複数いる世界って怖くね そりゃぁ 双子などもたくさんいますが いすぎるのはさすがに怖いですよ 夜月は言葉が聞こえる分怖いですね いくら可愛くても 怖いのはごめんです でも見た目は子猫って(寝ていたときのことだけど) そういえば 「しし」 (漢字の変換で分かれてしまうので不可能でした) という分類なんですよね ウサギっぽいのに・・・・・・ 12.7.13 23:08 - 不明(削除済) (wert) |
さてはて、後になってしまって申し訳ありません。 改めましてコメントありがとうございます!! 夜月ですが、どうやって起こしましょうか?(聞くな!) 夜月が早寝早起きを身につけてくれるといいのですが。 それから、 夜月の「地獄から響くような恐ろしい声」をお聞きになりたいなら簡単です。 ・・・・つまりは僕みたいなヤツです。 朝が無茶苦茶に弱い僕は朝練のためだけに早起きしてます。 寝起きが素晴らしく悪いです。 起こされるとさらに悪いです。 自分が言うのもなんですが、最悪です。 ちなみに遠くから呼ぶと、 ・・・・・・・聞こえません。 近くの目覚ましすら聞こえない事もしばしばですから・・・。 それをそのまま移植した夜月君を起こすのは不可能です。 いや、まったくどうしますか?(だから聞くな!) ・・・・・頑張って何とかします(なればいいなぁ)・・・(汗) 09.3.27 21:56 - 森羅 (tokeisou) |
気がつけばコメントが二つも!! とりあえず時間の早い方からお返ししていきます。 と言う事で、コメントありがとうございます!KaZuKiさん。 そうですね、トレーナーカードの問題は最重要問題ですよ。 アヤと合流すれば泊めてもらえると思いますが・・・。 ゆーとのお金の話は次の話で書くつもりです。(と言うより今から) それと、ゆーとが夜月を見捨てると言う究極の選択をすると大変です。 夜月が勝手に死んでしまったらゆーとも必然的に死んでしまいますもん。(なぜか明るい・・・) それでは失礼をー!! 09.3.27 21:36 - 森羅 (tokeisou) |
今回のゆーとは、現実的な問題の壁にぶち当たってしまいましたね・・・。 この先どうするのだろう?もしかしたら、誰かが助け舟を出してくれるのでは・・・? と、いろいろ思いつつ、そこのところは次回に期待します^^ それと、ブラッキーが怖いですね〜(笑) 「地獄から響くような恐ろしい声にオレは命の危険を感じる。」どんな、声でしょうかね。 今後、ゆーとは大変でしょうね。 自分だったら、起こすポイントは、離れて呼ぶ。(攻撃回避の為) でも、やられそう・・・^^; では。 09.3.27 19:52 - 不明(削除済) (45syost) |
うわぁ……ユウト君、根本的な問題に直面しましたね。 トレーナーカードが無い……というか作れない、これは致命的ですね。 さすがにユウト君も寝ぼすけの夜月に究極の選択し、こいつを見捨てて新たなる旅に出るの選択肢はなかったようですね。 しかし、ユウト君お金持っているんですかね? たしかにポケモンセンターは無料でも、フレンドリィショップでは別でしょうに……ていうか腹減らないのか? さて、無駄な疑問を妄想しながら、18.saidを期待して待っております♪ 09.3.27 15:28 - 不明(削除済) (fantasic) |
アニメのジョーイさんは皆さん同じ顔ですね。微妙に違うとか親類とかそんな話だったよう思いますが。
同じ顔の人間がいっぱいいるのはちょっと怖い光景ですね。キノの旅のとある話を思い出します。
夜月怖いですか?寝てるところ邪魔されて機嫌悪いんですよ。彼は夜行性なので朝が苦手なのではないでしょうか。もしくは昼寝が好きなのかも、その両方かもしれませんね。まぁ、命の危険を感じる程度には怖いと思います。
あくまで夜月に対する「子猫」や「獅子」はあくまでユウトの主観です。ブラッキーって何に似てるかっての難しいですよね。犬っぽくもありますし、猫っぽくもありますし、耳は兎みたいですし。
さて、18のコメントを見てきっとコメントの方をとめて頂いたと思うのですが、これですべてのコメントの方に返信の方を書かせていただきました。こんなに数多くのコメント本当にありがとうございます。こんなに一気にたくさんのコメントを返信したのは人生初の体験でした。
あの、ですが、誠に申し訳ないのですが、18のコメントにも書きました通り、これほどたくさんのコメントにそれぞれ返せる自信が主にはありません。今回は返せましたが、この文章はとにもかくにも長いですのでそのおのおのにコメントを頂いても確実に返せないと思うのです。贅沢なことだとはわかっているのですが、折角の頂いているコメントですし、流仕事ではなくきちんとお返事の方したいと思っておりますので、もっと減らしていただければ何よりと思います。
あと、誠に申し訳ないのですが、本編の内容と関係のない部分(御自身のこと、ご自身の小説のことなど)についてはこちらに反応のしようがありません。もしかするとskyさんの中でつながっているのかもしれませんが、こちらにはわかりかねるのです。
このコメントを見て気分を害されたのであれば謝罪いたします。ですが、どうかお願いいたします。