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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

174.sideユウト×ケイヤ 説得[パースエイド]

著 : 森羅

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sideユウト

ひょいひょいとその消えたり現れたりする地面にも似た何かの間を飛びながらオレは世界を進む。あれを追いかけるために。

静かにしていようと、思ったのに。
もう何もしないでおこうと、あきらめたのに。
何も残ってはいないと知っているのに。

だが、まぁ。見えてしまったのだから仕方がないだろう。もう少しだけ赦して欲しい。見つけてしまったんだ、あの黒い・・・真紅が望んだ『神様』を。ここまで連れてきてもらったのだから、せめて。だから。・・・・・・そこまで考えた時点で苦笑が漏れた。

一体オレは『誰に赦してもらおう』と思ってるんだ?
言い訳を作ろうと、赦しを乞おうと、

この世界は沈黙しているだけだというのに。

sideケイヤ

まさかゆーと探してアカギに会うなんてね・・・。
重力を完全に無視して立つアカギにぼくはにっこり笑いかける。

「ギラティナにここまで連れて来てもらったんでしょ?・・・よーこそ、『やぶれたせかい』に」

ぼくは笑顔のまま胸に手を当てくるりと一礼。先頭にいた夜月は興味なさげにアカギに一瞥をくれるだけだったけど、燐は姿勢を低くとって威嚇する。アカギはそれに対してぼくを見つめたまま固まった。途切れ途切れに言葉が漏れ聞こえる。

「『やぶれた、せかい』・・・だと?」
「本当の名前はアカギにとっての『死の世界』」

アカギの言葉が終わるか終らないか、ぼくは言葉を被せて続けた。はっきりと聞こえただろうそれにアカギが目を見開くのがはっきりと見える。

「アカギは調べていたはずだよね?その神話についても。だって、アカギが調べたものが回りに回ってシロナからぼくに届いたんだし」
「何・・・?」

何でもないようにさり気なく言った言葉がアカギが表情をゆがませる。ぼくは笑ったまま。
そう。アカギが調べていたものをミズキがハッキングし、それがシロナに渡って、そしてぼくにまで繋がっている。だからアカギはこの話を知っているはずだ。信じる信じないはともかく、残された神話として。慎重に言葉を選びながら、理性をつなぎながら、ぼくはゆっくり言葉を続けていく。

「アカギ。帰ってくれないかな?この世界から。そして、パルキアとディアルガを解放してあげてほしい。それともずっとこの世界にいる?ぼくは、構わないけど」

両手を腰のあたりで後ろに組んでぼくはアカギに近づくように一歩一歩足を進めていった。それに対してアカギは後退も前進もせずに突っ立ったままぼくをにらみつけて吠える。

「これが、『死の世界』だと!?だが、だが神話では・・・!」
「うん。だからここは壊れてしまった世界。アカギの変えたい世界と対になっていて、互いに影響し合っているギラティナの住む世界。アカギの言うように『死の世界』であり『生の世界』である世界。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「・・・壊してやる・・・。壊してやる、この世界を。私の邪魔をしないように!あの影のポケモンもろとも!」

ぼくの言葉を聞いていたのかいないのか、ただただ怒りを表すアカギ。静寂の世界にその声は大きく響いた。ぼくはもう笑っていない。ただ、冷たいまなざしで彼を見上げているだけ。いつまで他人を否定すれば気が済むんだろう?いったいいつまで淋しくて悲しいままなんだろう?一人でなんて、生きてはいけないのに。燐がかすかに鳴いてぼくの手にその暖かい体毛を押し付けた。

「ねぇ。ねぇ、アカギ」

凛とした声でぼくは再び口を開く。アカギは声にこちらを向き直った。燐の体毛の感触がかすかな余韻を残して手から消えていく。隣にいた透(ゆき)はぼくの斜め前を陣取り、凪は相変わらず後ろに浮かび、夜月は苛立った様子で前足を蹴っている。

「ここはね、アカギの望んだ世界でもあるんだよ」
「・・・・・・なん、だと・・・?」

訳が分からないと言わんばかりのアカギ。その隣を人が一人乗れるか乗れないかというサイズの岩が宙を浮かんで流れていく。ぼくは口元を少し、緩めて見せた。

「だって、この世界はアカギ以外誰もいないから」

暗く深い闇がアカギの背景に広がっている。それはまるで宇宙を思わせるような暗黒。ちらほら点在している地面の欠片や岩は遠くから見れば星のようにも見えて。その光景は孤独を魅せ、不安に押しつぶそうとしているみたいだ。それでもぼくは続ける。

「だって、そうでしょ?アカギは自分以外を認めない。誰とも目線が合わないから、それが恐ろしくて否定ばかりを繰り返してる。だから感情なんてなくなってしまえ、と言う。違うの?そうでしょ?アカギ、ぴったり型がはまるなんてことはありえないんだよ。アカギとそっくりな感情と考え方とを持った人なんて唯の一人もいないんだよ。そんな人はいないんだ」
「黙れ。・・・黙れっ!!!」

声を荒げるアカギ。ぼくはその声を冷静なまま聞いていた。逆にぴくりと片耳が跳ね、弾かれたようにあたりを見回すのは夜月。ぼくはまだ続ける。アカギには気付いてほしいから、カンナギでは駄目だったけど届かなかったけど、今度こそは。

だって声は届くはずなんだから。

「ほら、そうやって否定を繰り返す。ぼくの言葉すら黙って聞けないの?だから、だからね。アカギ。ここは誰もいないよ。アカギを崇める人も、アカギを否定する人も、誰もいない。・・・だからここなら、誰もいないここなら・・・アカギの願いは叶う。ねぇ、アカギ。望みはかなったでしょ?これが。これこそが、貴方の願いの末路なんだよ」

憐れんでいるつもりはないけど、そんな今の僕の顔は表情に見えるかもしれない。言葉を失っているアカギにぼくは最後の一言、言おうとして。

《ぶらあぁああ!?》

夜月の声にそれを奪われてしまう。驚いてそちらを見るぼくらに、目に映るのは遠くの一つの影。あれ、は・・・。

「ゆーと!?」

響いた声が届いたのか一瞬、影の足が止まった。ぼくの方を見た気もする。だけどそれを確認する暇もなく、向こうに見える影はすぐに向こうへと進んで行ってしまった。スタートダッシュで駆け出してしまった夜月を追いかけようとして、目を丸くしたアカギが目に入る。あぁ、もう!どうしてこうタイミングが悪いんだ!!ぼくは叫んだ。

「アカギ!どうするかはアカギが決めたらいい!この世界を壊せるというのなら壊してみればいい!全力で止めるけどね。でも、でも!ぼくの言ったこと忘れないで!!アカギの夢の終着点はここになるだけだ!!燐、凪、透。急ぐよ!」

凪の首回りにつかまってぼくは呼吸を整える。・・・苦し・・・。時間、結構使ちゃったなぁ。悲鳴を上げる肺と動悸が耳の奥で二重奏してる。頭も少しぼんやりしてきた。でも、アカギにも伝えたかった。時間がなかったのと伝わっているかどうかわからないのが残念なんだけど。さっきの言葉はほとんどぼくの推測というか勝手な想像だ。でも、きっとアカギがズレを感じたのは間違いないと思う。そんなことはない、それは勝手な考えだとそう言われてしまえばそれまで終わりだったんだけど、アカギの表情を見ていた限りまんざら外れでもなかったみたいだ。・・・確かにアカギのことでぼくが知っていることは少ない。ゲームの内容を除けば本当に少し会ったことがあるだけ。でもぼくは『刀匠』を知っている。彼の悲しい話を知っている。アカギはよく似ているから、だから同じ道を辿らないでほしいと思うだけ。否定ではなくて受け入れてほしいと思うだけ。たとえそれが勝手な押し付けがましい考え方だとしても。そして、もう一人不確定な存在にも。

肩の力を抜くようにぼくはゆっくり息を吐き出した。

side夜月(ブラッキー)

暗くて狭い世界。どこからか水が流れる聞こえる。結構大きな音なんだけど、どこからだろう。この世界・・・というか空間は重力が無茶苦茶なので垂直並行、あんまり急いで移動すると酔って気分が悪くなってくる。つまり、半規管が鋭い俺にとってはあんまりいい世界じゃない。
・・・・・・ずっとずっとイライラしていた。ずっと、空虚感が消えなくて。
あの瞬間、アカギが声を上げたとき驚いたように俺が辺りを見回したのはに驚いたとかそういう理由じゃない。

ユウトを、見つけたからだ。

いや、実際見つけたとかそういう言い方はおかしいんだろうけど、でもなんとなく『居る』ってわかった。走る俺の後ろからケイヤたちが近づいてくる。だが今の俺にとって、アカギもアカギにかまっているケイヤもどうでもいい。重要なのはユウトだけだ。・・・もう!!俺って大馬鹿だな。苦笑いが漏れる。全然、紅蓮や緑羽に大きなこと言えねーじゃねーか。ケイヤのように見栄を張って笑って見せてその実、ガキみてーに駄々をこねて、置いて行かないでくれと、一人にしないでくれとそう思っているだなんて。一体なんで俺はこんなにユウトにこだわっちまってるんだろーな?たった数ヶ月、一緒にいただけなのにさ。・・・・・・あぁ、でも面倒臭いことを考えるのなんて疲れちまうだけから。

必要だから必要で。
ユウトを追いかけなきゃダメだって思ってるから追いかけるんだ。

それだけで十分な理由だろ?

sideケイヤ

全く躊躇いなく進んでいくゆーとに追いつけたのは夜月と凪のおかげに違いない。ぼく一人ではこの消えたり表れたりを繰り返す地面を跳ぶことはできなかっただろうから。それは身体能力と勇気の両方の意味で、だ。底なしの暗がりが見える崖っぷち、わかっていても跳びこえるのは結構怖い。これは命の保証がされているゲームじゃないんだから。
燐たちにはボールに戻ってもらって、いるのはぼくと夜月。そして今、目の前に立つのはよく知った人影。うつむき加減のせいか、薄暗い世界のせいかその表情をはっきりと見ることはできない。でも、想像しうる限り無表情か・・・もしくはぼんやりとも気の抜けたとも見えるあのいつもの表情なんだろう。

「・・・ゆーと」

頭の中でぐるぐる言葉が回る。言いたい言葉がたくさんある。だけど、かけるべき言葉はあるだろうに結局出てきた言葉はそれがやっと。ゆーとを直視することすらためらわれてしまう。だけど、ここで目を逸らすだなんてそんな逃げるようなことしちゃ駄目なんだ。目を逸らすのなら、ぼくはゆーとの前に立つ権利なんてない。

「ゆーと」

自分を奮い立たせるように、力を込めてゆっくり言葉を繰り返す。夜月は僕の隣でじっとしたまま。それはまるで何かを待っているかのように。ぼくの声に反応したのかのろのろと億劫そうにうつむき加減だったその顔が前を向いた。赤の入ったような黒い目がぼくを見る。背が高いだけの雑草のような木が、ずっと向こうで今にも消えそうに揺らいでいる。

「そんなやつ、いないさ。・・・深紅ならどうやったら出てくるのか知らない」
「いるよ。今、ぼくの目の前にいるよ。深紅じゃなくてゆーとに会いに来たんだ。・・・夜月もね」

あまりにも、あまりにもあっさりとゆーとは言い切ってしまった。自分などいないと、何もないのだと、そうこともなげに言い切ってしまった。見ていて、痛々しいほどに。言葉を迷子にしながら、つっかえつっかえぼくは続けようと口を開きかける。でも、声になったのはゆーとの言葉。

「ここならな、ここなら全然ざわつかないんだ。ずっと静かなままなんだ。オレ、この世界でなら生きていて良いのかなって」

その目はどこか遠くを見るようだった。口元がほんの少し緩んでいるのがわかる。その顔は穏やかそうで、優しそうで、でも哀しくて、どこか嘘っぽくて。・・・真紅を思い出さずにはいられなかった。一抹の不安を抱えながらぼくはなんとか言葉を絞り出す。

「ゆーとは・・・ゆーとはこの世界にいたいの?」

・・・そう、思えばその通り。アカギの願いの終点が『ここ』になるなら、ゆーとが『もしそう望むなら』ゆーとの望みの終着点も『ここ』になる。二人はそれぞれ世界を否定している人間と世界に否定されている人間なんだから。だから、もしゆーとがこの二つの世界に対して『壊れてしまえ』と思うなら、ゆーとの望みはここで叶う。叶ってしまう。もちろんわかってる。わかってるよ。ゆーとが『生きたい』と思うだけですでに世界を壊してしまう、と。それでも生きていてほしいなんて無茶苦茶なことをぼくは言おうとしている、と。でも、ゆーとがすでにこの『やぶれたせかい』に満足してしまっているなら?ぼくはゆーとにそれを望むのをやめろと言えるだろうか?言葉にするのは簡単な夢物語をそれでもやれと無責任なことが言えるだろうか?凍るぼくの前でゆーとは力なく笑った。

「居たいも居たくないもない。赦されないだけさ。オレはどちらでもないから。そんなこと、わかりきってるよ。・・・これもオレのせいだって言いたいんだろ。ここに生きているものがいないなんてそんなはずはない。ここはオレの知っている世界だったはずなんだから。この状況はオレが調和を崩したからだろう?心配しなくても黒い、ギラティナに会いたいだけだ。それくらいはしなきゃクレセリアたちに申し訳が立たない」
「・・・!!ちがっ!違うっ!ゆーと!!これは、この状況はアカギのせいだ!時間と空間の神を、ディアルガとパルキアを引きずり出したから!そのせいで穴が開いちゃったんだ!!だからこれはゆーとのせいじゃない!!ゆーとは何も悪くないっ!」

猛然とその言葉を否定するぼくにゆーとは苦笑にも泣き笑いにも見える顔で無気力に笑ったまま。一気にまくし立てたせいか肩が上下している。なのに、その言葉をゆーとは一瞬で、たった一言で切り捨てた。

「それも元を辿ればオレのせいだろ」
「そ、な・・・」

声が、うまく出ない。
二つの世界に穴をあけたのはアカギのせい。『やぶれたせかい』はアカギのせい。だけど、歪んでしまった時空、穴が開いた世界、元を辿ればぼくとアヤちゃんのせいで『しんく』のせいで、ゆーとのせい。喉がカラカラに渇いてしまっている。膝が震える。世界がさらに暗くなった気がして、飲み込まれそうになる。目の前に立ってるのはこれでもかと言うくらいよく知っているゆーとなのに。

《ぶらああぁっ!》
「・・・夜月?」
「夜月」

置物のように黙っていた夜月が急にたけった。ぼくはそれに呆然と答え、ゆーとは淡々と声を返す。ゆーとの目線が夜月へと移り、赤黒の目を逃れたぼくは息を深く吐き出した。まるで冷や水を浴びせかけられたように頭が冷静さを取り戻していく。夜月は視線を外すことなくにらむようにゆーとを見つめたまま何も言わない。ゆーともただ夜月を見ているだけだ。ぼくはその光景を見ながらぎゅ、うっと徐々に強く両手を握り込んだ。これは夜月がくれた時間。頭を冷やせと言う。そう、ゆーとの雰囲気に飲み込まれてる場合じゃない。ぼくは自分で『決めた』んだから。そう『選んだ』んだから。ぼくは小さな声で、本当に小さな声で燐を呼んだ。

「燐」
《なんですか?ケイ》

小さな声なのにはっきりと聞こえる燐の声。深い呼吸、肺胞に詰まっていた何かが外に吐き出されて消える。凪や透(ゆき)が抗議の声を上げているのがわかってぼくは少しだけ心の中で笑った。

「ぼくにエールを送ってくれる?」
《喜んで。貴方の望むままに行動してください、後悔したくないのでしょう?》

ころころと目を細めて笑っているだろう燐。今度は息を吸い込み、それと同時にグーの形をしたぼくの手を弛緩させた。

「ゆーと」

最初と同じようにゆっくり。だけどもっと柔らかく。ゆーとの目線にぼくは笑うことができた。夜月が視界の端で成り行きを見守っている。

「怒っていいよ。・・・ぼくはね、『しんく』にも『ゆーと』にも生きてほしいんだ。ゆーとも大切だから。だから、お願いだから生きてよ」
「無茶苦茶だな」
「そうだね。でも」

呆れ果てたようなゆーとの顔がぼくの言葉を閉ざす。もう何も聞きたくないと、ぼくに告げる。それは諦めにも近いもの。・・・これからぼくが言うのは安っぽくて馬鹿馬鹿しい言葉の数々だろう。ぼくができるのはそれだけで、ぼくに赦されたのはそれだけだから。でも、唯一無二ぼくにできることがどれだけ価値のないものでも、つまらないことだとしても、それがぼくにできることだというのなら。ぼくは下らない言葉を吐き出し続けてみせるよ。一つでも伝わるように届くように。だって、ぼくは諦めてほしくない、諦めたくない。ゆーとが口を開いた。

「どうしようもないじゃないか。完璧な回答があるのか?それとも何とかしてくれるのか?言うだけなら簡単だ。オレにだってできるさ。結局、お前が言いたいのはただの精神論だろ。想うだけで、願うだけで、望むだけで、叱咤されるだけで、・・・それだけで全てがうまく行くのなら世界はもっと優しいだろうさ。そんな都合の良い世界なんてどこにもないじゃないか」

あくまで穏やかに、諭すようなゆーとの言葉はどこまでも正しい。思うだけで、思って行動するだけで確実に何かが変わると言うのなら不幸になる人間はいない。誰もが立ち上がることができるだろうし、徒労なんて言葉は生まれない。この世界に不平等だと嘆く必要はない。うん、わかってるよ。この世界で誰もが絶望する。不平等だと嘆き、悲鳴を上げる。勝者が生まれ、敗者が生まれる。現に今も。・・・ぼくとアヤちゃん、『しんく』と4匹の神様、その願望がゆーとを創ったのにぼくらにはゆーとが救えないなんて、ゆーとに自力で何とかしろしか言えないなんて、なんて無力なんだろうって、なんて勝手なんだろうって思う。でも、でもね。ぼくは目を逸らさないまま言った。

「ごめん。そうだよ、ゆーとの言うとおり。だからこれはぼくの勝手な望み。利己的なエゴ、それ以上でもそれ以下でもないよ。無茶苦茶だって知ってる。わかってるよ。でも、それでも願うことも望むこともやめられないんだ。ゆーと、お願いだよ」

頑張ってよ、とはさすがに言えなかった。理論も理屈も何もあったもんじゃない。なんて我儘で身勝手な言葉なんだろ。頑張れ、とそれを言うだけなら誰にだってできるんだから。軽くて容易な自分の言葉に苦笑さえできなかった。だけど、それでもぼくは続けなきゃならない。続けることしかできない。ぼくの言葉にさっきまでゆーとの顔に浮かんでいた苦笑や泣き顔にも似た無気力な表情が歪んでいく。今、顔に映るのは憤りとあえぎが混ざりに混ざったような、泣き出しそうなそれ。

「どうしてっ。どうしてそんな都合の良いことばっかりオレに押し付けようとするんだ!?勝手なことばっかりだ!消えろと言って。足掻けと言って。生きろと言って。言うだけじゃないか!・・・なんだよ。なんなんだよ・・・願うこともオレにはできないんだよ!なのに、どうして。どうしてこれ以上を望むんだよ・・・・・・?」

ゆーとのこんな声を初めて聴いた気が、した。それは悲鳴。それは問いかけ。・・・泣いてこそいないけどその様子はまるで深紅と同じだった。どうして殺さねばならないのだと。どうして俺から奪うのだと。耳に残った声が、ゆーとの言葉と混ざって和音を作る。そして、ぼくはゆーとの問いに対する答えを持っていない。持っているのは、あと少しの時間と、あと少しの言葉。水の中にいるような重たい体を動かしてやっとのことでぼくはゆーとのすぐ目の前に立つ。ぎゅっと、寄りかかるように強くゆーとの腕をつかんだ。感情を全部押し込めたような、諦めてしまった目に戻ったゆーとはそれを抗わない。もしぼくにあげられるものがあるなら全部ゆーとにあげるのに。ぼくはその言葉を声にすることはできないけれど。だってそれは深紅の存在を揺るがすもので、結局ゆーとを傷つけてしまうだけの言葉だから。本当になんて完全な計算なんだろう。ぼくにできることがこんなに限られてしまっているなんて。ぼくらが勝手な理由でゆーとを創ってしまったのに。限界を訴える時間に、薄い酸素を必死で体内に取り込んだ。目だけは、目だけは絶対に逸らすもんか!

「これ以上何を、だって!?確かにぼくが言ってるのは精神論だよ、笑えばいい!現実でそんなうまく行くはずないって嗤えばいい!!だけど、だけど思わなきゃ何も始まらないんだっ!願わなきゃ叶えようとできないんだっ!そうでしょ!?」
「・・・・・・存在そのものが無いのに?思考さえ赦されないのに?何を願えば良いんだ?何を望むことなら赦してもらえるんだ?」

暗く、狭い世界に反響するぼくの声に答えるのは憂いを通り抜けた、憐れむような目。言葉の痛みを感じているのかいないのかさえ分からない。人形のように生気がなく、それゆえ穏やかな面貌。それが静かに尋ねている。何もできないのに、何ができるのかと。ぼくはさらに腕をつかむ力を強めた。お願い、お願いだから!

「利己的でいい!それでもゆーとに生きててほしい!深紅にも!真紅にも!・・・何を望めばいい?違う!ゆーとが願ってよ!ぼくらは望んでるよ。アヤちゃんも、夜月も、紅蓮も、緑羽も!でもゆーとがそう望まなきゃ意味ないじゃん!!諦めてしまって、それでいいの?ぼくは良くないっ!お願いだよ。生きようとしてよ!!ゆーとがここまで来たのは、帰ってきたのはどうして?帰って来たかったからだよね!?生きたいってそう願ったからだよね!!?ほら、望んでるっ!まだ諦めたくないってそう思ってる!それはゆーとが望んでるんでしょ!?それさえ嘘かも、作り物かも、都合のいいぼくらの望みのせいかもしれないけど・・・でも思ってるんだ!じゃあ、まだ諦めないでよ!願わないなんて言わないでよ!!生きたいって望んでよ・・・お願いだよ、『ユウト』・・・」

言い切った瞬間、目の前が暗転した。それはすぐ直ったけど、もう駄目だ。時間切れ。・・・堺、ごめん。苦しいのにありがとう。足元が沈んでいく。足元の黒い穴の向こうに、狂った色をした空が見える。堺の慟哭の咆哮が世界を揺るがせている。・・・そうだね、アヤちゃんを、堺を助けなきゃね。アカギに時間を使いすぎちゃった。逆にぎょっとした顔をしていたのはゆーと。力が抜けていくぼくの手がゆーとの腕から滑り抜けていく。じわりじわりと黒い穴の淵に飲み込まれていきながらぼくはゆーとに向かって笑った。

「堺がね、苦しいのに繋ぎ止めててくれたんだ。ね、ゆーと。ぼくにとってこの世界、は苦しくってさ。だから、ゆーとはこんな感じなのかな、って、思った。どうすれば世界が元に戻るのか、わからないけど・・・。アカギに会ったら止めてあげてほしい。ぼくは時間が足りなかった。・・・ごめんね、ゆーと。ごめん。ごめんね。こんなことしかできなくて、言うことができなくて、ごめんね。でも、ぼくはゆーとにも生きて欲しいよ・・・」

ずるり、と腕から手が離れた。ゆーとが遠ざかっていく。最後にかすかに横に目線をそらすと夜月が見える。後は頼んだよ、と言う声は言葉にはならなかったけど夜月は了解してくれるだろう、ぼくに言われるまでもなく。
黒い穴を通る時間が本当はもっと短いんだけど今回はどうにも長い。空間が捻じ曲がって歪んでしまってる影響とか堺の状態とかそんなのの影響だろうけど、せっかくなのでその間にぼくは考える。結局ぼくができたのは、身勝手で下らない言葉をゆーとに押し付けただけだった。確かにできることはそれだけだったよ。ぼくに与えられた時間、それを使ってできることの全部をしたよ、必死でゆーとを繋ぎ止めようとしたよ。でも高々言葉だけで何ができるだろうかって。ゆーとは何も感じなかったんじゃないだろうかって。言った言葉に後悔はない。ゆーとに生きてほしいって。でも、ただそれだけしかできなかったこと、それが最善だったとはわかっていてもやっぱり悔しい。

《ケイ》
「燐。少しでも、伝わえることができたかなあ・・・?」

いつの間にボールから出たのか金色の毛並みが、九本の尾が、赤い瞳が、目を射る。そんな燐を見つめながらぼくは燐に答えた。燐は覗き込むようにぼくの顔を見上げ、心配そうな目で言う。

《ケイ。望んだことを、後悔していますか?》
「・・・・・・ううん、それはないよ」

燐と一緒にいたかった。深紅といたかった。だから望んだ。その権利を偶然にも得ることができたから。だから、その選択に後悔はない。ゆーとの前できちんと言って見せたんだから。燐は頷いたぼくに向かって目を細めてどこまでも優しく笑う。

《・・・そうですか。ケイ、そう言ってくださるなら良いことを思い出させてあげます》
「?」
《『だって、言ってほしいから。確かにね、曖昧なんだよ。それにそれだけじゃ伝わらない事もたくさんある。言葉には実体がないから。でもね、何も言わないよりはきっとたくさんのことが伝わるとぼくは思ってるんだ。だからぼくは思ったことを言うんだよ』》

びっくりするぼくに対して意地悪っぽい目をした燐。おかしそうに、面白そうに、そっと澄んだ声がそう囁く。その声が心地よく耳に残って響く。それは、ぼくがかつて燐に対して言った言葉。曖昧だけどそれでも言いたいのだと。言葉を重ねるようにして、燐は言った。

《思い出しましたか?貴方が教えてくれた言葉ですよ》
「・・・うん、思い出した」
《貴方はできることをしました。貴方のできることをしました。あとは信じるだけです。そして今、貴方のできることをするだけです。そうでしょう?良くも悪くもこの世界は不平等なのですから》

ゆっくりゆっくりぼくは頷く。その優しい赤い目に。いつもそばにいてくれる彼女に。エールを送ってくれて、支えてくれる燐に。

「ありがと。そうだね、頑張ろ。燐、凪、透(ゆき)、一緒に戦ってくれる?」

透がやっと発言できるんかいなと茶化して、ぼくはごめんと笑った。
『良くも悪くも不平等な世界』。だから・・・だからアカギは平等な世界を創ろうとしたんだろう。ぼくはアカギの願った世界を思い描く。争いがなく平和で、でも冷たくて優しくない・・・平等だろう、平和だろう、でも暮らしたいとは思えない。そんなのは空っぽな世界だ。確かにぼくはもどかしさや辛さを感じなくていいとは思う。だけどそんな『完全な世界』にゆーとは存在できない。この世界は、アカギの消したい世界なら、不平等だからこそわずかな可能性に、自分の運に、奇跡の確率に、賭けてみたくなるんだ。
賭けることができるんだ。

「そういえば、アカギのこと、シロナに言わなきゃ・・・」

アカギの名前が出てきたことでふっ、と思い出した。そうだ、あのこと、なんとかしてアカギに伝えなきゃ。もしかしたら何か変わるかもしれないから。

未来を変えられるかもしれないから。

side夜月(ブラッキー)

「・・・ケイ?」

ユウトの当惑めいた呟きが聞こえる。ケイヤは、世界に飲み込まれたのか?いや、多分あっちの世界に行ったのだろう。好き勝手に言うだけ言って。辺りは相変わらず不安定で、危うい無秩序な状態だ。世界は暗く、今、頭上にある青空はぐるぐると円でも描くように回っていた。俺の模様は相変わらず発光している。

《ユウト》

俺の声にユウトが俺を振りかぶって、呆れたように溜息をつく。その様子はいつもと変わらず、どうしてこいつがここにいるんだとでも思っているのだろう。

「夜月、付いてくるなって言ったはずだが」
《ユウトの命令なんて、俺が聞くはずないだろう?》

ぴりぴりとした空気の中、即答でユウトに抗う俺。そんな俺を見てユウトはかすかに苦笑する。そして、おどけるように言葉を続けた。

「一度くらい、聞いてくれてもいいだろうに」
《・・・ユウト、お前さ、わかってる?お前が消えたら俺も死んじゃうんだけど?》

一息息を吸い込んでから俺は言葉を口に出していく。今の言葉は切り札だ。どうだと言わんばかりに俺はユウトをにらみつけるが、ユウトはあぁと今気づいたような顔をして実にあっさりと、当然のように俺の切り札をかわした。

「あぁすまん、夜月。完全に忘れていた。そうか、そうだったな。じゃあ、契約解除すれば良い。それでいいだろ?今まで付き合わせて悪かった」
《・・・なっ!ユウトっ!?》
「できるから、心配しなくて良い」

できる?いつわかったんだ!?いやだが、違う、違うんだっ!契約のこととか本当はどうだっていい。そうじゃなくて、俺はっ!!驚愕する俺に対して、ユウトはいつもの表情のまま。首がつかれたのだろうか屈んで、俺と目線を合わせてくる。・・・違う、違うんだってユウト。そうじゃなくて、そうじゃなくてっ!!

「真紅の記憶で見たから。多分、できるはずだ」
《違うっ!違うっ!!俺がわざわざ命惜しくてここまで来たと思ってるのか!?契約解除してほしくってここまでユウト追いかけてきたと思ってんのかよ!?違げーよっ!なぁ、ユウト。なんで生きようとしねーんだよ!死ぬことばっか、消えることばっか、考えるんだよ!ミオでも言ったよなっ!?もう、これ以上ユウトが傷つかなくてもいいじゃねーか!もう、いいじゃねーかっ。俺、俺やだよ・・・・・・》

感情の教えるがままに喚き散らし、言った言葉にユウトは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの冷たい視線を一瞥くれた。首を横に振ったユウトの口から悲しい言葉が飛び出してくる。

「夜月、お前もかよ。オレの周りはオレに無茶苦茶ばっかり言うんだな。だが、無理だよ。・・・言ったと思うが、ここの世界は居心地が良いんだ。静かで、節理の壊れた世界だからオレを否定しない。だが、この世界を維持なんてできないだろ?そんなことしたら確実にこの世界の全員は死ぬか、それか永遠にこの地面の一部になってるか、だ。この世界の生き物全部消しても構わないくらいオレの存在がそんなに価値のあるものなのか?違うだろ」

いつの間にかケイヤに見せたような、俺がミオでみたような穏やかな目が俺を見つめている。どこか優しいその目はしかし、俺の心に細波をたてるだけだ。不安で不安で仕方がなくってユウトに半歩歩み寄りその距離を縮める。泣いて喚いたら状況が変わるなんて爪の先ほどにも思ってない。それでも俺は、そんなことは嫌だ、と言うのを止めることはできなかった。

《ユウト、やだよ。俺、やだよ。ケイヤじゃねーけど、俺だって嫌なんだよ。なぁ。・・・・・・もうさ、もうさ、どうにもならねーんだったらせめて泣いてくれよ。嫌だって、生きたいって、喚いてくれよ。なんで、そんな落ち着いた、全部投げ出しちまったような顔してるんだよ。何事もなかったような普通の、いや普通以上に無駄に優しい顔してるんだよ・・・》

俺の言葉にユウトがほんの少しだけ驚いたような顔をしておもむろに、にぶと自分の一回自分の頬を右手で抓った。そして、苦笑とも失笑ともとれる微妙な顔をしてまた首を横に振る。

「悪い、それもオレの設定。だからどうしようもねぇよ。オレもな、少しくらいはそうやって泣き叫んでみようと思ったんだが、無理だった。できないんだ、そんなこと。下らないって、何も変わらないって、その考えが先に来てやめてしまう。・・・オレは、そんなこと知らないんだ。できないんだよ」
《・・・・・・》

悪いな、と言うユウトに放心状態の俺は何も言えない。それでも頭の中はいろんな言葉が混じって、俺自身怒ってるのか悲しいのか悔しいのか・・・もう何が何だかわからない。だけど、それでもわかる。ユウトの表情は違和感を感じずにはいられず、気味の悪いほどちぐはぐな行動をしている。これが『ユウト』だったのか、それともこれは違うのか。俺には判断ができなかった。だが、ユウトは自分の状態に気付いているんだろうか?

《ユウト、お前・・・》
「休むから、黙ってろ」

かけようとした俺の声を遮ってユウトはその場に、俺の隣に座り込んだ。その言葉はいつものユウトっぽい雰囲気を持っている。ただ、ユウトはそれを少し考えてから言ったようだった。それは自分の『こうだった』という言葉を思い出そうとしていたようにも考えることができて無意識に俺の体は硬くなる。そんな俺の様子を気にせずユウトは両腕を少し後ろに引いて体重を預け、長く息を吐き出した。後ろに反った首がわずかに骨の擦れる音を鳴らす。俺はユウトの傍に伏せたまま動かない。体を縮ませるようにしてできる限りユウトに引っ付くだけだ。・・・少しでも離れたら、逃げられてしまいそうだったから。
しばらくそうやって俺もユウトも黙ったっきり、聞こえるのは互いの呼吸音だけという状態が続いた。黙ったままでも平気なユウトはぼーとしていたが、沈黙が苦手な俺は耐え切れず肺に溜まっていた二酸化炭素を吐き出して、ユウトに尋ねる。

《どうするんだ?休んだら、次は》
「黒い方の『神様』に会いに行く。せいぜいオレにできることはそれくらいだし。見失ったが、まぁ、見つかるだろう。・・・・・・お前は帰れ、と言っても無理か。帰り方もわからないだろうしな。この世界にいても何も得るものはないと思うがお前の勝手にすれば良いさ」

普通に帰ってきた返答に俺は内心でほっと息をついた。これだけ傍にいても不安が消えないんだ。声を聞いてやっとユウトが生きてるって安心できたくらいに。体中の強張った力を抜きながら、少し余裕のできた俺はケイヤを思い出す。ケイヤが黒い穴に飲まれるあの一瞬、俺の方に向かってケイヤがあとは頼むよって言った気がした。・・・あぁ。頼まれるまでもねーよ。俺は俺の好きなようにするんだから。俺の好きなようにしかしないんだから。

《ユウトと行ってやる。傍にいる》
「そうか」

ケイヤにはできなかったけど、俺にはできるんだからそれをしよう。
ユウトの傍にいてやろう。

sideユウト

《ユウトと行ってやる。傍にいる》
「そうか」

夜月の申し出が有難いのか迷惑なのかよくわからなかった。いや、多分、喜ぶべきで有難いのだろうが今のこの状況に夜月がついてきたところで何も変わりはしないのだ。夜月の選択だから何も言わないが。
また静寂が場に下りる。頭上には今、青空が広がっていた。わかってる。どれだけ眺めていようとこの世界は正しくない。暗くて、狭くて、重力や質量さえまともじゃない。なにより、生者がいない『生の世界』なんてありえない。だが、それでもこの世界はひどく居心地が良いのだ。・・・そんな自分に嫌悪感は消えないが。さっきから夜月が無駄にくっついてくるせいで暑い。カチカチに体を強張らせていた夜月は今、少し力を抜いていた。オレはそろそろ腕が怠くなってきたので体勢を楽な形に変えようとして、それなら、ともう寝ころんでしまう。あまりゆっくりしていても意味がないのはわかっているがやはり恐怖がないといえば間違いなく嘘になるし、どうせこの世界に正しい時間の流れはない。洗濯機のように回る空は左回り右回りと忙しそうだ。
そんな空を大の字でぼんやり見つめるオレの視界に夜月の顔が飛び込んできた。

「・・・どうしたんだ?」
《ユウト、お前。気づいてる?おかしいぞ、お前》

立ち上がった夜月の真っ赤な双眸と黄色の模様が入った黒い体、それが背景の青と対照的だった。特に、薄暗い世界で黒は目立たないがその赤はよく目立つ。そして、まっすぐな血色の目の夜月は視線と同じくらい率直に意見を言った。オレはそれに苦笑いするしかない。あぁ、だって仕方がないだろうに。存在するべきじゃないと言われておかしくならない方が少ない、と茶化そうかと思ったが労力の無駄になりそうなのでやめる。夜月が聞いているのはそう言うことではないだろう。つまり。

「そりゃ、おかしいさ。おかしくもなる。『生きたい』と『死にたい』、『生きなきゃならない』と『死ぬべきだ』がそれぞれ頭の中で勝手に叫び散らしてるんだからな。その上、さらにタチの悪いことにどれがオレなのか、どれもオレじゃないのか、どれが仕掛けで、想いで、遊戯で、刷り込みなのかそれさえもわからない。自分の行動をなぞろうとしても、それが本当に自分なのかわからない。いや、『自分』なんてものはないんだろうが。だから、オレがぎくしゃくして見えるのは当然だろう。あぁ、そうだよ。オレだって、多分オレが、生きたいって思ってるんだ。それさえ設定されたもので、創られたもので、自爆のための仕掛けかもしれないとしても。それでも思わずにはいられないんだ。だがな、オレのために誰かを犠牲にすることはできないんだよ。オレのために誰かが消えるなんて、そんなことが良いはずがないんだから。だから、オレは願えないんだ」
《ゆう、と・・・》

口を開閉させても言葉がそれ以上出てこない夜月に、起き上がったオレは軽く体を伸ばして立ち上がる。そう、つまりはそういうことなのだ。喉から手が出るくらい欲しいと思っても、結局はそれをオレが手に入れることはない。全てを諦めるようにと頭のどこかが停止をかけて、思考が袋小路に入ってしまうのだから。オレはそれに従わざるを得ないのだから。従わなかったらどうなるかは明白。世界からの拒絶を受けて暴走してしまうだけ。だから、そう考えたらオレは結構抗っただろう?

「休みすぎたな。行くか。付いてくるんだろ、夜月?」

いまだ口を小さく動かしながら固まっている夜月にオレは一声かけてさっさと歩き始める。オレの声にやっと金縛り状態から立ち直った夜月が一回その場で跳ねて、すぐにオレの隣にまで駆け寄ってきた。小さく、独り言のような夜月の声が耳に入ってくる。

《あぁ、付いていくよ》

黒い影がその翼を広げて、遠くの空を泳いでいた。

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2011.8.25  20:11:08    公開


■  コメント (5)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

続き3です。

Σおぉう、僕がですか…!?え、ええ、すいむさんがユウト君抱きしめてあげてくださいっ!!
本編最終回でいきなり作者登場ですか!なんてチートな作品!!作者権力を乱用してユウトを救うんですね!わかりまし(ry) ユウトとお似合いってwwwツラーすぎたらそうなってしまうんですね、わかります(キリッ
続き楽しみにして頂ければそれだけでご飯三食抜けます!余裕です!! え、絵を書いて下さるんですか!!?本当ですか!冗談でも本気にとりますよ!? 資料はもう求めてあげてください(*´∇`*) いつでも全国ネット(ついったさん)にでも挙げます。ここに書いちゃったら書いてくださいオーラが(すでに十分です)
二つのコメントにわたってのコメント、本当にありがとうございます!!すいむさんにこれだけ愛していただければ彼らも(森羅は言うまでもない)本望でしょう!文章gdgdになってしまい(その上テンションも高くて)本当に申し訳ありません……m(__)mm(__;)m
亀更新だとは思いますが、お付き合い頂ければ嬉しい限りです……っ
それでは、長々とお付き合い頂きありがとうございました。すいむさんを超えてやったぜ……。すみません、お目汚し大変失礼しましたm(__)m(汗汗

11.9.2  00:31  -  森羅  (tokeisou)

続き2です。

夜月は可愛いですよね、親馬鹿でも構わない…デレ夜月最高ですよねっ(力説 お持ち帰りしてやってください。食料は残飯でも与えておけば大丈夫ですb おぉっ。透を可愛いと言ってくださった方は初めてです。有難うございます(*^^*)
最初から読み直して何か違った面が見えればいいのですが、何もなかったら時間が…(滝汗

174話について、ツイッターのキノの旅は題名の話だけです(^ω^三^ω^)戦闘描写は僕に死亡フラグががが。それにケイヤvsアカギならともかくユウト丸腰ですしね^^;ケイヤvsユウトでした。えっ、涙ですと…(ハンカチ
何もかもねじ伏せw確かに、事実ですね(汗 ケイヤの話術は生あるの中では相当ですが、今のユウトを簡単に説得することは彼にも難しいです。まず搦め手的な手法を使わず(使えず)真っ向から向かって行く選択肢しかないですしね。で、真っ向から対峙すると現時点のユウトのほうが断然優位な立場をとれるわけです。ケイヤに言える言葉は精神論だけなのに、ユウトはそれを否定さえすればいいので。無理に悟りを開こうとする…なるほど、確かにそうですね!そういう表現が……φ(..)メモメモ
今のユウトが自分の殻に籠って、耳を塞いでいる状態ですね。ユウト自身が聞こうとしなければケイヤと夜月の思いも言葉も届きません。本当に後はユウト君次第なのですが…。
確かに、アヤのように真っ直ぐ、ケイヤのように強く、夜月のように単純になれれば、すいむさんのおっしゃるように子供になれれば、ユウトは楽だったかもしれません。ですがこれは僕の俺得まつr(ry)……ではなくて、ではなくてですね(大切なことなので二回)ひん曲がった可愛くねぇ(え?)性格も、全部ユウトの知らないところで、けれど彼の必要事項だったわけです。ユウトは苦しむ以外の選択肢をもともと持っていないんですね(俺得祭りではな(ry

すみませんwwもう少し続きます(高速移動ひゅんひゅん

11.9.2  00:28  -  森羅  (tokeisou)

コメント有難うございます!すいむさん!!
いつもお世話になっておりますっm(__)m
とにもかくにも最初にお礼を言わせてください。こんな阿呆みたいに長い話を最初から最後(最終話はまだですが)まで読んでくださって本当にありがとうございます!!(涙腺崩壊

ち、力強い作品…!?(当惑気味)生あるの世界観にのめり込めた、面白かったと言って頂ければそれだけで光栄至極です><
序盤のユウト・アヤの旅は比較的(大分?)賑やかでしたね。ただ単なる「ゆーとの巻き込まれ人生」とも言いますが(笑)はい、そして彼らとは逆に最初から最後までダーク風に進んで行ったのがすいむさんのおっしゃる通りケイヤ側です。序盤での主人公は完全にケイヤ(もしくは王道的アヤ)と言っても過言ではありません。彼がいなければ謎が謎にすらなっていませんし、ピースを集め、またそれらを繋げて形を作ったのも彼ですので。感動して頂けたならうれしい限りですが、ケイヤの話とアヤ・ユウトの話が交差していく様をもっと上手く表現できれば…orzすいむさんの素敵な想像力で補正しておいてくださいm(__)m
ユウトの「真実」、これが生あるの山場(らしきもの)なので驚いていただければ何よりです(ガッツポーズ) えぇ、あれは夢オチではなく紛うことなき真実ですよ(追討ち 中二展開・設定満載で申し訳ないです……^^;
尊敬だなんて、そんな!!むしろすいむさんの文章の方がよっぽど尊敬なのですがっっ!!謎解きと言っても何かどんでん返しがあったわけではないですから、精進してまたきちんと(?)やってみたいです。
Σ脅迫!ハッピーエンドじゃないと納得して頂けない、だと……。物語は佳境ですとも!ハッピーエンドかバッドエンドか、結末をお待ちいただければ何よりです^^
はい、もー皆幸せになって欲しいですねぇ(他人事
ケイヤ派だと聞いた覚えはありますが、まさかのユウト派へ転向とは……。ちなみにユウトとケイヤは人気を二分してます(もう一人は?) ユウトの状況の辛さ、彼の場合は茫然、絶望、無気力程度で(彼の「設定上」)済んでいますが(′・ω・`)受難キャラ萌え!仲間で(コラ …ごめんなさい、大好物と言って頂ければ何よりです
微妙に二千超えてしまったので、一旦ここで切ります。ご了解ください……m(__)m

11.9.2  00:24  -  森羅  (tokeisou)

(続きです)
いやもうね
自分でもしょうもないこと書いてるって分かるんでお忙しいことでしょうし遠慮なく一米返信してくださいね……^ω^三^ω^ごめん でもせっかく書いたし

ツイッターでキノの旅のパースエイダーの話をちょろっとされているのを見まして、圧倒的な武力という意味合いでタイトル→戦闘回かと思って来たら不意打ちのユウトVSケイヤでおいなみだが おい
ここまで鋭い話術で何もかも捩じ伏せるイメージ(文字にするとなんか酷いなw)だったケイヤですが、そのケイヤでさえ微妙に手に負えない状況にまで行ってしまったユウト。無理に悟りを開こうとしている(というふうに私には見えました)彼に、ケイヤや夜月の思いはどこまで届くのでしょうか……
愛されてること、必要とされていることを知って、世界や周りがどうとかじゃなくもっと子供になれたら楽だろうになぁ 、とか 苦しいですねユウトくん 考えてるだけでもー苦しいです
はぁぁユウトくん(´;ω;`)←だめだこいつ
おいだれかはやくユウトくんを抱きしめろ 森羅さんがいいです森羅さんが抱きしめてきてください
最終回で森羅さんとユウトくんが抱き合ってハッピーエンドの構図が私には見える えっ待ってユウトくんと森羅さんすごいお似合いなんじゃ……アレッ? あ、頭ががが^ω^三^ω^なにこれwwwwすいませんツラーすぎて何かけばいいのかわかんないwww
とにかく続き正座全裸でいつまでも待機していますっ そしてまた絵をかかせてください また資料をください
ではでは!更新がんばってくださいませー!

11.9.1  10:44  -  北埜すいむ  (kitano)

こんにちは(´∇`)ノきたのですっ最新話読ませていただきました!
まずここまで全体的な感想から書かせてください
本当に面白かったです……!読んでいると完全に時間の経過を忘れてどんどんのめり込んでしまって、読むたびにしばらく『生ある』の世界から逃れられなくなってしまう、とても力強い作品ですっ
賑やかに(たまにダークに)進行していくユウトとアヤ側の話、対して謎と悲しみと血まみれを転々とするケイヤのお話が、だんだんと絡み合っていくときの感動はひとしおでした。
そして、バラバラだったピースが繋がっていき、たくさんの謎のそれぞれが、ひとつの大きな流れとして全貌を現し始めたとき、目の前を覆い尽くしていくあまりにも衝撃的な真実……真、実?と認められない人間がここにもいます 鬱展開とかいう陳腐な言葉を撥ねつけるレベルの圧倒的なこの絶望感……!(ふるふる(感動の身震い
あーもーよくもまぁこんな壮大で複雑なギミックを考えたなーと、まじめに尊敬せざるを得ないです(*´・ω・`*)こういう謎解きモノは絶対に自分では書けない考えられないと思うので、それだけに読むのが楽しくて、また勉強にもなりました
こんなふうに言うと脅迫みたいになりますが、ハッピーエンドでないと私は納得しないぞ(迫真  嘘です しかも物語が超佳境ですねもうラストが気になるのに結末を知りたくないようなでも知りたいようなゴロゴロ
ねーもう皆幸せになって欲しいなぁ。
ケイヤが好きだと前言ったかもしれませんがユウト派に転向しつつあります なんでそんなにも、なんか、おまえは、切な、もう……!こんな状況に陥ったら人はどうなってしまうんやろうと、どんなにか辛いんだろうと真剣に考えてしまいました そして受難キャラ萌え(鬼畜)の私の大好物でしかありませんでした
というか夜月がかわいいです……デレ夜月がめっさかわいいです……一家に一匹欲しいです……でも食費は出さない あと透の関西弁のかわいさは異常
ここまで読んで、また最初から読みなおしたら、相当違った面が見えてくるような気がします。わくわく。

そして174話の感想が
……入らなかったので二米させてくださいごめんなさい愛の重さと作品の長さ故!

11.9.1  10:41  -  北埜すいむ  (kitano)

 
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