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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

173.sideユウト×ケイヤ×アヤ 破れた世界[シノセカイ]

著 : 森羅

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sideユウト

「な・・・」

絶句。その一言が一番ふさわしいだろう。
目の前に広がるのは、崩れた世界。
どこか薄暗いその世界には生も時空も存在していない。どこまでもどこまでも静かで。ぐるりと見回してみるが空が下にあり、頭上には闇が広がっている。真横になった地面の一部がオレの目の前を流れて行った。

「・・・は、ははっ・・・。あぁ、あぁそうかよ」

乾いた笑い声が零れていく。喉の奥で堪えるようなぐもった笑いが静寂の世界に、『死の世界』に吸収されて静かにかき消えた。
・・・そうかよ。結局こうなるのかよ。なぁ?

壊れた世界、これもオレのせいだとそう言うんだろう?
希望も絶望も持つなと、そう言いたいんだろう?
それとも、この世界はオレに何も言わないのか?・・・だが、だがこの世界は生きているものが存在していたはずじゃないか。ここは『生の世界』だったはずじゃないか。

・・・・・・わかっていたよ。わかった。もう、わかったから。
もう、これ以上生きたいなんて願わないから。
もう、これ以上何も望まないから。
もう、これ以上抗わないから。

その場に腰をおろして、頭上に広がる黒を見上げる。この上が、あっちの世界になるのか・・・?まぁ、どちらでもいいことなんだが。

悪いな、クレセリア、ダークライ。
わざわざここにまでオレを連れてきてくれた2匹のポケモンを思い出しながら苦笑した。片足だけを伸ばして、腕で体重を支えて、相変わらず黒色に塗りたくられたそれを見ながら。

来たばっかりだが、この光景を見たら・・・。なぁ?

やっぱりオレには何も残っていないみたいだ。

sideアヤ

「・・・何、これ・・・?」

マーズとジュピターが周りに気を取られている隙にあたしは腕を振りほどく。でも、ちょっと失敗して前のめりに転んでしまった。・・・雪の溶けていない部分で本当によかった。だってそうじゃなかったら顔のどこかを擦りむいていたに違いないし。
頭上にはやっぱり寒気を覚えるくらい濁った色をした空。そして、この場所の地面には。

「・・・なんだ・・・?何かが影の中で怒り狂っている・・・?」

後ずさりしながらそう言うアカギの靴があたしの目には映っていた。あたしはぐい、と立ち上がって、雪を払いながらもう一度きちんとあたりを見回す。相変わらず慟哭の声を上げるザウラクとパルキア。そして、足元に黒い絵の具を落としたみたいに広がっていく影。もう、マーズもジュピターもあたしに注意を向けていない。て言うか、あたし自身何が起こっているのかあんまりわかっていない。でも、これ・・・もしかして。ケイヤがカンナギで話した話と、『しんく』がミオで話した話があたしの頭をよぎった。

『シンオウの神は4匹なんだ』
『空に一番近いところで』
『地の底に一番近いところで』

空に一番近いこの場所で深紅が見たのは白い神だったという。でも、この影は『黒い』。

「・・・白い・・・ううん、黒い神・・・?」

かすかに呟くあたしの目の前でアカギがたじろぎながらも、上ずった声をあげる。ぬったりと黒い影の翼を広げる赤い瞳の『それ』に向かって。

「か、影でしか出てこれないポケ、モン・・・だと・・・?」

もったいぶるようにゆっくりと影から這い出てくる、その黒い生き物。そして、それはまるで虚勢を張るアカギを嘲笑うように口を笑みの形に裂いた。

「愚かな・・・ディアルガとパルキアの二匹のポケモンを操るわ、私に・・・」

言葉を絞り出すアカギを見下ろしにニタァ、と笑うそのポケモン。それは愚かなのはどちらかと言わんばかりだ。巨大な影のプレッシャーに蹴倒されて、小さく小さく見えるアカギ。逃げ腰なので余計にそう見える。

「アカギ様!!」

マーズが先か、ジュピターが先か、どちらかがそうアカギの名前を呼んだその瞬間。

《アヤ、下がってっ!》

スピカの声に反応して反射だけで後ろに跳ぶあたし。その目に映るのは、

「う、うわあぁあああぁっ!」

黒い影が・・・黒いそのポケモンの影が、悲鳴を上げるアカギを飲み込むその一瞬だった。

side夜月(ブラッキー)

「ぐっ・・・!?」

ケイヤがそう言いながら苦しそうに少し足元をふらつかせたのはこの何とも言えないおかしな色をした地面に足を付けた瞬間だった。緑色の、草のような木のような変わった植物らしきものが遠くのほうに見えている。薄暗い為か俺の模様も黄色に光り始めた。

《ケイヤ!?》

慌ててその顔を覗き込むハクリューの凪に、ケイヤはゆっくりと辺りを見回してから笑う。だが、それは少しひきつった笑いでどこか苦しそうだった。

「・・・大丈夫。燐、透(ゆき)、もう出てきても大丈夫だよ」

じっとケイヤたちを観察し続ける俺の目の前でボールから出た燐とグレイシアの透がケイヤに駆け寄り口々に声をかける。ケイヤはそれに対してうんうんと頷いていた。

「大丈夫だよ・・・。皆は大丈夫?苦しくない?」
《えぇ、わたしはいつもと変わりませんが・・・》

燐の言葉に同意するように二匹も頷く。ちなみに俺も至って普通だ。苦しくもなければ、さっき色々なものが飲み込まれた時のように飲み込まれそうな雰囲気もない。足元はしっかりしている。だが、ケイヤはただ一人顔を奇妙な感じで歪ませていた。笑って、それでも苦しくて・・・そう、見栄を張っているような。

「あはは・・・。うん、まるで水の中にいるみたいだよ・・・。大丈夫、倒れてしまうほどじゃない。でも」

のろのろとケイヤは一歩歩き、闇色をしたその部分を見上げる。

「・・・ゆーとはこんな感覚でいるのかなぁ、って」

三匹も、俺もただただ絶句していた。

sideケイヤ

息苦しい・・・。

深い呼吸を繰り返しながら、ぼくはゆっくりとその薄暗い世界を歩いていく。特に当てがあるわけじゃない。燐は支えるように僕の横にいてくれた。透は反対側で凪は頭上。夜月はぼくの前。視界の端に映った、空中に浮かぶあの地面にまでジャンプしたらその場所は消えてしまってぼくは落ちていくんだろうか、それともやっぱり地面は存在していて支えてくれるんだろうか。どれが幻でどれが本物か、それがまったくわからなかった。
ただ、言えるのは。

この世界は、ぼくを飲み込みたいんだ。ここは命なんて必要のない世界なんだから。燐たちが無事なのはこの世界のイレギュラーだからだろう。元々この世界にいない存在だから、逆に平気なんだ。世界が彼女たちを取り込んでも彼女たちは異物。この、ぼくの生の世界・・・ううん、『やぶれたせかい』から燐たちへの『拒絶』が逆に燐たちを守ってくれている。そういう意味ではアヤちゃんやシロナ・・・そしてゆーともこっちの世界は平気なはずだ。

・・・ゆーとが感じていた拒絶感ってこんな感じなのかなぁ・・・?
全身が逆立つ。皮膚がピリピリする。拒絶されているって、嫌でもわかる。ゆーとが感じたものってこんな感じなんだろうか。アカギが感じていた孤独感ってこんな感じなんだろうか。刀匠が感じていたものって・・・。苦しいよ。寂しいよ。もう、やめてしまいたい。飲み込まれたほうが、絶対に楽だ。今の状態は自分がこことは違うって、そうわかってしまうから。それは、まるで新雪に墨を落としたようにはっきりと。
でも。

《大丈夫ですか?少し休みますか?》

心配そうに声をかけてくれる、その赤い瞳に向かってぼくは笑みを作った。大丈夫だよって。
ゆーとが苦しんでるのに、ぼくが苦しまないなんてずるい。アヤちゃんが頑張ってくれているのにぼくは頑張らないなんてずるい。燐たちは、夜月は、ここまで付いて来てくれたのにぼくが最後まで約束を全うできないなんてずるい。ね、堺。そうでしょ?
堺だって、必死でぼくをここにいさせてくれているんだから。
ぼくが飲み込まれずに済んでいるのは堺が守ってくれているから。『空間』からの影響を極力受けないように、ぼくがここに居れるように。
だから、ぼくは頑張らなきゃ。ゆーとに会って、言わなきゃだめだ。

大丈夫、ぼくはちゃんと自分の足で立って歩けるよ。

sideシロナ

テンガン山の雪を掻き分けやっとたどり着いたその聖地。だがシロナの目に真っ先に映ったのは神々しい雰囲気でも、古代の信仰を示す遺跡でもなく、影から出てきた真っ黒な『何か』が青い髪の男性を飲み込む場面だった。

「う、うわあぁあああぁっ!」

・・・なんてこと・・・!
シロナは驚愕に目を見開く。断末魔のようなその悲鳴はしかし長く続くことはなく、すぐに何事もなかったかのように辺りは静寂を取り戻す。同時に黒いその『何か』も、青い髪色の男性も元からいなかったかのようにその場からいなくなっていた。・・・もっとも、白い雪にシミのように残るその黒い影が先ほどの光景が嘘ではないと証明しているのだが。

「ア、アカギ様!?アカギ様はどこにっ!?」
「あの、黒い影はなんだったの・・・!?」

赤い髪の女性が金切声をあげるのと藤色の髪の女性が慌てたように辺りを見回しながらそう呟くのが聞こえてくる。そして、もう一人、彼女の目に映るのは突っ立ったままの少女の背中。シロナは歩を進め、二人のギンガ団の女性達にも聞こえるように自分が知るその少女に声をかける。

「アヤちゃん。遅くなってごめんなさい」

凛として響くその声にギンガ団、そしてアヤがそれぞれシロナを見やる。アヤはどうしてここに、とでも言いたげな表情でシロナを凝視していた。それに対しシロナは少し小首をかしげて微笑んでみせる。

「シンジ湖以来だったかしら。元気だった?・・・ごめんなさい、もうちょっと早く着く予定だったんだけど・・・間に合わなかったみたいね。状況を、説明してくれる?」
「シロナ、さん。どうして・・・」

初めて見る、自分が探し求めていた神と呼ばれし時空のポケモンを少しだけ見上げシロナは感動と興奮を覚えた。だが、今はそれどころではない。内心で首を振り、視線をアヤへと戻す。当惑しきったアヤに、ケイヤから話を聞いていないのだと確信したシロナはにっこりとアヤを安心させるように笑い、話を始めた。

「ケイヤくんに聞いたのよ。ここに来てくれって。・・・ケイヤくんはいないの?そういえばユウトくんも。・・・まぁ、いいわ。さっき飲み込まれた彼がギンガ団の首領であり、ナギサシティの天才少年であるアカギね」

ややあってからこっくりと頷くアヤ。そして、その言葉に噛みついてくるのは赤い髪の幹部。そのギンガ団はシロナもシンジ湖で見たことがある人物だった。ちなみに叫ぶ赤髪とは違い、藤色の髪の方は黙ったままだ。

「一体なんなのさっ!!!アカギ様の邪魔は誰であろうとさせないッ!」
「さっきの、黒いあれが何だったのか知りたくないの?」

悠然と言い放ったシロナの言葉にギンガ団の幹部二人は目を見開いた。アヤだけはじっとシロナの方を見たまま黙っている。ディアルガとパルキアは相変わらず苦しそうな嘆きの咆哮をあげ、そのたびに空の色が揺らめく。

「この世界を創るときに生み出されていたディアルガとパルキア。そして、その時に実はもう一匹ポケモンが生み出されていた。時間を司るディアルガ、空間を司るパルキア、そして精神を司る湖の三匹にも負けない力を持つ、語られることのなかったポケモン。それが死を司るギラティナ!この世界の裏の世界、すなわち『死の世界』こそが彼の住処」

『反面世界にどんな影響を与えるかわからないまま・・・』

かつて、ハクタイの森の洋館でケイヤに言われたその言葉をシロナはふと思い出す。そう、だからこそギラティナが出てきたのだろう、と彼女は思った。ケイヤの予想が当たり、反面世界に影響が出たからこそギラティナは登場した。神の怒りを示すために。シロナはすっ、とその細い人差し指を伸ばし、ある一点を指し示す。その場所は神殿の遺跡の柱が歪み、黒い渦が地面に描かれていた。

「見て、柱が歪んでるわ。きっと、あの穴のせいで二つの世界がつながったせいね。このままじゃ歪みがシンオウ地方全体に広がって、やがては世界を飲み込んでしまう。世界が、壊れてしまう。それを止めるには・・・アカギを、あのポケモンを追うしかないみたいね」

今度はアヤのほうへと向き直り、シロナはそう言い切る。その言葉にアヤはぎゅっとコートの裾をつかんで俯くが、それは一瞬のこと。すぐにアヤはまっすぐにシロナを見つめなおした。シロナがそれに対し笑い、アヤに近づこうと一歩踏み出しかけた、そのとき。

「・・・まさか黙って通してあげるとでも思ってる?」

ぴたり、とシロナの足が止まった。否、止めざるを得なかった。
言葉を続けるように、今度は黙っていた藤色の髪の方からも声がかかる。いつの間にか、手にはモンスターボールを握って。

「お話はワタクシたちを倒してから・・・。ここまで来て黙っているほど安っぽいプライドではありませんわ」

アヤはその言葉に腰のボールに手をかけ、シロナは二人の幹部を見つめながらその手を握りこんだ。

sideアカギ

・・・一体、ここは・・・?

どこをどう切り取って見ても、どこをどう上手に解釈しようとしても・・・つまりはどう考えてもここはおかしな世界だった。ゆっくりと彼はあたりを見回し、青い空を見上げる。無論、彼の視界に入ってくるのは青い空だけでなく、いくつもの岩の塊のような大地の欠片もある。ただ、その地面の重力の向きは滅茶苦茶らしく上下左右なんでもありだ。水溜りに等しい程度しかない貧相な池は、平然としたままで当然のように零れることはない。そこは、アカギの持つ『常識』を嘲笑うような世界だった。理論も何も役に立たない。ひどく不条理で理不尽な世界。ここには命の気配すらないのだから。

「何なのだ・・・!!こんな、こんな世界が私の世界の裏側にあっただと・・・っ!?」

どこに向けていいのかわからない憤りにも似たその感情を、アカギは言葉に変えることで吐き出す。だが、その言葉すらも聞く者がいないここでは何の役に立たないのだ。むなしく響くそれはアカギの苛立ちに拍車をかけるだけ、解決を導かない。

「あの、影のポケモンは・・・?」

アカギは辺りを見回しながら彼をこんな世界に連れ去り、そして計画を無茶苦茶にしたあの影のポケモンを探す。だが、彼を置き去りにした後、あの影のポケモンはやることは終わったと言わんばかりに悠々とどこかへ行ってしまったのだ。そしてやはり目に見える範囲にあのポケモンの姿はない。アカギはなんとなしに自分にとっての下、つまり闇が広がる深淵を覗き込み、

「・・・ぬ?」

黒を背景に大地の欠片が点在する中で何かがちらついた気がした。アカギは先程の『何か』が本物か目の錯覚かどうかを確認しようと目をしばたたかせる。しかし確かに黒い深淵の中で、所々赤く輝く巨大な『それ』が、翼に見えなくもない幾対かの細く黒い羽を広げて世界を泳いでいる。

「あれは!?」

アカギはもっとよく見ようと地面の端から身を乗り出し、そして。

「・・・・・・アカギ?」

唐突な、あると思っていなかった声にアカギは目線を上に戻し、声の主を確認する。アカギから見れば彼は真っ逆さまな宙づり状態。それでも全く髪が逆立つでもなく、きょとっとした表情でこちらを見下ろす・・・いや、見上げている。

「やっ、久しぶり。まさか先にアカギに会えるなんて・・・思ってなかったよ」
「キミは・・・」

その人物はにこにこと笑顔を作り、キュウコンを連れ、カンナギで自分に逆らったその少年だった。

side???

ギラティナ、君は決めたんだ?
・・・そう、それが君の選んだ選択なんだね。
『たった一度でいい』なんて、そんな上手に行くはずがないじゃんか、そうだろう?

・・・ねぇ、ギラティナ。今度は何を願っているんだい?

今度は何を・・・一体何を期待して君は行動しているんだい?

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2011.7.27  17:34:39    公開
2011.7.27  20:58:29    修正


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