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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

幕間 其の祈り、誰が為に?

著 : 森羅

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side???

異変を感じぬものは居なかった。
誰もが一様に空を見上げ、恐怖し、眉をひそめ、叫び、驚き、畏怖した。
「あれは何なのか」、と。

同じ空間にいる生あるものたちに、等しくその時間は流れていく。
その瞬間、誰もが誰かのことを考え、思い、または祈ったのだ。

――――其の祈り、誰(た)が為に?

sideナナカマド博士

「は、博士っ!あれは一体何なんですかっ!?」

研究所の窓からあごに手を当て難しい顔をして食い入るようにその奇妙な色の空を眺めていたナナカマドに助手の一人がパニックに陥っていそうな声で問いかけてくる。それにナナカマドは答えずふむぅとあごを撫で、振り返りもせずに声を上げる。

「今すぐ原因を確かめろ、源はどこだ?・・・テンガン山か?」

良くないことが起こっているのはナナカマドも全身で感じていた。ただ、それでパニックを起こすのなら研究者として失格だ。研究者(じぶんたち)は調べることこそが生業なのだから。だから、パニックを起こす前に今何が起こっているのかを調べ、分析し、その解決策を練らねばならない。敵(かたき)を見るような目で紫や緑青が混ざったような気味の悪い空を見ているうちに今度はもう一人の助手が声を上げた。

「博士。テンガン山で当たりですよ。まさにそこがエネルギーの源です。巨大なエネルギーが次元を歪ませてるみたいですね」
「引き続き、調べてくれ」

カチャカチャとパソコンのキーを素晴らしい指使いで繰りながら答える助手にナナカマドは指示を出してからふむ、と頷きつぶやく。

「時間と空間の神か・・・」
「博士?なんですか?」

耳ざとくナナカマドの呟きを聞き取った、先程怯えていた方の助手が尋ねるがナナカマドは答えないまま空を見上げ続ける。窓の外にはマサゴの住人があるものは建物の中から、あるものは外に出てそれぞれ呆然と空を見上げている。恐怖を感じた子供が泣き出したらしく泣き声も遠くで聞こえていた。

「・・・無事なら良いのだが・・・」

エイチ湖へ向かうと言って出て行った後から全く連絡のない二人の子供のことを思い出し、ナナカマドは不安そうに顔をしかめた。

sideアユミ(キサラギアユミ)

「・・・アヤ」

ノモセシティの自宅の窓からおぞましい色をした空を不安な目で見上げる彼女の口から零れたのは娘の名前だった。あの子が言っていたのはきっとこのことだったのだろう、ならあの子はきっと今、必死で戦ってくれているのだろう、と思いながら。
異常な空のことがテレビの緊急放送によって耳を通り抜けていく。テレビからは興奮や恐怖を内包したコメントがインタビューアーの質問によって次々に流れてくる。アユミはそっと窓辺を離れ、写真立てに入れて飾ってあったいくつかの写真の中から夫の写真を選び人差し指でその輪郭を愛おしそうに撫でた。そして、写真に向かって彼女は少しだけ微笑む。

「・・・守ってあげてね。あの子を守ってあげてね。一度も会った事ないんだけど、お願い。アヤを守ってあげて」

写真を胸に抱きしめながら母親は自分の娘の無事を祈った。

sideゲン

「ルカリオー、あれ、何かな?」

ミオの町でゲンは周りの人間と同じように空を見上げていた。暗緑の空に灰色と黒とが奇妙な割合で混ざった不気味な雲。それが彼の目に映るものであり、また彼の嫌な予感に追い討ちをかける代物でもあった。声はおどけているよう聞こえるが、それはやせ我慢にも近い。事実、空を見上げるゲンの頬を汗が一滴流れていく。

《主》

相棒の声も緊張していることが分かる。だが、ゲンはそれ以上相棒に言葉を言わせることはなく尋ねた。

「・・・あれ、どこからだい?」
《そうじゃの・・・テンガン山かのぉ・・・》
「へぇ。なるほどね」

ルカリオの声に得心したように頷き、くいっと帽子を目深に被る。その帽子の下でゲンの目は細くなっていた。ルカリオは主の様子を見ながら問う。

《主》
「何だい、ルカリオ」

今度はルカリオのほうに目を落とし、にっこりと笑って切り返すゲン。さっきまでの緊張した表情はどこへやらその表情は少し落ち着きを取り戻したようであった。周りはいまだ騒がしい。テレビの機材を抱えた人物があっちだこっちだと声を張り上げ、空の様子に釘付け状態の人間たちは携帯を取り出したり、悲鳴を上げたりと忙しそうだ。切り返されたルカリオはいまだ状況の整理ができずしどろもどろしていたがやっと言葉を発した。

《・・・どうするんじゃ?》

ルカリオの問いかけの後、ゲンは一瞬沈黙したが、すぐに答えを言葉に変える。
周りの雑音と主の声が耳と脳によって自然に振り分けられ、ルカリオは主の言葉、ただそれだけに神経を集中させた。

「さぁ、どうしようかな。でも、わたしにはもっとマズいものがあの向こう側にある気がするんだけど」
《・・・それについては同感じゃのぉ》

波導ポケモンの力は伊達ではなく、またそのポケモンとずっと付き合ってきたトレーナーには、彼らには感じたのだ。このまま放置していたらひどいことになる、と。だが、それでもゲンは口元に微笑を浮かべたまま。主の行動の意図を解することができないルカリオは首をかしげ、次に主が言うであろう言葉を待つ。

「ルカリオ、テンガン山をもう少し丁寧にさらってみてくれないか。知ってる波導はないかい?わたしは一人、あの場にいそうなお嬢さんが思い当たるんだけどね」
《・・・》

無茶を言う、と内心で毒づき、ルカリオは神経を研ぎ澄ませて一人の少女のそれを探す。確かに彼女なら居かねないとどこかで確信しながら。

「・・・どう?」

しばらく瞑想するように目を瞑り沈黙していたルカリオにゲンはその顔を覗き込むようにして尋ねた。ルカリオは答えず、様子から察するに懸命に探しているようだ。少し無理を言い過ぎた、とゲンは内心で後悔する。
と、ルカリオがその目を開いた。

《・・・主。大当たりのようじゃ。ちとはっきりせんがの》
「ありがとう、ルカリオ。・・・なるほど、と言うことはあの可愛らしいお嬢さんは勇敢にも世界と喧嘩をしているわけだ」

ふむ?、と主の言葉に疑問符を浮かべるルカリオにゲンは意味深に肩をすくめて見せる。そして、ルカリオの疑問に答えることなくくるりと石畳の道路で踵を返した。ゲンの背中の辺りでルカリオが問いかける。

《・・・主?》

ほんの数日一緒に過ごした一本気な少女がゲンの脳裏に浮かぶ。あの子がいるというのなら大丈夫だろう。きっと、きっと大丈夫だろう、と。

「あの子が頑張っているなら大丈夫さ。わたしはそう信じるだけ。さてと、ならわたしはわたしにできることをしようかな」
《・・・主・・・?》

一体何を、と自分の隣に駆け寄ってくるルカリオに対してゲンは満面の笑みを浮かべた。ぞくぅ、と何か冷たいものがルカリオの背中を流れていく。

「この状況におびえている可愛相な女の子の救さ、ぃぐぶっ!」

見事の適中した自らの予想に、ゲンに最後までその言葉を言わせることはなく瞬速の動きで右ストレートを彼の腹部に叩き込むルカリオ。そして、彼の服の襟首を掴みながら何事もなかったかのように引きずっていく。

《もう一度思い出に浸りながら、山篭りでもするかのぉ・・・》
「いーぃやぁーだぁー。もう、石の壁と、岩ポケモンは見飽きた!!ルカリオ、殺生すぎるぅ〜」

うぇっぐうぇっぐと涙をにじませるゲンに波導ポケモンは何も言わずに空を見上げた。

sideモミ

ハクタイの森でアヤと行動を共にした、新緑色の髪を持つ彼女も例外なくこの空を見上げていた。あたりは雪化粧で覆われており、しかし今は降っていない。今、頭上に見えるのは不気味な空だけだ。

「ハピナス、ハピナス。あれ、何だと思います?」

ラッキーの進化系であるハピナスを傍らに、不思議そうに空を見上げながら歩く彼女。その様子は完全に前方不注意で、案の定、モミは雪に足をとられて転んだ。

「えっ、あ。きゃっあぁ!」

可愛らしい悲鳴の後、びたーんと雪に埋もれるモミ。救い出そうとしたハピナスも、結局同じように雪に足をとられて滑ってしまう。似たもの同士とはまさにこのことである。

「ふぇ・・・」

自力で起き上がったモミはすでに何度転んだか分からなくなり、とっくの昔にずぶぬれ状態の服を見下ろし泣きべそをかく。ハピナスもモミと同様に自力で立ち上がった。

「へくちゅっ。空もおかしいですけど・・・それよりここ、どこなんでしょう・・・」

小さくくしゃみをした後、モミはどうしていいか分からないといった様子で同じように当惑顔のハピナスと目を合わせる。

彼女たちがいるのはキッサキシティのほんのすぐそばなのだが、そのことに彼女たちが気づくのはもう少し後の話。

side風力発電所

ソノオから少し離れた風力発電所でもその空を見ている父子(おやこ)がいた。

「パパぁ、お空おかしいよ。怖いよ、あんなお空嫌!!」
「大丈夫、大丈夫だよ」

窓の外の空にある種の畏怖を覚えつつも男性は娘を抱き上げ大丈夫だよと繰り返す。風力発電自体にはまったく問題が見られないが、この空の気味の悪さといったら大人の彼でも目を背けたくなるほどのものだ。

「大丈夫、大丈夫。パパがいるからね」

腕の中で泣き始めた娘をあやしながら、彼はもう一度空を見上げる。
紫のような空の色は、ぐちゃぐちゃといろいろな絵の具を混ぜたようだ。

『・・・・・・すみません。アヤや夜月・・・あとから来たブラッキーやウインディを連れた黒髪のやつとポケモンだけは恨まないでやって下さい。お願いします』

そう言って謝りに来た少年は、彼はあの後どこへ消えたのだろう?この空と関係あるのではないか、彼はなんとなくそう感じたが確証の持てるものではなく、またあの一瞬泣きそうな顔をしていたことを思い出すと違う気もした。ただ、父親である彼は娘を抱きしめるだけだ。

・・・どうか、娘だけは。

この先何が起こったとしてもどうか娘だけは、と。

sideハンサム

「これは、一体・・・!?」

クロガネシティの路上で彼は明らかにおかしいその光景をクロガネの住人に混じって見ていた。

「あの子は、あの子は間に合わなかったのか・・・!?」

苦虫を噛み潰すような顔でそんな言葉を搾り出しながら彼は空から目を逸らす。茶色いコートのふちを風がはためかせた。彼の長年の勘のようなものが頭の中でこの状況は危険だとそう警鐘を鳴らしている。だが、それでもハンサムは動かないままだった。なぜなら。

「・・・もし、もしここでわたしだけ尻尾を巻いて逃げたらそれこそ警察失格だろう・・・?」

どこかネジが数本抜けてしまったかのように微かに笑うハンサムはただ、全てを託してしまった少女のことを想うだけ。

side八咫(ドンカラス)

トバリシティのとある家の屋根の部分にずらりと彼の子分やら家族やらが音符のように並んでいる。屋根の下に住む人間としては迷惑な話だろうが、自由気ままな彼らにはそんなことは関係ない。だが、そんな彼らもまた空を見上げていた。

《こいつぁ・・・》

あっけにとられたように空を見上げ、そう言うのはトバリを縄張りとするヤミカラスたちのまとめ役、すなわち八咫と呼ばれるドンカラスだ。まわりのヤミカラスたちは口々にどうなっているのかと彼に問いかけ、また何か得体の知れない恐怖をその空から感じ取っていた。

《・・・何が起こってるかはわかんネェ。だが、おめぇらとりあえずじっとしてな。嫌な風が吹きやがってらぁな》

生暖かい微かな風に八咫は目を細めるでなく存在しない何かをにらみつけるように鋭い目を風が吹いてきた方向に向けた。風に彼の頭の帽子のふちのような部分をなびかせられながら、彼は呟いた。

《旦那とあの別嬪さんが無事ならいいが》

sideヒヨリ(マグマ団)

「あれは何かなぁ?」

ハクタイの森の辺りでバグーダのコブの間に乗ってじゃれ付いていたその人間はかつて<おもちゃ箱>の主人であったマグマ団。つまり、クロガネ炭鉱に暴走状態のウインディを放置したその人である。今はあのときの騒ぎに乗じてギンガ団を抜け、気ままにあちこちをうろつくのみ。バグーダに乗りかかった状態で首を空へと伸ばし、空の様子に彼は子供のように目を輝かせた。バグーダも同じようにまた空を見上げ何か不安そうに鼻を引くつかせている。

「バグーダぁ、あれ面白いものだといいのにねぇ!」

無邪気な彼の声にバグーダは何も答えず、ずしんと一歩歩を進めた。

「あははは、あはははははははっ!!僕、負けちゃったから、負けちゃったからゲームは終わりなんだ。心配しなくてもあれが何なのか見て来いなんて言わないよぉ?あははははっ、何度言ったんだろうねぇ、何度同じことを僕は言うんだろうねぇ」

バグーダは聞き飽きたその言葉にまた歩を進め、彼の柔らかく小さい手の感触に少しだけ目を細めた。

sideミズキ(アクア団)

「あらあら結局、鎖は使われてしまったのね」

リッシ湖の近くで空を見上げるミズキはその常人なら恐怖を覚えかねない色の空を見上げてくすくすと微笑んだ。まぁそうでなくては面白くないのだけれど、と言葉を付け足しながら。耳に収まっているイヤホンからはリアルタイムで『やりのはしら』の状況が聞こえてきている。もちろん、あのアヤと言う少女がいるということも分かっていた。

・・・ぼうや二人はいないのかしら?

ふと、首をかしげるミズキ。そう、そのことが彼女にとって不思議で仕方がないのだ。契約者の彼はともかく、特にあの良く頭の回るミズキのお気に入りの子がいないのは少々不思議だった。まだ頂にたどり着いていないだけかもしれないが。
結局、ミズキはそのことを一時頭から押し出し引き続き現在の状況へと思いをはせる。

「・・・時間と空間。ふたつの神が引きずり出されて世界を壊しているのね。アカギ様は望む世界を創れるのかしら?もし、創れたならその世界は素晴らしいものになるのかしら?それとも『誰か』がアカギ様を止めれるのかしら?・・・楽しみだわ」

くすくすと相変わらず微笑みつづけるミズキ。周りには誰も居らず、ただ風が一陣駆け抜けて木々を雑草を揺らしていくだけ。

・・・期待してるわ、全ての行動するものたちに。

くすり、と笑みを浮かべる彼女の視界にはリッシ湖の水に黒と赤の混じったような空が写っていた。

sideシロナ

雪山もといテンガン山をギンガ団のあとを追って登るのはシロナ。吹雪いていたはずの雪が消え、開けた視界に映るのは毒々しい赤紫や緑の混じったような空。雲はテンガン山を中心に渦を巻いていた。

「・・・な、何なの・・・。時空の神が引きずり出されちゃったの!?これは!」

吸い込まれそうなほど高く広く広がる空。だが、こんな奇怪な色の空だと吸い込まれる、と言うより空が吸い込んでいる、と言う表現のほうが正しそうだ。シロナはその光景に無意識に身震いをして腕を抱く。自分をひどく小さなものに感じた。
だが、それでも。

「・・・行かなきゃ」

シロナは自分を奮い立たせ、さらに歩を進める。頂はすぐそこ。もう、すぐそこなのだ。
理事に反発を起こして、リーグを放り出して、四天王の皆に任せてしまって、そこまでしてここまできたのだから。だから進まなくてはならない、と。

―――お願い、護らせて!

誰に願うでもなく、シロナはそう望んだ。

sideクレセリア・ダークライ

《あらあ?》
《・・・・・・》

混沌色の時空の渦が世界を包んでいた。
それに対しクレセリアは能天気な声を上げ、ダークライは沈黙のまま空を見上げる。『もどりのどうくつ』の前、やはり細波一つたたない『おくりのいずみ』の前で――薄霧に覆われた空ではあったが――二匹はしっかりとその異様な空を見ていた。

《てゆーか。これ、絶対『時空』が引きずり出されたでしょー?調和は崩れ崩壊を招く。・・・てことは、今影響受けてんのあっちの世界じゃなぁい?》
《・・・・・・》

うわぁ、あちし独り言ばっか言ってるイタイ子みたいじゃーん、とクレセリアは頬を膨らませダークライを見るが、ダークライ自身は完全無視で空に見入っている。クレセリアはその時点で頬をしぼませ、しらけた目をダークライに向けるだけになった。からかいがいがないのである。

《あの神様の人形は・・・ユウト、あんたはどうするのぉ?絶望して動けなくなっちゃってるのか、まだ抗っているのか、それとももう消えちゃったのかわからないけどぉ・・・》
《なぜこうした?》

今ここにはいないその存在に向かって身を揺らせながら話しかけるクレセリアの言葉をダークライが遮った。その問いはダークライが尋ねられた質問で答えられなかった質問。そう、彼自身答えが分からないのだ。なぜそうしたのか、と言う答えが。クレセリアはその言葉にきょとんとし、意味を解してから笑う。

《あんたさぁー、それ、自分の胸に手ぇ当てて聞いてみたらあ?きゃははっ!!あんたはどうしてなのよぅ?多分、あちしもあんたと同じ答えよぅ》
《・・・》

にやにやと趣味のよろしくない笑みを浮かべるクレセリアにダークライはまたも沈黙。それも彼は言われたのだ。クレセリアと同じではないのか、と。考え込むように黙りこくったダークライをしばらく待ってみたクレセリアだが、とうとう飽きたらしく自ら話始める。

《あちしもあんたも見てみたかったのよぅ。きっと。それから他の4匹の神々と同じことをしてみたかったのよぅ。だから、ユウトを引きずってここまで連れてきて、向こうの世界にまで連れて行った。もう何もできないと言うユウトをそれでもまだ抗わせた。ユウトの行動はあちしからしたら、あんたからしたら、世界からしたら正しいのにねえぇ。それなのに、あちしたちはそれに抗った。ねえぇ、ダークライ?・・・そうよぅ、あちしたちも抗ってみたかったのよぅ、きっと。あの間抜けな4匹と同じようにねっ!・・・そして、神様に『全て』を与えられて、『全て』を奪われたあの子に何ができるのかそれが見たかったのよぅ。『人形』に奇跡が起きたら、もしかしたら、って。あちしたちはそう思ったのよぅ》

ただ恐れられるだけの存在とただそれを祓い崇められる存在。
触れることすらできない存在と触れられることさえされない存在。
どこまでも反対でどこまでも同じその存在たちは。

《ねえぇ、あちしたちも願っていいぃって、望ませて欲しいって。そうしたら、そうしたら何か変われるんじゃないかって。きっと、そう思っただけなのよぅ・・・》

ただ、望みを掛けた。願いを掛けた。ひどく勝手な期待を勝手に押し付けたのだ。
クレセリアは狂ったように笑い続ける。

《きゃはははっ、きゃははははっ!!馬鹿よねぇえ、あちしたち。ダークライ、あんたもあちしも4匹の神様たちもみぃんな愚かよねえぇ。かあいそうねえぇ、かぁいそう。このまま世界が滅びるかそれともユウトたちが止めるのか、もうあちしたちは結末を待つだけなのよぅ。きゃははははははっ!!!》
《・・・望まずにはいられない》

ダークライがぽつりと零したその一言にぴたりとクレセリアが笑うのをやめ、ダークライを見つめる。空を見上げ、その影を泉に写しながら。クレセリアは詠うようにその言葉に言葉を続ける。

《どうか、どうか》
《・・・・・・・・・》

変化を見据え、未来を祈るその言葉はそっと泉の中に沈んで行った。

side???

―――――其の祈り、誰が為に?


――――――ただ、其れは、貴方の為に。

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2011.7.16  00:08:47    公開


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