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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

167.sideユウト×ケイヤ×アヤ 傀儡[カミノカイライ]

著 : 森羅

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sideケイヤ

「ちょ、ちょっと。それってどういう・・・」

たっぷり一秒の沈黙の後、アヤちゃんが当惑したように尋ねた。
ぼくはその声にゆっくり顔を上げ、『しんく』を見る。彼は困ったような顔をしてから言葉を足した。

「そういう意味だよ。僕達はただ在るだけの存在。僕達の願いを叶えるためには代償が必要で、君達の望みを叶えようとするなら今度は僕達がその代償を支払えない」
「そんな矛盾が生まれるなんて思いもしなかったらしいな、神も。勿論俺達も思いもよらなかったが。だが、それでも神どもは願望を叶えようとしたんだ。無理やりな。それで、結局ギリギリ中途半端なところに落ち着かせて、俺達は存在してる」
「君達が願った通りに、ね。・・・これでわかったかい?」

目を丸くさせるアヤちゃんに真紅が微笑を浮かべる。
ぼくの表情はまだ硬いまま。・・・でも、これで、手の中にあったピースが全て一致した。

「ね、しんく」

ぼくは『しんく』に声をかける。その声に全員の視線がぼくに移り、黙って座っていた燐がぼくのすぐ傍にまで寄ってくる。ぼくはその燐の頭をそっと撫でて、言葉を繋いだ。

「じゃあさ、『ゆーと』は『誰』なの・・・?」

ぼくの言葉に笑っていた真紅の表情がわずかに揺れ動く。それは本当にわずかな変化だったのに、ぼくにはやけにはっきり見えた。わけがわからないという表情でぼくと『しんく』の間をきょろきょろしているのはアヤちゃんとスピカ。夜月はただ『しんく』だけを見ている。

「・・・俺は言ったよな。『お前は俺達が話す結末を知ってるんじゃないか』って。それを、話してくれよ」

長い息を吐き出してから深紅がそうぼくに言う。かたかたと凪と透(ゆき)のボールが小さく揺れた。そしてぼくは口を開く。

「・・・最初に不思議に思ったのは深紅と別れた後。ここからはある程度さっきぼくの立ち位置として話したことなんだけど。・・・燐と整理しようって話をしたんだ。そしたらゆーとの事故が『ハジマリ』だった。燐と出会ったものも、パルキアが行動を起こしてきたのもゆーとが事故した後。その時はゆーとがこっちにいるなんて思わなかったから全く関係ないと思って『病院に空間の穴が開いててそこから燐は来たんじゃないか』って話したんだ。だけど」

そこで一旦話を区切って、つばを飲み込んでからぼくは続ける。

「その次、カンナギでアヤちゃんに出会った。確か『契約』の話をしたよね?ぼくはその時『契約』はパルキア・ディアルガの副産物だと思ってた・・・いや、今もそう思ってるけど。まぁ、でも、とにかく『神と呼ばれるポケモンなんて知らない契約者』がいることはわかった。それも正真正銘本物、の。じゃあ2通りの方法で考えるしかない。『契約』は全く関係のないもの、か『契約』はやっぱり関係のあるもの、か。もちろんその時はゆーとがそうだとは知らなかったけど」
《2通り、考えていたのですね?そんな話は聞いてませんよ?》

意地悪っぽい目を向ける燐にぼくはふっと、肩の力を抜いた。
ありがと、と小さく呟き向き直る。

「『契約』が全く関係のないもの、と位置付けるなら話は簡単だ。『契約』の話なんて放ってしまえばいいだけ。でも、アヤちゃんの言葉がぼくには引っかかってた」
「あたしの言葉?」
「うん、カンナギで言ってたじゃん。『契約』のこと聞いたら、『ディアルガに会うまでは使えなかった』って。なら、やっぱり関係あるんじゃないかって思った。それで、だから、その『もう一人』もやっぱり本当はどこかで神と呼ばれるポケモンに出会ってるんじゃないかって考えたんだ」

ぼくが言葉を切るたびに、静寂に沈む図書館。西日の輝きが、赤く光っている。一体どのくらいの時間が過ぎたんだろう?

「そこで話はちょっと戻るんだけど、燐と話の整理をした時、燐に言われたんだ。『どうして出会ったのが深紅達だった』んだろうって。今はもうぼくらにとってはわかりきってることなんだけど、1つはぼくが『深紅』に対して、アヤちゃんが『真紅』に対してそれぞれ『望んでいた』こと。そして、もう1つは『しんく』もそれぞれ『願っていた』こと。ここの細かい話は割愛しても大丈夫だよね?とりあえず、堺・・・パルキアが見せてくれたものが全部関係あるものだったから、とだけ言っておくね。
うん、それでさ。その時のぼくは『しんく』と出会ったこともアヤちゃんと出会ったことも全部『関係者』だからじゃないかって方向で考えをまとめてたんだ。だって、堺がくれた情報に無駄なものがなかったから。事実、アヤちゃんは関係者だったしね。シンオウの神様は4匹。・・・パルキア、ディアルガの両方が望みを持っていて残りに2神が何も願っていないなんて考えづらい。じゃあ、残りの2神であるアルセウスとギラティナの『契約者』は?・・・ぼくの知りえる範囲でその関係者に当てはまるのは2人しか出てこない。『英雄』と『殺戮者』の2人しか、ね」

本当は『しんく』達も神と出会ったんじゃないか、って考えはアヤちゃんに出会ってから考え付いた。もう一人、『契約者』がいるって聞いて、その一人が無関係なんてありえないだろうかから。ちなみに燐たちに話さなかったのは証明するものがなかったことと、全然確証が持てなくて、曖昧過ぎたからだ。

「でも、エイチ湖で話は少し動く。アヤちゃんの言ってた『もう一人』がイコールゆーとだったから。これで『契約』は関係あるって説で考えると無関係だと思って外してた人物が関係者になっちゃったんだ。ゆーとの事故からの『ハジマリ』が偶然の代物じゃなくなった。その上『ゆーと』はぼくらの世界で生きてるのに、こっちでも死んでるわけじゃなくて存在してる。まるでゆーとが2人になったみたいだった。それに、びっくりしたよ。ゆーとの髪と目、血の色だった」

ぼくの言葉に疑問を顔に浮かべるのはアヤちゃんとスピカと夜月。
あぁ、とぼくは言葉を付け足した。血の色は黒、赤が上塗りされて変色して血は黒くなっていくのだと、言った深紅の言葉を。それを聞いたアヤちゃんたちはあ、と納得したような顔になる。そう、ゆーとの髪の色は、まさにその色だ。

「ここでさ、ぼくの望みの話に戻るんだけど。ぼくは深紅と一緒にいたいって、望んだって話したよね?・・・ゆーとはずっと『一緒』だったんだ。でもゆーとは『深紅』じゃない。それに、トバリのギンガ団のアジトで真紅の方が出てきてたでしょ?ぼくはそれをさっき話した通りミズキから知ることができたんだけど。・・・つまりゆーとは2つの神の影響を受けたからこその完全な『契約者』。じゃあ、2神の『契約者』である真紅と深紅はゆーとってことになる。もちろん、これは『しんく』が残りの2神と契約してたら、の仮定の上での話だったけどね。・・・でもさ、ぼくらが『望んだ』のはゆーとじゃない。今現在の『君達』。じゃあ、じゃあ・・・ゆーとは『誰』?」

ここでやっと話が最初提示された疑問にまで戻る。
キッサキで『ゆーとが2人いるみたい』だと思った。そして、それはどういう意味を持つか。ゆーとがこっちにだけいたら『ぼくの望みが叶わないから』じゃないだろうか。それは、霧が晴れたみたいに思いついたこと。勿論、英雄と殺戮者がアルセウスとギラティナの契約者でという前提での仮定だったけど。だからこそ、頭の整理がしたくてぼくはアヤちゃんとゆーとから逃げた。

『あれは居ない。だがあれは在る。そいういうことだ』、そう言った堺の言葉が頭を巡って消えた。

「ねぇ、しんく。答えてよ、ゆーとは誰?いや、ゆーとは『何』?」

ここから先は、もう本当に想像するしかなかった。だから答えは『しんく』に提示してもらうしかない・・・そう言い訳してぼくは『しんく』に問うた。
苦々しい顔をしていた『しんく』がやっと重い口を開く。

「例え世界が壊れるとしても。例え世界が歪むとしても。
4つの願い、4つの望み、そのどれも等しく叶えようした神は」
「ひどく不安定な存在を『創った』んだよ、ただ、『願いを叶える』というそれだけのために」
「俺達はある意味でよく似ているんだ。そして真反対でもある」
「要は手のひらと手の甲のようなもの。どっちも手であることには変わらないだろう?その重なった部分が君達の言う『ユウト』。彼は本当に偶然の産物なんだ」
「そうさ、『ユウト』は存在しないはずの存在。どちらの世界にとっても」
《ぶらあぁ!》

言い切った『しんく』に静かに聞いていた夜月が吼えた。ぼくらはびくっ、として夜月を見る。がたがたと2つのボールがそれに呼応するように揺れた。

side夜月(ブラッキー)

《ふざけるな!待てよ!!》

俺は声を荒げる。それと同時に紅蓮と緑羽の入ったボールが揺れた。
『しんく』は俺に目を落とし、アヤとケイヤは訳してもらおうと思ったんだろう、燐にスピカにと目線を移す。
だが、そんなこと今の俺にとってはどうでもいい!

《なぁ!言ったよな?深紅!『俺は俺以外何者でもない。俺はこいつでこいつはあいつ』だと。そういう意味だったのかっ!?》
「・・・そうだ。俺は俺。ユウトは俺。だが、俺はユウトじゃない」
「僕は僕。ユウトは僕。だけど、僕はユウトじゃない。彼はどっちつかずで、どちらでもないんだ」

じゃあ、じゃあ・・・。
何か言おうとして、何も言えなかった。代わりに言葉として零れたのは別の疑問。

《なぁ・・・。『よづき』は『俺』か?》

川に流したポケモンの骨は、肉体を付けて還ってくるという、昔話。
その質問の回答者となる深紅がその言葉に少し顔を曇らせた。

「それはわかんねー。そうなのか、そうじゃないのかなんて俺が見分けられると思うか?ただ、お前の夜月が『よづき』から取ってるのは間違いねーよ。あの時、俺がそう言えと、ユウトに言ったんだから」

嘘か、本当か測りかねる言葉。だが、ソノオで初めて会ったとき深紅は迷うことなく『久し振り』とまで言ったのだ。俺自身が知らない技を知っていて。それに、それに。俺は懐かしいとまで思ってしまった。それでも深紅が真相を語らないのは。

「どうでもいいだろ。お前はお前。それだけだ」

何かを、俺に望んでいるから・・・だろうか。
なぁ、俺はどうすればいい?こんなことを知って、どう行動すればいい?
『選んでくれ、もしそれが起こったら』。

深紅の言葉が脳裏をよぎった。

sideユウト

じゃあ、じゃあ『オレ』はなんなんだよ・・・っ。
ここにいて、記憶もある、家族もいる『オレ』はなんなんだ?

「・・・言い方が悪かったかな?君は存在しない存在ってわけだよ。在るべきものではない、異質で世界から認められていない存在」

淡々と言葉を続ける『管理者』の言葉には感情がなかった。
オレはただ押し黙るしかない。

「ねぇ、君さ、少し前に言ってたよね?『いつから深紅と真紅は自分の中にいたんだ』って。違うよ。元々あの器は彼らのもの。君のものじゃない。今の状態が、『コトブキユウト』という身体(からだ)としては一番正しい状態なんだ。人格云々って言うなら君こそがイレギュラー。願いを叶えた時と空間の神は、『今の』状態を予想してたんだ。真紅と深紅が共存しているような、ね。でも実際は君が生まれた。・・・まぁ、でもそれはある種当然のことだったとボクは思うけど。
2人は言うなれば紙の裏と表。真逆だけど紙であることには違いがない。それに、だってさ。『神』にとってはどうでもいい話かもしれないけど、『生活する上で』はそんな2つの人格は異常な状態だもんね。
それから、ついでに家族についてだけど・・・。まぁ、まず生まれなきゃおかしいし、『君』と言う存在を除けば『コトブキユウト』は神の創造物、一応『認められている存在』だ。もちろん、元々はなかったモノなんだからある程度世界に拒絶はされてるけど、それだけならなんとか抑え込めるレベルなんだ。認められていないのは君だけ。世界に激しく拒絶されるのは君だけ。意味は分かるよね?」

つまり不要なのは『オレ』だけってことだろ・・・。
吐き捨てるように言うオレに『管理者』は答えず、続けるだけ。

「そして、『存在しないはずの存在』は世界を壊す。それでなくても、無理やり願いを叶えたせいで歪んでしまった世界に、最終的な一撃を加えたのが君という存在」

妙に無機質な声。感情がなく、ただ案内掲示板のように『管理者』は言い切った。

「ここまでくれば君がわざわざダークライやあの時の『黒猫』に襲われたのかわかるよね?」

『消えろ。消えれば良いのだ。存在自体が罪なのだから』
切っ先に向かう途中、テンガン山でダークライに言われた言葉が思い起こされる。クレセリアの言った『手出し無用』の意味がはっきりと分かった。・・・存在自体が、『罪』。本来存在すべきものではないから。それでも、ただ、願いをかなえるためだけにオレは『存在し続ける』必要があったんだ。
・・・いい加減にしてくれよ。もう、やめてくれよ。

「やめるって、何を?君が知りたいって言ったんでしょ?ねぇ?
じゃあ、続けよう。今度は、『君』と『しんく』の行動を見てもらわなきゃ。ソノオ、ハクタイ、トバリなんかかな?意識が飛んだこと、あったでしょ?あれを、今アヤちゃんとケイヤ君と話してる『しんく』たちの話と同時進行で見てもらおうかな。時間の節約にね」

オレは・・・。
『管理者』の言葉は残酷な響きしか残さなかった。

sideアヤ

頭が、パンクしそうだった。
それでもなんとか話について行って、内容を飲み込む。
ユウトが、存在しない?え、あいつは確かに存在感薄いけど、でもいままでちゃんとそこにいた、わよ・・・?

《アヤ、大丈夫?》

見かねたらしいスピカの声にあたしは何とか頷く。
『しんく』は夜月から視線を戻して続けた。

「話を戻すぞ。ユウトの存在の続きだが。『ユウト』は時たまおかしい時があっただろう?」
「僕達が表に出てる以外でね。例えばハクタイ。ロストタワー、<おもちゃ箱>。カンナギへ向かう途中、キッサキへ向かう途中。公式試合、極めつけがトバリ。夜月達は大体全部知ってるだろうけど、君達は知らないものもあるだろうね」

君達、のところであたしとケイヤに目をやる真紅の彼。ケイヤは迷うことなく頷き、あたしも頷く。はっきり言って何があったのか少しでも知ってるのはトバリのアカギのところだけだ。真紅の彼はその答えにふわりと笑う。

「夜月達は知ってるだろうけど・・・。これは2つの種類に分類できるんだ。まぁ、結局は影響がないってことはないから少し語弊があるかもしれないけどね。まぁ、その2つっていうのが、どちらかと言うと僕達の影響がユウトに行ったもの、とどちらかと言うとユウト自身が起こしたもの、の2つだ」
「1つ目に分類されるのがハクタイの一部と、ロストタワー、カンナギへ向かう途中、それから公式試合。2つ目に分類されるのがハクタイの一部と、<おもちゃ箱>を含むトバリ、それからキッサキへ向かう途中だ。この2つのうち厄介なのが2番目。ユウト自身が起こしたものの方」
「ユウト自身?」

悪いと思ったけど、あたしは口をはさむ。あたしの行動に深紅は面倒そうな顔をし、代わりに彼が笑って答える。

「順に話すよ。・・・この子ってあんまり激しく感情を揺らさないだろう?」

ユウトのことだとわかったあたしはうん、と頷く。そしてそれはスピカも。
その答えに納得したのか深紅が次の言葉を繋げた。

「それは世界への影響を最小限に抑えるためだ。そうすることで無意識に自分を護るために。自分が存在してはいけない存在だと体はわかってるからな。それに、なぁ、お前は何度かユウトを巻き込むときに何もしようとしないユウトに怒っていただろう?トバリではこうも言ってたな、『いつもつまらなさそうでそんなに全部面倒なのか』って。あれは的を射てた。そう、『ユウト』は積極的には何もしようとしない。事が大きくなればなるほど、自分が派手に動け動くほど、世界に見つかりやすくなるから」

お前、のところであたしに目をやる深紅。確かに、あたしは言った。手におえないことはしないと、何もしようとしないユウトに。
それから、深紅の言うその言葉はトバリでアカギの演説を聞く前の話だ。
深紅の言葉に次は彼が続ける。

「世界に見つからないように、世界に排除されないように。この体(うつわ)はただ『願いを叶えるため』だけのものなんだから。願いが叶わないうちに世界から排除されちゃったら意味がないからね」

え・・・?何か、2人のセリフが妙に引っかかる。
ユウトは存在しなくて、でも存在し続けて。その理由は『願いをかなえるため』。
その願いは、あたしたちが願ったものなのに?

「・・・ね。あのさ、わからないんだけど。世界(パルキア)と時間(ディアルガ)に創られた存在がどうして世界への影響を抑えて、自分を守る必要があるの?認められてるはずじゃ?」

あたしの思考はケイヤの質問で停止した。そして、それに答えるのは深紅の方。

「まぁな。だが、それは少し違う。頭と体の関係を思えばいいさ。パルキアとディアルガが頭、空間(せかい)と時間が体だ。頭は体を動かすことができるが、体の勝手な反応を頭が意識的に止めるの難しいか不可能だろう?薬を飲んだときを思えばいい。頭では薬とわかって飲むが、体はそれを異物だと思い排除しようとする。要は副作用、反動みたいなものだ」
「ちなみに今大丈夫なのは僕達(『認められている存在』)が表にいるってことと、君達(願った存在)がここにいるから。望みが叶うときに流石に倒れてるわけにはいかないだろう?本当に世界から拒絶されてるのは『ユウト』だけだしね」

柔らかな笑みを張り付けたまま答える真紅の彼にケイヤは追撃する。

「・・・図書館の前で出会ったゆーとの調子がおかしかったのはそれ?」
「ん・・・まぁ、そうなるかな。でもそれより、別の理由もある。『望みが叶うときに倒れてるわけにはいかない』って言ったけど、実はある意味で僕に対する『願い』は叶ってるんだ」

彼の言葉にハッとするあたし。そうだ、あたしの願いは。

「『僕に会いたい』だったよね?そしてそれは一応叶った。つまり僕はもう、消えてもおかしくない。ただ、君が回数指定をしなかったってことと、あと」
「・・・俺だけじゃ体を保てないんだ。『俺の存在』は対価に支払ったから。死んでも生きてもいない在るだけの存在を無理やり存在させるために2つの命をぶち込んだ体だから、一方が消えればもう一方も保っていられない。そしてそうなれば俺に対する『望み』は叶わない。だから、真紅は存在し続ける羽目になってる、ってことだ」

トバリを出て、ミオに向かう道中。立っていられないくらいのユウト。
・・・あれは、あたしのせい?

「わかっただろ。俺達はひどく脆いんだ。世界に必死で隠れておかなきゃならないくらいにな。『願い』と『望み』、それだけが俺達を存在させる」
「・・・さてと、最初と話を繋げるよ。この子が時々おかしくなる、って話をしてたよね?例えば、ハクタイの祭り。君はそのあと立ち去ったから知らないだろうけど、『化け物』呼ばわりされて壊れた。<おもちゃ箱>では狂いそうになって、トバリではもう少しで一人殺しそうになった。これは全部、世界への『拒絶』と『防衛』」
「拒絶と防衛・・・?」

覚えず繰り返した言葉に深紅が頷いた。ケイヤはただ、横一文字に口を結んでいる。

「そう、拒絶。それと防衛」
「本来存在してはいけない存在だから。世界に矛盾を生む存在だから。例えば、死にそうになったら自分を守ろうとするだろう?これは当然の事。でもこの子の場合のそれに世界は反応を起こすんだ。存在するなと言わんばかりにね。同じように心が乱れたら世界に見つかる、そうしたらまた世界から自分を守ろうとして・・・その繰り返し」
「それがユウトの暴走の正体。拒絶とそれに対する防衛。それがあの状態を生み出した」
「テンガン山では、結局ぎりぎり救ってはもらえたけど、一回ダークライに排除されかけてるしね、この子。あの時の暴走もこっち。自分を守ろうとして。・・・あぁ、そういえば君はあの時ダークライとすれ違ったのかもしれない。三日月の羽根が反応してたから。悪夢を、見たかい?」

彼の言葉にあたしは頷く。けど、それと同時に悪夢で見た彼の嘲笑が思い出されて思わず目線を彼からそらした。
そして、沈黙が再びその場に広がる。懐かしいと、温かいと思ったはずの古い本の匂いは今もそのままあるはずなのに、肺に入ってきた空気はやけに息苦しくて。

「そして、もう一つ。僕達が原因の方だけど。例えば、ハクタイの卵をもらった時と後もう一つ、ギンガ団、っ言うんだっけ。あれのビルでボールを壊したとき。公式試合、ロストタワー、あとはカンナギに行く途中で。これらは僕達のせいなんだ」
「理由は簡単。『俺達の性格と願い』だ」
「夜月。カンナギに向かう途中で、僕は言ったよね?『この子が正式な試合でおかしくなるのは僕たちがそれを嫌うから。この子は極力傷つけないようにしているんだ。生あるものを』って」

話を振った彼に夜月はしぶしぶと言った感じで頷く。それを確認してから深紅が続けた。

「そう、勿論世界への影響ってのもあるが、それよりも・・・俺達がもう何も傷つけたくないんだ――――」
「深紅・・・」

深紅の声にケイヤがそっとその名前を呼ぶ。
何かを殺し続けなきゃならなかった『しんく』。もう何も殺したくないと、もう誰にも殺させたくないと、そう願った望みがそのままユウトに反映された。でも、それは。

「ハクタイの卵とロストタワーは少しだけ方向が違うけどね。傷付けることしかできなかったから、あれはその躊躇い。ロストタワーはただ単に僕の作った墓があの場所だったからの話だし」
「だが、残りはほとんどそのままだ。ハクタイのビルの中も、カンナギへ向かう途中、叫んだのも。『俺達が願った願い』、それが起こしたもの。どうして傷つけるのだ、と」

言い切った深紅にそれぞれの反応がそれぞれの顔にうっすらと浮かび上がる。
ケイヤは目を伏せ、燐はそれを気遣うように下から見上げる。夜月は苦虫をかみつぶしたような顔で目線を外し、茫然とするあたしにスピカは心配そうに声をかけた。

《アヤ・・・?》

・・・あたしにだってそのくらいわかる。どうして、どうしてユウトは。
ユウトは存在しないって、ただ、創れらて、偶然の産物だって。ねぇ、確かにあたしは彼に会いたいって願ったよ。でも、でも。

「これで一応全部話したはずだ。なぁ、答えは出ただろう・・・?」

深紅の問いかけに、ケイヤはそのままわずかに頷いた。
ねぇ、じゃあ。
じゃあ、あいつは何のために今まで生きてたのよ―――!?
ただ。

ただ、『あたしたちのため』だけに?

sideケイヤ

「あぁ、最後に一つ。ハクタイで、俺達は一度アカギに会ってる」
「真夜中に、ね。しかも乗っ取って、ね・・・」

深紅の高らかな宣言に真紅は少し苦笑で言葉を足す。
え、アカギ・・・?

「音が聞こえた。血の滴る音」
「音?」

簡潔な深紅の言葉にぼくはつい、反復する。
それに少しだけ微笑んで答えるのは真紅。

「ずっと耳に残ってるんだよ。そして、血の匂いに僕達は反応しやすい。神のごときものは?」
「刀匠?それともアカギ・・・?」

ぼくの声に真紅が頷いた。

「うん、そう。刀匠の方は僕の時代よりも昔だから僕達は本当はよく知らないんだけど、あとで黒い神と白い神に出会って願いを言ったときに教えてもらったんだ。それは哀しい神のごとき人間が創ったのだと。・・・アカギという人は、同じ感じがした」

うん、それはわかる。ぼくもそう思ったから。
2人とも周りとのズレに自分が拒絶されていると、感情をはき違えてしまった哀しいひとだ。

「あぁ、別に生まれ変わりだとか、そういう話をしてるんじゃねー。確かに命は2つの世界を巡るが、その話は置いておく。ただ、あいつも『世界を呪ってる』というだけの話。そして、その意味俺達とは対極の存在」
「僕達は、未来を繋ぐことを願ったからね。断ち切ることを望んではない」
「だから最後に『刀匠』って呼んでやったんだけどな。まぁ、それはいい。問題は、『ユウト』だ。不確定な存在だから」

・・・それは、ゆーとと言う存在は最もアカギと同じ視点に立ちやすいということ。
だって、アカギは『自分を否定する世界を、壊そう』としているのだから。

「・・・これで正真正銘終わり。すべて話したはず」
「・・・うん、多分ね」

ひどく長い時間、ここにいた気がする。
いや、まだそれほど時間は立っていない。すりガラスから見える外はまだ昼下がりを示して赤く、黄色く、輝いている。唐突に、真紅がふわりとアヤちゃんに向かって笑った。

「・・・頑張って。君の答えが出ることを祈っているから」

突然言われたアヤちゃんは視線をきょときょとさせて驚いているだけ。
そして、真紅は深紅へと移行する。

「悪い。だが・・・俺に望んでくれて、救ってくれた」
「・・・ううん、こっちこそありがとう」

ただ、静かに真紅(あか)と深紅(あか)、その2色の瞳を隠すように瞼が閉じていく。
机に突っ伏すようにして眠るのは『ユウト』。

その黒いコートにすり寄った夜月は、きゅぅん、と甘えるような声で鳴いていた。

sideユウト

意識のぶっ飛んだオレが何をしていたのか、いままで夜月たちは語らなかったし、オレは知ることができなかった。最後のトバリ以外は。だから、残りは初めて観た。『オレ』も『真紅』も『深紅』も。
そして、同時に『しんく』とケイたちの話を聞いて身に染みて知った。オレは世界に拒絶されてると言うことを。

―――やめろよ、もう。もう・・・いいだろ・・・?

それは小さな仕掛けのようなものに思えた。
世界が仕掛けた小さな、仕掛け。

―――な、んでだよ・・・。

生きたいと願う『当然の欲求』。それが自分を崩壊させる。

「それが、君の行きついた真実だよ」

なぜなら存在してはいけないから。

『管理者』の声は相変わらず無慈悲で。
どうしてだよ!!どうして、どうして生きてたらいけないんだ!?創ったから、創ったから好きにしていいのか!?なぁ!?

「・・・そうだよ。だって、だぁれも君を求めちゃいない。だぁれも君を望んじゃいない」

何もない世界で、嘲笑うように『管理者』の声が唯一響く。
オレの言葉は、声に変わることはなくただ無音に変わるだけ。

生きたいと言う想いがオレと世界の間に拒絶反応を起こす。
本当は、存在してはいけないから。そして、その拒絶反応はオレに世界を壊させようとまでする。自分を守るために。アヤの願いを、ケイの望みを叶えるために。だが、世界はオレごときに壊せるはずがない。必然的に起きるのは自身の崩壊。そして、消さないでくれ、生きていたいと、その無意識の『オレの』声がさらに反応を加速させてしまう。まるで連鎖のように。

世界が、オレを見つけやすいように。勝手に『壊れて』くれるように。
それは、世界の仕掛け。一種の自滅スイッチのようなもの。

「これで、全部だから。帰りなよ。ここにいても仕方がないでしょ?さぁ」

・・・帰る、ってどこに?
『管理者』の声にオレは口元をひきつらせて尋ねた。
だが、『管理者』はあっけなくその言葉を切って捨てる。

「さぁね。そんなこと、ボクは知りえないよ」

sideケイヤ

「・・・おはよ、ゆーと」

ぼくの声に『ゆーと』は答えないまま。無表情にも近い顔でただ、見ている。
ぼくを、アヤちゃんを、燐を、スピカを、夜月を。
だけど次の瞬間、バンと蹴り倒すように椅子から立ち上がりそのまま階段へと向かってしまう。

「ゆーとっっ!?」

ぼくは、思わず椅子から立ち上がって止めた。どこに行くの、と。
ぼくの声にゆーとは振り向き、嗤う。

「・・・もう、いいだろ。お前らの『願い』は、『望み』は叶ったんだろう・・・?」

その声は、泣いているようで、笑っているようで。
とんとんとん、と階段を下っていく音が遠ざかっていくのに。

《ぶらああ!!》

夜月がゆーとを追って飛び出すまで、ぼくたちは誰も身動き一つできなかった。

side???

何を、望んで。
何を、願って。

わかってるよ。ユウト君は何も悪くないんだ。
そして、願った4匹と、望んだ4人も。誰も悪くなんてないんだよ。
でも、だけど。それなら。

ボクは何を願い、何を望めば良かったのだろう?


***   ***
こんばんは。物語があっち行ったりこっちに行ったり申し訳ありません。
ケイヤ君が初っ端から無茶苦茶な回でしたが、ケイヤの言っている「立ち位置として話したんだけど〜」は160のことです。アヤの過去での後であまり細かくは書きませんでしたが、この時に彼はすべてちゃんと自分の経験を話しています。(勿論、世界の歪みやらなんやらを含め全部です。内容が重複ばかりするので割愛させていただきましたが)
参照ページ、ケイヤの話は117、146、152。そのほかか、幕間:望みの果てに見えるものなど全ての伏線を回収したと思います。話が分からない、ここはどうなっているんだ、と言うご意見がありましたら是非教えてください。
それでは、失礼を。

⇒ 書き表示にする

2011.6.2  01:11:59    公開
2011.7.23  00:11:03    修正


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