生あるものの生きる世界
166.sideユウト×ケイヤ×アヤ 真実[ホントウ]
著 : 森羅
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sideユウト
もうやめろ、とは言えなかった。
下っていく真紅も登っていく深紅も疲れ果て、足を引きずるようにして。
それでも歩くことを止めなかったから。
死ぬのことが分かっていて、なお笑っていたから。
石の壁に背を預けた真紅の皮膚は熱で爛(ただ)れた。
新雪の中に寝転んだ深紅の手足は凍傷で壊れた。
息をするのもおっくうなくせに、それでもまだ2人とも笑っていた。
黒と赤が支配する世界で、真紅は地の底を見ながら言う。もう何もその目には映らないというのに。
黒い生き物がそいつに言った。
《汝は何を望むのか。その望みは罪。その願いは咎(とが)。それでも汝はそれを欲するか。ヒトの子よ。我の願いをかなえてくれるなら…汝の望み叶えてやろう》
「・・・!あ、あははは・・・!いいですよ。あなたの願いを聞きます。だから・・・」
神様なんだね、君は。
黒い生き物に真紅は微かに笑う。嘲笑にも見える笑みで。
「僕の願いを叶えてください」
真紅ははっきりと言葉を繋いだ。
「もう二度と、僕みたいな罪深い人間が生まれないように」
白と青が支配する世界で、深紅は空を見上げながら言う。その目は虚ろで焦点が定まっていない。
白い生き物がそいつに問うた。
《貴方は一体何を願うの?私は望みを抱くもの。貴方は願いをかけるもの。その願いは罰を生む。それでもと望むなら。
貴方の望み、私の願い。同じであって同じでない。ならば互いに叶えましょう》
「いいぜ。・・・お前の言う事を聞いてやる。だから・・・」
そこにいるのは本物の神なのか。
白い生き物に深紅は強く笑う。嗤笑(ししょう)にも見える笑みで。
「俺の願いを叶えてくれ」
深紅はきっぱりと言葉を紡いだ。
「もう二度と、俺みたいな血のにおいしか知らないやつが生まれないように」
※
「・・・以上で終わりだよ、ユウト君。真逆みたいな2人は同じ願いを持ったんだ」
台本を読むかのような『管理者』のセリフにオレは顔をしかめる。以上で終わりではないはずだ、と。
・・・なぁ、違うだろ。白い方はともかく、黒い方のこの場面をオレは夢で見たことがあるんだ。
「そうだね。そっか、そうだったね・・・。ハクタイ、だったね」
悲しそうに、弱弱しい声で答える『管理者』にオレは小さく頷いた。
そう、確か願いの代償は。
「『代償は、汝自身。汝の罪の重さを知ると良い』、そうでしょ?」
そう、あの時はオレの事を言ってるのかと思っていたが実際は違う。
あの『汝』は『真紅』だ。
だが、そこで疑問が一つ生まれる。なら、真紅は・・・。
「ユウト君、実は深紅も同じ対価を払ってる」
根本的疑問の直前まで行ったオレの思考を『管理者』の声が遮った。だが、そっちの内容もオレにとっては同様に驚愕だ。
おい、ちょっと待てよ。自分自身ってなんだ。それって一体・・・?
焦燥感のようなものが体を走る。もうやめろと頭が警告し、悲鳴を上げる。
だが、『管理者』は話を止めはしない。
「あのね、ユウト君。4体の神に4人の人間。それぞれが願い、それぞれが望んだ。叶えさせてほしい、と。叶えてほしいと、ね。その願いが互いに矛盾を生むなんて考えもしなかったんだよ。でも、それでも叶えてやりたかった。叶えたかった。自らの願いを、望みを。たとえ『どんな形であっても』ね。だから」
だから・・・?
なぜか体の軋む音がした。肺は毒を吸い込んだように呼吸は苦しくて。
これ以上は何も聞くなと全身が拒絶するのがわかる。
だが、話は続く。例えその終わりが笑えるくらい悲惨なものだとしても。
「だから」
・・・・・・。
聞いて、しまった。答えを。ずっと不思議だった答えを。
そして、狭間の世界は沈黙を取り戻す。長い長い話を終えた『管理者』ももう何も語らない。
静かすぎる世界でオレはまるで世界に自分だけが取り残されてしまったような、そんな気分だった。
・・・いや、事実そうか。
『管理者』の示した答えが頭の中で反芻し続ける。あぁ、そうか。そうかよ。
自分が笑っているのか泣いているのかすらも、もうわからない。わかりたくもない。
何かが壊れる音がした。
sideアヤ
「一番地の底に近いところと、一番空に近いところ・・・」
反復するようにあたしが言うと、そうだよと彼は微笑(わら)った。
そして逆に身を固くして、いつものヘラヘラ笑いではなく真剣な顔で『しんく』を見つめるのがケイヤ。そしてケイヤはそのままの表情で口を開く。
「続けて。まだ話は終わってない、そうでしょ?」
「・・・あぁ、正解。まだ終わってはないな」
深紅の答えに、彼もそうだね、と頷く。あたしはわけが分からず首を傾げた。
え、これで終わりじゃないの?
あたしの当惑顔を見たんだろう、ケイヤは少しだけ笑って言った。
「アヤちゃん。あのね、二人の願いは同じだったことはわかるでしょ。でも『もう二度と自分みたいな人間が出ないように』だけじゃあまりにも抽象的すぎるんだ。だから、その続きがあるはずなんだよ。もっと具体的な」
ぱらぱらと気のない拍手をケイヤに送るのは深紅。
獣のような目でケイヤに笑いながら深紅は続けた。
「なぁ、お前はわかってるだろ?」
「推論の域を出ないよ。ぼくの考えは」
「じゃあ、その推論を聞かせてくれるかい?」
『しんく』に責められケイヤは肩をすくませる。そして、おもむろに立ち上がって本棚から一冊の本を取り出した。
「君たちの話は、この話だよね?」
やけにくっきりと黒い文字で書かれた題名は『トバリのしんわ』。
あたしがはっ、として『しんく』に目をやると、真紅の彼が微笑を浮かべていた。それは、答えを肯定するように。
「もちろん、これはおとぎ話、神話だよ。だけど、『おとぎ話』っていうのは昔あったことを形を変えて残すものも多い。ねぇ、しんく。君たちの望みは『剣を消してくれ』?」
ケイヤの声がりん、と図書館に響く。全く迷いのないような声なのに、その声はどこか悲しそうな雰囲気があった。
長い1秒が終わり、やっと深紅が口を開く。
「・・・それは、多分、あいつらが作ったものだろうけどな」
「あいつら?」
「僕達の願いをかなえてくれた彼らのことだよ」
口を挟んだあたしに、真紅の彼が笑って答える。ケイヤはその間に本を持って椅子に戻って座りなおした。
「じゃあ、合ってるんだね。ぼくの推測」
ケイヤの声に頷く人は1人。肯定の言葉を言うのは2人。
そして彼らは続ける。
「うん。そう。僕達の願いは『剣を消してくれ』だった。もうこんなこと十分だと思ったからね」
「だが、その願いは罪で、俺達は対価を支払った・・・」
「代償はな」
「ちょっと待って!おかしいわよ!!それっ!!」
ケイヤの言葉を遮り、あたしは声を上げる。
だって、おかしい。どうしてその願いに対価がいるの?だって、平和を願っただけじゃない!
あたしの声が空気中に吸い込まれて消えてから周りを見ると、びっくりした顔でみんながみんなあたしを注視していた。
最初に動いたのは、彼。真紅はゆっくりと首を振った。
「違うよ。代償は必要だったんだ。彼らは『願いを叶えられなかった』のだから」
「・・・アヤちゃん。ディアルガに言われなかった?ディアルガ自身にも願い事があるって」
彼の言葉を引き継ぐのはケイヤ。そしてあたしは思い出す。願いがあるといったザウラクのことを。ザウラクの、願いは。
ぽつり、と口から言葉がこぼれる。
「『其の行方に風と波は力を貸そう。それこそが』」
『それこそが、吾の求めるもの』。
あたしが気づいたことが分かったんだろう、深紅が笑って言葉を続ける。
「わかっただろ。俺達4人の望みを叶えることすらあいつらにはできなかったのさ。だから『望みを聞き届けること』こそがあいつらの願い。だがその想いだけじゃ願いを叶えてやることなんてできない。・・・不公平が出るからな。神は限りなく平等に立つがゆえに何もできない役立たずってわけだ。そして、だからこそ『対価』がいる。その不平等を打ち消すために」
「ちなみにぼくがパルキアに言われた代償は『真実を見て苦しむこと』」
・・・あたしの対価は自分自身で彼を探すこと。
必要だった『対価』。じゃあ、『しんく』の対価は?
ケイヤ、あたし、スピカ、燐、夜月。全員の視線が引き寄せられるように『しんく』へと向かう。
『しんく』は笑っていた。どっちつかずのあいまいな笑いで。
「僕達の代償は」
「『自分自身』・・・いや、多少語弊があるか。正確には」
「正確には、命は生と死の世界の2つの世界を巡る。だけど僕達はそれを全て代償に渡した。
死でも生でもなく消滅すること、っていうのが一番近いかな」
「つまり、お前らはとんでもないことを願ったのさ」
彼と深紅が交互に話し、最後に彼が一拍おいて言い切る。
「君達の願いが、『消え去った命』を、『繋ぎ止め』させたんだよ」
その言葉にケイヤは下唇を噛みしめ俯き、
あたしは意味が分からず茫然とした。
sideユウト
「死ぬ、ではなく消失、するはずだった命。それを繋ぎ止める『願い』と、その代償を支払わなければ叶えられなかった『望み』。この矛盾に神々は頭を抱えたんだ。どの願いもどの望みも等しく叶えようとして。誰の願いも零さないように」
繰り返し話し始めた『管理者』。その声から様子をうかがうことはできない。
・・・それで、苦肉の策がこれか?
嘲るような声に、『管理者』は何も反応しない。
「死と生のハザマで、彼らは『時間』を止められ、『空間』に閉じ込めれらた。・・・確かにこれで生きてないよね、彼らは。そして、死んでもいない。それで」
それで、それだけではアヤとケイに『しんく』達を合わせることができない。
だから、時と空間は。
「『一人一人が無理なら、突っ込めばいい。器(うつわ)がないなら創ればいい』。まさかその『器』がこんなことになるなんて誰も予想してなかっただろうけど。2人はある意味で似ていたからね。まさか『器』に2人を足して割ったような心が生まれるなんて、だぁれも考えなかったんだ。つまり」
ずっと不思議だった『オレは何か』という答え。
その答えは。
「コトブキユウトなんて、元から存在しないんだよ」
ただの、器(イレモノ)だった。
2011.5.29 17:42:36 公開
■ コメント (6)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
11.6.1 02:43 - 森羅 (tokeisou) |
森羅さんこんばんは。こちらでは初めまして。バタフライです。 生あるものの生きる世界、読ませていただきました。 まず・・・こんなこと言うのもなんですが・・・ グレート!エクセレ〜ント!アメ〜ジ〜ング!! と、言う感じです。素晴らしいの一言に尽きます(変な事いってすいません 情景描写、キャラの個性の立ち方。そして練られたストーリー、全てが完璧です。 少しストーリーは長めですが、読んでいて退屈しませんでした。 今回の感想ですが・・・ え?えっえっ?ユウトが・・・存在しない? え?ただの器(イレモノ)? ちょっちょっといきなりすぎて何がなんだかwww この先の展開が気になります。すっげ〜気になります! そしてアヤはアヤで大変ですし・・・ここからどうなるんだろう・・・ ただ僕はそんなことよりユウトが気になります。ごめんね、アヤ( 長文&駄文失礼しました。 これからも頑張ってくださいね! 11.5.30 21:53 - 不明(削除済) (bata0164) |
コメント有難うございます!!木霊さん! こちらでは初めましてですよね?いえいえ、コメントくださっただけで十二分ですよっっ。本当に有難うございますm(__)m 『管理者』のセリフとは「コトブキユウトなんて元から〜」の部分でしょうか。そして、鳥肌は大丈夫ですか…?ですが、はい。ユウトは存在しません。でも、存在しないって言ったら少しおかしいですよね^^;そこはまた、もう少し正確な言い方が次に出てきますのでっっ。ユウトの今までの16年間とか、両親のネタも同時に出します。…と言ってもなんだかこじつけっぽい代物ですが…(滝汗 うわうわっ、嬉しいんですが!嬉しいんですけど、最初の方とか特に黒歴史過ぎて泣けますよ!ごめんなさい!その上内容が錯綜しまくっていて、読みづらくて本当に申し訳ありません…m(__)mm(__)m それでは、失礼を。 11.5.29 20:23 - 森羅 (tokeisou) |
コメント有難うございます!!そよかぜさん! いや…まぁ、こういう真実でした。驚かれたならなによりです。 はい、[ユウト]なんて実は存在しないんだよ、ってお話でした。『管理者』も最後に言ってますが、彼は本当に偶然生まれた存在です。パルキア・ディアルガもこんなことになるなんて実際問題考えておらず…あ、続きは167で^^; ユウトは真実を知って放心状態ですね。もう何も聞きたくねぇよ、ふざけるな、って感じです。まぁ、まだもう少し追い打ちをかけるような事実もあるのですが(苦笑) 続き楽しみにしていただければ何よりです!はい、そよかぜさんも頑張って下さいねっ! それでは、失礼を。 11.5.29 18:59 - 森羅 (tokeisou) |
時間が空いていたので、ふらふら巡回しにきたら更新されていたので読ませていただきました。もう、ほんとコメント大分遅れてごめんなさい。大分どころじゃないのは私が一番わかっていますので言ってあげないでくださいませ…! さて、前置きが無駄に長くなってしまいましたが本題。 いきなり最後のほうに飛びますが、管理者さんの言葉に鳥肌が立ちました。ユウトがまさか存在しないなんて… ん? …じゃあユウトにとっての生の世界の生活は何だったの? とか、肉親とかどうなってんの?とか、いろいろ疑問も湧いてくるわけですが、そのへんも、次の更新でユウトという器について語られると予想して期待しています。次の更新までに最初から読み返して、難しい話や内容なんかを私の残念すぎる脳に刷り込んでおきますね! ではでは、失礼致しましたっ 11.5.29 18:18 - 不明(削除済) (kodama) |
森羅さんこんにちは^^ 久しぶりに溜まっていたぶんを読んできました((汗 真実が、答えが明らかになって驚いてます((汗汗 まさかユウトが…… 器だったとは思いませんでした…… ユウトは真実を聞いてどう感じたのでしょう…読んでる私はだいぶショックでしたが((焦 続き楽しみにしています、お互いがんばりましょう! 駄文失礼しました! 11.5.29 17:58 - 不明(削除済) (34sykm) |
はい、こちらで初めまして。コメントの返事が遅れて申し訳ありません。
生あるものの生きる世界を読んでくださって有難うございます!!完璧という言葉は身に余る光栄ですが…気に入っていただけたなら何よりです♪
ストーリーが長い点については申し訳ありません。話が錯綜しすぎで、どこの話だかわからない、ということがありましたら教えてください。本当に不安なので^^;
退屈しなかったと言っていただければ、本当にありがたいです。有難うございますm(__)m
はい、ユウトは存在しませんでした。そんなに驚いていただいて、その上後のストーリーが気になると言っていただければ何よりです^^
アヤはアヤでまぁ、大変ですね。真紅がアヤにすっぱり言い切らなかったこともアヤへの問題になったのでしょうが…^^;あ、もしかしてそこではなく、アヤサイドの茫然とした〜の部分でしたか?まぁ、ここではケイヤもそれなりに大変です。衝撃、って感じですね。次で一応ユウトの話としてはすべてネタ晴らしをします。えぇ、伏線回収を忘れている部分がなかっ(ry
いえいえ、長いコメント、うれしいですよ!
それでは、失礼を。