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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

159.sideユウト×ケイヤ×アヤ 役者は集う[アサギマク]

著 : 森羅

イラスト : 森羅

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ぼくにとって、世界は平行な2本の線だった。
2つの世界を知っていたから。だけど、その2つは別物だと考えていたから。

あたしにとって、世界は1本の線だった。
1つの世界しか知らなかったから。時間軸だけ見てればよかったから。

オレにとって、世界は垂直な2本の線だった。
2つの世界が繋がっていると知ったから。過去と未来と現在も、世界と世界も。

そして、生と死も。


sideアヤ

とりあえずそこらに落ちてる枝を集めて紅蓮に火を灯してもらう。その光によって森の中で火の回りだけが明るく照らし出された。真上を見上げれば枝の隙間から見えるのは星。はっきり言ってここがどこなのか正確な位置はよくわからない。ただトバリからまっすぐミオ方面へシリウスと緑羽は飛んでいたからちょうど真ん中か、そのあたりだとは思う。
少し首が痛くなって来た所で空を見上げていた顔を戻し今度はぎりぎり焚火の照射範囲内、つまり隅っこでうずくまっている『それ』に声をかけた。

「ちょっと、あんた大丈夫なの?」

あたしの声に反応してかのろのろとユウトが膝小僧にぶつけていた顔を上げる。その顔はぐったりとしていて青白い。・・・端的に言うと、全然大丈夫じゃない。

「何か、食べる?」

少しの間、考えていたのかユウトはあたしを見上げたまま黙っていたけど、結局は首を振ってまた顔を伏せてしまう。あたしはため息をついて焚火のそばに戻って座った。
彼――夜月たちは『真紅』って呼んでるらしいけど――の言とおりにミオへ向かっていたあたしたち。彼自身はまた引っ込んで現在は正真正銘のユウト。あたし自身、微妙に複雑な気持ちといくつかの疑問を抱えてはいるけどユウト(こいつ)はそれどころじゃなかった。
なんとなく状況は把握していたみたいで戻るや否や夜月と紅蓮を睨み付け、ついでにあたしも引き剥がして、その上終始無言。極めつけにだんだん体調がおかしくなってきたみたいで今や完全にダウン。真っ青を通り越して蒼白になった顔に冷や汗が浮かんでいて・・・となったら今日はもう休ませるしかない。

《アヤ、ユウト君・・・駄目みたいね》
「ったく、どうなってるのよ?いっつもは殺しても死なないくせに」

ふよふよと寄ってきたスピカに対し悪態で答えるあたし。そんなあたしに火を囲むシリウス、紅蓮、緑羽、夜月からそれぞれ視線が注がれる。・・・そんなに注目されてもあたしは何もできないわよ?
とにかく、とあたしは今後の予定を口に出した。

「適当に食べたらあとは寝るわよ。もうすることないし。
ユウト、あんたは明日までにそれなんとかしてなさいよ!?」

ユウトの方を振り返ると膝小僧を肘置きに右手がぱたぱたと揺れる。
体操座りをして隅っこにいる様子はいじけているようにも、怯えているようにも見えた。

気のせいかもしれないけど。

sideユウト

いつの間に寝たのだろう、膝小僧を抱えて俯いていた顔を少し上げてみる。

気持ち悪ぃ・・・。
体、重てぇ・・・。

地面はスポンジのように頼りない。
空は度の合わない眼鏡をかけたように揺れ動く。
呼吸はどうにも荒いし、早鐘のように脈の打つ音も相変わらず耳障りだ。
その上体の自由がきかないのだからこれ以上悲惨なことはないだろう。
時たま吹く夜風の冷たさが心地よいことだけが唯一の救いだ。
だるいことは確かだが風邪を引いた覚えはなく覚えはなく、むしろこれは。

「あいつらの、せいか・・・?」

かすれた声でかすかに呟いた。本当はそれだけの事すら億劫なのだが。

《ユウト、大丈夫か?》

夜月の声に目線だけで夜月を探すと、黄色いわっか模様がかろうじて視界に入った。
オレの視線を感じたらしい夜月は再び大丈夫か、と繰り返す。
だが、残念ながらオレはそれに言葉を返す余裕はない。吐き気はするが首を右へ左へ。夜月にはそれでなんとか伝わったらしい。

《いや、ん。まぁ、・・・うん、大丈夫じゃねーよな。水とか飲むなら持ってくるぞ?》

オレはそれにも今度は手を振った。今、何か胃に入れても嘔吐感に拍車をかけるだけだ。
気にかけてくれた夜月には申し訳ないが。

「・・・寝る・・・悪い」

なんとか単語だけでも絞り出す。本当に申し訳ないがこれで勘弁して欲しい。別に夜月を蔑(ないがし)ろにしているわけではなく、ただ話す余裕がないだけだ。だが夜月には通じたようでぽすっ、とオレの隣に腰をおろして伏せた。

《まぁ、熟睡してくれ。一応向こうで紅蓮や緑羽も控えてるからさ》

どういう意味だよ?と内心で苦笑を漏らしもう一度顔を腕に埋める。
とりあえず、寝る。寝るしかない。

・・・無事寝れると良いんだが。

side夜月(ブラッキー)

ユウトの隣を陣取って俺は伏せる。時々喉のあたりから荒い息が漏れているが、とりあえずユウトは眠れているようだ。
少し遠くからはアヤや紅蓮やの寝息。アヤはともかく紅蓮たちは一応警戒して寝ているんだろうけど。

《ュウトぉ・・・》

紅蓮たちにも聞こえないくらいの声で呟いてみる。つまりほとんど呼気だけ、申し訳程度だ。
そして、そのまま俺は心の中だけで話し掛け続けた。それが独り言なのか問いかけなのかは俺にもわからないが。

なぁ、これからどうなるんだろうな。いや、どうするんだろうな・・・?
考えても無駄だということはわかっている。だが、考えねーわけにも行かねーし・・・。
きっとここにいる全員が俺と同じ不安と疑問を抱いているはずだ。

例えばそれは『これからどうなるのか』。
例えばそれは『真紅とアヤの関係』。
例えばそれは『じゃあ、深紅の方は?』。

答えは出ない。誰も答えてはくれない。
唯一答えてくれそうなのは『しんく』だろうが、ミオまではだんまりを決め込むだろう。

―――じゃあ、俺たちは一刻も早くミオまで行きたいのか?

ふとそんな問いかけが新たに生まれるが、俺はそれに首を振った。
むしろ逆だ。ユウトの体調が崩れてミオに到着することが遅れているのをほっとしている。・・・とりあえず俺は。
それは俺が・・・あるいは俺たちが、どこかで恐れているんだろう、今の関係が崩れることに。

何かが変わってしまうことに。

sideユウト

【別に俺達のせいじゃねーよ。あれはお前自身のせい】

聞こえるのは声。
これは、オレにトバリで話しかけた方の声。

【そして、それは僕達のせいで、彼らのせい】

申し訳なさそうな響き。
これは、アヤが抱き着いた方の声。

お前ら一体誰なんだよ・・・。

それは何度となく聞いてきた覚えがある。
オレはいつから多重人格になったんだ?
驚愕にも似た感情は感じる間もなく通り抜けて、すでに半ばあきれて尋ねた。
それに対し、喉の奥から堪えるような笑いの漏れる音が聞こえてくる。

【何度言えば理解するんだ?お前は俺だよ。だが、俺はお前じゃない】
【君は僕・・・ってことになるんだろうね。僕は君じゃないんだけど】

・・・なぜそうなる。つか、わけがわからん。

【俺達は、同じものだが異なっていて】
【両極端だからこそ似ているんだよ】

・・・はぁ?
余計に意味がわからなくなった気がするのはオレだけだろうか?

【くっくっく・・・。天秤を思えばいいさ。釣り合った秤。載っているものは同じだが真反対に位置するだろ】
【球体、この星に立つ自分を考えればいいよ。どれほど走ろうと果てはないだろう?一番自分に近くて、一番自分から遠い場所は自分の真後ろなんだ】

わかるような、わからんような。
で、結局お前らはどうしてオレの中にいるんだ?

沈黙が、生まれた。

そしてそれをあっけなくぶち破った声はアヤに抱き着かれていた方だった。

【それは違うよ。それは違う】

もう一つの声は沈黙を破らない。

【僕達が君の中にいるんじゃない。・・・そうじゃないんだ】

消え入りそうな声。
・・・それ以上何も言えなかった。

sideケイヤ

「やっ。ゆーと、アヤちゃん」
「ケイヤ!?あんた、何でここに!?」

ミオ図書館前。やってきた彼らにぼくはとりあえずにこっと笑う。ブラッキーとムウマがいたからよくわかった。まぁ、向こうも燐がいるからぼくのこと気づいただろうけど。
太陽はすっかり上っていてそろそろ昼だろうか。朝ごはんは持ってきた菓子パンだったからちょっとお腹すいたなぁ。
そんなことを思ってるとゆーとがぐったりと調子の悪そうな顔で聞いてきた。

「・・・何してたんだ?」

もう、勘弁してくれよ、と言うゆーとの声が聞こえた気がする。
だけど、ぼくだってそれなりの覚悟をもってここに来てるんだ。

「ごめん、ゆーと。ぼくも関係者だからさ。言ったでしょ?パルキアに望みを叶えてもらったって」
「・・・あぁ、キッサキで聞いたな。・・・関係者、って」

ぐらり、とゆーとの足元がふらつく。ブラッキーの夜月がゆーとに何か言ったけどぼくには鳴き声としかわからない。
調子が悪そうと思ったけど本当に調子が悪いみたいだ。
ぼくは慌てて声を掛ける。

「ゆーと、具合悪いの?大丈夫?」
「昨日の夜からずっとこんな調子よ、こいつ。これでまだマシになった方」

そう言いながらアヤちゃんは肩をすくませた。隣で浮かぶムウマのスピカがゆーととアヤちゃんの間で心配そうに目線を動かす。
ゆーとが風邪・・・?そんな馬鹿な。

「・・・まぁ、別にぶっ倒れねぇから大丈夫だろ・・・。どこか座れるのか?」

そんなふらふらな状態の人からもらっても全然信頼できない言葉。
びっくりするぼくをよそにゆーとは口早にそれだけ言い切る。要はつらいから話させるな、だ。
一応ゆーとたちが来る前にぼくは一通りミオ図書館を見て回っていた。机がある場所はいくつかあるけど一番静かなのは。

「3階。あそこが一番静かだった。エレベーターあるからそれで行こう」

各々ぼくの提案に頷き図書館へ入っていく。その背中を見送るぼくに燐が声をかけてきた。

《・・・何か気づいているでしょう?》
「わからない。気づいてるかもしれないし、勘違いかもしれない」

ゆーとがあんなに調子が悪いなんてぼくは知らない。でも。
燐はゆーとの背中を見つめたまま呟くように尋ねてきた。

《『彼』は『誰』でしょうか》
「・・・さぁね・・・」

『ゆーと』が『誰』か。それをぼくは何となくわかる気もするし、わからない気もする。
でも、どっちにしろ。

「とりあえず、行こう。燐」
《はい》

ぼくは2人を追いかけるために歩を進めた。

どっちにしろ真実は哀しくて、厳しくて、残酷で、無慈悲なんだろう。

ぼくが払った代償、つまり『苦しむ』ほどに。

sideユウト

ケイまでいるのかよ・・・。
とりあえず開いている椅子に座りこみ一息。だが呼吸は相変わらず多少荒い。
ケイの言う通り3階は静かで人気もあまりない。そもそも図書館というのは静かな場所のはずなのだが。いや、それより夜月たちを出していてもいいのだろうか。あまりはっきりしない頭でそんなことを思いながらケイとアヤがそれぞれ座るのをぼーと見ていると夜月がオレの膝に前足を載せる。反射的に目線を落としたオレに夜月は言い始めた。

《ユウト、大丈夫か・・・って無理ならもういいじゃねーか。帰ろうぜ?また体調が戻ったら来ればいいだろ?》
「もう・・・着いてるのに、か?言っとくが、泊まれる場所はないぞ・・・?」

夜月が妙にオレを心配するのは夜月たちがそう呼ぶ『しんく』のせいか、それとも純粋なものなのかはわからない。
だが、体調が戻ったら、と言っても別に風邪を引いたわけでも何でもないはずなのだ。つまりこれはいつまでたっても治らないだろう。なら結局はさっさとここに行くしかない。

・・・『管理者』。

オレはここに来るように言った『管理者』を呼んだ。内心で、それはほぼ無意識に。

「来たね、ユウト君」
【結末は結局こうなるのか?】
【・・・・・・ごめんね・・・】

一体、どの声が一番早かったのだろう。
オレにはわからなかった。

ただ。

――――ただ、気が付けばまた何もない空間。

「よーこそ、再びハザマのセカイに」

『管理者』の弾んだ声が明るく、しかし翳(かげ)のある口調でオレを出迎えた。

sideアヤ

《ぶらぁ!?》

ユウトの膝の上に足を置いていた夜月が驚くような鳴き声を上げるのが『それ』の合図だった。
あたしも含めポケモンも、つまりその場にいる全員がユウトを注視する。ケイヤに至っては身を乗り出していた。
だけど、あたしもケイヤも何も言わない・・・ううん、言えない。
掛けるべき言葉が見つからないから。
沈黙は時間を止めてしまったように誰をも動けなくしてしまった。

「・・・『しんく』、だよね?」

ゆっくりと吐き出されたケイヤの言葉に止まった時間が動き始める。誰かの吐息の音が耳に届く。スピカのものだろうか?
紅い目の『しんく』は顔を上げケイヤに向かって笑っていた。
左目の深紅(あか)と。
右目の真紅(あか)で。

「よお。生きてたんだな、死にぞこない」
「君は・・・」

一つは皮肉に、それでも嬉しそうに。
一つはただただ驚いた様子で。

2つの口ぶりの異なる声が交互に1つの口から零れ落ちる。
ケイヤはその『2人』に笑いかけた。

「死んでないよ、殺さないでよ。それから。・・・うん、久しぶり『英雄』」
「ケイヤ!?あんた、なんで・・・!?」
《アヤ・・・?》

そこから先の言葉があたしには続かなかった。スピカの声に答える余裕もなく、ただ彼とケイヤの間で目線をさまよわせるだけ。そんなあたしにケイヤは笑いかけた。

「まぁ、そのことも話すよ。それよりも・・・『しんく』」

あぁ、という頷きは多分深紅の方だろう。
『彼ら』はおもむろに口を開いた。

「んじゃ、大馬鹿者が4人揃ったところで」

「浅葱幕を落とそうか」



挿絵は北埜すいむさんより頂いたものです!!お忙しい中、本当に有難うございましたっっ!!
ケイヤとユウトと燐のシーン……!!!

159.sideユウト×ケイヤ×アヤ 役者は集う[アサギマク]

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2011.4.9  21:15:19    公開
2012.1.16  10:35:58    修正


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