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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

158.sideケイヤ 道筋[ルート]

著 : 森羅

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sideケイヤ

「燐!燐!!すごいねっ!!」

214番道路。シロナとナギサへ歩いた道を今度は逆に遡る。時刻はそろそろ西日が差してきたところ。
目に映るもの全てが珍しく思えてぼくはどんな些細なことにもはしゃいでいた。
そしてその様子をじっ、と責めるように見つめるのは燐。

《・・・ケイ》
「何?」

彼女はとうとう口を開いた。ぼくはまったく身に覚えがない、と言わんばかりの調子で聞き返す。燐の顔をまともに見れずそばに咲いていた花だけに目を落としたまま。

《・・・なぜ急がないんです?貴方の行動はトバリへ行くのを引き延ばそうとしているようにしか見えません。・・・どうしてですか?》
「・・・やっぱりバレてた?」

ばれない方がおかしいくらい下手な演技だったけど、この場合は気づいてほしくなかった。いつもならポーカーフェイスは苦手じゃないはずなんだけど、今のぼくはどうしようもなく下手だ。そして言い訳も。

「・・・ごめんね、燐」

謝らなくても構いませんが、と燐は呟き言葉を繋ぐ。
ぼくは見つめていた花を摘んでくるくると手の中で回していた。

《嫌ならトバリに行かなくてもいいんですよ?貴方次第です》
「うん、でも・・・」

・・・ごめん、燐。ぼくはトバリに行かなきゃならないんだ。
ぼくは笑う。無理はしてない。まだ、大丈夫だと。
ここで逃げるのはずるいから。答えを、探さなきゃならない。
辛い答えが、待ってると予想できたとしても。まだ全貌はつかめてない。
そして、それを否定しちゃいけないんだ。
ぼくは気合を入れるために頬をパチン、と両手でたたいた。
知れるはずのことは知らなきゃならない。そしてトバリにはそれがあるはず。

「大丈夫だよ、燐。ゆーとたちと鉢合わせたくないんだ」

ぼくは、笑った。

side燐(キュウコン)

笑いかけるケイにわたしは少しほっとしました。
無理にはしゃいでいるのはわかりやす過ぎるくらいでしたが、その後にも作り笑いをされてはたまりません。
そんなケイの顔など見たくないのですから。

きっとケイは『何か』を見つけてはいるのでしょうがそれが何かわたしには知る術もありません。決して良いものではないことは予想がつきますが・・・。

《ケイ》
「何、燐?」

振り返るケイにわたしは何でもありません、と首を振りました。
わたしはこんな時にかける言葉が思いつくといいのに、と思うばかりです。

「ね、燐。目瞑ってよ」
《・・・はい・・・?》

突然ケイから言われた言葉に訳も分からずわたしは目を閉じました。
すると、わたしの耳のあたりでごそごそとケイの手が動くのを感じます。

「うーん、駄目かぁ。花が小さすぎてわからないや」
《・・・何してるんですか》

とっくに目をあけてしまったわたしは呆れた声で尋ねました。
片手に持った花をそっと隠すように捨てて、ケイはたはは・・・と苦笑いです。

「似合うかなーと思って。赤色だったし」
《さっき摘んだそれですよね?摘んだけれど行き場がなくなっただけでしょう?》
「・・・そんなことないよ」
《半分はありましたね?》
「半分はなかったんだ」

・・・・・・。
ふっ、と先に吹き出したのはどちらでしょうか。もしかすれば両方同時だったのかもしれません。

「あははっ!いーじゃん、似合うと思うよ?」
《小さすぎて見えないんでしょう?というよりまず先程捨てたじゃないですか・・・くっくっ》
「水色とか青だったら凪か透が似合うと思ったんだけどねー」

と、がたがたとケイの腰で揺れるボール。心当たりは2匹しかありません。

《うちら無視で2人の世界とか、酷(ひど)ない?》
《・・・》
「あははっ!ごめん、透(ゆき)、凪。じゃ、そろそろ行こっか。トバリに。日が暮れちゃうし」

笑いの収まったケイの言葉に答えるのは見事な三重奏(トリオ)。

《《《誰のせいですか。
誰のせいでございますか?
誰のせいや思(おも)とうねん!》》》

一瞬の沈黙。そして、

「ご、ごめん・・・ね・・・?」

圧倒されたケイが顔をひきつらせて笑っていました。

sideケイヤ

《どうします?》
「うーん。どうしよっか?」

燐の言葉にぼくはおどけてみせる。
目の前にあるのはギンガ団アジトinトバリ。くるくると黄色いものが風車みたいに回っていた。ただ、もくもくと黒い煙が立ち上っているんだけど。

《壊滅でしょうか・・・。入ってみます?》
「折角だから中入ってみてもいいね。壊滅は流石にしてないと思うよ?」
《では、行きましょうか》

壊滅、という言葉に苦笑いするぼくに燐はまったく表情を変えずに進みだした。
何の抵抗もなく開くガラス張りの自動ドアにぼくは一歩足を踏み入れる。一階には特に壊れた様子はなく中には数名のギンガ団たち。
ぼくを一瞥するけど大概の団員は無視だ。うーん、セキュリティがなってないなぁ・・・。

「何か、用かな?」
「え?」

突然かけられた声にぼくと燐はぐるりと後ろを振り返った。
真っ青な髪の男の人。表情はどこか疲れているけど。・・・って、この人。

「幹部の、サターン?」

思わず出た声にサターンはぎょっ、と表情をゆがめた。
何者だ、と言わんばかりにぼくを見下ろす。ぼくはあぁ、と笑った。

「初めましてー、かな?ユクシーたちを返してくれた?」
「・・・!おまえは・・・!?」

驚愕するサターンにぼくはへにゃりと笑ったまま。
この様子からしてぼくのことは知らないみたいだ。
情報伝達は素早く正確にやらなきゃ意味がない。これだけハイテク機器に囲まれてるくせにもったいないなぁ。

「エイチ湖担当だったのは、ぼく。シンジ湖担当とリッシ湖担当には出会ったのかな?」

慌てて腰のボールに手をかけようとするサターンにぼくは敵意がないことと示そうと燐に目くばせして下がってもらう。すると、サターンは警戒しながらも姿勢を元に戻した。

「・・・ユクシーたちはリッシ湖で出会った子供が自由にした。一足違いだったようだな。
シンジ湖?あそこはマーズの担当だったが、そう言えば・・・」

何かを思い出すように目線を上に向けるサターンをぼくは凝視したまま。燐も黙ったままだ。

「また、紅い目にやられたと、そう聞いたが・・・」
「・・・『また』?『紅い目』?」

サターンのセリフをぼくは疑問符付きで繰り返した。
だけど、それ以上は何も答えない。・・・まぁ、ぼくはギンガ団を邪魔した敵なんだから当然と言えば当然だ。だんまりのサターンに、燐から声がかかる。

《これ以上は無駄では?》
「そだね・・・。じゃあ、ありがと、サターン」
「おい、おまえ」

くるりと立ち去ろうとしたぼくはサターンの声に振り返った。
ぼくが振り返ったのを確認してからサターンは話し始める。

「テンガン山に行くのか?ボスは3匹の体から生み出した結晶で紅い鎖を作り出した。
それこそがテンガン山で何かを繋ぎ止めるために・・・そして、何かを生み出すために必要な物らしい・・・。最もボスがテンガン山で何をするつもりなのかワタシも知らないがな」

言い切ったサターンにぼくは置き土産として一言言い残すことにする。

「・・・教えてあげようか。新しい世界を作るために必要なんだ。ただ、叶う事を期待しない方がいいよ。燐、行こう!」
《はい》

ぼくは燐を連れてまた自動ドアをくぐる。サターンが何か言ったようだけど結局ぼくの耳にまでは届かずじまい。
ウィィンと言う機械音でドアが閉まったのを背中に確認してからぼくは燐に話しかけた。

「うーんっ!次どうしよっかなー?」
《・・・無計画ですか》

ぼくの言葉に呆れたような燐の声。そんなこと言われても困ってしまう。次、どこに行こうか。

「行き詰ってるなら、ヒントはどうかしら?」
「へ?」

掛けられた声にざっ、と燐が構える。燐の目線の先には電燈。黄色い光を放つそれにはそろそろ羽虫たちが吸い寄せられ始めていて、そして―――。

「ふふふ。世間話をしそこねたでしょう?一緒に食事でもどうかしら?」

ぼくはその下で電燈に寄り掛かる人に笑いかける。

「そうだね、ミズキ。是非誘ってほしいな」

―――夜の帳が下り始めた。

sideミズキ(アクア団)

豪華とは言わないが、落ち着いていて少し洒落たレストラン。わざと暗めにしてある照明が店内をほの暗く照らし出す。トバリはシンオウの夜の街だ。夜、トバリの町は下手をすれば昼間よりも活気づく。少し離れた窓際の席からはさぞかしネオンが美しいだろう。だが、ミズキには夜景よりも目の前の少年の鑑賞のほうが楽しいらしい。
片方の手の甲で作った台に顔を乗せてミズキは目の前の少年に微笑みかけた。
目線の先の少年は口の中いっぱいいっぱいに詰め込んだ食べ物をあどけない顔で嬉しそうに飲み込んでいく。そしてこちらの視線に気が付くと、これまた見た目を裏切らない無邪気な笑みを彼女に向け、口の中のものを飲み込んでから変声期前独特の高い声で尋ねた。

「・・・食べないの?」
「食べてなくはないわ」
「冷めたらおいしくなくなるよ?」
「貴方を見ている方が楽しいのよ」
「ほんと?嬉しいなっ」

ミズキの答えに満足したのかまた食事を楽しむ少年。どちらもがにこにこくすくすと微笑を浮かべたままだ。周りの他の客はこの2人の関係を恋人とも親子とも取れず、ときたまにちらちらと物珍しそうな、不思議そうな目でで覗き見していた。
そんな盗み見には目もくれずミズキはワイングラスから一口ワインを含む。
事態が動いたのは両者のメインディッシュが皿の上から消えた時だった。

「さてと、ご馳走様でした。おごってもらってよかったの?」
「えぇ。構わないわ。さてと、デザートは何がいいかしら?」

ミズキの問いにグラスの水を一気飲みしてから、口の周りを拭いて顔を上げる少年。
相変わらずのあどけない笑顔だがその表情は少し異なっていた。

「デザート?それはもちろん・・・」

ミズキは小首をかしげて答えを待つ。そして少年、つまりケイヤは少し不敵に笑ったままミズキの期待を裏切らない答えを繋げた。

「ミズキの情報」

sideケイヤ

美味しかった―、と満足するぼくの目の前で空になった食器が下げられる。
きれいになった木目のテーブルにはぼくとミズキの一対一。
先に話し出したのはぼくだった。

「ミズキ、ナギサのことありがと。助かったよ。でもそのあとすぐに帰ったのはトバリ(ここ)で何かがあるって知ってたからかな?」
「どういたしまして。えぇ、ご名答。実はアカギ様の演説があったのよ。・・・聞きたいかしら?」
「うーん・・・。別に聞かなくてもいいや。言う事はだいたい予想できるしね。それに半分くらい嘘が混じってること・・・気が付いてるよね?」

ぼくの言葉にミズキは余裕の笑みで頷く。ぼくはそれにへにゃんと笑うだけ。
さてと、じゃあ情報をもらおうかな。

「で、ミズキ。本題だけど・・・どんな情報をくれるの?」
「どんなことが知りたいのかしら?・・・と言っても貴方がギンガ団に行ったことで予想はある程度立ったのだけれど。でもどこかおかしいとも思ってるわ」
「是非聞きたいな。ミズキの推測」

ぼくは大きめの椅子に足をぶらつかせながら笑顔満開でミズキの話を待つ。ミズキはミズキで上品で控えめな笑いを漏らしながらホットコーヒーで唇を湿らせ、たっぷり時間を取ってから話し始めた。

「まず貴方はエイチ湖で幹部を倒したでしょう?それからナギサの方で修理の依頼を持ってきりもしたわね。ということはギンガ団の邪魔をしているということは明白。・・・でもおかしなことに貴方の存在がはっきりと出てきたのはエイチ湖から。そのくせギンガ団の情報を持ちすぎているのよ。アカギ様の居場所とか、ね?」

あれ?
にっこり笑うミズキにぼくはふにゃあ〜、と力を抜いた。
まさかカンナギでの話を知ってるなんて。
苦笑いのぼくはそのまま尋ねる。

「アカギに発信機と盗聴器なんてどうやってとりつけたの?」
「秘密にさせてもらってもいいかしら?ミステリアスで素敵でしょう」
「まぁね。じゃあ続けてよ。・・・ちょっと残念だけど」

むぅー、と唇を尖らせるぼくにミズキはくすくすと楽しそうに笑っていた。
ぼくらの真上でレトロな雰囲気を出したいんだろう、傘だけついたむき出しの電球がぶらぶらと揺れる。

「で、そんなにギンガ団の情報を持っているなら今さっきギンガ団まで来る必要は全くなかったはずよ。なら別の目的があると考えるべき」
「別の目的?」

おどけて聞くぼくにミズキは笑みを絶やさない。
うーん、ギンガ団のアジト全部に盗聴器の類を取り付けてるならもしかしたら。
もしかしたら、全部くれるかもしれない。『ぼくが知りたいこと』を。

「貴方が知りたいのは『シンジ湖担当』の不可思議な契約者君かしら?」

ビンゴ。ぼくは素直に負けを認めて軽くホールドアップ。
と言うよりそのセリフまで聞かれてたんだ・・・。

「御見それしました。うん、ぼくはゆーとのことが知りたいんだ。教えてくれる?できれば最初から」
「・・・構わないけれど、私もよくわからないからそこは聞いてもいいかしら?」
「もちろんだよ。・・・ぼくが答えられることならね」

にっこりと笑うぼくににっこりとした笑いが帰ってくる。
お水のおかわりを注いでくれた店員にぼくは軽く会釈して、机の上で右腕に左腕を重ねた。
ミズキはまたコーヒーを一口。ソーサーの上にカップを戻してから口を開く。

「まず・・・。貴方と彼との関係は?」
「友達だよ」
「友達?ならどうして貴方が彼のことを知りたがるのかしら?普通、私よりも知っているはずでしょう?」
「ま、そーなんだけどね・・・」

ぼくはぽりぽりと頬を引っ掻いて目線をそらした。
うーん、どうしようかなぁ・・・。
水の入ったグラスをぴんっ、と指ではじく。少しだけ香るレモンの匂い。

「ぼくはゆーとを知ってるけど、ぼくは『ゆーと』を知らないんだ。
あとである程度は話すからとりあえず知ってること全部教えてくれないかな?」

視線を戻したぼくとミズキの視線が交わった。くすり、と先に表情を崩すのはミズキの方。

「まぁ、いいわ。じゃあ、『最初』から。私が彼と出会ったのはクロガネよ。その時彼がおかしいとはわかったわ」
「『契約』、ね」

最初に会った時からすでにバレてるよ?ゆーと。
ぼくは苦笑して水を飲む。からん、と氷が涼しげな音を立てた。
ミズキは続ける。

「次に彼の存在を確認できたのはソノオ。私が彼について情報を流した結果でもあるのだけれど、風力発電所で」
「・・・マーズとってこと?」

そうよ、とミズキは頷き視線を少し上に向けた。その様子は少し困っているようにも見える。続きが出てこないのでぼくは声をかけた。

「ミズキ?」
「・・・。聞いてもらった方が早いかしらね・・・?」

ちょっと待ってもらえるかしら、と言い残してミズキはハンドバックの中を漁る。しばらくして出てきたのはプレーヤー。言われるがままにぼくはイヤホンを耳に当てそこから聞こえてくる音声に耳を澄ませた。

・・・。・・・・・・。
聞こえてくるのはアヤちゃんとマーズとプルートとその他大勢の下っ端、それから紛れもなくゆーとの声。でも、それはゆーとのそれじゃない。

人を馬鹿にしたような声が。
夜月を呼んだ子供のような無邪気な声が。
他人の正義を否定しない考え方が。
まっすぐな物言いが。
人殺しの、『神様』という言葉が。
ぼくにたった一人の人物を彷彿させる。

「・・・君は・・・」

囁くような呟きはぼくのもの?
カチッ、と言うスイッチを切った音でぼくは現実に引き戻された。

「・・・ミズキ」
「ソノオで録音してあるのはここまでよ。呆けた顔をして・・・どうかしたのかしら?」

ぼくはイヤホンを耳から外し、手に握りしめる。

「ソノオで?・・・ってことは他にもあるってこと?」
「あるわ。あとはハクタイとトバリとカンナギとシンジ湖、最後に今日の分。彼に盗聴器をつけているわけじゃないの。だから知っているのはギンガ団絡みの話だけだわ」
「あ、それで全然おっけーだよ。・・・全部聞かせて。お願い」

懇願するぼくにミズキは肩を軽くすくませて順番に録音したものを聞かせてくれた。
たどるのは一つの軌跡。なぞるのは通った道筋。

ハクタイでのジュピター戦。
トバリでの<おもちゃ箱>、ミズキ自身との会話。
カンナギは一瞬。
シンジ湖ではマーズに『紅い目』と言われていた。

そこまで聞いてふぅ、と息を吐き出すぼく。
なんだかすごく疲れた。ボールの中の燐が大丈夫ですか、と尋ねてくれるのにぼくはこくこくと頷く。目の前では涼しい顔をしたミズキが最後の一つをプレーヤーに入れ替えていた。

「これが今日の分。つまり最後よ・・・。大丈夫かしら?」
「うん・・・だいじょーぶ。お願い」

ぼくの声に頷きミズキは操作する。聴覚だけをぼくは研ぎ澄ませてひたすらに耳を澄ませた。
そして。

「・・・うそ・・・」

愕然と、した。

side燐(キュウコン)

何がどうなっているのか、ボールの中から聞こえなくもありませんでした。
それは凪や透(ゆき)も同じでしょうが、ケイと同じように驚くのはわたしだけでしょう。
なぜなら。

話を聞いていても、実際に見たことがないとわからないからです。

録音された声と殺戮者の雰囲気がどれほど似ているか。
録音された言葉と英雄の話し方がどれほど近しいか。
同じ人物の声とは思えないほどがらりと変わる声。

《ケイ》
「・・・英ゆ、ぅ?」

わたしの声はケイまで届きませんでした。

sideケイヤ

「・・・どうかしたの?英雄って何なのかしら?」

ミズキの声にぼくはのろのろともう一度イヤホンを外してミズキに返した。
ありがとう、と言ったと思うんだけどもう定かじゃない。

「・・・これで・・・全部、だよ、ね?」
「えぇ。そうよ。何回かおかしいでしょう?彼。それに彼は『公式には存在しない』のよ」

ミズキの声にぼくはうん、と頷く。それだけのことがひどくおっくうだ。
どうしよう。ぼくの予想が的中してしまっている。これだけは外れていてほしかったのに。
訝る表情でぼくを見つめるミズキが言葉を発した。

「何か知っている・・・いえわかっているようね?教えてもらえるかしら?」

ぼくはカラッカラに乾いた口で水を飲み込む。
少しだけしゃんとした頭でぼくは話していいことと悪いことを振り分け話し始めた。

「じゃあ、少しファンタジーの話をしようか。信じなくてもいいよ」

パルキア、つまり堺のことを伏せた過去の出会い。
その2人がミズキ曰く『おかしい』ゆーととよく似ていること。
生と死の世界の話もしようかと思ったけどそこまで話す必要はないし、やめた。
その代わりにゆーとと同じようにぼくも『存在しない』とだけ伝えておく。
それだけを至極簡単に、少し脚色して(そうしないと堺のこととかおかしくなる)話すとミズキは微笑んでいた。

「いくらか矛盾が生じるけれど・・・。まぁ、良いことにするわ。で、どうして彼とその2人がよく似ているのかしら?」
「ごめん、ミズキ」

ぼくは首を振る。一つの回答、と言うよりも核心を突くであろう疑問は手元にあるけどそれをミズキに話すつもりはない。
ぼくが答えないとわかったんだろう、ミズキは残念そうに冷えたコーヒーを飲み干した。

「さてと。これで渡すべき情報は渡したわ。役に立った?」
「うん、ありがとう。すごく助かったよ。下手したら全部の場所回ることになってたしね。・・・でもいいの?無料(ただ)でくれるなんてさ」

ぼくのセリフにミズキはくすくすと忍び笑いをもらす。

「あら?無料(ただ)じゃないわ。貴方からも話をしてもらったし、それに貴方にこの情報を渡したことでこれからどう動くのか楽しみなの。事態が面白く動くことに期待しておくわ」

かたん、とミズキは立ち上がりオーダー用紙を手にぼくに背を向けた。
ぼくは苦笑でミズキの背中に声をかける。

「期待に添えるように頑張るよ」

ただし、それは『他人(だれか)の不幸』という形かもしれないけれど。

side燐(キュウコン)

レストランを後にしたケイはわたしをボールから出しました。
周りを見渡すと町からでたのでしょう、静かな場所で草木が風に揺れています。
夜風が冷たく体毛をなでていきました。

「燐。気づいたよね?」
《はい。『英雄』と『殺戮者』ですね?》

ケイの開口一番の言葉にわたしは頷きます。
凪と透にはあとで説明するから、とケイは2匹に向かって言ってからわたしに向き直りました。

《・・・どういうことか、わかっているんですか?》
「わかってない。けどわかってることもある」
《何ですか?》

わたしの質問にケイは顔をゆがめます。
それでも、わたしはさらに言葉を重ねました。
ケイに、後悔してほしくなかったのです。
背を向けることで悔やんでほしくなかったのです。

「ね、燐」
《はい》
「あのさ・・・。これで『英雄』がアヤちゃんに願われたんだってわかった。そうじゃなきゃあの会話はおかしいからね。
それから『殺戮者』の方はもう明白でしょ。でも、じゃあ・・・」

うつむいたケイの小さな言葉は風に流され、

「『ゆーと』は『誰』なんだろう・・・?」

闇に吸い込まれて消えました。
風の音が大きく聞こえる中、わたしは尋ねます。

《・・・これから何を?いえ、どこへ?》
「決まってる」

下唇をかみしめてケイは顔をまっすぐ夜空へ向けます。

「英雄の言ってた場所。ミオ図書館」

つい、夕方。花を飾り笑ったことがどこか遠い夢のようでした。





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2011.3.31  18:44:25    公開
2011.3.31  19:07:55    修正


■  コメント (1)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

[編集後記]
こんばんは。もしくはこんにちは。
「なんでこんなに元アクア団のミズキの出番が多いんだぁああぁ!!」といった苦情…じゃんじゃん下さいm(__;)mちなみにルビーをやった僕はアクアよりもマグマが好きなはずなのですが…^^;いえ、無駄話はやめましょう。これは弁明にもならない編集後記です。

…実は、本来ここに彼女の出番はないはずでした。
『でした』が。
なぜ彼女の出番がこんなに多いかというと彼女がでしゃば…ではなく単純に彼女が動かしやすく便利なポジションを陣取っていたからです。おかげでケイヤはディナーを楽しんだうえで必要な情報をすべて得ることができました(キリッ
アクア団、マグマ団が目立ちすぎて肝心のギンガ団が目立たないとのお言葉を頂いたこともありますし、自覚もありますがどうぞご容赦ください。もう、ミズキさんはでしゃば…ではなく活躍しません。あとはギンガ団一本のみです。
さて、話もいよいよ大詰めとなってまいりましたが最後までお付き合いいただければ幸いな限りです。
それでは、失礼を。

11.3.31  18:58  -  森羅  (tokeisou)

 
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