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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

156.sideアヤ 神のごとき[ディ・ヴィーノ]

著 : 森羅

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side紅蓮(ウインディ)

サターンと名乗った青年の放ったドーミラーは都合よく耐熱仕様ではなく、少し苦労したものの苦戦というほどのものではなかった。
だが、問題は、

《緑羽殿、大丈夫ですかな・・・?》
《俺に聞くな。緑羽―、あんまり遅いようだと俺たちが片づけるからなっ!?》

緑羽殿だ。
夜月殿の声に緑羽殿がぶんぶんと頷く。
・・・あぁ、心配なんですな・・・。不安の2文字が大きく頭にのしかかる。
だが、余裕の顔で笑っているのは夜月殿。思わず我は聞いてしまう。

《どうかしたんですかな?》
《いーや、そこまで心配しなくてもだいじょーぶだろ?心配しすぎるなって》

相手は決して弱くはないのでありますが、その自信はどこから。
つい、そう言いかけて・・・やめておいた。どうせろくな返事が返ってこないだろう。

「ちっ、舐めてくれる――!ドクロッグ、“どくづき”!」

サターンの声にドクロッグが緑羽殿にパンチを叩き込む。
彼は少々焦りだしたらしい。

《効果は抜群。さぁて、どうなるだろーなー?
緑羽―、反撃しろよー。つか、向こうに攻撃させるな》

夜月殿の声はお気楽まっしぐら。もっとも元々は焦っていたのだから元の調子に戻ったというべきか。毒々しい紫に緑だった緑羽殿の羽が染まった。
・・・まさか急いでいることを忘れているのではないでしょうな・・・?
妙な確信めいた予感がして白けた目をそっと夜月殿の背中に向けておく。
そんなこと爪の先ほども気づいていないだろう夜月殿は効果てきめんの決め台詞を緑羽殿に放つ。

《急いでユウトのところ、行くんだろ?遅くなればなるほどどうなるか知らねーぞ?》
《・・・!?》

と、暴風にも近い風が体毛をなびかせた。

「なっ・・・。くっ!」

サターンの驚愕の声が風に流されて聞こえてくる。
風の中心には緑羽殿。狭いこの階段の踊り場で半分泣き叫ぶように4枚の翼を使って風を巻き起こしている。必死で地面に足をつけているのは夜月殿とサターン。我は吹き飛ばされるほど軽くはないし、ドクロッグに至ってはすでに体が浮いている。

《ぅわああぁあぁん!!!やだぁあぁあぁ!!》

本格的に泣き出しながらも緑羽殿の狙いは正確。風がやんだ後も重力に引きずられながら空中遊泳していたドクロッグに至近距離から一枚の植物の翼で“つばめがえし”を叩き込む。白刃煌めく、の使い方は少々おかしいがまさにそれだろう。言葉と同じで泣いている時の方が力を発揮できるでしょうかな・・・?もう、あきれるしかない。
さっさと暴風圏内から逃れ高みの見物を決め込んでいた、この状況を間接的に作り出した夜月殿は笑顔満点。

《おー、ものは使いようだなー》

・・・悪魔。
思わずつぶやいた言葉は、風と鳴き声にかき消された。

sideアカギ

―――感情など不要だ。

ずっと、そう思って・・・そして全ての感情を殺した、はずだった。

―――だったのに。

今、胸の辺りに湧き上がるものは何なのだろう?
目の前の状況に驚愕し、恐怖し、焦り、戦慄しているこの自分は何なのだろう?

「・・・私は、私は・・・全ての感情を殺したのだ」

覚えず言ったそれは自己暗示か、虚勢にしか思えなかった。
そしてその虚勢を虚勢だと切り捨て、嘲笑う人物は目の前。

「なら、なぜお前は怯える?」

たった、たった一言で。『自分』を保つ為の精一杯の言葉に現実を突きつけ、切り捨てた。
わからなかった。自分が何を思っているのか、なぜ思っているのか、分からなかった。

―――このようなことが。このようなことがあってなるものか。

いつも冷静に。冷徹に。必要なものだけを使い、不要となったものを切り捨て、犠牲を厭(いと)わず、目的のために手段を選ばす、誰を傷つけても何も思わず、ただ当然だとそう思えたのに。

―――なら、今の・・・この感情は何なのだ?

気が狂いそうだった。確かに捨てたと殺したと思っていたものがいつの間にか自分を支配している。それは、恐ろしい事だった。そして、自分が恐ろしいと思っていることが恐ろしかった。
『感情』はすぐにでも殺さなければならない。『私』を取り返さなければならないのだ。

「・・・私は、怯えてなどいない」

やっと出てきた言葉はあまりにもありきたり。
だが、それは確かにアカギを支える言葉でもある。
アカギの首元に冷たい凶器を押し付けて微動だにしない少年は何か得心したような顔でアカギに問うた。

「全ての感情を殺して何になろうと言う、神のごとき者?」
「私は・・・」

―――私は。

「・・・神に。新たな世界の創造主に」

そうとも。
アカギの中で何かが吹っ切れた。
そうとも、私は神になるのではないか。不完全ではなく、完全な世界の創造主に。
私を否定した世界ではなく、私を受け入れる世界の。

「それは残念」

笑みさえ零れてきたアカギの言葉を詰まらなさそうに聞いていた少年はやはり詰まらなさそうに彼に言葉を投げかけた。アカギは言葉の意図がわからず当惑する。

「何が残念なのだ?」
「貴方は何もわかっていないようなので」
「何を?」
「全てを」

らちが明かない。苛立つアカギに少年は細く笑うだけ。
さらに言葉を重ねようとしたアカギは、しかし少年に先を越された。

「なぁんだ、残念。お前はもう少し利口かと思っていたのに。いや、利口ならこんなことを始める前にやめていたか・・・」
「なんだと!?」

激怒して前へ身を乗り出そうとしたアカギだが、ナイフのことをすっかり頭から飛ばしていた。銀色の刃にしぶしぶ後ろに引き下がる。少年は相変わらず笑っていた。

「人間は神にはなれない」
「それはほかの人間は不完全だからだ!私なら・・・私は違う!」
「貴方も同じじゃないですか。どこが完全だというんです?ただの人間でしょう。感情を揺らし、怒り、恐怖しているじゃないか。『神のごとき』はただの人間。神にはなれない。ですが、そうですね・・・どうしてもと言うのなら」

少年は空いている手を顎に添え斜め下に目線を動かし思案顔を作る。
アカギはもう何も言えなかった。折角吹っ切れ、手に掴んだはずのものが否定されてしまったのだ。偽りだと。

―――違う。違う違う・・・。違う違う違う違うチガウ!!!

こんなものは気の迷いだ。落ち着けば・・・そう、とりあえずこの状況から脱すれば問題はない。私は神になるのだ。新しい世界を作るのだ。私は―――――。

少年が唐突にアカギに向き直る。無感情な目の中に小さな自分が写っていた。

「オレは、神だよ。貴方にとっての」
「何だと・・・?」

少年の言葉はまるで謎かけか言葉遊びだ。
アカギの当惑顔が面白くて仕方がないと言わんばかりに少年は顔を綻ばせる。悪戯を成功させた子供のしたり顔のように。

「わからないか?お前の命はオレが握っているということだ。
お前の生死を決めるのはオレ。そしてお前も時には神になっただろう?例えばカンナギへ行く道で。・・・ほかにも覚えがあるだろう?与えることはできないが、奪うことだけなら誰でも神へとなれる。違うのか?」

少年の言葉に納得している暇も、反論する余裕もアカギにはなかった。
というよりも、アカギが少年の言葉の最後の方をまともに聞いていたかどうかすらも危うい。なぜなら、アカギの頭の中はこの状況を打開することで頭がいっぱいだったからだ。それは現実逃避にも近い。

―――ここで、全てが潰えるのか?私の夢の全てが。
―――私の死をもって?

とんでもないことだった。そんなことはありえないことだった。
実験室の扉は開いたが、まだ誰も来る気配がない。もう少し、もう少し時間を稼がなくては。アカギは口を開く。

「そう言えば、聞いていなかったな・・・。キミは誰だ?」
「誰でもないさ」

即答されてしまった。しかもハクタイの時と同じ答えで。

「誰でもないということはないだろう。私は名前を聞いている」

食い下がるアカギの質問に少し困ったような顔な顔をする少年。少しだけナイフの位置がズレて首元に余裕ができた。困った顔のまま少年は答える。

「名前なんて持ってないから聞かれても困るんだよな・・・。存在しない存在に名前って必要なんですか?存在しないものに呼び名はいらないだろう?・・・誰からも呼ばれないのだから」

淡々とした話し方に声の調子は相変わらずだが、今回は何かが混じっていた。
それが悲しみか、それとも寂しさかはわからなかったが。

「ですが、オレの名前なんてどうでもいいんですよ。詰まらない問答と談話はここまでにしましょうか。・・・お前は罪を犯した。なら、お前は同じ目に遭うことを承知だろう?」

少年の手に再び力が戻った。言葉にも表情にも感情という感情がうかがえなくなり、代わりに無機質で冷たい響きだけを耳に残す。

「オレに貴方を裁く権利はありませんが・・・今回だけは許してもらおうかな」

一寸の狂いもなく正確に銀色の軌跡がアカギののどを狙う。
アカギは思わず目をつぶり、頭は真っ白にな―――

「ユウト!」
「外れ」

―――らなかった。
暗闇の中で聞いた声は2つ。少年のものと、そしてこれは、多分、カンナギタウンで聞いた少女のもの。アカギは瞑っていた目を開いた。
ナイフの切っ先はアカギから見て右に大きくずれ、少年は顔を下に向けたまま固まっている。アカギがもう一つの声のした見るとやはりあの時の少女がアカギが開けた扉から息を切らせていた。そしてもう一方、階段からも2匹のポケモンが飛び込んでくる。

「ユウト、何するつもり・・・?」

ムウマを従えた少女はどこかおびえた声で、それでも尋ねる。
その声に反応した少年はゆっくりと顔を上げて、ナイフを引き、体を起こしていく。
アカギは、顔を上げた少年を見つめ・・・声が出なかった。

少年の瞳は、血のような、炎のような真紅だった。

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2011.3.19  23:51:36    公開
2011.3.21  18:02:53    修正


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