ポケモンノベル

ポケモンノベル >> 小説を読む

dummy

生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

155.sideアヤ 対峙する者達[ショウトツ]

著 : 森羅

ご覧になるには、最新版の「Adobe Flash Player」が必要です。 また、JavaScriptを有効にしてください。

side夜月(ブラッキー)

さてと。
この非常事態に面倒くせーバトルを申し込んだ事、

後悔させてやるよ。

相手の初手はゴルバット。まったくポケモンだけだからと言って舐めてくれる。
当然のように前に進み出る俺に、相手はほぅ、と短い驚嘆の声を上げた。

「ほぅ・・・。バトルというものを心得ているようだな。乱闘騒ぎにならずに済んで助かる。ゴルバット、“どくどくのキバ”」
《おいおい、舐めてくれるじゃねーの》

大口を開けて突進してくるゴルバットに俺は嘲笑を向ける。
まったく、そんな程度で最悪最高に気が立ってる俺の道を塞ごうなんて・・・。

《悪いな。“サイコキネシス”》

痴れものが。

巨体とは言わずともそこそこの体型を持ったゴルバットがあっという間に階段に叩きつけられ目を回した。あまりにわずかな時間の事で状況を把握しかねていた相手の人間はゴルバットと俺との間で視線を右往左往させる。ポケモンだけだと思って気を抜いて相手してるからそうなるんだ。聞こえていないだろうが俺はそいつに向かって言った。

《悪いが・・・今、気が立ってるんだよ。貴様、手抜きするぐらいなら俺の前に立つな。
消して欲しいのか。現抜かしてる暇があるならその喉笛、食いちぎってやろうか》

本性、と言えば少し違うのだろうが、俺の声は初めてシンジ湖でユウトと出会った時の声色に変わる。紅蓮と緑羽が後ろでぎょっとしているのがわかった。まぁ、だが今それは特に重要事項ではない。俺だって怒っている。獲物を狙う野生の獣めいた獣性を剥き出しにする俺に言葉は通じなくても雰囲気は感じられたようだ。少しだけ怯えたような顔をした後、ぐっ、と立ち直った相手はボールを握り締めてから放った。

「ちっ。見くびっていたか・・・ドーミラー!」
《面倒なの出しやがって・・・!》

本来なら俺は自分が引き続いて戦う場面だ。不利な勝負ほどやっていて楽しいものは無い。だが、今は単純に勝つことが目的ではないのだ。俺は素直にとんぼ返りのように後ろに引き下がり紅蓮と入れ代わる。

《夜月殿が素直に交代するのは珍しいですな》
《無駄口叩いてる暇も遊んでる暇もねーもん。今は時間が惜しい・・・だろ?》

同意するように紅蓮が頷く。
紅色の炎が薄暗かった踊り場を照らし出す。
今、俺たちがこんな事をしてるのは勝つためではない。

ただ、迅速に『障害物』を叩き伏せるためだ。

sideアヤ

エメラルドグリーンのワープパネルを踏んでたどり着いたのが何階なのかあたしにはわからない。ただ、窓から外を見る限り3階かな、と思う。パネルのすぐ隣にも扉があったけど鍵がかかっているらしくて開かなかった。
・・・て言うわけで単純にあたしたちは反対方向に向かうしかない。
まぁ、結果的にはそれで正解だったんだけど。

「ぅ・・・うぅ・・・」

一人のギンガ団の研究員らしき白衣を着た女の人が青ざめた顔で跪き口元を押さえて呻いていた。鼻を突くのは決して気持ちのいいものではなく、寧ろ悪臭に入る部類の嘔吐物の臭い。
つい声を掛ける。

「どうしたの・・・?」

返事の代わりにうつろな目が中腰のあたしを見上げた。冷や汗が額に浮かんでいるのが見える。口を押さえたまま彼女はどもった声で言った。

「気分が、悪くて。・・・あれ、何に使うの・・・かしら?
アカギ様に付いていく、自信・・・なくなったわ・・・」
「ユクシーたちに何をしたの・・・?」

心なしか声が震える。それが怒りから来るものなのか恐怖から来るものなのかあたしにも分からない。スピカが心配するようにあたしの名前を呼んだ。

《アヤ・・・》
「ねぇ!何したの!?」

声を強め、その女(ひと)の両肩に手を置き無理やりこちらを向かせた。だけど、青白い顔でぐったりしたまま彼女は首を振るだけ。あたしは乱暴に手を離して前へ進む。支えを失った女性はそのまま床の上に倒れ伏した。

《アヤ》
「・・・一体何をしたの?アグノムたちに何をしたの?・・・アグノムたちが何をしたの?」

心配そうな声のスピカにそっと手を伸ばす。
誰かに尋ねるようで誰に尋ねるでもなく、自問でもなく、ただささやくように呟いた。
一体何をしたのか、と。
一体何があったのか、と。

答える声はなかった。
代わりにあるのは、沈黙を守る鋼鉄の扉。

「進むわよ、スピカ」

同意の言葉を夜鳴きポケモンはくれる。あたしはそれに頷き、扉の前に。
自動ドアだったそれは何の抵抗もなく開いた。
適度に明かりが保たれたその部屋にあたしは一歩踏み入れる。

sideアカギ

「キミは・・・確か・・・。テンガン山のふもとで・・・」

大して覚えていたわけではないが、少しだけ興味を持った事もあってかなんとか覚えていた。だが、少年の方はどうでもよさそうな顔をする。

「さぁ・・・。覚えてないですね。そんなこと、どうでもいい、だろう?」

どうも口調がタメになったり敬語になったりと一貫性が無い。テンガン山のふもとではそんなことはなかったはずだというのに。だが、気になるのはそんなことよりも少年があまりにも空っぽな感じがすることだ。言葉も表情も。それはまるで人形のそれ。人形と違うのは動きが滑らかなことだろうか。不気味な気持ちを抑えながらアカギは尋ねた。

「キミは何をしにここに来た?」

この問いに少年は自然に首をひねる。あれおかしいな、とでも言いたげに。

「覚えてない・・・。何か目的はあったはずなんですが」

その表情にもやはり作り物めいたものを感じるアカギ。
少年はあぁ、そうだと言わんばかりにアカギに話しかける。

「どこまで本当だったんだ?さっきの演説。嘘っぱちがほとんどだろう?」
「・・・ふっ。確かにな。私は新しい世界を生み出すがそれは私だけのものだ。ギンガ団の連中は揃いも揃って役に立たない奴ばかりだからな。そうでなかったら『完全』はありえない」

アカギの話にふぅん、と少年は面白くなさそうに相槌を打った。
アカギはアカギでこの少年の目的と真意を頭の中で考える。そして、一つ思い当たった。
少しだけ調子を取り戻し、饒舌になって少年に語りかける。

「もしかしてキミは湖のポケモンを取り返しに来たのではないか?・・・湖のポケモンが可哀想だったのか?ふふっ。感情などという曖昧なものに振り回されてキミはわざわざここにまで来たというわけかな?感情などというものはまやかしだ。見えないものは揺らぎ消えてしまう」
「・・・そうだったかもしれんが・・・。もう、いいんですよ。そんなことは」

その言葉に疑問符を浮かべたアカギに向かって少年は歩き始める。アカギは無意識に少年の歩数に合わせて後退していた。警報機のようなものが頭の中で鳴り響いている。
この目の前にいる存在(もの)は危険だ、と。
この世の存在ではない、と。
人間のそれではない、と。

「どうでも良くなったんです。他にやることを見つけたので」

そう言う少年は嬉しそうに笑っていた。年齢に見合わないほど無邪気に。
いつの間にかアカギには逃げ場が無くなる。壁の感触が冷たくてぞっとしたが、目の前の少年がこれ以上なく綺麗に笑うのもおぞましい光景だった。不釣合いと言うのはその度合いが高いほど気味の悪さを印象付けるのだ。

「・・・何をするつもりだ・・・?」

かろうじて威厳を保ちながらアカギは少年に問う。目の前にまで到達した少年は無邪気で人形のように中身の無い笑みを崩さず答えた。それは獲物を弄(もてあそ)ぶ猫のようにも見える。

「身に覚えはあるはずだが?」

すっ、と少年の顔から笑みが消え去った。声の温度が冷たく変わる。目の前の黒猫は鼠で遊ぶのに飽きた、と言うよりはむき出しの憎悪を向けられたような感覚。人形が感情の入った人間に変わった。だが、先程からの少年の言動はある人物をアカギに思い出させる。

「貴、様・・・。まさか、やはり・・・ハクタイのポ」

―――ケモン像の前で。
そう言い切る前に当然のようにアカギの頬を何かが横切る。知覚から一秒遅れて何かが頬を伝った。・・・多分、間違いなくそれは血。目線だけを下に動かすと少年の手には一振りのナイフ。親指で柄の端を握って手馴れた様子だ。

「お前から、ひどい血の匂いがするんだ。一体何匹のポケモンの血を浴びたんだろうなぁ?あぁ・・・そう言えばカンナギへ向かう山道でも血まみれのポケモンと出会ったんだが、あれもお前の所業だろう?なら、自分がそうなる事も覚悟の上なんだろうな」
「・・・何を、莫迦な事を・・・」

抵抗しようとそっと腰に手を伸ばす。少年はそれに気が付いていないのか無関心だ。
私のポケモンは、私自身の力。
ポケモンさえ、私の力さえいれば大丈夫だ。恐れる事はない。相手は丸腰じゃないか。
かちり、とボールに手をかけ身を斜め下によじりながらボールを放つ。出てくるのはマニューラ。身のこなしが速く、氷技も使えるポケモン。つまり少年より先手を取れることは言うまでも無く、また氷技で自由を奪ってしまえばその時点でアカギの勝利。
アカギはそう、誤算した。

「マニューラ!“こごえるかぜ”!!」
「マニューラ、やめろ」

マニューラの氷技が相手を動けなくするはず・・・だったのだ。だったのにどうしてマニューラは動かない?
アカギはただただ驚愕するしかなかった。
ポケモンの名前をアカギの声で確認して発したような少年の声はどちらかと言うと呟きに近く、マニューラの所有者でもない。だからそんな少年の声がマニューラの所有者であるアカギより優先される理由はないはずだった。

「マニューラ、どうした!?“こごえるかぜ”、だ!」

だが、現実問題マニューラは主人(アカギ)と少年の間で視線をさまよわせて固まってしまっている。
睨むように少年を見るが、少年はそれを不敵に笑ったままものともしない。なぜ、と問い掛けてアカギはふと思い出した。

「貴様、まさか・・・」

ソノオの発電所、と言うよりも実際にはもう少し前には報告が上がっていた。
おかしな子供がいる、と。
あまりにも馬鹿馬鹿しくて聞き流していたが・・・。

「まさか、神話の『契約者』なのか・・・?」

『そいつ』は他人の所有ポケモンを手持ちに加えてみせた、と。
そんな馬鹿な。そんな事はあってはならないはずだ。そんな事が可能ならば『そいつ』は無限にポケモンを従える事ができるではないか。だが、現実として少年は目の前にいる。嘲るような笑みを浮かべて。

「馬鹿な・・・。そんな馬鹿な話があってなるものか!」

それでは私の『力』はどうなる!?
私の力であるポケモンが無力になるというのならそれはつまり、私自身の力がなくなると言う事だ。
そんな馬鹿な!私が、私が無力だと!?
アカギは笑顔の少年に激しい戦慄を覚える。それは恐怖にも似たもの。

「お前の番は終わりだろ?次はオレの番だよな?」

少年は躊躇無く銀色に輝く『それ』をアカギの首にあてがった。アカギの手が救いを求めるように壁を這う。ふと、その手がエムリットたちがいる実験室への扉を開閉するスイッチに当たった。藁にもすがる思いで彼はそのスイッチを押す。
その時に見た少年の顔は恍惚として笑っていた。

「当然だろう?それだけの罪を犯したのだから」

sideアヤ

中には緑色の液体が入ったガラス筒のような形の機械。大きなのが3つあってそれぞれ湖のポケモンたちが苦しそうに体をよじっていた。あたしはその光景に絶句する。

な、んてこと・・・してくれるのよ・・・。

《アヤ》

愕然とするあたしにスピカは注意を喚起した。スピカに言われるままに目線を動かすとそこには人影。あたしの足音に気が付いたんだろう、相手も目線をこちらに動かす。
そこにいたのはソノオの発電所で出会った赤っぽい色眼鏡をかけた猫背の老人。確か、名前はプルート。プルートはあたしを見ると思い出したように2,3回頷いてから不気味に笑った。

「ふひゃひゃひゃ・・・。久しぶりじゃのー、お嬢ちゃん。・・・ほほぉー、わざわざこんな所までご足労なことじゃ。小僧の方が来るかと楽しみにしておったんじゃがな」
「悪かったわね、あたしで」

小僧、というのはユウトのことだろう。ただし、紅い目の方の。
あたしはせいぜい皮肉たっぷりに言ってやる。だけど相手はふひゃひゃ、と笑うだけ。

「いやいや、この歳になれば話し相手ができると言うのは嬉しいものじゃて。歓迎するぞい。さてさて、ここまで来たという事は湖のポケモンを救いに来たんじゃろ?好きにしてくれて結構。どこに行くのかも気になる所じゃしな。別にわしには新しい世界などどうでもよいんじゃ。ただ、アカギの言うとおりギンガ団が新しい世界を支配すればわしも美味しい思いできる。
是非是非アカギには頑張って欲しい所だわ。さて、テンガン山の頂上で何が起きるのか楽しみじゃのー」
「いい加減にしなさいよ・・・!何を考えてるわけ!?」

声を荒げるあたしにそれでもプルートは妖怪めいた笑みを崩さない。

「青いのー。『何を考えているか』、そんなもの決まっておるじゃろうに。分からない事を研究するのが科学。なら探究心もそれに伴う犠牲も必要じゃろう?」
「ふざけてる!!」

言い切ったあたしにおっとっと、と演技めいた様子でプルートは後ろにたじろいだ。
へらへらと勝ち誇ったような笑いを顔に貼り付けたまま。

「まさかお嬢ちゃん。わしを攻撃するわけはないじゃろう?わしは生身の人間。ポケモントレーナーでもないただの人間じゃよ」

普通、ポケモントレーナーはポケモンに人間(トレーナー)を攻撃する事を禁止している。理由は至極単純・・・ポケモンの技は強力すぎるから。でも、あたしは怒っていた。

「・・・スピカ」

少しだけ俯いたあたしは傍らのスピカを呼ぶ。スピカはそれだけでわかった、とでも言いたげにふよふよと前へと進み出る。プルートの笑みが少しだけ剥がれたのが下を向いていてもわかった。

「ぽ、ポケモンで人間を攻撃するのは禁止されているじゃろう―――?」
「・・・だから、何?」

あたしは顔を上げた。さっきまでの笑いはどこへやら上ずった声でプルートはその視線をさまよわせる。あたしは一歩プルートに歩み寄り、スピカも倣うように前へ一歩分進む。

「だから、何?ポケモンは無抵抗なままなのに、人間はポケモンを好きにしていいの?
・・・昔々の話だけど、ポケモンとヒトは似た存在だったんでしょ?ならいいじゃない」
「昔話じゃ!そんなものは!!」
「昔話?・・・じゃあこんな話はどう?昔、戦争があったのよ。たくさんのヒトが死んだ。もちろん、ポケモンも。ポケモンもヒトも区別なんてなかった。人間だってポケモンの技を受けたし、人間の剣がポケモンを貫いた。ほら、人間とポケモンを区別するものなんて無いじゃない」
「戦、争・・・?小娘、何を・・・。いや、じゃが今の人間は・・・鍛えていない普通の人間はポケモンの技を受ければ死ぬ!!」

明らかに動揺するプルートにあたしたちはさらに一歩近寄り、命令した。

「なら湖のポケモンを自由にして!いますぐっ!!」

あたしの声に反応したプルートはカプセルを開けるためのスイッチを慌てて押す。次の瞬間にはごぼっ、という水の抜ける音がして緑色の液体は消え、自由になったポケモン達がくるりとカプセルの中で空中を一回転してから消失していく。ほぅ、と安堵の息を漏らしたのはプルート。でもあたしは一発お見舞いしてやらなきゃ気がすまなかった。なので腰からボールを一つ握りこむ。

「レグルス。“でんじは”」

バチッ、という小さな電気の流れた音、そしてプルートはその場で動けなくなる。
あたしは一言プルートに言い捨てた。

「悪いけど、ポケモンだって反撃するのよ。人間だからって何でもしていいわけじゃないの。ちなみにちょっとしびれさせただけだから。・・・スピカ、レグルス、行こ!」

あたしはプルートを放置して来た道を戻っていく。
閉まっていたはずの扉が開いている事に気が付いたのはそのすぐ後だった。

⇒ 書き表示にする

2011.3.15  20:37:42    公開
2011.3.15  22:31:16    修正


■  コメント (0)

コメントは、まだありません。

コメントの投稿

コメントは投稿後もご自分での削除が可能ですが、この設定は変更になる可能性がありますので、予めご了承下さい。

※ 「プレイ!ポケモンポイント!」のユーザーは、必ずログインをしてから投稿して下さい。

名前(HN)を 半角1文字以上16文字以下 で入力して下さい。

パスワードを 半角4文字以上8文字以下の半角英数字 で入力して下さい。

メッセージを 半角1文字以上1000文字以下 で入力して下さい。

作者または管理者が、不適切と判断したコメントは、予告なしに削除されることがあります。

上記の入力に間違いがなければ、確認画面へ移動します。


<< 前へ戻るもくじに戻る 次へ進む >>