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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

153.sideユウト×アヤ dream land[ユメノクニ]

著 : 森羅

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sideケイヤ

結局ナギサジムで一泊してしまったぼくら。デンジは昨日久しぶりにまともな夕食を食べたと、そう言っていたけど、よく体調を崩さなかったね・・・。その精神力に僕は感服するしかない。
そして、今朝。朝食の席でシロナがぼくに話を振った。

「じゃあ、きみはトバリに行くのね?」
「うん、そうしよっかなーって思ってる。ゆーととアヤちゃんもいるだろーし。ちょっと気になることあるし。・・・シロナは?」

斜め前のシロナに聞いた後にぼくはぱくっ、とパンにかぶりつく。
はぐはぐとリスやハムスターみたいに口の中を一杯にしていると足元の燐から飲み込みなさい、とお叱りを受けてしまった。ぼくはパンから口を離して口の中を空っぽに戻していく。机をはさんで向かい側のデンジと目が合うとデンジが慌てて目をそらした。ちょっとだけ顔が赤いけど・・・どうしてだろ?首をかしげながらもぼくはシロナに視線を戻した。

「あたしは一度リーグの方に戻るわ。ユクシーたちの報告を上げて話をねじ込んでみる」
「そっか。・・・頑張ってね」

そう言ってぼくが笑うとシロナもつられたように微笑む。
そこで突然にぼくはあ、と思い出した。せっかくだから、とぼくはシロナに言うことにする。

「じゃ、そんなシロナに情報一つ」
「え?」
「またか?」

驚いたような顔のシロナと苦笑いのデンジ。ぼくは足をぶらぶらとさせながら笑顔を浮かべた。

「うん。もしシロナがそう望むなら、だけど。
まずさ。シロナ。シロナはギンガ団の言う『時空のポケモン』がディアルガ、パルキアだってことはわかってるよね?」
「えぇ・・・それくらいは調べてあるわ」

だよねー、とぼくは笑う。たとえシロナの持っている情報がハクタイの森の洋館でのデータだけだったとしても『時空のポケモン』と出てきた時点で見当は付くはずだ。じゃあ、とぼくは続けた。

「もし。もし、シロナがギンガ団を止めたいと思って行動するならテンガン山に来て欲しい。テンガン山の頂上に」
「・・・なんですって・・・?」

驚愕するシロナにぼくは笑ったまま再びパンの攻略を始めるだけ。

あとは、シロナ次第。・・・そして、ぼくら次第。

sideアカギ

やっと、やっとだ・・・。

アカギは目を閉じ、そう思いながら椅子に背中を預けていた。
薄暗い自らの部屋の中。ギシギシと椅子が軋む音が彼には逆に心地よい。

ここまで来るのにどれだけの時間を費やしただろう?
ここまでたどり着くのにどれほどの労力を注いだだろう?
だが、それも今日まで。やっと私の願いが叶うのだ。

湖のポケモンを捕らえて、『赤い鎖』は完成した。
『時間』と『空間』を壊し、そして創り直す。
不完全で、私を否定した世界など要らないのだ。

感情など、不要だ。感情は人を鈍らせ正確な判断を出来なくさせる。
それは、戦争しかり。
差別しかり。
涙しかり。

感情がなければ『時間』は本当に等しく流れるだろう。
泣く者も笑う者もいないのだから。

感情が無ければ『空間』は本当に等しく与えられるだろう。
綺麗に等分された領域に文句も言わず暮らすだろうから。

全てが平らで、平等な世界。
それこそ、私が望むもの。

それこそ、私だけの世界。

アカギは恍惚とした気分に浸っていた。

sideアヤ

「・・・何これ?」
「まともな食べ物じゃない事は確かだな」

固まるあたしの一歩前を行くユウトも異臭に顔をしかめる。足元の夜月が無理!と言わんばかりに首を横に振っていた。
異臭がするのは小さなキッチンとなっているスペース。まぁ、これをキッチンと呼ぶなら、の話だけど。どう過大評価しても『毒』『食べるな危険』くらいしかフレーズが出てこない。
ドンカラスたちから情報を貰った次の日。2階から侵入した(監視カメラ等がないという条件を満たしていたんだからしょうがない)あたしとユウトを迎えてくれたのがこの異臭だった。
周りには誰もいない。今日は何かの(多分アカギの)演説があって全員が一箇所に固まるから入り込むのが楽だろうってドンカラスが言ってたのは本当みたい。あたしの隣でスピカが引きつった笑いを漏らしていた。

「アヤ、何してるんだ?そんなもん食いたいのか?」
《ぶらぁー》
「そんなわけないでしょ!!・・・夜月、今何か悪口言った!?」
《夜月君は『俺でもそんなもん食いたくねーぞ』だって》

とっくにキッチンから興味をなくしてそばの机の上のファイルをぱらぱらとめくっていたユウトにあたしは答える。いつもの悪戯っぽい笑顔に戻ったスピカが夜月の言葉を訳してくれるけど、それに関しては腹が立つことこの上ない。・・・あたしだってこんなもの食べたくないわよ!
うー、とむくれるあたしをユウトはつまらなさそうな顔で一瞥してからめくっていたファイルを投げてくる。

「下らないものを見てるならこっちを見る方が有意義なんじゃないか?」
「『ハクタイのポケモン像』・・・?」

ファイル名を読んでからファイルの中身を開いた。ハクタイのポケモン像から盗んだ説明文(プレート)を解読したものみたい。

「『生み出されし、ディアルガ。わたしたちに時間を与える。笑っていても、涙を流していても同じ時間が流れていく。それはディアルガのおかげだ』・・・」

あたしは何も言わず続きを読む。

「『生み出されし、パルキア。いくつかの空間を作り出す。生きていても、そうでなくても同じ空間にたどり着くそれはパルキアのおかげだ』・・・ディアルガとパルキア・・・」

カンナギでのケイヤとアカギの会話。ケイヤは言っていた。ディアルガとパルキアを起こすな、って。2匹を捕まえてもアカギの望みは叶わないって。
ギンガ団の目的は分かってる。てか自分達で宣伝しまくってるから公共の秘密となってるけど、『新しい世界を創る』って事。ケイヤのおかげでわかった、そのための手段がディアルガとパルキアの『時空の神』。
意識があさっての方向に行ってしまっていたあたしにユウトの声がかかる。夜月が何か言ったみたいだけどそれに対してユウトは聞いたらわかる、とだけ答えて続けた。

「アヤ。ミズキさんが前にギンガ団の目的は『新しい世界を創り出す』って言ってたんだが・・・。まさか神話上のポケモンを引きずり出すつもりなのか?」
「そうよ。・・・ってあんたディアルガとパルキア知ってるの?」

む、とユウトが少しだけ驚いたような顔で表情を崩す。そして肩をすくませた。

「カンナギでシロナさん宅の古書の整理に付き合わされてな。そこで見つけた。ケイはパルキアの方の『契約者』だとか言っていたが・・・まぁ、そっちは関係ないな」
《ぶらぁ!?》

ユウトのセリフに夜月が跳ね回る。その様子は俺そんな話知らねーぞ!と言わんばかり・・・て言うか絶対そう言ってる。ユウトは夜月に説明し始め、あたしはそのファイルを元の位置に戻した。顔の横に浮かぶスピカが話しかけてくる。

《とんでもない計画ね》
「まったくよ」

この世界には絶対、手を出させない。ザウラクにも。
ナギサのアカギの家で見た文章が頭の中に浮かんでくる。
『自分を肯定する世界』を欲するアカギがどうして寂しすぎるのかあたしには分からない。むしろ身勝手で利己的だ。
でも、アカギは寂しすぎるってケイヤは言っていた。

「アヤ・・・行かないのか?」
「は?えっ!?ちょっと!!あんたいつの間に!!」

いつの間にかユウトは話を終えて階段に足を掛けていた。
あたしが気づいたのを確認したユウトは無表情で前へ向き直るけど、あたしはそれに静止をかける。どうして止めたのかはわからないけど・・・ちょっと聞きたくなっただけ。
ユウトは階段に足をかけたそのままの体勢で固まって少しだけ表情を崩した。

「何だ?」
「あんた、何かつまんなさそう」

言いながら歩を進めるあたし。夜月がユウトを見上げ、ユウトはまた顔をしかめた。
追いついたあたしにユウトが口を開く。

「楽しそうな顔をしろ、とでも?」
「そんなこと言ってないわよ。
でもあんたって大体常に、じゃない?そんなに全部面倒なの?」
「・・・そんな事は言ってない」

ほら、また嫌そうな顔して。あたしは階段を上り始め後ろを振り返らずに続けた。

「あんたって、何か・・・全てに対して関らないように関らないようにしてるみたい」

スピカが確認するように一瞬、後ろを振り返る。
後ろのユウトは固まったまま動いている気配が無かった。

一体どんな顔をしていたのか、あたしは知らない。

sideユウト

別に全てに対して面倒だなんて思っていない。
別に関わらないようにしているつもりはない。

だが、そう見えたと言うなら・・・否定はしかねる・・・気がする。
奇妙な感覚がする。焦燥感だろうか、空虚さだろうか。

なぜなのかは、わからない。

《ユウトー。俺、つまんねーんだけど?》
「・・・オレもだ」

夜月の声にオレは短く答えた。周りは歓声の熱気に包まれているが、五月蝿くて仕方がない。
巨大なホールの端。巡り巡ってたどり着いたのがここだ。周りの歓声は全てその場にいるギンガ団のものだが、オレたちに気がつかないのもどうかと思う。そして現在隣にいるのがアヤと、

「ふむ・・・。ギンガ団のボス、アカギか・・・。まだ27歳だったな」
「そうなの?」

アヤと会話しているどこぞの国際警察だ。名前はもう完全に忘れた。
つか、普通に会話してていいのか?そんな和やかな雰囲気だったのか?・・・まぁ、とりあえずオレの存在は無視されているようなので完全に空気に徹する事にした。

「ところでギンガ団のやつら・・・何をするつもりだ?」
「演説だって・・・。多分アカギが出てくると思う」

アヤが国際警察に答えた直後、鮮やかな水色をした髪の男が壇上に登場する。
・・・あれは・・・。登場した人物にオレは驚くしかない。

《ユウト。・・・一回会った事あるよな?》
「見たことがあるな。テンガン山の直前だったか?」
《ですな》

どことなく緊張した声の夜月と紅蓮。紅蓮はともかく夜月がこんなにも張り詰めた空気を纏っているのは珍しい。ただすれ違っただけの人間のはずだが、実際はオレも夜月と紅蓮の事を言えない。
・・・気分が悪いのだ。

「あれ、ギンガ団のアカギよ」
「あれがか・・・」

アヤと国際警察のやり取りが少し遠くで聞こえた。
マイクのスイッチが入れられアカギ、というらしい男の声が響く。この場にいる全員がそちらを向いただろう。夜月は自然体だが警戒体勢らしく少し毛並みが逆立っている。だがオレは傾聴するどころではない。
・・・吐き気がする。腹の中で異物感が消えない。

「ギンガ団の諸君!改め名乗ろう私がアカギである。さて、われわれはこの不完全な世界で苦しみながら生きてきた。この世界に生きる人も、ポケモンも不完全であるがために醜く、争い、傷つけあう。私はそれを憎む。不完全であることを全力で憎む。
世界は完全であるべきだ。世界は変わらなければならない」

マイク越しに透る声に歓声が轟くが、オレにそれを聞いている余裕はなかった。
めまいがして視界の中で世界が崩壊していく。血の匂いが鼻を突いた気がした。
・・・なんでいつも突然こんな事になるんだ・・・?

『この世界は不完全だ』?
『世界は、完全であるべきだ』?

『フカンゼン』・・・?

頭の中で反芻する言葉。それに何かが粛清をかけた。安全弁のように。

―――五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!静かにしてくれ!、と。

拒絶し続ける言葉と反芻され続ける言葉で頭が割れそうだ。
ふらつく足でとりあえず人ごみから抜け出ようと歩く。朦朧としている意識だが、まだ倒れないでくれ。
夜月もアヤも国際警察もオレに気づいていないだろう。この歓声と熱気の中だ。注意が別の所に向かっていればなおさら。鞄の中の紅蓮や緑羽もどうなっているのか見えていないはずだ。
だが、それで別に構わない。
やっとの事で階段部分の誰もいない部分を見つけ、壁に沿うように座り込んだ。
過呼吸のような断続的で短い呼吸を繰り返す。血液がやけに忙しなく体中を這い回る。ハクタイのときと似たような状況だな、と余裕など無いだろうに頭が教えてくれる。
確かにハクタイや<おもちゃ箱>のときも上がってきたどす黒い『何か』が浸食をしていっているのはわかっていた。
そして、それが暴走寸前である事も。

《ユウト殿!?》
《ゆっ、ゆ、ーっとッ!?》

紅蓮と緑羽の声が聞こえた気がしたが答える余裕は無い。
先ほどよりもさらに強く血の匂いがする。
煩いんだ。静かにしてくれ・・・頼むから。
・・・・・・・・・。唐突に、疑問がわく。

静かに?誰に?

紅蓮に?
緑羽に?
熱狂するギンガ団に?
演説するアカギに?
オレ自身に?
それとも。

セカイに?

何かが壊れた音がした。
それは鎖が引き千切れた音にも聞こえる。
何かを、捕らえていた鎖の。

繋いでいたのはこの黒い感情?それともオレ?

・・・どちらでもいいじゃないか。

そう、『どちらでもいい』。五月蝿いなら静かにさせれば良い。
完全な静寂が欲しい。
吐息の音も心音すらもけたたましい。
吐き気もめまいも治まり、だがもう何も聞こえてはいない。
そうか、と唐突に何かを納得した。壇上の上の話し続ける男に目を向け、微笑む。

―――血の匂いは、お前だったのか。

「・・・殺してやる」

誰も聞こえないほどに小さく呟いた。
とん、と鞄が落ちたらしい、そんな音がした。何かの声のような音もする。
だが、そんなことには目もくれず階段を上って進んで行った。

・・・やめてくれ・・・。

小さく聞こえた声は誰のものだろう?





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2011.3.9  21:41:26    公開
2011.3.10  11:02:24    修正


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