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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

150.sideケイヤ 調査結果[コタエアワセ]

著 : 森羅

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「デンジ、デンジ!いるのでしょう――――?」

どんどんとジムの扉を叩くシロナの横でぼくは貼り付けてある、雨風に晒されてくしゃくしゃになった貼り紙を読んでいた。

「『ナギサジムへようこそ。
大変申し訳ありませんが、ナギサジムリーダーはただいまナギサシティの発電システムの修理中あんどジムの改装中でひきこもっております。どうか探さないでください。・・・なお、一枚目は飛ばされましたのでこれは二枚目です、文章が少々変わっていてもお気になさらずに』」

ぼくは燐と透(ゆき)と顔を見合わせる。えぇっと・・・。

「なんか、すごいね。これ」
《二枚目とかって書く必要あるんでしょうか・・・?》
《うちはまずはこの張り紙から書いた人のものすごい疲労感を感じるんやけど・・・。『あんど』の辺りとか特に》

各々が感想を述べ、顔を引きつらせた。デンジ・・・何やってるんだろ・・・。
シロナはさらに声を張り上げて、まだ戸を叩いている。

「デンジ!出てきなさい!!・・・デンジ!!」
「・・・・・・ふぁい・・・?はれ・・・しろな・・・?」

シロナの叫び声にようやくゆっくりと扉が開いた。シロナが壁になっていてぼくにはデンジの金髪しか見えず、声しか聞こえない。疲れたような声だけどさっきまで寝てたのかなぁ。
上が見えない代わりに下を見るとデンジの足元にはサンダース。サンダースだぁ!と目を輝かせたデンジが見えないぼくはそのサンダースに目線を合わせるようにして手招きした。
シロナとデンジのやり取りだけは耳を澄ませておく。

「久しぶりね。・・・起きてる?いえ、生きてる?」
「・・・・・・・・・・・・今、ジム戦は・・・・・・・・・。シロナ!?突然どうしたんだい?」

いきなりデンジは目が覚めたみたいだ。話し方が流暢になって、金髪が揺れてるから身振りも大きくなったんだろう。ぼくは傍に寄って来てくれたサンダースを撫でながら思った。
シロナはそのデンジの様子に笑って言う。

「ちょっと用事よ。それからあなたの様子も見ておこうと思って。体調崩してない?」
「そうか・・・。それはわざわざありがとう。体調はぎりぎり・・・ってとこかな。あれ?サンダース・・・?」
「あ、ごめん。デンジ」

ぼくは立ち上がってサンダースを離す。サンダースはぽてぽてとデンジの元へ戻って行った。
シロナはぼくの存在を思い出したようにそっと脇に退いてぼくとデンジを引き合わせる。ぼくはやっとデンジの顔を見ることが出来た。あ、すごい。デンジが眼鏡してる。

「デンジ、この子は」

さっ、と風のように説明しかけたシロナの傍を通り抜けたのは一体何?
シロナのセリフはそこまでしか聞こえなかった。いつの間にかデンジはぼくの目の前。ぼくはとりあえずへにゃり、と笑う。すると突然目を輝かせたデンジはぼくの両手をつかんで言った。

「好きです、彼女になってください」

えーっと・・・。ぼくはいまだ笑ったまま。
微妙な沈黙は一瞬?それとも永遠ほどに長い時間?
突如めきっ、とデンジの頭が重力に従うように沈んだのがその沈黙の終わり。ちなみに『めきっ』の正体は燐と透による“アイアンテール”によるもの。ぼくの目の前で燐と透がほぼ同時に地面に足を付けた。

《全く、何を考えているのですか?》
《せやせや。何考えとーねん!この変態!》

2匹の“アイアンテール”を受けてもまだぼくの手を離さないデンジはすごい。変な所感心するぼくにあっけに取られていたシロナが苦笑で一言。

「デンジ、その子、男の子よ」
「・・・え・・・?」

よろよろと顔を上げたデンジがぼくを見つめ、それにぼくは笑って頷く。
がっくりとデンジは糸が切れたように力尽きて倒れこんだ。

side燐(キュウコン)

全く、何を考えていたのでしょうね。この人間は。
わたしは目の前の金髪青年に目をよこします。
確かにケイはそこらの女の人よりも可愛いですし、中性的なのも認めましょう。
えぇ、ケイは可愛いですとも。
ですが、突然何を寝ぼけた事を言うのですか。

散らかり放題のジム内の生活スペースで各々がごみくずやらガラクタやら栄養ドリンクのビンやらを押しのけて座る場所を作りました。ケイは背の高い椅子に深く座っているせいか足をぷらぷらさせています。・・・掃除、していないのでしょうね・・・。
わたしと透(ゆき)はケイの傍を陣取りました。
金髪青年、つまりデンジと名乗ったジムリーダーはサンダースを伴って盆に載せたお茶を配ります。そして、ケイの目の前に来てお茶を渡しながら彼は言いました。わたしと透の冷たい視線に苦笑いしながら。

「いや・・・ごめんよ。女の子だと思っ・・・いや、えぇっと、その・・・」
「ありがとー、デンジ」
「ぇ、あ、うん・・・いや。・・・ごめんよ・・・」

ケイ、貴方って人は・・・。そんな可愛い笑顔でお茶を受け取ってはいけません。
気が気でないわたしを透が笑います。

《姐さん、落ち着きぃや。別に勘違いやったんやし・・・。女の子思うたからやろ?そこの兄ちゃんがケイヤちゃんに告白したんは》
《わかってます。わかってますが・・・》
《わかっとうけど気持ちが落ち着かんわけやな?》

相変わらずにやっ、と笑う透にわたしは返す言葉もなくうつむくだけです。
一体わたしはどんな顔をしているのでしょう。もうわかりませんでした。
そんなわたしを他所にケイとデンジの話は進みます。

「いいよー、別に気にしてないし。実は結構男子からも泣きつかれるんだ。女の子にフラれたから女役でいいよなって。・・・ぼくってそんなに女の子っぽく見える?」

がくがくと頷くデンジにケイがえー、気にしてるのに、と呟きました。するとデンジ、今度はぶるんぶるんと首を横に動かします。ケイはその様子を見て笑いました。

「まぁ、あたしは話しているうちにわかったけど・・・確かに中性的ね」

お茶をすすっていたシロナもそう笑います。
焦って目線を右往左往させた後、やっと調子を取り戻したらしいデンジは盆をガラクタの上においてたずねました。

「それで?俺に何の用事だったんだ?」

sideケイヤ

すっごい部屋だなぁ、ぼくは辺りを見回す。
栄養ドリンクとか電気関係の部品だらけ。ナギサシティの停電状態を回復するためにデンジが修理してるってシロナから聞いてたけどぼくにはどの部品が何なのかさっぱりわからない。デンジ、この栄養ドリンクはずっと徹夜なのかな・・・?
シロナと情報交換って話になったわけだけどどうせデンジの所で説明するときに二度手間になるから、ってことで結局今に至っている。ちょうどいい温さを保ったお茶を飲みながらぼくはシロナとデンジの話を聞くことにした。

「それで?俺に何の用事だったんだ?」

たずねるデンジにシロナは微笑む。

「そうそう、それよ。・・・トウガンかマキシは来た?」
「あー・・・。来たような気もするけど・・・。よく覚えてない・・・」

やっぱりね、とシロナは苦笑する。

「ギンガ団の話だったんだけど・・・今なら後でも覚えているかしら?」
「今はちゃんと意識がはっきりしてるよ。大丈夫」

今度はデンジが苦笑。そしてそのままぼくにちらっと目をよこした。
シロナは肩をすくめて、じゃあ、と話し始める。

「リーグ側からギンガ団については不可侵と決まったの」
「へぇ・・・。ナギサでギンガ団を見たことが無いから実感がわかないな・・・てっ!え!シロナ?一般人混ざってるけどその話・・・・!」
「この子は、ちょっと訳あり。そうそうスズナから連絡があったわ。もう少しの所だったのにユクシーを守れなかったって。これでギンガ団側に3匹が集まった事になったわ」
「そうだね・・・向こうに3匹そろっちゃった。でもリーグ側は動かないか・・・。また報告上げたら状況は変わるかな?そっちの情報もあるから後で話すよ。デンジ、シロナと情報交換しよーって言ったんだ。だから大丈夫。あ、もちろん流出も他言もなし」

え、え?とデンジは目線をシロナとぼくの間でうろうろさせる。まぁ、ぼくがシロナから貰う情報は元々シロナのものじゃないしねー。驚くのは当然だと思う。シロナは苦笑いだった。

「お願い、リーグ側には秘密にしておいて」
「いや、でも・・・」
「お願いだよ、デンジ。知りたいことがあるんだ」
「いや・・・・・・うっ。・・・わかったよ・・・」

ぼくとシロナに押されてデンジは肩をすくめて手短な空白空間に座り込む。
じゃあ、とぼくはシロナに目をやった。

「『生の世界と死の世界』の調査報告、聞いてもいいかな?」

シロナは頷いて古書を取り出す。さぁ、答え合わせの時間だ。

「まず、昔話からね。『昔々、世界創生の頃、世界は混沌のうねりだけだった。タマゴが産まれ、はじめのものが生まれた。時間が生まれ空間が生まれた。3つのものが生まれ、心が生まれた』・・・ここまではメジャーでしょ?」
「うん。それで?」
「『そしてさいごが生まれた。さいごは、もう一つの世界に閉じ込められた。表裏一体の、もう一つの世界に』・・・って言うのが昔話」

うん、とぼくは頷く。反応が乏しいけど、今はそれどころじゃない。
燐と透もじっと耳をすませていた。

「それで、その『さいご』って言うのは3つの湖のどれとも違う4つ目の『おくりのいずみ』って呼ばれている所を『入り口』にしているらしいわ。その『入り口』をくぐれば」
「『さいご』が追放された『もう一つの世界』に行けるってことだね」

言葉を引き継いだぼくにシロナは頷く。ぼくは話を促した。
シロナは古書の一つを引っ張り出して広げる。

「そして、これ!最近便宜上に付けられた名前はギラティナ。『さいご』よ」
「ギラティナ・・・そういえば発表していたな・・・。実在するのか?」

デンジがギラティナの描かれた墨絵を見ながら眉をひそめた。
ぼくはその絵を見て笑う。当惑顔をするのはシロナとデンジ。

「ど、どうかしたの・・・?」
「ううん。いや・・・。うん、シロナ。『正解』」
「「正解・・・?」」

見事にハモった2人にぼくはぴょい、と椅子から立ち上がる。
燐が傍に寄り添ってきてくれた。

「ギラティナについてもっと細かく言おうか?ギラティナ、はんこつポケモン。タイプはゴースト、ドラゴン。2つのフォルムを持つんだ。その絵に描いてある足と羽根の生えたアナザーフォルムともう一つムカデみたいになってるオリジンフォルムとね。アナザーはこちらの世界で、オリジンは向こうの世界でそれぞれ変わる・・・それくらいかな、ぼくの調べた所では」
「ちょっと・・・きみ、それ――――!?」

声を上げるシロナと目を見開いたまま黙り込むデンジ。ぼくはへらりと笑うだけ。

「じゃ、ぼくからシロナへ報酬情報。何から知りたい?アカギのこと?ユクシーたちのこと?ディアルガ、パルキアのこと?」
「・・・・・・全て答えられるの?」
「まぁ、ある程度は」

透が悪戯もん、とぼくに耳打ちする。ぼくは苦笑した。
デンジが何とか声を絞り出す。

「シロナ、この子は一体・・・?」
「・・・わからないわ・・・・・・。・・・えっと、じゃあ、まずはユクシーたちのことを」
「OK。・・・デンジ、ぼくは普通の子供だよ」

違うだろ、という類の突っ込みは四方から。
ぼくは椅子に座りなおす。シロナとデンジも元の席に戻った。
がらがらと無理やり退けた機械の部品が崩れる。

「じゃー、ユクシーたちから・・・っと、アカギの話と被るけどね。えっと、まずギンガ団のボスはナギサの天才児アカギ」
「なんだって!?」

飛び上がるのはデンジ。ぼくとシロナはそれを目で制する。
デンジはしぶしぶながらも座りなおした。

「で、そうなると一つの答えが出てくるんだ。かつてナギサのアカギが作り出した『ポケモンの能力を取り出す機械』。それの使い道が浮かび上がってくる」

傾聴するのは4つの視線。サンダースだけはあくびして寝そべっている。
ぼくは続けた。

「『おそろしいしんわ』においてユクシーたちは邪神だ。与える神から奪う神へと変貌している。彼等の能力、それを『取り出せたら』?そうすれば『ディアルガとパルキアを暴走させられるんじゃないか』って答えが出てこない?」
「・・・まさか!そんな・・・!?」

シロナが声を上げるけど、今度は燐がシロナの傍にいって目線で黙らせる。
ぼくは燐に軽く頷いた。

「暴走させられたらそれで十分・・・なのかそれよりも高度な事を望んでいるのは分からないけど、とりあえず時と空間が暴走すればこの世界はジ・エンド。アカギの願いの『世界を作り直す』ってことが出来る。ついでに2つの世界のバランスが崩れて境界線が破れる・・・」
「・・・本当なの・・・?」

茫然とした様子のシロナがぼくに問いかける。それは何かの冗談でしょう、と。
ぼくはそれに首を振った。

「残念だけど、ある程度はアカギに確認できたから。大まかな所はこれであってるよ」
「大した情報屋だな・・・まったく」

デンジのあきれた声にぼくはありがとう、と笑う。
もっともあんまり笑っていられる状況じゃないけど。

「あ、あともう一つね。これは完全に予想だけど・・・」

注視されるぼくはちょいちょいと山積みにされた修理中の発電機を指差した。
くるりと動くみんなの視線。

「もしかして、ギンガ団にエネルギー盗られたりしてないよね?」


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2011.2.21  01:41:42    公開
2011.2.21  01:49:15    修正


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