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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

149.sideユウト×アヤ  八咫烏の情報[ドンカラス]

著 : 森羅

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sideアヤ

あたしが朝起きると、廊下にはものすごく不機嫌な顔をしたユウト。ご丁寧に腕組みまでして、部屋から出てきたあたしを一瞥。反面、足元の夜月とユウトの背もたれと化している紅蓮は妙に嬉しそうで、あたしににっかりと悪戯が成功した子供のように笑いかけていた。状況を見たスピカまでもが楽しそうに笑っている。

「・・・何やってんの?」
「見て分からんのか?」

ここでわからない、と答えても馬鹿にした答えしか返ってこないに決まってる。
なのであたしは言った。

「あたしを待ってたわけ?てか、何?多数決に負けたわけ?」

完全に嫌味。多数決のネタはトバリでもそうだったから多分そのはず。ユウトの不機嫌度がレッドゾーンに入っていくのが分かる。だけどユウトは首を振った。

「夜月の独裁政治になった。紅蓮という懐刀付きで」

ユウトのセリフに一瞬意識を失いかけるあたし。だけどなんとか立ち直って聞く。

「・・・・・・あんた、ポケモンより立場が下なわけ?」
「聞くな」

ユウトの声がどこか涙声に聞こえたのはあたしの気のせいだろうか。

sideユウト

潮風が鼻を突く。甲板の上で嬉しそうに駆け回っている夜月は良いとして問題はアヤと紅蓮とオレの財布だ。

《なぁなぁユウト!人間ってすっげーなー。なんで鉄の塊が浮くんだ?》
「・・・夜月。少し黙ってろ」

えー、と夜月はむくれてからまた船の探検へと戻った。オレは甲板に備え付けられたプラスチック製の椅子に座って頬杖を付いたまま動かない。隣ではアヤが完全にダウン、ついでに紅蓮も船は苦手らしくボールの中で大人しくしている。潮風で羽根が痛む緑羽は論外。

「・・・アヤ。お前、船酔いするなら最初から船に乗ろうと言うな」
「うっさ・・・いわねっ!・・・だって、最近流氷の影響で・・・あんまり、船が・・ない・・・からっ!この船で、トバ、リのすぐ近くまで・・・行けるから!!」
「あー。もういいからお前も黙ってろ」

隣でスピカが楽しそうに笑っているが何が楽しいんだか。オレはため息。
キッサキの港から出る船はこの時期流氷や氷の影響で不定期になるそうだが今日は偶然にも出航できた。オレの財布が一銭の金も無くすっからかんになった事は言うまでも無い。ルートはキッサキから時計回りに数箇所の小さな港で止まって最終目的地はナギサという町となる。オレたちが降りるのはちょうどトバリの真後ろ辺り。トバリ自体は山を切り開いた町なので実際は迂回が必要となるがあの雪山を越えるよりは速いだろう。

「・・・ぅ・・・うぅ・・・」

時折アヤのうめき声が聞こえる。オレとしては居心地の悪い事この上ない。
大して揺れていないこの船の上でどうしてそこまで酔うことが出来るのか、謎なんだが。
オレは斜め上に浮かぶスピカに尋ねる。

「・・・酔い止めみたいなもん、持ってないのか?どっかで貰えないのか?」
《アヤは持ってないわねぇ。どこかで・・・さぁ、もらえるのかしら?この船って別に長期滞在用の船じゃないし、するとしてもせいぜい一泊くらいだもの。でも、一応医務室ってあったからもらえるかもしれないわね》

ほう、そうか。なら行けば良いじゃないか。そうスピカに言いかけたオレが馬鹿だった。スピカはくすくすと楽しそうに笑う。オレは苦虫を噛み潰したような顔で聞いた。

「・・・オレに行けと?」
《聞いたのはユウト君よ?別に行けとは言ってないわ。でも、アタシが行っても薬はもらえないの。アタシはポケモンだもの。あぁ、アヤごめんなさいね・・・!》

最後の方をあさっての方向を向いて言ったスピカが最後にちらり、とオレに目をよこす。沈黙が流れる。アヤのうめき声だけが効果音だ。オレは息を吐き出した。

「・・・貰ってくれば良いんだろ、貰ってくれば」
《きゃー!ユウト君優(やっ)》

スピカが余計な事を口走る前にオレはスピカの首辺りを鷲掴みにする。きょとんとするのはスピカ。オレはそのままの状態で立ち上がった。

「まさかオレ一人に行かせようなんて考えてねぇよな?」

冗談紛れなのだろう、引きつった笑みでアヤの傍にいなきゃ、と逃れようとするスピカにオレは勝手ながらレグルスのボールに手をかけた。

side夜月(ブラッキー)

おぉ!すっげーなぁ!なんでこんなもんが海の上に浮かぶんだ!?鉄の塊なんだろ、これ!すっげー速いなぁ!水ポケモンとどっちが速いだろーなー?おぉ!?今ゆらゆらって揺れた!
はしゃぐ俺に周りの人間がかなり痛い視線をくれる。気にしてねーけど。
潮風が気持ちいい。なんで紅蓮があんなにぐったりしたのか俺にはまったくわからない。
あっちへこっちへと目をきょろきょろさせながら歩く俺は前方注意を忘れていた。
どんっ、と軽く誰かにぶつかり俺は少しだけ後ろによろめく。

「おっと!」
《おぉう!》

見上げると銀色の盆を持った動きづらそうな服を着た男が一人。ウエイターとか言う奴だ、多分。そして、その男も不思議そうに俺を見下ろして首をかしげた。

「ブラッキー?どうしてこんな・・・って誰かのポケモンか」

いや、『誰かの』ってわけじゃねーんだけどな。
だが俺の声が届くはずも無く、ウエイターは俺と目線を合わせるようにしゃがむ。

「どこから来たのかな?トレーナさん・・・ご主人は?」
《どこからって、あっちの・・・・・・》

言いかけてぎょっとした。ぐるり、とあたり一面を見渡してみる。
・・・・・・・・・まずい。非常にまずい。これは、まさしく『ここがどこだかわからない』だ。俺はいつの間に船内に入ったんだろう?嫌な汗が背中を流れていった。
固まってしまった俺にウエイターがため息を付く。

「わからないんだね?迷子か・・・」
《わからないわけじゃねーぞ!迷子じゃねーぞ!ちょーぉっと道に迷っただけだ!》

人はそれを迷子という。
ユウトならそう突っ込みそうだがここは俺が自分で突っ込んでおこう。
・・・あぁ、虚しいな。

その後、人間用の迷子の放送で俺はユウトを呼び出し(つか、ユウトが呼び出された)、ユウトに愛情の籠もった(怒りの籠もったとも言う)拳骨を食らう羽目になった。

・・・・・・痛ぇ・・・。

sideアヤ

朝起きて不機嫌だったのはユウトだった。
船酔いであたしの気分は最悪だった。
船の中で夜月を迎えに行く羽目になって恥ずかしい思いをしたのはユウトだった。
そして、今。

呆然とするあたしがいる。

「やっぱあんたポケモン決定」
「それはテンガン山でも聞いた」

テンガン山以外でもあたしはあんたに言ったわよ!!ポケモンもどき!
スピカがくすくすとあたしの隣で笑う。夜月ははしゃぎすぎたせいかユウトの肩の上で寝ていた。黒い羽があたしの目の前を横切る。ここは215番道路側のトバリのすぐ傍。
夕焼けを背に容赦なく羽が飛び散りまくるその場であたしはとりあえず聞いてみた。

「・・・何やってんの?ってか何なの一体?」
「トバリのスモモの所でお前は見たはずだろ?あのときのヤミカラスなんだが」

あれね、とトバリジムのベランダを思い出すあたし。
でも、このヤミカラスがあのときのヤミカラスかどうかなんてあたしに分かるはずもなくただユウトの言葉を待つだけ。ユウトはなんとなしに続ける。

「何かあったら助けてやるって言われてな。情報もらおうと思った。それだけだ」
《ユウト君、パイプ太ーい!》
「・・・・・・あんた、ヤミカラスに何やったの?」
「さぁな」

ユウトは首をひねっていた。ヤミカラスの一匹が木に止まってカァと鳴く。
その声にユウトは夕焼けの沈む方向、つまりトバリ方面に目を向けた。

「もうすぐか?」
「《もうすぐ?》」

ユウトの呟きにあたしとスピカは反復して疑問を表す。これ以上一体何が来るのよ?
眉間にしわを寄せるあたしにユウトは言葉を続けた。

「あの大きいヤミカラスが来るはずなんだが」
「ドンカラスのこと?」
「・・・多分。そのドンカラスだ、助けてやるって言ってくれたのは」

はぁ?とあたしは首を傾げるしかない。
ユウト、あんた・・・本当に何やったのよ?
釈然としないままトバリ方面に目を向けるとそこから一匹の烏が降下してきた。

sideユウト

「八咫(やた)」
《旦那アァ!》

羽根をばたつかせてドンカラス、もとい八咫は喜びを表した。
熱烈歓迎は嬉しいが・・・オレは一体お前に何をした?いまいち覚えが無いんだが。
とりあえず右腕を差し出すと八咫は素直にそこに羽根を休める。
落ち着いたところではじめに口を出すのはアヤ。

「『やた』?あんた、『名前付けた』の?」
「いいや。違う。元々『八咫』だとさ」
《アヤ、群れているポケモンだからどうしても識別がいるのよ》

多分、八咫烏の『八咫』なのだろう。
群れているもんで、仕方ネェや、と言っていたのを確か聞いた。

《旦那、お変わりネェですかい?》
「あぁ、相変わらず。お前も元気そうだな・・・」
《もちろんでさあ!・・・お、あんときのお連れさんで?》
「・・・え?な、何?」

話題が自分に回ってきた事に気が付いたのだろう、アヤがうろたえる。スピカが笑いながら通訳をしていた。それからやっと八咫の顔をまっすぐ見ながら軽く会釈をする。

「あたしはアヤって言うの。よろしく・・・。別にユウトのおまけじゃないから」

八咫はアヤの事をおまけとは言っていないんだが・・・。スピカが超訳したのだろう。
正しくは無いが間違っているわけではない。
オレに視線を戻した八咫はにやりと笑った。

《別嬪さんじゃネェかい、旦那》
「いや、寧ろ疫病神」

オレは迅速かつ的確にその誤りを訂正する。アヤの視線が背中に当たるがこの説明が間違いというのなら訂正してみろ、だ。覆すつもりは無いぞ。その光景に八咫が不思議そうに首を傾げた。

《ま・・・。そいつぁ置いといて、本題だ。どうしたんですかい、旦那》
「教えて欲しい事があるんだが」

八咫がその他と比べれば大きい翼を広げ、先程とは別の種類の意味深な笑みを見せる。
ずり落ちそうになった熟睡中の夜月にオレはバランスをとった。

《なーる。そういうことですかい。街の事ならあっしらにお任せあれってんだ》
「助かる。・・・教えて欲しいのはトバリのギンガ団のアジトで監視カメラ類がなくて侵入できる場所。あと最新の話があるなら教えて欲しい」
《あぁ、そいつですかい。それなら・・・》

話し始める八咫に後ろのアヤが静かになる。オレはそろそろ腕が重たくなってきたせいでそれどころではない。アヤがしっかり覚えていなくてもスピカが聞いているだろうとここは他人任せにしておく。話が終わってやっと一息。八咫はオレの腕から離れて手短な木の上に留まった。

「さんきゅ、助かった」
《お安い御用でっさあ》
「あんた、やる気満々?」

礼を言いながら感覚の無くなった腕をぶらぶらさせているとアヤのあきれたような声が声が後ろから聞こえる。
・・・オレが?なにゆえ?オレは効率を求めただけだ。
げんなりした声で、それでもアヤにオレは言う。

「・・・張り切って暴走するのがお前の仕事だろ?」

すっこーん、とシリウスのボールがオレの脳天に激突した。












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2011.2.18  02:20:34    公開
2011.2.19  21:46:28    修正


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