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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

145.sideケイヤ 舞姫[マイヒメ]

著 : 森羅

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驚きと当惑を含んだ顔にぼくはにっこりと笑いかける。燐の頭をふわふわと撫でながら。
スズナが驚いたような声を上げた。

「キミ、いつの間に・・・!」
「いきなり湖に突き落とすなんてひどいなぁ、ジュピター。凍死するじゃん。
あ、やっほー、スズナ。『久しぶり』だね」
「・・・?」

ジュピターがぼくの言葉に舌打ちするのをよそに、ぼくは笑顔でぶんぶんとスズナに手を振る。だけどスズナの当惑顔は相変わらず。燐にたしなめられてもぼくにはその顔が面白くて仕方がない。

《悪戯好きやなぁ、ケイヤちゃん》

ため息をつきながら、でもどこか面白がっている声の透(ゆき)にぼくは笑った。
今度はジュピターが苦渋の表情をふわりと和らげて優雅に笑みを浮かべる。

「“かげぶんしん”か“みがわり”・・・かしら?」
「さぁ、どっちかなぁ?・・・どっちでもないかもしれないよ?」

ぼくもその笑みにへにゃりと笑った。
2人とも笑顔だけどどちらも気を抜いてるわけじゃない。

「失礼。ワタクシはジュピター。幹部の一人ですわ」
「丁寧にありがとう。ぼくはケイヤ。この子たちは燐と透」

ぼくの紹介に燐と透が前へと進み出る。それに対してジュピターは表情を全く変えずにボールを2つ放射状に放り投げた。出てくるポケモンは、スカタンクとドーミラー。燐がいる状況で出してきたなら特性は『耐熱』かな?その子しか居ないって答えもありだけど。

「キミッ!?」
「スズナー。下っ端はよろしくね。それからユクシー、連れて行かれないように頑張って。あれだったら下っ端は無視してもいいし」
「キミ、どうしてユクシーのこと・・・ッ!」

ぼくはスズナの慌てたような声にへらりと笑って湖を指差す。ユキノオーの『雪降らし』で降る雪が水に触れて解け消えた。水が細波立つ。浮かび上がってくるのはユクシーの居る洞窟、そのもの。ジュピターも驚いた様子で湖に釘付けになっていた。スズナが圧倒されたように呟く。

「氷、解けてる・・・気が付かなかった・・・」
「『ぼく』が落ちたんだから、当然解けてるよ。本当は氷張ってるの?溶かしたのは、そのスカタンク?それともユクシー自身かな?」
「ワタクシは何もしていませんわ」

ジュピターの言葉にぼくはそっかー、と答えた。なら氷はユクシー自身が洞窟を引き上げるために自分で溶かしたんだろう。沸いて出てきたようなギンガ団の下っ端がそこ目掛けて飛行タイプのポケモンで飛ぶ。ぼくは叫んだ。

「スズナ、行って!」
「ッ、当然ッ!!」

スズナは答えるやいなや相手をしていた下っ端たちに軽い当て身を食らわせてユキノオーの“れいとうビーム”で橋を作りながらそこを駆け抜けていく。・・・滑らないように気をつけてね。ぼくはそれを見送ってからくるり、とジュピターに振り返った。
そして、微笑む。

「さぁ、ゲームをはじめようよ」

sideユウト

《ユウト・・・!》
「どうした、夜月」

突然、肩の上の夜月が頭を持ち上げる。多分、もうすぐエイチ湖に着くはずなんだが。
今日の天候は晴れ、つか実際はユキカブリというポケモンに交渉して退いてもらっただけだ。

《焦げ臭い。誰かが戦ってるぞ、これ。炎タイプ》
「・・・ポケモンじゃないのか?」
《違ぇーよ。ここらには炎タイプなんていねーもん。エイチ湖じゃね?》

ふむ、とオレは頷いた。そして振り返る。
後ろには必死で付いてきているアヤの姿。雪が降っていない分ましだろうが。

「アヤ・・・お前、大丈夫か?」
「大丈夫よっ!てかこんなこと出来るなら早くしなさいよ!!このポケモンもどき!」
「誰がポケモンだ、誰が」

アヤの言う『こんなこと』とは天候のことだろう。だが、交渉決裂したら何が起こるか知ってから言って欲しい。袋叩きも良いところなんだぞ。成功率は決して低くは無いんだが。
まぁ、それはいい。オレはアヤが追いついた時点で聞いた。

「アヤ、聞き損ねていたが・・・。夜月は炎タイプが戦ってると言ってる。心当たりは?」
「・・・ある・・・!ケイヤのポケモン、キュウコンだった」

キュウコンってどんなポケモンだったかと思い出そうとしてある単語が引っ掛かる。
オレは聞きなおした。

「ケイヤ・・・ってさっき言ったか?」
「言ったわよ、エイチ湖に行ってくれたのはケイヤ。ヤクシジケイヤよ。・・・どうかしたの?」
「・・・いや・・・」

薬師寺慧哉、だと?
どうしてその名前が出てくるんだ?
オレは考え込んでしまう。夜月とアヤが不思議に思ったのか聞いてきた。

「え、何。あんた知ってるの?」
《ユウト、知ってるのか?》
「・・・わからん。だが、『居ない』はずなんだ」
「《はぁ・・・?》」
「その『ケイヤ』がオレの知ってる『ケイヤ』ならだが」

2人の声にオレはあいまいな顔をするしかない。

「オレ側の世界の人間なんだよ、オレの知ってる『ヤクシジケイヤ』は」

急いだ方が良さそうだ、とだけ言ってオレはまた歩き始める。アヤが慌てて動こうとして雪に足をとられ頭から突っ込んだ。だが、オレはそんなことは気にも留めない。
『管理者』の言葉が頭の中に反芻する。

『エイチ湖に行ってくれない?』

・・・何が起こってるんだ・・・?

sideケイヤ

「一対一ずつでやろーか。燐、お願い」
《はい》
「ならこちらはスカタンクですわね」

燐とスカタンクがにらみ合う。ぼくとジュピターの声はどちらが早かっただろうか。

「燐、“かえんほうしゃ”!」
「スカタンク、“かえんほうしゃ”」

刹那、燐とスカタンクが同時に火の粉を散らす。炎タイプの燐に分があるけど天候は雪。燐にとってはあんまりありがたくはない。・・・なら!ぼくはすぐさま作戦を変えた。

「燐、やめてそのまま突っ込んで!“でんこうせっか”!」
「スカタンクっ!」

燐は“かえんほうしゃ”をやめてそのままスカタンクの炎の中に突っ込んでいく。燐の特性は『もらい火』。わざわざ特攻を上げなくても炎タイプの技の威力を上げれる。炎に全くひるむ事無い燐はそのままスカタンクに突撃した。2匹の体がぶつかり合ってスカタンクはよろめき、燐はとんぼ返りにぼくの方へ後退する。

「燐、ナーイス」
《・・・はい》

燐の返事が遅い。ピンと来たぼくは声を掛ける。

「燐、さっき“どくどく”された?」
《・・・はい。すみません》
「謝る事じゃないよ。早めに終わらせよう」

さっき燐と接触した瞬間だろう。・・・うーん、“しんぴのまもり”しておけば良かったなぁ。
ぼくはぺろっ、と舌を出した。

「やな戦い方っ。ぼくも人のこと言えないけどね」
「それが戦いでしょう?勝つことが全て、ですわ」

ジュピターは余裕の表情だ。『ぼく』のこと突き落としてくれたしね、とぼくは肩をすくめた。そうくるなら、ぼくだってそういう戦い方をさせてもらう。と言うより実際ぼくはそっちの方が得意だ。

「勝っても何も得られない時だってあるんだよ。燐、“わるだくみ”、“おにび”!」
「スカタンク“いやなおと”から“つじぎり”!」

燐の“おにび”が放たれた瞬間に金属音のような耳障りな音が空気を擦る。燐が身をすくませ、その間を縫うようにスカタンクが“つじぎり”を燐に叩き込む。でも燐の“おにび”も当然のようにスカタンクの体を焼いた。ジュピターがくすりと笑う。ぼくははっとした。

「スカタンク、“からげんき”」
「まずっ、燐“かげぶんしん”で避けて!!」

間一髪、燐の残像をスカタンクは通り抜けていった。燐の代わりに攻撃を受けた地面は雪をえぐって地表さえもクレーターのようにへこむ。ぞぉ、と冷たいものがぼくの背中を通った。

「スカタンク、“あまごい”そして戻ってきなさい」
「戻すんだ?」

ぼくはへらりと笑う。だけどジュピターも余裕の笑みが崩れないまま。スカタンクの“あまごい”の影響で雪だったものが雨へと変わっていった。燐がつらそうに顔をゆがめる。

「燐―――!」
《大丈夫、です・・・信じていてくださいね?》

よろめきかけてぐぃ、と燐は踏ん張った。ぼくはそれにわけも分からず頷く。でも燐は頑張るって言ってくれてるんだ、だからぼくはそれに応えなきゃならない。ぼくはせせら笑うジュピターを見上げた。

「あらあら辛そうね。終わらせてあげますわ。ドーミラー“いわなだれ”」
「燐、“あなをほる”っ」

燐の方が速いお陰で“いわなだれ”をさけることは出来た。でも次に何が来るかぼくにはわかってしまう。次に来るのは、間違いなく。

「お仕舞にしましょう。“じしん”」
「燐―――――!?うわああぁ!」

ドーミラーがどうやって地震を起こしているのかと思ったら念力でおこしていた。技の“ねんりき”じゃなくて念動力でそのまま地面に働きかけているような感じ。ぼくもしっかり“じしん”の影響下にあったから確かじゃないけど。透が慌てたようにぼくの服にしがみついてくる。でもぼくは燐の事で頭がいっぱいで揺れている時間が永遠のように感じてしまう。

「燐!燐!燐!!」
「おしまいですわ。次はそのグレイシアかしら?」
「燐!燐!?」

いつの間にか地震が収まっていたけどそんなことはぼくにとってはどうでもいい。
燐は?燐は!?
崩れ落ちそうになるのをとどめる。ぼくは『つぶれちゃいけない』んだ。燐を殺してしまったと言うのならぼくはそれにつぶれちゃいけない。そんな資格はない。それに。
ぼくは呟くように言う。

「燐、信じてるよ」

もこり、とドーミラーの真後ろで土が盛り上がった。ぼくはそれに目を見開く。

「燐!」
「っどうしてっ!?ドーミラー!」
《呼びましたか?ケイ》
「燐っ・・・いっけぇええっ!!」

ぼくは思わず笑っていた。そのまま右拳を前へと突き出す。
燐が飛び出し、ドーミラーを撃墜。・・・やっぱり『耐熱』のドーミラー。
飛び上がる燐は雨のしぶきを飛ばして、その毛並みはやっぱり見とれてしまう。
すたり、と大地に足をつけた燐はこちらを振り向いて微笑(わら)った。

《ケイ、数秒息をしないで下さいね》
「《え?》」

ぼくとぼくの腕にしがみついていた透が同時に声を上げる。でも燐はそれに答えることなくすぅ、と息を吸い込んだかと思うと次の瞬間、炎を吐き出した。

ただし、その炎はどこか『白い』。

ぼくの鼻がニンニクのような匂いを捕らえる。その瞬間、この炎と燐の言葉の意味を理解して急いで自分と透の口をふさいだ。でもその炎は綺麗と言う表現を通り超えてすでに美しい。淡い黄色のような白い火の粉がまるで花びらのように燐の周りに舞う。ぼくは素直に見とれていた。燐とその炎は夢の一場面のようだったから。もっともそれは命を賭ける戦いでの美しさだ。事実、ドーミラーはこの火に焼かれて倒れこむ。と言うより鋼タイプでよかったね、とせめて心の中で言わせてもらおう。向こうでジュピターもこの炎の意味を理解したのか服で口をふさいだ。でもそれよりも先に燐はその炎を止め、夢が現実へと巻き戻る。

《わたしたちの勝ちですね》
「・・・ぷわぁっ!燐、インターバルが短すぎだよっ!!」

燐はこちらを振り返ってふわりと笑った。毒が回っているらしく決して楽そうではない。

「“まもる”で守ったと言うことかしら・・・?そしてさっきの炎、あれは『白燐』ということ?」
《えぇ、そうですよ。まず間違いなく誘っていると思いましたから》
「そうだよ、白燐。猛毒の炎・・・『燐』の名前の意味だよ」

ぼくは燐の代わりに続きの言葉を言った。燐の名前は本質を表すって前に燐が言っていたことを思い出す。そう、燐の本物の炎は赤ではなく黄色いような『白色』。
ジュピターの少しだけ歪んだ顔に燐は微笑んでぼくの元へと帰って来る。
雨が燐の体力を余計に奪っているんだろう、そっと撫でた毛並みはがくがくと震えていた。

「燐、ありがとう。戻って!行くよっ、透(ゆき)!」
《よっしゃあ!!燐の姐さんは休んどきぃ。後はうちがやったる!》

ピンッ、と透は燐の倒れこんだ場所の真上に透明な氷の屋根を作り出す。これなら燐はこれ以上濡れないで済むんだけど・・・透って器用だなぁ・・・。空気中の水分を固めてるんだろうか。

「では、スカタンク、行きなさい」
「燐がHP削ってくれてる。決めるよ、透!」
《燐の姐さんに全部ええとこ持って行かれてしまうからなぁ。うちもちょっとだけえぇとこ見せたるわ。ケイヤちゃん、よう見ときぃや》

燐とは違う意味でにっかりと透が笑う。・・・何するつもりだろ・・・。
透は空を仰いで笑っていた。雨がまだ降り続いていて雲がこのフィールド上のみを覆っている。

「スカタンク、“シャドークロー”!」
《無駄やで》

キイィィン、と氷の盾がスカタンクの倍に膨らんだ黒い爪を受け止めた。
・・・嘘だぁ・・・。もう腰をすえて見ているしかない。
透はスカタンクの方を向いたままで呟くように話す。

《うちはな、体内で氷を作られへんねん。“れいとうビーム”とか出来へんねん。その分、こうやって空気中の水分固めて氷技に代用しとるんやけどな。・・・いや、めっちゃ練習したんやで?体内で作られへん分を補わなあかんかったから。でも、せやから》

ぼくは透の言葉ではなく行動に釘付けになる。スカタンクの真上で雨粒が、氷の針へと変わる。そしてそれはそのまま雨の中を舞うように重力に従ってスカタンクの体を貫いた。

《こういう使い方は得意やねん》

どさり、とスカタンクが倒れた。・・・瞬殺かぁ・・そうかぁ、瞬殺かぁ・・・。
少しぼくはおかしくなったかもしれない。というより燐も唖然とした顔をしてるし。
驚愕の顔をしているのはぼくらだけではなくジュピターもだった。スカタンクをボールに戻す。

「・・・そんな規格外のポケモンばかり、よく持っていることね」
《規格外とはなんやねん!規格外とは!汗と涙と努力の結晶と言えや!!》
「透。すごいよ・・・本当に、すごい・・・っ!!」

ぼくは憤慨する透をそのまま抱き上げ抱きしめる。
なんや役得やな、と透は素直に抱かれてくれていた。

「でも、最後に勝つのはワタクシですわ。ユクシーはワタクシ達の方が速かったようですし」
「スズナっ!?」

ぼくは慌てて湖の方へと視線をよこす。洞窟の入り口でスズナの手が空をつかむ。一瞬前、そこにあったその存在は当然のように“テレポート”によって掻き消えた。
黒い、箱のようなものに入った、ユクシーを見た気が、した。
ぼくは理性をぶっとばして叫ぶ。透を抱きしめたまま。

「ユクシー返してっ!!!返すんだっ!!あれは、『赤い鎖』は、アカギには制御出来ないんだよっ!!時空をひずませちゃ駄目だ!!世界が、世界が壊れてしまうっ!」
《ケイヤちゃん!?》
「それこそが、望みなの。アカギ様の。そしてワタクシ達の」

ゴルバットを出したジュピターは最初と同じように優雅に笑う。それは作り物のような笑顔だった。ぼくは嘆願するように声を枯らした。

「違う!違うんだ!!違うよっ!!アカギに時空の制御は出来ないんだ!!アカギは感情を履き替えてるだけなんだ!!だから、だから――――!」
「ごきげんよう。どう叫んでも所詮、負け犬の遠吠えですわ」
「違うよ――――っ!」

笑い声はゴルバットの羽音に消される。ぼくの言葉は無力だった。
雨が止んで空が晴れても、目の前にジュピターは居ない。いるのはスズナに当て身を当てられて伸びたギンガ団だけ。これは後で『ぼく』が追い払うだろう。と。ぽん、と後ろから肩を叩かれた。ぼくは振り返ってなんとか笑う。

「・・・スズナ・・・」
「ごめんッ、任されたのにッ。キミはちゃんと自分の役割を果たしてくれたのに・・・ッ!」
「ううん。これは、ある意味決まってたかもしれないんだ・・・。運命があるなら、ね」
「どういうこと・・・って、まずキミのキュウコンひどい傷じゃんッ!!ほら、毒消しと傷薬ならあるから使いなよッ!」
「ありがとうっ!!・・・スズナ優しいね」
「・・・うっ・・・。ど、どういたしましてッ!」

どうしてか赤くなるスズナに燐が仕方がないですね、と笑う。ぼくの腕の中で透もため息をついたようだった。その理由はわからなかったけどとりあえずぼくは燐に毒消しと傷薬を使った。

「あ、私、知らせてこなきゃッ!!連絡入れなきゃ、連絡・・・ッ!キミ、なんだかせわしなかったけど手伝ってくれてありがとッ!!結果的には助かったよッ!!」
「ううん、こっちこそ。じゃあね」

ぼくはくるくると慌ただしいスズナに手を振る。スズナも笑顔で腕ごと手を振りながら駆け出した。スズナの姿が見えなくなってからぼくは燐に聞く。

「燐、大丈夫・・・?」
《えぇ、もう大丈夫です》
「本当にほんと?」
《本当に本当です》

ぼくはすたり、と立ち上がった燐をよかったーと抱きしめた。燐の顔が真っ赤に染まる。
あ、ごめん・・・こうやっちゃうんだよ、ついつい・・・。
ぼくは燐を離して、透を手招きした。

「行こうか、そこそろ時間切れ(タイムリミット)のはずだから。時間が交差する時間だよ、きっと。『ぼく』と凪が出てくる」
《せや!そのことちょっとちゃんと教えてぇな!!何の話しよるん?》

ぱっ、と花が咲くみたいに楽しげな声を上げる透にぼくは笑いながら頭を撫でる。

「つまりさ」

景色が早送りのようにぐちゃぐちゃになった。世界がぼくらを追い出す。ざばり、と水が上がるような音を聞いた気がした。ぼくは『ぼく』に笑いかけるけど、それは見えなかっただろう。だけど、その早送りのようなぐちゃぐちゃの世界は幻だったんじゃないかと思うくらい一瞬だけ。気が付けば同じ光景が目の前にあった。ただし、目の前に凪がいるんだけど。ぼくは笑いかける。

「こういうことだよ、透。それから久しぶり、凪」
《え・・・と、先程、目の前で貴方が消失いたしましたが、一体・・・?》
「うん、過去の『ぼく』だよ、それは」
《え・・・と、一体何が起こってん。何が。突っ込む所やんな、これ?》
「そうだねー。細かい話をしたいんだけど、と言うよりしなきゃ駄目だよね。うん、するよ」

ぼくがどこから話そうかな、と考えていると雪を踏む音が再び聞こえた。
燐と透がはっとして構えて、凪はそのまま様子を伺う。
入り口から入ってくるのは黒髪のショートカットの女の子。肩の辺りにムウマが飛んでいる。その子はぼくを見つけるや否や声を上げた。ぼくもその姿を見つけて笑いかける。

「ケイヤ!!」
「やっほー、アヤちゃん。久しぶりだねー。シンジ湖とリッシ湖はどうだった・・・?」
「ごめん、無理だった。救えなかった。ごめん・・・・っ!」

ぼくはその泣き出しそうな謝罪の声に首を振った。だってぼくもエイチ湖死守できなかったし。とりあえずぼくはアヤちゃんのところへ行こうとして後ろから腕で首元を羽交いじめにされる。

「うわああぁ!?」
《ケイ!》
《ケイヤちゃん!》
《ケイヤ!》

3匹から三者三様の声が上がる。アヤちゃんは驚いたようにびっくり目をしているだけ。後ろからため息とブラッキーらしき鳴き声が聞こえた。パニックに陥る寸前でぼくは後ろの人物の声を聞く。

「・・・何でお前がここに居るのか、まずそこから説明してもらおうか。ケイ?」

・・・え?この声はさ・・・?
ぼくはおそるおそる後ろを振り返りながらその人物の顔を見上げる。
黒いはずの髪はどこか赤い。目もどこか同じように黒いような赤いようなそんな色。肩の上にはブラッキーが上手にバランスをとっている。
でも、でもさ。

「・・・ゆーと・・・」

見間違えるはず、ないじゃん?

side???

知識の神は黄色い神。

君の『知識』は一体どれほどの価値を持つのだろう?
この大きな世界で、一体どれほどの意味を持つのだろう?

一体どれほどの力があるのだろう。

決して小さくは無いはず。
決して大きいものではないだろうけど。

だけど、君がこれから前へ進むと言うのなら。

暗闇を照らす『知識』の明かりは決して無意味ではないだろう。



























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2011.1.26  18:48:01    公開
2011.1.26  23:38:47    修正


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