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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

142.sideユウト×アヤ 乙女座の憂鬱[スピカ]

著 : 森羅

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sideアヤ

最悪最低最悪最低最悪サイテーー!!!

半泣きのあたしはベッドの上で素足をストーブに向けてばたつかせる。ストーブの上にはやかんが蒸気を上げてて、そのさらに上、壁から壁へかかった紐には濡れた上着なんかが掛けてある。スピカは楽しそうにあたしの傍で笑ってるし、紅蓮、夜月にいたってはストーブの下に敷かれた絨毯の上で寝そべっていた。そして、全ての原因のユウトは完全無視であっちへこっちへとうろうろしている。あたしはその様子がいい加減うざったくなったので聞いた。

「・・・・・・何してんのよ・・・」
「座ってたらなんでも出てくると思うなよ、この方向音痴」
「今何てっ!?」

あたしは思いっきりユウトを睨みつける。顔の左半分が真っ白になっているユウトはあたしにひるみもせずにむしろ小馬鹿にしたように鼻で笑ってあたしを無視した。
・・・・・・ムカつき度数がメーターを振り切れる。あたしはまくし立てた。

「大体誰のせいだと思ってんのよっ!?」
「まず間違いなくお前自身のせい」
「あんたのせいでしょ!あんたの!!」
「迷子になって、崖から転落して、捻挫して、怖い夢を見たからと泣いてしがみ付いてきたのも全部お前のせい。殴られたオレのどこに非があるんだ?」

言い返せないあたしはうー、とユウトを睨むだけ。
浮かんで笑っていたスピカがはた、と気がついたように笑った。

《ユウトくんとアヤお揃(そろ)っ》
「スピカ!!怒るわよっ!?」
「お断りだな」
「・・・大ッ嫌い!!」
「お前に好かれたいと思ってないから安心しろ」

何その言い方!?あんまりでしょっ!!!
クスクスとスピカが笑うその横であたしは再び家捜しを始めたユウトを睨みつける。
スピカはきっとあたしの足首に貼られた湿布とユウトの湿布を見て言ったんだろうけど、そんなこと言われて黙ってられない。はっきり言ってさらに腹が立つだけよっ!!

「最悪最低!」
「そう言ってりゃ良いんだから楽だよな」

あたしの叫びに簡易キッチンの辺りからユウトの声だけが響いた。

sideユウト

・・・ろくな物がねぇし・・・。
台所の食品庫を漁りながらため息をつく。つくづく悪い事と言うのは続くらしい。
台所を漁っても保存食が少しある程度。まぁ、何も無いよりはましだが。2階もないこのワンルーム台所付きの小屋には誰も居なかったのだから当然と言えば当然かもしれない。だが小屋の構造からしてまず泊まるということを考慮に入れていないだろ、これ。ベッドはアヤが占領しているただ一つ。残りは寝袋が3つほど。ちなみにストーブの前まで移動させたのはオレと紅蓮。軽く泣きそうだ。オレは台所から顔を出した。

「・・・アヤ」
「何よっ!!話し掛けないで!近寄ったら殴るわよっ!」

誰が好き好んで?
オレはアヤの抗議を無視してさっさと業務連絡に移る。

「自分の分くらいは食料あるな?」
「・・・・・・多分」

なぜそんな微妙な答えが返ってくるんだ?その鞄の中身は空か?
訝るオレはその場で動かずに成り行きを見守る。アヤは手で鞄を手繰り寄せ中身をそのままベッドの上にひっくり返した。
・・・つい言葉が漏れたらしい。
オレの視線に気がついたアヤは鞄をひっくり返したままでこちらを睨んでくる。

「何?プライバシーの侵害よ」

遠目だからかと思って近づいて見るがやはり閉口してしまうようなものばかり出てきたぞ、おい。何だ、この『シンオウ地方の町特産品』のガイドブックは。要らねぇだろ、間違いなく。

「・・・なぁ、アヤ」
「何よ。近づくなって言ったでしょ」

オレは無言で特産品ガイドブックを手にとって丸めた。そしてその丸めたものを不思議そうに眺めていたアヤの頭部に叩き込む。

「いったぁ!!」
「燃やしていいか、これ」
《まぁ、それは燃やしてもいいかもしれないわねぇー》

悲鳴を上げて頭を押さえるアヤをオレは見下ろす。シリウスとレグルスの入ったボールがガタガタと揺れたが気にしてられるか。アヤは完全に荷物決定、この疫病神2号が。

《ユウトぉ〜、腹減った》
「夜月、黙ってろ」

見計らっていたかのような夜月の声にオレは丸めたガイドブックを握り締めた。めきょ、という音にアヤが声を上げる。

「あぁ!!何すんのよ!あたしの!」
《ユウトー。俺が餓死するー》
《あらあら、ユウトくん可哀想ー》

全員の声がどこか遠くで聞こえた。
ぐしゃり、と本が手の中でつぶれる。

「・・・良いから、全員さっさと寝ちまえ・・・っ」

オレの声に約一名、アヤの悲鳴を除いて全員が静かになった。

オレは保育士じゃねぇんだぞ、この不良園児どもが。

sideスピカ(ムウマ)

ぱきん、と言う薪の爆ぜるような音で目が覚めた。
ベッドの中、目の前にはアヤの寝顔。
アタシはなんとなく音のした方向、つまりストーブの方を向く。

「スピカか」
《ユウト君。起きてたの?》

するりとアヤの腕の中をすり抜けてストーブの傍に近づいた。紅蓮君と夜月君がユウト君を囲むように伏せて寝ている。
驚いた。まさか起きてたなんて。でもアタシはよくよく様子を見てからその認識が間違っていたときが付く。起きていたのではなく、起きたのね。寝袋の蓑から半分だけ出たような様子のユウト君の顔は少し虚ろ。それはさっきまで寝ていたと言う証明。やっぱりというかユウト君は首を振る。

「違う、今起きた。・・・時々見ないと火が消える」
《あ、そうね・・・》

火が消えたらアタシたちは明日の朝そろって凍死体になってしまう。そこまで頭が回らずに熟睡するアヤと頭の回ったユウト君とを交互に見てからアタシは愛想笑いを漏らした。

《ごめんなさいね。アヤ、そこまで頭が回らなかったみたい》
「お前が謝ることじゃねぇだろ?」

無愛想ねぇ、とアタシは笑うけれどユウト君は薪にナイフでささくれを入れているだけ。
アタシは聞いた。

《燃えやすくなるように?》
「気休めだがな」
《ちゃんと寝てる?》
「休み休み。・・・いつもこんなんだから気にすんな」

いつもって、アヤとはすごい違いね・・・。アヤはいつもポケモンセンター使うから、野宿なんてほとんどしていない。だからこそリュックの中が余計なものだらけになってしまう。まぁ、男の子と女の子の違いもあるんでしょうけど。

《ごめんなさいね・・・アヤって結局はお姫様なのよ》

アタシがアヤの寝顔を眺めながら言うとユウト君は渋い顔をする。
ささくれまみれの薪がストーブの中に放り込まれた。ユウト君からため息が漏れる。

「とんだ箱入り娘だな」
《全くね》

アタシの即答にユウト君が訝るような目をアタシによこした。
アタシはそれに微笑みで返す。

《わかってるわ。アヤがどれくらい世間知らずかって。井の中の蛙かって。
それでもやっぱり願っちゃうのよ》

アタシはクスクスと笑う。自分のことなのにまるで他人事みたい。

あまりにも愛しくて。ガラス細工のように触ったら壊れてしまいそうで。
きっと自分で気づけるって、そう信じてしまうのよ。アヤは強くてまぶしいから。
実際、少しずつ変わってきているもの。少しずつわかってきているもの。
アタシが何かではなく、他人任せではあるのだけれど。

《そうそう。シリウスのこと、ありがとう》
「・・・何がだ?」

心底不思議そうなユウト君の顔にアタシはつい目を見開いた。
薪をナイフで切込みを入れる音だけが聞こえる。

《シリウスが何か吹っ切れたようだから。何かしてくれたんじゃなかったの?》
「・・・何もしてないと思うんだが・・・」

首を傾けて考え込んでいるようなユウト君はふと思い出したように言った。

「あぁ、少し話したな。愚痴を聞いた。ロクな話じゃなかったが」
《それで何か言ってあげたんじゃないの?》
「覚えが無いな」

平然と答えるユウト君にアタシはナチュラルなため息をつく。
本気の顔で言うからどう言えばいいのか困ってしまうのよ、ほんと。

《シリウスは何か吹っ切れたようなの。アタシが越えられないものを越えたわ》
「越えられないもの?」

えぇとアタシは頷く。ユウト君は黙ってさらに薪を足した。
パチパチと燃える火がアタシを魅せる。

《アタシもシリウスもついアヤを甘やかしてしまうから》
「あぁ、それは思った。脆い事を分かっているのにそれを無視しているんだなと。なぜかは知らんが」

よく見てるわねぇ、本当に。アタシは苦笑するしかない。
全く。隠し事なんてユウト君には通じないんじゃないかしら?

《そうねぇ・・・愛しいから壊れて欲しくないと思ってしまうの。ガラス細工を扱うみたいに丁寧に護ってあげないと壊れて永遠に失ってしまうんじゃないかって思ってしまうの》

それが怖くてアタシたちは危険を見知らぬ振りをしていた。
それはそれは必死に。はりぼてのようになっても歯止めをきかせられなくて。
結局壊れてしまう一歩手前になってもそれでもまだアヤを止められなくて。
誰かに止めてもらおうと、汚れ(きらわれる)役を買ってもらおうと、待っていただけ。

「・・・それで『姫様』かよ、まったく。それなら箱に素直に入ってりゃいいのに」

ユウト君がアタシの答えに額に手を当ててがっくりとうなだれた。
真っ白の湿布が炎の赤に良く映える。アタシはふわふわと空中で体を揺らした。

《ごめんなさいね、あれはもう性分だわ》
「周りを巻き込むなと言ってくれ」
《主な被害者は一応ユウト君だけだから大丈夫でしょ?》
「・・・・・・どこが?」

げっそりとしたようなユウト君の顔がアタシを見てくる。アタシはそれが面白くて笑った。
確かに切実かもしれないわね、その顔とか。
アタシはそうだった、と話を戻した。

《シリウスはアヤを許さないって言ったわ》
「そうなのか?」

少しだけ驚いたのか目が大きくなるユウト君。
そう、それはアタシにとっても驚きだったの。だってシリウスはアヤの事が大好きだから。
アヤがごめんなさいって言えばそれですぐに済むと思っていたの。

《何か言ってあげたんでしょ?》
「・・・お前だったらどうするのかと聞かれたからオレがシリウスなら許さないとは言ったが。オレの答えが全てじゃないとも言ったぞ」
《アヤも自分も許さないって》
「あぁ、・・・オレもそう答えた」

再びうなだれるように下を向くユウト君。あらあら、シリウスったらパクったの?
くすくすとアタシはユウト君のすぐ傍にまで寄って浮かぶ。

《衝撃だったんでしょうね、その答えが。シリウスにとっては》
「オレの答えが全てじゃないと言ったぞ・・・」

あら、ちょっと壊れたのかしら?ユウト君。もしかして恥ずかしいとか、かしら?
アタシはユウト君の顔を覗き込もうとするけれどユウト君の手によってそれは阻まれた。

「・・・んで?」
《え?》

やっと顔を上げたユウト君が乾いた笑みを漏らしながら聞いてくる。

「それでシリウスは納得してるのか?」

えぇ、えぇそれは。
アタシは胸を張る。

《えぇ。納得しているみたいよ。穏やかだったから》
「ほぅ。・・・それで納得してるなら良いんだが」
《だから言ったでしょ?シリウスは越えちゃったのよ。アタシが越えられないものを》

アタシは前に言った言葉を繰り返す。
シリウスが羨ましいわ。そしてまぶしい。

《アタシなら許しちゃうもの》
「それはそれで間違ってないと思うが」
《・・・そうかしら?甘くない?》

ユウト君の即答にアタシは少し驚きながらも聞き返した。
アタシはユウト君なら間違いだって言うと思ったから。
けれどもユウト君はきょととした顔をする。

「それはオレが決める事じゃねぇだろ。間違ってるって言って欲しいのか?
言うのは簡単だ。だが、オレはその言葉に責任を持てない」
《責任?》
「お前に正しい答えはこれだって言えない。なのに間違ってるとだけは言うのか?それは卑怯だろ」

当然のように平然とそう言うユウト君のセリフをアタシはただただ吃驚して聞いていた。そしてゆっくりその言葉を消化してから唐突に笑い出す。おかしくて。

《くすくすくす・・・。そうね、その通りだわ。ユウト君に言われるとそれが当然だと納得してしまうのだから不思議よねぇ》
「まぁ、過保護すぎるとは思うがな。・・・おかしい事を言ってるか?」

いまだ笑いの引かないアタシは不思議そうなユウト君の顔を見てさらに笑いが止まらなくなる。くすくす、くすくすと笑い声を繰り返した。

《いいえ、いいえ。おかしくないわ。そうやって率直だからかしら?》
「・・・は?」
《いいえ、いいの》

そうやって当然のように答えるからつい納得してしまうのよ。
悪い良いの白黒2択ではなくグレーじみた答えだから余計に安心感を覚えてしまうの。
はっきりとどちらかの色に染まってるものなんて居ないのだから。

《ユウト君って》
「何だ?」
《物を捨てられないタイプ?》
「はぁ・・・?」

何を突然、と言いたげな目線がアタシを見上げる。
アタシはくるくるとユウト君の頭上で踊った。

《そう見えるわ》
「そうか?・・・どうしてだ」

だって。
アタシは笑う。

《決して広い器じゃないでしょ?博愛主義者じゃないのはわかるわ。
でも一度懐にまで入ったら》

アタシは一息ついてくすくすと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

《大切にしてくれそう》
「はぁ?」
《ポイ捨てしないってことよ。アヤも探しに来てくれたでしょ》
「当然だろ、それは。だが、高く買われるのは頂けないな。オレは大層な者じゃない」
《謙虚ねぇ》

笑うアタシにユウト君は顔をしかめて黙り込んでしまう。
アタシは笑顔を引っ込めて呟くようにたずねた。

《やっぱり過保護かしら?》

ユウト君はむ、と顔をしかめてからおもむろに口を開く。

「さぁな。良い意味で言えばアヤの世界は綺麗なんだろうさ。物事を斜めで見ないし、コンビニでも正義が買えるこのご時勢に全く嫌味の無い正義感を持ってると感服するぐらいだ」
《ほめてるのかしら?それ》
「貶してはないぞ。だが、悪く言えば」
《我儘で世間知らず。猪突猛進で自分で全て何とかして見せようとする、でしょ?》

でも最近少し変わったのよ、良い出会いがあったから。とアタシは付け足す。
ユウト君はほぉ、と無感情だったけれど。
新たにささくれ立たせた薪を放り込んでその火加減を見ながらユウト君は口を開いた。

「わかってるならちゃんと叱れよ・・・」

苦笑を含んだ声。
それはアタシがそうしない、できない理由はもう言ったから。
アタシはアヤを大切にしすぎたの。嫌われる事を恐れて何も言えないままだったの。
崖っぷちのガラス細工、下手に触れれば壊れてしまうと思ったから。
けれども、アタシは、今は笑えるの。

《いいのよ。アタシはこれで》
「そうか。まぁ、勝手にしてくれ」
《そうよ。だって》

だって、ねぇ?
だって、誰もアタシに間違ってるとは言えないんだもの。正しい答えを持っていないから。
アタシに誰かが誰かの『正しい答え』を押し付けない限り。
アタシは笑う。

《シリウスが甘やかさなくなったじゃない?その分よ、アタシのは。
それに、ユウト君が叱ってくれるじゃないの》

くすくすと笑いながらユウト君の目の前をふわふわ揺れるアタシにユウト君は数秒フリーズ。

「・・・オレは保護者じゃないぞ・・・」
《放っておけないくせにっ!今のところユウト君だけよ、アヤを叱れるの。
アヤも手を上げられたのはユウト君が初めてじゃない?》
「あれはアヤが悪いだろっ。・・・疫病神を押し付ける気か?」

少し焦った様子のユウト君が少しだけ声の量をあげた。
くすくす。・・・そうねぇ。
ひくり、とユウト君の口の端が痙攣したような気がするけれど、アタシはそれを無視して笑う。

「おい、スピカ。おい!」
《さっ、アタシは寝よーっと。大丈夫よ、ユウト君は頼まなくてもついついやってしまうはずだから》
「おい!?」

ぱきん、と薪が燃え落ちた。


そうよ、こうやって甘えてしまうのよ。アタシも。
安心してしまうから。

アヤを甘やかして、これでいいのかしらって思っていたの。憂鬱になるくらい。
シリウスは壁を越えちゃったのに、アタシはこれでいいのかしらって。
でもいいのよね。ちょっとくらい。

アヤ、アナタの弱さも強さも全て愛しく思うから。

アタシは甘い優しさだけをあなたにあげる。

ねぇ、お姫様?































































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2011.1.22  00:03:54    公開
2011.1.23  02:37:14    修正


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