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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

134.sideユウト 鳥籠の大空[トロピウス]

著 : 森羅

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sideトロピウス

ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいっ!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・っ!

どれだけ「ごめんなさい」を繰り返せば、ゆるしてくれるの?
どれだけ「ごめんなさい」をくりかえしても、許されないの?

役立たずでごめんなさい、泣き叫んでごめんなさい、逃げ出してごめんなさい。
ごめんなさいッ!ごめんなさい、ごめんなさ・・・ごめんなさいぃぃぃ!

深緑の翼を広げ、がむしゃらに空を飛ぶ。
「これ」がどこにいるのかも「これ」は知らない。

「とろぴうす」って何ですか?

初めて聞いた「ことば」はそれだった。
だから、「これ」は「とろぴうす」なんだとわかった。
「これ」は・・・「とろぴうす」は4枚の緑の翼と首の長い茶色い体。
生まれて初めて見た光景で「これ」は黒いのと赤いのと変なのとに囲まれていた。

黒いのは「ぶらっきー」で「よづき」なんだって。
赤いのは「ういんでぃ」で「ぐれん」なんだって。
変なのは「にんげんみたいなの」で「ゆうと」なんだって。
「よづき」も「ぐれん」も、それから「ゆうと」も「これ」に色々な事を教えてくれた。
色々なものの名前を教えてくれた。

でもね、いろいろなものがわかってくるうちにわかってきたんだ。

「ゆうと」は「ますたー」なんでしょ?
「これ」は「ますたー」の「めいれい」を聞かなきゃダメなんでしょ?
でも、「ますたー」は「これ」に何も「めいれい」しないんだ。

「これ」が弱いから?
役立たずだから?
・・・「キライ」だから?

「これ」には存在(なまえ)がないんですか?
「ますたー」は色々な名前を教えてくれたけど、結局「これ」の名前は教えてくれなかった。

・・・「キライ」・・・。

そうだよね、だって弱いもん。
すぐ逃げ出す、臆病者で役立たずだもん。
いっつも何をしても困ったような顔をさせてしまうんだもん。
だから、いっつも「ごめんなさい」って言ってるのに。

それなのに、「これ」がそう言う度に「ますたー」は困った顔をするんだもん。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・ッ!

ぱたた、と水が目から零れた。

・・・やっぱり「これ」は欠陥品なんだ。だって「これ」は「みずたいぷ」じゃないのに。

どうしたら認めてくれるの?
いっしょうけんめいやってるよ。
そらもとべるようになったし、「ますたー」だって「たすかった」って言ってくれたでしょ?
それだけじゃ、足りないのかなぁ。「ますたー」は認めてくれないのかなぁ。

ごめんなさい・・・ごめんなさいごめんなさいっ!!

「ますたー」の言う事を「これ」は聞かなきゃダメなんだから。
「ますたー」に認めてもらわなきゃ「これ」の「そんざいいぎ」はないんでしょ?
なんどでも「ごめんなさい」するから。
だって、「ますたー」が「これ」の世界の全て。
でも、「ますたー」は「これ」のことが邪魔なんだ。
だから、「これ」は消えなきゃ。もう困らせないように。

ね・・・。ねっ。だから?でも?

《ごめ、ごめっ。ごめん、んなさい・・・っ》

「これ」は引っ掛かるような声で呟いた。

「これ」が何なのか教えてください・・・誰か。

視界がぼやけて、何も見えなくなっていく。
「これ」は世界が広くて、「これ」がどれだけ小さな存在なのか知っていた。

sideシリウス(オオスバメ)

カンナギで気にかかった事が予想通り的中するとはな・・・!
ある意味自分は罪悪感を覚えていた。
コトブキユウトの考え方とあのトロピウスの想いのどちらも分かっていたのは自分なのだから。
多分、紅蓮も分かってはいたのであろうが・・・。
ここで自分は紅蓮を責められはしない。警告しなかったのは自分もだ。

『ねっ、ねっ。あ・・・あ、のさっ。と・・・・とーーぉ』

カンナギで聞いたトロピウスの言葉がふと蘇る。
この続きはこうに違いない。

『とろぴうすってなになの』

誤差はあれど類似な言葉であろう。
あのトロピウスは『おのれ』を知らないのだから。
コトブキユウトから『名前』を与えられる事で『自分』が『何』なのかを認識しようとしたのだろう。それほどまでにあの幼い精神に世界は大きく恐ろしく見えたのかもしれない。
つまり・・・庇護を求めていたのだ。
それに気が付かなかったコトブキユウトに咎はもちろんの事ある。
だが、コトブキユウトの言い分が分からないわけではない。
コトブキユウトは現時点で『契約』を解除することができないらしい。
だからこそ、縛り付ける事を避けたのだろう。

大空を飛ぶ鳥に、大空を教えないまま籠に入れてしまう事を拒否したのだろう。

「シリウス、トロピウスはどこに行ったんだ?」

コトブキユウトは街中だというのに自分に尋ねてくる。
後でどう思われても知らないが・・・今はそんな事を考慮に入れている余裕はないらしい。
良く見ると擦り傷、切り傷が顔のいたる所に・・・これは自分のさっきの攻撃のせいか。

《こちらに飛ぶのを見た。だが、それ以降は知らん。貴様の理解能力が遅すぎだ》
「それには謝罪するが、それ以上は何もできん」

確かにそうだが・・・。貴様、謝るならもう少し申し訳なさそうに謝れ。
潮風が強く吹いた。
自分は空中にとどまり風の吹いた方向を見つめる。

「どうかしたか?」

立ち止まってそう言うコトブキユウトの声は無視した。
トロピウスが行方不明になった、だけなら問題はないのだが・・・。

場所が『悪すぎる』。
ここがカンナギなら問題はなかった。
だが、マサゴか・・・。
再び海からの磯の匂いが鼻を突く。

《まずいな・・・》
「何がだ?シリウス」
《トロピウスの羽根は植物だ。潮風は翼を傷め、飛べなくする。海に出ていたら・・・》

自分は言葉を切った。
ち、とコトブキユウトが舌打ちを打つのが聞こえる。

「最悪だ。行くぞ、シリウス」
《・・・貴様っ!?》

ぐるりと踵を返して走り出すコトブキユウトの背中を追いかけながら自分は声を上げた。
どこにいくつもりだ!?
そんな自分の心の声が聞こえたかのようにコトブキユウトは振り返っていやにはっきり言う。

「海の方だ。多分」

その根拠はどこにある、とは自分は聞かなかった。

side夜月(ブラッキー)

おいおいおいおい!!?
一体何が起こったんだ?
俺はユウトが窓から飛び出していくのを馬鹿みたいにぼけーと眺めていた。

《ユウト殿!》
《ちょっと待てよっ!紅蓮》

俺は瞬間的にユウトを追って駆け出そうとする紅蓮を抑えた。
何がどうなっているのか俺にはさっぱりだ。
どうしてトロピウスは消えちまったんだ!?
紅蓮は口早に言葉を繋げる。

《でありますから!トロピウスは『名前』が欲しかったんですなっ!
ユウト殿は縛る権利がないと言って『契約』しなかったのでありますが、逆にトロピウスはそれでしか自分を獲得できなかったのですな!》

・・・何で?
だってさ、縛られるより自由の方がいーだろー?
何でわざわざそんなめんどくさいものをトロピウスは欲しがったんだ?
俺や紅蓮の場合は仕方がなかった。ある種の偶然にもよるものだ。
もちろん、その後俺たちがこうして一緒にいるのは個人の意思なんだけど。
きょとんとする俺を見てか紅蓮は続けた。

《夜月殿。トロピウスは夜月殿や我のように野生であった事がないんですな。
トロピウスにはユウト殿が与えてくれるものが全てだったんですな!》

これでわかったか、とでも言いたげな紅蓮の目線を俺はついと逸らす。
それでも俺はわからない。
だって、ユウトはトロピウスに『自由』を与えてたはずなんだ。
自由にしたらいいって。トロピウスが自分で選べるように。
ユウトはトロピウスが自分でも生きていけるようにって空に放してたんだろ?
大空の広さを教えていたんだろ、それは。

《夜月殿・・・。誰かが傍にいてくれなければ立っている事もできないものはいるんですな。
皆が夜月殿のように強くはないんですな》
《俺は自由が好きなだけだ、強いわけじゃねー。嫌ならユウトと一緒にいない。
ユウトだって無理強いはしねーだろ?》

俺だって一人より誰かといる方がいいって事ぐらい知ってる。
ただ、一人で勝手気ままに過ごしていた時間が長かっただけだ。
もし、俺がユウトに傍にいるのが当然だ、ここにいるのがお前の義務だ、なんて言われていたら俺は即刻ユウトを蹴り倒してどこかに行っていた。
それは他の人間に捕獲されても同じ事をしただろう。

《とにかく、あのトロピウスはユウト殿しか知らないんですな。
野生も自由の意味も知らない状態だという事にユウト殿は気が付いてなかったんですな。
・・・問答している時間が惜しいんですな!!》
《要はさ》

走り出した紅蓮に俺は並ぶ。
扉をぶっ壊されては困るからだろう、じーちゃんは俺たちの行動を先読みして急いで扉を開けた。ナイース、じーちゃん!

《ユウトを追いかけたらいいって話だろッ!?》
《ですな!》

タンッ、タンッ、と二つの足音が地を蹴り中空を泳ぐ。

sideシロナ

・・・なんなの・・・?
シロナは呆然とユウトが席を立ってからの行動を見ていた。
まるで会話でもするようにユウトはオオスバメの鳴き声を聞いてから言葉を発していて、結局一人で勝手に焦って飛び出してしまうし、ブラッキーやウインディも続くように駆けて出て行ってしまった。
シロナには何が起こったのか・・・自分の常識を超えたものを見た気分だ。

「博士・・・?」

シロナはもう一人、状況が分かっていないであろう人物に声をかける。
だが、ナナカマド博士は首をひねりながらもこの状況を受け止めてはいるようだった。
困ったように苦笑いを浮かべドアを閉めながらナナカマド博士は言う。

「ユウトのことは気にするな。・・・ちょっと変わった子供なのだ」

それで済まない、とシロナは内心突っ込みを入れるがこれ以上ナナカマド博士は語ってはくれないだろう。とすればシロナがすべきことは一つだ。
シロナは自分のポケモンたちが入ったボールのフォルダーをつかみブラッキーとウインディが駆けていった方向を確認する。

「あたしもちょっと見てきますね!」

自分が年齢不相応の好奇心旺盛の類に入る笑顔を浮かべていた事にシロナ本人は気が付いたかどうか。

sideユウト

くそっ・・・。自分の驕りが恨めしい。
オレは縛るのは苦手だし、縛られるのは嫌いだ。
だからトロピウスにも自分で決めて欲しかった。
オレにあいつの人生の全てを決めていい権利などどこにもないから。

オレが全てなんぞ・・・そんなわけがない。
はるか真上の空、人の手の届かない領域。トロピウスはそれに手が届くのだから。
だが、
オレが後へ後へと保留した結果がこれだ。オレ自身がこの最悪の結末を招いた。

ひとつが分かれば芋づる式にわかってくることがある。無論、推測の域を出ないが。
ごめんなさい、を繰り返していたのはオレに嫌われないように疎まれないようにそう思っていたのだろうか。先程も突き帰した顔を近づけてくる癖はもしかするとオレの機嫌を伺っていたのだろうか。
一つ一つの動作がトロピウスの訴えであったかもしれないというのに。
オレはどれ一つ気が付かないまま素通りとすれ違いを繰り返していた。
だが、それでも。

ボールという、オレという鳥籠から見える空だけがトロピウスの全てではないのだから。





















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2010.12.22  00:07:10    公開


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