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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

130.sideケイヤ×アヤ 時空[トキトセカイト]

著 : 森羅

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sideケイヤ

「アヤちゃんってさ、『ディアルガの契約者』?」

軽いつもりで聞いたぼくだけど、ぎゅっ、とアヤちゃんの顔がこわばった。

「あ、あんた・・・何で・・・・」
《ケイ。どういういきさつでその結論にたどり着いたのか、まずそこから説明してください》
「あ、あれ?えーっと・・・」

なんだろう?
燐は説明を求めていて、アヤちゃんはまるで怯えているよう。
スピカの視線はぼくとアヤちゃんとの間を行ったり来たりでアルと呼ばれたクチートはきょとんとした顔をしている。
・・・4者4様の目がぼくを襲う。

「えーと・・・ごめん」

状況的に気まずくてわけもわからず謝るぼく。
自分でも一体何がごめんなんだかわかっていない。

《なぜ貴方が謝るんです?》

燐の言葉にも容赦はない。

「・・・まずさ。落ち着いて話せるところ、ない?」

ぼくの笑顔は引きつっていたんだろう、きっと。

sideアヤ

落ち着いて話せるところ、というリクエストに答えてポケモンセンターのロビーにまで連れて行ったけど、それがあたしの限界だった。目の前のケイヤはあたしにとって恐怖の対象以外何者でもない。
なんで・・・なんで・・・。
顔が強張るのがわかる。ただただ怖い、それだけ。

《アヤ・・・?》
「スピカ」

不安げにあたしの顔を覗き込んできたスピカをあたしはそのまま抱きしめる。
何かに支えてもらわないと、何もかも分からなくなってしまいそうだった。

「・・・えーっと、アヤちゃん?」

ケイヤの声にビクリとあたしの体が震え、それと同時にケイヤがため息交じりで伸ばしかけた手を引っ込める。それからケイヤは燐と呼ばれたキュウコンに向かって肩をすくめた。

「うー、燐。どうしよう?何かぼく、すっごく悪役なんだけどっ?」
《コン、コンコン》

うーん、とおおげさな素振りでケイヤは腕を組んで天井を仰ぐ。
スピカの心配そうな声が聞こえて、あたしは何も答えないままスピカを抱きしめる腕の力を強めた。

《コンコン!コン》
「え?あ、そうだね。・・・そっか。アヤちゃん」

あたしの名前が呼ばれるけど、あたしはケイヤを直視できずに下を向いたまま。
ケイヤの困ったような声だけをただ聞き流す。
あたしは、ものすごく、不様だ。

「そんなに怖がらないで欲しいんだけどなぁ・・・。
えっとね、アヤちゃん。ぼくはね、『パルキアに願いをかなえてもらった』んだ」
「!?」
《アヤ・・・?》

がばっ、とあたしは顔を上げた。
今、今なんて・・・?
ケイヤはこちらの反応に嬉しそうに笑う。

「聞こえた?ぼくもアヤちゃんと同じだよ。
と言うよりアヤちゃん、分かりやすいなぁー。そんなに過剰な反応したらバレバレだよ?」
「なんで!?」
「何が?」

あたし自身、何がなんでなのかわからない。
でも分からない事はたくさんある。

「何であたしがそうだと思ったの?」
《コン》

あたしの声にキュウコンが同意するような声を上げた。
ケイヤはその様子に背負っていたリュックを下ろして中身を漁る。

「・・・そーだね、答えるのは簡単だけどたまにはクイズにしてみよっか。
頭は使った方がいいんだよ?帽子を載せる台じゃないんだしさっ」

ひどい言われよう。
何か一言言い返そうとあたしは口を開きかけるけど、その前にスピカが不安そうにあたしを見上げて言う。

《アヤ・・・。アタシだけ話についていけてないのだけれど?》
「あ・・・」

スピカの事、すっかり忘れていた。
『あたしのこと』を知っているのはスピカとシリウスだけ。
でも、その2匹でさえも知らない・・・あたしが教えていない事がある。

「ごめん、スピカ。あたしは・・・。
あたしは、ディアルガに望みを聞いてもらったの。
だから、あたしは今、ここにいるの」

概略だけのあたしの言葉。
それでもスピカは真意をちゃんと汲み取ってくれる。

《そうなの?・・・そういうことはちゃんと言って頂戴ね。
ぶつ切りの話だったから余計混乱したじゃないの》
「ごめん・・・」

それはノモセのおかあさんのときと同じ。臆病なあたしのわがまま。
言ってしまったら今の関係が壊れるんじゃないかと思ったから。
どこか遠くに消えてしまうんじゃないかとそれが、怖かったから。
だから、あたしは言葉にはできなかった。
でも、
今あたしはちゃんと言えた。ちゃんと一歩踏み出せた。
ふぅ、とスピカは息を吐き出してあたしを見上げる。

《アヤ、もうちょっとアタシを信用しなさい。
アタシは、アタシたちはアナタの味方であって敵じゃないんだから》
「うん、・・・ごめんなさい」
《わかればよろしい》

スピカはそう言って笑った。
恐れる必要は本当はどこにもなかったとあたしは自分の馬鹿さを笑った。

「ほい」
「え?」

差し出されるのは手・・・ていうかプラスチックコップ。
薄緑色の安っぽいやつで中身の茶色の液体からは紅茶のにおいがした。
えーっと・・・。

「ぼくらがいること忘れてたでしょ?ま、いいんだけどね。
どーぞ。落ち着くよ?・・・それで、忘れてるみたいだけど、答えは?」
「ぁ、ありがと」

どーいたしまして、とぱたぱたと手を振りながら笑うケイヤからあたしは熱されたコップを受け取る。ケイヤがリュックから探していたのは、これみたい。
えーっと、何の話だったっけ・・・。
ちょっとの間考えてからあたしはそうだったと思い出す。
あたしだって、心当たりがまったくないわけじゃない。

「なんでケイヤはあたしがディアルガの契約者だってわかったって話でしょ。
・・・もしかして、『契約』・・・?」

それはトバリでユウトに言われてはたと思い出したこと。
何であいつが使えるのかは分からないけど、あたしが使える理由は1つしか思いつかない。
あたしの答えにケイヤは自分の分のコップに口を付けながら頷いた。
だけど、次の瞬間には猫舌なのか熱っと言って口を離し、ふーふーと息を紅茶に吹きかける。

「うん、そう。確信があったっていうより、賭けに近かったけどね。
『契約』って誰にでもできるわけじゃないみたいだし、大昔に失われているはずだし。でもアヤちゃん、ずっとスピカとかアルと話してたよね?よく考えたらこの能力(ちから)ってすごいことができる気がするよ、本当に。まぁ、ぼくは相性のいい子だけ契約できるみたいなんだけどね。パルキア・・・堺(かい)に聞いても憶測で答えるのは嫌だって言われちゃったからこれは本当に山勘。
アヤちゃんは?即答できたって事はディアルガが何か言ってた?」
「・・・微妙・・・」

あたしは本気で返答に悩む。この答えが一番感覚的に正しいと思うのよね・・・。

「微妙・・・ってどういうこと?」

ある程度冷めたのか紅茶を飲み下しながらケイヤはきょとんとした顔で聞いてくる。
当然の顔だとあたしは思った。

「微妙って言うか・・・何と言うか・・・。
ザウラク―ディアルガのことね―ってたとえ話でしか話さないの」

きょとんとした間抜け面、再び。
たっぷり時間が経ってからケイヤは苦笑いでコメントを下した。

「・・・よくコミュニケーションが取れたね・・・」

まったくもってその通り。
ちなみに、たとえ話でしか『話せない』のか『話さない』のかは不明。
あたしがそうじゃないかって思った理由はまた別にある。

「ザウラクは何も言ってないわよ。多分ね。でもあたしはザウラクに望みをかなえてもらうまで『契約』なんてできなかったの。だからそこからの推測」

あたしの答えにケイヤはなるほどーと嬉しそうに頷いた。
話し終えたあたしはケイヤが渡した紅茶を飲む。

「おいし・・・」
「ほんと?嬉しいな」

目を丸くするあたしにケイヤはにこにこと笑顔満開。
背景(バック)に花を背負っても全然OK。ヒロイン役で通る。

「燐も納得した?どうしてこんな結論が出てきたか」
《コン》
「そっか。よかったー」

うんうん、と燐相手に嬉しそうに頷くケイヤ。
その様子を見たあたしはあ、とある事に気がつく。

「ケイヤ、もしかしてさっきのバトルで燐を戻さなかったのは!」
「鋭ーい。ボールに入れた事ないんだよね、燐を。“おや”認識するのかどうか知らないけどさ。
でも、燐が傍にいてくれるって言ってくれたから。ぼくはそれだけで十分なんだ♪」
「《《・・・・・・・・・》》」

あたし、スピカ、そして燐までもが赤面。
燐に至ってはたこさんウインナーもびっくりな茹で蛸っぷりだ。

「れ?どうかしたの?顔赤いよ?」

そう真顔で言うケイヤを直視できる人間は勇者ね。

自覚がないのは、重症決定。

sideケイヤ

何か、変なこといったかなぁ・・・。
3人の視線の誰ともぼくは目が合わない。
ぼくは気分を変えようと、話を戻す。

「えぇっとさ・・・アヤちゃんとぼくって『契約』が違うの?
アヤちゃんはボールに戻してたよね?」

持ち運びに不便だから、なのかもしれないけど。
ぼくの質問に調子を取り戻したらしいアヤちゃんがよどみなく答えた。

「ていうか、これちゃんとした『契約』じゃないのはわかってるわよね?」
「もちろん。中途半端なんでしょ」

そう、とアヤちゃんは答えて続ける。

「あたしは一度捕まえたポケモンなら、なの。
あんたとは違うみたいね」

確かに。
と言うより、

「なんかさ、アヤちゃんの方が特じゃん!
捕まえたら契約できるならさ。ぼくなんかうまく相性のいい子に当たらなきゃムリなのに」
「捕まえるのだって難しいわよ!」
《どちらの言い分も一理あります》

燐の鋭い指摘にうぅ、とぼくは黙るしかない。
そんなぼくに燐はくすりと笑った。

《ケイ、2人の共通点と相違点をあげましょうか。
共通点は、2人とも『一部のポケモンのみ有効』なこと。一定の基準を超えなくては契約できないようですね。相違点は彼女は『名前を与えている』ようですが、貴方はそうではありませんね?
そしてケイは『ボールに頼らなくてもいい』ですが、そこの彼女は違うようです》

一長一短でしょう?と言う燐に対してぼくはなるほどと頷いてアヤちゃんに確認を取る。

「燐がね、アヤちゃんは一部有効で名前を付けてて、ボールがいるって契約で、
ぼくは一部有効で、名前付けてなくて、ボールがいらないって契約なんじゃないかって」
「は?燐って名前、あんたが付けたんでしょ?」

違うよー、とぼくはぱたぱたと手を振りながら笑った。

「燐は元から燐・・・だよね?燐?」
《はい》
「ちょ、スピカ。元々の名前なんてあるの?」
《ムゥ・・・》

ムウマのスピカが目線を移したアヤちゃんに聞かれて首をかしげる。
答えはノーみたいだ。
あれ?そーなの、と今度はぼくが燐に目線を移した。

《そうですね、場合はさまざまです。
『キュウコン』という名前はヒトが勝手に付けた名前でしょう?ですから、ポケモン(わたしたち)もまた勝手に名乗りますし、子育てをするものは親からと言うのもあります。単独で生活をするならなくても不便を感じるような事はないので不要ですが、群れなら識別程度にというのも》
「ちなみに燐は?」
《わたしは親からもらいました。名前は本質をあらわしますから》
「へ?」

最後の言葉の意味が分からなかったぼくは変な声を上げるけど、燐はなんでもないですよ、と笑って済ましてしまう。なんだかずるい。
むくれるぼくにアヤちゃんは待っていたように口を開いた。

「キュウコン、なんて?」
「なんかね、勝手に名乗ったりする場合もあるんだってさ。
・・・そういえば、凪も堺もそのままだぁ」
「正真正銘本物の契約者は全てのポケモンと話せて、名前を付けて、ボール不要だから結局はフェアなのかもね」
「そーみたいだね」

ぼくらは顔を見合わせて笑う。

「ちなみに、聞いてもいいかな?
ディアルガに叶えてもらったアヤちゃんの『望み』は何だったのさ?」
「・・・そんなこといえるはずがないでしょ」

うーん、確かに。ぼくも言えない・・・と言うより言いたくないしなぁ。

「そうだね、ごめん」
《自分が言えないことをヒトに聞くのは良くないですよ》

燐の言う事はもっとも。
でもぼくだってただの興味本位で聞いたわけじゃない。
ちゃんと理由がある。
ぼくは空になったコップに水筒から紅茶を注いで、アヤちゃんの方にも追加する。
和やかな雰囲気・・・ってちょっと待ってよ。

「って!和んでる場合じゃないじゃん!アカギだよ、アカギ」
《完全に忘れてましたね・・・》
「忘れてた・・・!」

忘れたら駄目じゃん。
そうだ、こっちの話の方が先だ。

「ディアルガ、パルキア、契約は置いといて。
アヤちゃん。お願いがあるんだ」
「何よ?」
「リッシ湖に行ってからシンジ湖に行ってくれないかな?
ぼくの予想だとリッシ湖で爆発が起きて、それに呼応して他の2つの湖のポケモンも目が覚める。2つもきついと思うけど。ぼく一番遠いエイチ湖に行くから。残りお願いできる?
もう一人いれば一番良いんだけどね・・・」

ぼくの無茶なお願いにアヤちゃんは快諾してくれた。

「わかったわ。どっちみち3つの中でって言われたらあたし絶対一番にリッシ湖行くし。
もう一人、いないことはないのよね・・・」
「ありがとー。・・・って誰か協力してくれる人、心当たりあるの?
ぼく知り合いいなくってさ。シロナに頼もうかと思ったんだけど・・・。
あ、飛行タイプいるよね?」

ぼくの言葉にアヤちゃんの顔が凍り、スピカが苦笑いを浮かべる。

「・・・いない・・・!シリウス、連れて行かれちゃってる!!」
「シリウス?」
「オオスバメ!スピカ、どうしよう!?」

ムクホークじゃなくてオオスバメ?
そう言えば、シンオウポケモン、アヤちゃんのメンバーで見てない。
・・・ぼくも人のこといえないんだけど。
というより、誰が連れて行ったのさ?そのオオスバメ。
困惑するぼくの目の前でいつの間にかアヤちゃんは怒っていた。

「そうよ!あの馬鹿が連れて行かなかったら!
てかここであと1日待ってたら問題なかったのよ!!信じらんない!」

・・・話にさっぱり付いていけません。
ぼくは燐と顔を見合わせ、でもこのままアヤちゃんを暴走させておくわけにも行かないし。

「あ、あのさ。何があったのか知らないけど」
「聞いてっ!トバリであたし、シリウスのボール忘れちゃったの。
それを持っていったやつがここで待ってたら問題なかったのに・・・。
連れてどっか行っちゃったのよ!」

・・・大変だね・・・。トレーナーも楽じゃないんだー。
でもさ、それって。
ぼくと燐は綺麗に二重奏(デュエット)。

《貴方が悪いでしょう?元々は》
「アヤちゃんが悪いよね、最初」

その場に下りる気まずい沈黙。
沈黙に耐えかねたぼくは一言謝る。

「えーっと、ごめん」
《貴方が謝る必要はありません》

・・・どこで見たシチュエーションだろう?
















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2010.12.11  22:24:11    公開
2010.12.12  23:21:45    修正


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