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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

129.sideユウト 飛翔[ソラヲトブコト]

著 : 森羅

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「で、気になる事って?」
「つまり、シロナさんの持っていた『死の世界と生の世界』の神話の資料と話を聞いた『4つ目の泉』の話とは繋がってるんじゃないですか、ってことです」

バッサバッサとトロピウスの羽ばたく音の中で本当にオレの声が聞こえたのかどうかは知らないが、シロナさんが頷いている所を見ると聞こえているらしい。
下を見ると地上は遥か真下。勘弁してくれよ、と言うため息はそろそろ品切れ状態。
普通なら風圧で吹き飛ばされてもおかしくないはずなのだが、はっきり言って手を離していてもそこまで危ないという感じではない。ポケモンには何か不思議な力学でもあるのだろうか。
だが、それでも両足がぶらぶらと空中を揺れている感触は決して気持ちのいいものではなく、空は人間の領域ではないという事が思い知らされる。

「『さいごは、もう一つの世界に閉じ込められた。表裏一体の、もう一つの世界に』って言うのが『死の世界と生の世界』の神話の終わりの言葉ですよね?
で、『おくりのいずみ』は死の世界への入り口だと言うなら出口は死の世界で『死を司る番人』はその『さいご』ってことになりませんか?」
「えぇ・・・まぁそうなるけど・・・それが気になった事?」

完全にそんな事明白じゃないかと言われているが、とりあえずオレは続けた。

「そうですが・・・。ですがオレが本当に知りたいのは『おくりのいずみ』がどこにあるかですよ。そういえば、あの古書の中でもう一つだけ『さいご』について書かれていたものがあったんですが、見ましたか?」
「・・・・・ごめんなさい。まだ全部は」
「絵があったんです」
「え、って、絵画の絵?」

オレは頷く。
まるで鳥獣戯画のような墨絵だったが。

「『ときのかみ』『くうかんのかみ』。『さいしょ』と『さいご』です。
ただし『さいしょ』は名前だけで空白でしたが」
「残りは全部姿が書いてあったって言うの!?」

いやいやその反応はおかしくないかどうして実家の蔵書の内容をオレが知っていて本人が知らないんだオレは部外者なんだが・・・ぐるぐるとシロナさんに対する苦情が頭の中を回転するが今はそんなことに構っている暇は無い。

「赤っぽい表紙ですね。後で見てください。
で、オレとしてはどうしてナナカマド博士のところに行く事になるのか分からないのですが。
そろそろ教えてください」

シロナさんの質問に答えたのだからこちらも答えてもらってもいいと思う。
「話は後で!」と言われて空中散歩をすることになった身にもなってほしい。
トロピウスがいいと言ったから良かったが・・・それにシリウスも連れて来てしまっているので今度アヤに会った時は殺されるかもしれない。

「あれ?言ってなかったっけ?」
「言ってません。それにオレを連れて行く意味があるんですか?」

シロナさんはトゲキッスと言うらしいポケモンの上であははと笑う。

「ごめんなさい。ユウトくんもそうだけどあたしも『生の世界と死の世界』の神話で気になる事があるのよ。前にハクタイでも言ったわよね?きみに聞かれる前にもその神話について聞かれたって。そのときにその子に言われたのよ。『反面世界にどんな影響を与えるかわからないまま』ってね。それにそれには3つの湖にも関係してるって話だったから。まったくギンガ団の考える事って・・・」

そこまで言った時点でシロナさんははっと口に手を当てた。
ギンガ団関係だという事は言ってはいけない事だったらしい。
ギンガ団のやつらが何を考えていようがオレにはまったく興味は無いが、それより。
『反面世界にどんな影響を与えるか分からないまま』?その言葉はどうにも引っかかる。
ギンガ団が何をしようとやつらの勝手だが、『死の世界(オレの世界)』にまで影響が起こるようなことをするつもりなのか。そしてなぜそいつはそんな事を断言できる?

「と、とにかく!3つの湖の事ならナナカマド博士が詳しいのよ。
あの人、あの湖と湖のポケモンについて調べているから。
それにユウトくんだってここまで来たら乗りかかった船でしょ」

取り繕うようにシロナさんが言い切るが、オレはそこが引っかかって仕方が無い。
ついでに勝手に船に乗せられては困る。

「あの、どうして反面世界への影響を断言できるんですか?」
「え・・・あぁ、その子が言うには・・・えぇっと・・・」

シロナさんが口ごもる。
が、その理由は簡単に推測できたのでオレは笑って見せた。

「大丈夫ですよ。ギンガ団についてオレは興味も関心も他言するつもりもありません」
「・・・そう?悪いわね。えぇっと、その子が言うには宇宙の創造、それがギンガ団の目的なんだけど、にその3匹と時空の2匹がいるらしいの。それによって裏の世界にも影響を受ける可能性があるんだって。それであたしとしてはそこまで言われて放って置く訳には行かないのよ。真偽はともかくね。だからナナカマド博士に話を聞こうと思ってるってわけ」
「そう、ですか・・・」

オレはシロナさんから目をはずして前に向き直る。

「きみって本当に『生の世界と死の世界』に固執するわね。何かあるの?」

シロナさんの声が後ろで聞こえたが、聞こえなかった事にした。


「はぁ・・・」
《何?ユウト、高所恐怖症?》

何度目かのため息にトロピウスとオレの間にいる夜月が茶々を入れてくる。
特に反論する元気も無いが、これで嬉しそうに騒がれてもうるさいので一言言っておいた。

「違ぇよ。・・・なんでオレがこんな・・・」

どこぞのファンタジー映画の実写をする羽目になるんだ。

《ぅ・・ごめっ・・ご、ごめな・・・っさいッ・・・?》
「あー。違う違う。お前は悪くないから泣かないでくれ」

ぐるりと振り向いたトロピウスの長い首をぽんぽんと叩きながらそう言ってやると、うんうんと頷いて前を向きなおした。トロピウスは悪くない。こうなったのはシロナさんの責任だ。

《コトブキユウト・・・貴様は・・・》
「何だ?」

トロピウスの傍を寄り添うように滑空していたシリウスが突然ため息混じりに言う。
なんだ、オレはお前にため息をつかれるようなことをしたか。
まぁいいんだが、それより。

「・・・そういや、お前は本当にオレについて来て良かったんだろうな?」
《む?今はこれで良い。結論は出ておらん。
思案中だ・・・いや!そうではない!今はそんな話を・・・まぁ、良いか》

・・・なんだよ?まぁ、お前が良いというなら良いんだが。
シリウスがそっぽを向いたちょうどそのときにシロナさんからまた声がかかる。

「ユウトくん?そろそろ着くわよ。着陸準備してね」
「わかりました。・・・じゃ、トロピウス頼むな。シリウスも悪いが手伝ってやってくれ」
《ぅ、うんっ!ぅ、ぅん!》
《む》

人を乗せて飛ぶのと自分勝手に飛ぶのとではまた勝手が違うらしく、そこのところはシリウスの方が断然詳しいため離陸の時もシリウスに指導役に入ってもらったのだが、そういう意味ではシリウスがいてくれて助かった。アヤに対しては申し訳ないが、感謝の意を。
グンとトロピウスの飛び方が変わり下降気味になった時点で夜月がぼそっと呟く。

《胃袋がふわって浮く感じが嫌いなんだけどな・・・》
「死ぬまで空を飛ぶか、夜月?」
《ぜってーやだ!!俺はそろそろ地上が恋しーんだっ!》

オレと夜月の意見が一致したのは久しぶりな気がする。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ夜月の反面、トロピウスはご機嫌で4枚の翼を繰り高度を下げた。
突風に吹かれぐらり、と揺れたのに夜月が悲鳴を上げる。

「お?」
《頼むから、お、落とすなよー!!?》
「夜月、五月蠅い。舌を噛みたくなかったら黙ってろ」
《俺は空が飛べねーんだよっ!ぎゃぁーー!》
「いや、人間も空を飛べねぇし」

オレの声は夜月に聞こえているのやら。
結局、無事に恋しい地面に足をつけた夜月はぐったりとした顔でしがみ付くように地面の上にだべっている。まぁ、そう言うオレも精神的に相当疲れたが。シリウスとシロナさんそしてトゲキッスは余裕の表情。シリウスにいたっては嘴で羽の手入れをしている。

《ど、どっどぉ?》
「ぅん?」

トロピウスの声に振り返ると達成感に高揚したようなトロピウスの顔がある。
どう、と聞かれてもなぁ・・・。残念ながら誰かを褒める事にオレは慣れていない。
オレはとりあえずトロピウスの首元をさっきと同じようにぽんぽんと撫でてやる。

「さんきゅ、助かった。しっかり飛べてたしな」
《ほっ、と!?ほん、ほっと!?》
「あぁ。本当」

うにゅーと言いながらトロピウスは顔をオレに近づけて擦り寄ってきた。
よしよしとトロピウスの顔辺りを撫でながらオレはその分後ずさる。

《ユウトに褒められるなんてレアだぜー。それでゆーとくん。ガンバッた俺には?》
「お前が何を頑張った」
《えーと、寂しいユウトの話し相手?》
「ない」

即答。
ところでここはどの辺りだ?マサゴの街中でない事は確かだが。

《202番道路の辺りだ》
「シリウス。・・・コトブキとの間の方か?それとも」
《コトブキとの間の方だ》

ひょい、とシリウスがオレの頭の上を占領する。
オレの頭はお前の巣じゃないんだが・・・まぁいいか。

《ボール》
「入るのか?」
《さっさと寄こせ。コトブキユウト》

へいへいとオレはシリウスにボールを出してやり、シリウスが納まった後、そのボールを鞄の中に突っ込んだ。別にオレはシリウスがボールに入っているというならそれで構わない。

「ユウトくん?何してるの?」
「・・・いえ、別に・・・」

トゲキッスをボールに入れたシロナさんがいつの間にか近づいてきていたが、オレはやっぱり変な人間に見えただろうか。警察沙汰にならないならまぁ良いんだが。

《ユウトってば『一人』で喋っちゃってさっみし・・・痛ェ!!》

余計な事を言った夜月は踏みつけておく。

「ねぇ、ユウトくん。やっぱり一度だけどうかしら?」
「・・・何をですか?」

にこりとシロナさんが笑う反面オレの表情は険しくなった。
そして、シロナさんは予想通りの言葉を笑顔で言う。

「ポケモンバトル」

sideシロナ

どう?と首を傾げてみせるシロナが見つめる少年は誰がどう見ても迷惑そうな顔をしている。なぜユウトがそんなにバトルを嫌がるのかまったく知らないシロナとしては疑問符を浮かべるしかない。

「一度だけでいいわ。一対一でどう?」
「・・・夜月、紅蓮」
《ブラッキッ》

答えにならない答えでユウトはブラッキーの方へと目を向けた。
シロナはなかなか返ってこない返事を求めて前と同じカマをかけてみる。

「ユウトくん。ポケモントレーナーがポケモンバトルを断っちゃ駄目でしょ?」
「何度も言いますが、オレはポケモントレーナーじゃないです」

この言葉に対する少年の反応はやはり速い。

「ポケモンを持っている時点でそうでしょう?」
「違いますね」

ポケモントレーナーに対して何かあるのだろうか、とシロナは思ったがそれ以上予想の立てようがなくまた推測のしようがなかった。ユウトはただ飄々と答えるのみ。

「夜月とで良いなら」

シロナはその言葉に満足そうに頷いた。


「じゃあ、一対一で道具の使用はなし。『ひんし』になるまで・・・でオッケー?」
「・・・どうぞ」

やはりと言うか適当な広さを隔てて向かい合うユウトには覇気ややる気は一切感じられない。迷惑そうな目であさっての方向を見ている。トロピウスもボールに戻したので今はブラッキーのみがフィールド上に立っていた。

「じゃ、いくわよっ。ガブリアス!」

シロナは自分のメンバーの中でももっとも付き合いの長いポケモンを繰り出す。つまりは自身の最強のポケモンと言うわけだが、これは別にユウトを馬鹿にしているわけではなく手を抜かないという意志の現れであり、敬意を払っての事でシロナなりの気遣いである。
ブラッキーはと言うとユウトの指示が出るより先にトコトコとガブリアスの方へと近づいてき、対するユウトは、

「・・・怪獣みたいだな・・・」

と呟いただけ。
シロナは本当に攻撃を仕掛けても良いものかと気後れしたが、にらめっこをしていても仕方が無い。
シロナは笑った。
実力、見せてもらいましょうか!

「ガブリアス!“きりさく”!」

完全に様子見の攻撃にユウトは顔をしかめ、ブラッキーは容易にかわしてそのまま攻撃に移る。
指示を出さないつもり―――――!?
初めて見る、と言うより普通なら在り得ない方法でバトルを行う少年にシロナはひるむ。

《ブラァっ!》
「まずっい!」

トレーナーに目が行き過ぎたせいでこちらの注意を怠っていた。
とっくの昔に攻撃に入っていたブラッキーに慌ててシロナは注意を戻し、ブラッキーによる“アイアンテール”を受け止めたガブリアスに指示を飛ばす。

「押し返して、“かえんほうしゃ”!」

ガブリアスによって力任せに吹っ飛ばされたブラッキーは空中を泳ぐ。ガブリアスは身動きの取れない空中での隙を見逃さず“かえんほうしゃ”の炎を散らした。が、ブラッキーも負けじとタイミングよく“シャドーボール”を撃つ。“シャドーボール”自体は炎の軌道をずらし、ブラッキーはその反動で地面に着地。にししっ、とブラッキーが笑っているような気がした。
焦りを感じるシロナを嘲笑うようにブラッキーは再びガブリアスに向かって突進してくる。

どうなってるのよ、これは!
ポケモンが作戦から攻撃まで全部考えて行動しているって言うの!?
元から全てポケモンに定型パターンを教え込んでいるのかとも思ったけれどそれも違う。
それならこんな臨機応変な行動は取れない。
・・・なら!

「“すなあらし”、“すなじごく”!」

シロナの指示でガブリアスはその場に砂嵐を引き起こした。さすがのブラッキーも足が止まり、砂によってその動きが制限される。相手には追加攻撃を与えられるし視界も悪くなるがこちらは補助効果を得られるという取って置き。
シロナは砂嵐越しにブラッキーの影を確認してからユウトへと目を移した。
さぁ、どうする?

「・・・夜月」

バトルが始まって以来初めて発せられたため息のようなユウトの言葉はブラッキーの名前(ニックネーム)。腕で顔を吹き付ける砂から守るように覆いながら、その隙間から見える目はうざったそうに砂に埋め尽くされた青空を仰ぐ。
やっぱり指示を出さない、みたいね・・・?
その不可思議な行動にシロナは形のいい眉をひそめ一体何がしたいの、と問うような目でユウトを見た。当然ながらユウトは気づいていない。
まぁ、いいわ。そっちがそれで通すと言うなら―――!

シロナは少し、勝負を急いでしまった。

「ガブリアス!“ドラゴンク・・・・えっ!?」

最後まで指示を言い終えるより速く地下から飛び出した生き物のタックルを浴びてガブリアスが宙に浮かぶ。その様子を彼女は漫画の1コマでも見るかのように凝視していた。
“あなをほる”!?でも、ブラッキーはあそこに・・・。
シロナはブラッキーの影を確認した場所にあわてて目を移す。しかしそこにはやはり砂嵐の中に囚われたブラッキーの影。
ってことは、まさか!?

「“みがわり”・・・」

まるで自分の掘った落とし穴に自分自身がはまってしまったよう。
ネタが分かってしまえばこれ以上ないくらいに常套で馬鹿げた手品であったのに。

「くっ!ガブリアスっ!」

シロナはガブリアスとブラッキーに無理やり意識と目線を戻した。そして、軽業師のようなバネの良さで地面に足をつけた瞬間そのままガブリアス向かって飛び掛ってきていたブラッキーとガブリアスとの距離、そして絶対に回避できない事を承知の上で指示を下す。

「“はかいこうせん”!」

砂嵐の中、金色にも似た光がガブリアスの口に集まる。ブラッキーは苦笑いのような困った笑い顔をしながらそれでも慣性の法則に従いガブリアスの口、その目の前にまで自ら飛び込んでいくしかない。勝った、とシロナは勝利を確信した。

「ガブリアス!やめろ!」

唐突な、声。
その声にびくり、とガブリアスが震えそのまま口をふさいだ。
収束しかかった金色の光はそのまま消え去り、ついでに砂嵐までもが収まる。ブラッキーがすた、と地に足をつけた。
声の主は、ガブリアスの主(シロナ)ではない。
もう一度口を開こうとするガブリアスに対して、その声はもう一度『命令』する。

「やめろ、と言っているんだ」

今度こそ本当にガブリアスはおとなしくなった。
シロナとブラッキーはそれぞれその声の主であるユウトを凝視する。
そんな視線の中ユウトは平然といつもの口調で言った。

「もう十分ですよね?さっきので詰みです。・・・夜月、悪いがこれで我慢しろ」
《ブラァッ!》

ブラッキーからは抗議にも似た声が上がる。
満足できていないのだろう、シロナ本人もそうであった。
なのでシロナは『ポケモンに代わって』抗議をあげる。

「ユウトくん。どういうこと?」
《ブラッキッ!ぶらぁー!!》
「夜月、うるさい。小言は後で聞く。・・・一体何が『どういうこと』なんですか?」

悪びれた様子はなく、逆にこちらに向かって理由を尋ねてくるユウト。
シロナは自分と、自分が信じてきたものが馬鹿にされたような気持ちになった。
シロナにとって『ポケモンバトル』とは、ポケモンとの信頼関係の上で成り立つ・・・いわば神聖なものであるのだ。

「何が『どういうこと』ですって!?決まってるでしょう?
どうして最後まで戦わせてあげないの!?それはポケモンを信頼していないのと同じでしょう!?きみはきみのポケモンの信頼を裏切ったのよ?それにどうしてポケモンに指示を出してあげないの!?ポケモンバトルはポケモンと人の信頼の証でしょう!?」

まくし立てるシロナに対してユウトは表情をほとんど変えない。
ただ、目が淡々と細く冷たい雰囲気だけを帯びていく。

「・・・シロナさんの言う『信頼』がオレには理解できませんね。こんなところで“はかいこうせん”をぶっ放すのが信頼ですか?それとも下手したら死ぬようなダメージを確実に食らうと分かっている攻撃を無視するのが信頼ですか?
命令や指示を出すだけで『信頼している』なんてただの自己満足にしか聞こえませんよ。ポケモンが本当に戦いたいか、どう思っているかわからないのになぜ言い切れるんです?『命令』ならボールの機能があれば聞いてくれるじゃないですか。バトルはオレには人間の道楽にしか見えません。・・・ついでに夜月はオレの言う事なんて聞きませんよ」

シロナは冷や水を頭からかぶった気分だった。
目の前に立つ少年の雰囲気があからさまに変わっていく。

「・・・途中で勝負をやめたのが嫌なら、さっきの“はかいこうせん”。
シロナさんが受ける立場ならどうです?やめて欲しいと思いませんか?
それとも、実際受けてみますか?」

優しく、目の前の少年は微笑んだ。ただし、目は笑ってはいない。
シロナはぞっとして身を引く。これは人間ではないと、直感がそう告げる。

「き・・・きみは・・・」
「冗談ですよ」

ふっ、と肩の力を抜くようにユウトは肩をすくませた。
先程の冷たい感じはなんだったのかと思わせるほど声の質がいつもと同じに戻っている。

「シロナさんはシロナさん。オレはオレ。夜月は夜月。考え方は不可侵ですよ。
同じようにあれと強制する方がどうかしています。違いますか?」
「そ、そうね・・・」
「大丈夫です。オレの考え方も所詮」

ユウトは肩に乗っかったブラッキーに対しバランスをとりながらシロナの方を顧みる。

「独りよがりですから」

side夜月(ブラッキー)

《おいこら!ユウト!何してくれるんだよー!!》

なんたら博士の所に向かう道中、俺はさっきのバトルについて抗議を重ねた。
ボールから出た紅蓮がユウトの右横を悠々と歩いている。
ユウトはシロナに聞かれたくないのか小さめの声で答えた。

「うるさい。あんな至近距離で“はかいこうせん”受けてみろ、死んだらどうしてくれるんだ」
《俺が死ぬかー!!》
「大怪我は確実だろ。治療費がかかる」
《るせー!そんなこと知らねーよ》
「知ってくれ」
《ですな》

はぁ、というため息がユウトと紅蓮からもれた。
その横顔を俺はそっと盗み見る。
・・・大丈夫、だよ、な・・・?
さっきシロナと話していたユウトはちょっとやばい、と俺は素直に思った。
だってさ、空気が違ったから。

《なー、ユウト》
「なんだ?」
《さっきのこと、どこまで本気だったわけ?》
「・・・何の話だ?」

ふん、とユウトはそっぽを向いた。
こいつ、ワザととぼけてやがる。
ユウトはさっきのシロナの言葉を自己満足や独りよがりって言った。
俺もまぁ、どちらかと言えばそうだと思う。勝手だなって。
俺はこう言った力試し的なものは大好きだから、今回のも俺がユウトに出るって言ったんだけど、それが嫌いな奴らも決して少なくない。
でもまぁ、それはやっぱり俺とユウトの考え方であって実際、紅蓮なんかはシロナ派の考え方のはずだ。多少ユウトに感化されてたり、ヒヨリのこととかもあるだろーけど。
むすっ、と黙り込むユウトに対して紅蓮が援護を加える。

《とぼける時間がもったいなくないですかな?》
「・・・お前らなぁ・・・。シロナさん」
「えっ!?あ・・・何?」

俺たちより先に行っていたシロナがユウトの声に振りかえった。
・・・なんかちょっとおびえてねーか・・・。

「先に行っておいてもらえますか?忘れ物をしたようなので。すぐ、追いつきますから」
「え、えぇ・・・いいけど・・・」

やっぱ、シロナは完全怯えてるぞ、ユウト。俺、知らねーっと。
ユウトはその事を気にもかけずどうも、と言ってきびすを返した。
遠心力で俺がふっとびそうになったのは余談。

sideユウト

「・・・で、なんだ?」

さっき夜月がガブリアスと戦っていたところまで戻るのも億劫なので適当に道を引き返したところで木の幹に背中を預けてオレは目の前の夜月と紅蓮に聞く。
じぃーという、なんだか上目遣いのような目で見ないで欲しい。
まるで裁判を受けているみたいな気分になるじゃないか。

《だーかーらー、どこまで本気で話してたんだよっ!さっきの話っ!》
「思ったことをそのまま言っただけだが?あれが信頼なら一方的すぎでおこがましい」
《ユウト殿はバトルは嫌いなんですかな?》
「特段嫌いなわけじゃねぇけど、苦手で面倒」

夜月と紅蓮、それぞれの問いにそれぞれそのまま答える。これは事情聴取か?

《なら、ユウト殿は我らを信頼していない、そして逆もまたしかり、と言う事ですかな?》
「なんでそんな結論にたどり着くんだ、紅蓮?
オレとお前に限った話なら一方的にはならないだろ。
オレは『一方的な』で話をしているんだが?」

紅蓮と夜月が迫ってくるが残念ながらオレはこれ以上後ろには下がれない。
オレは腕を組んで答える。

「そんなこと言ってねぇぞ。シロナさんの考え方を否定しているわけでもない。アヤなんかまるきりシロナさんと同じだし、スピカも、シリウスも、あのガブリアスもそうだ。それで上手く成り立ってるならそれでいいんだよ。どうするつもりもない。
ただな、全てにおいてその考えが適応されるわけじゃねぇだろ?ただ戦わせるだけのポケモンを安直に『友達』と呼ぶなんざあまりに人間の手前勝手な話にならないかって言ってるだけだ」

勝手な命令、勝手な指示。勝手な『信頼』。その言葉でポケモンを縛るかのようだ。
人間が始めた遊戯で傷つくのはポケモンのみ。それなのに勝者の栄光は戦ったポケモンにではなく何もしなかったと言ってもいい人間に。ヒヨリのおかげか『ポケモンバトル』を実体験済みのオレはそれに確かに命がかかってる事を知っている。
だが、下らない遊戯に対して投げ出すべき命などどこにもないのだ。
だからこそ、オレはそれが苦手で滑稽な気分と馬鹿馬鹿しさと下らなさを感じる。
紅蓮がふっ、力を抜いたのがわかった。

《ユウト殿・・・。少なくとも我はユウト殿を『信頼』しているから身を任せて傍にいるんですな》

・・・・・。よく、まぁ、紅蓮。
心なしか頬が火照るのが分かる。
そんな恥ずかしいセリフを真顔でいえるな。ケイみたいだ。
オレは顔を背けつつ、ぱたぱたと手を振る。

「わぁーったよ、勝手に何でもしてくれ。お前の自由だ」
《選んで良いと言う事ですな》

ご随意に。
ただ、オレはお前との契約の解除方法を知らないのだが。

《なー、ユウト》
「何だ?」

今度は夜月。
オレは目線を下に下ろした。

《この際だから聞いときたいんだけどさ、ユウト、お前さ。
『死の世界に戻る方法が見つかったらどうする』んだ?》

夜月と紅蓮の視線が再びオレに集中する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「・・・そうか」
《《はぁ?》》

成程。やっとわかった。
どうしてシロナさんに『死の世界と生の世界』の神話の話を持ちかけられても自分の反応が微妙だったのか。
ずるずるずる、と背中を預けていた幹にそってそのまま座り込み膝小僧の片方に額を当てる。
つまりは。

こいつらに対してしっかり情が移っていたわけだ。

オレは苦笑しつつも素直に答えた。

「わからん」
《わかんねーって、自分の事だろ!?》
「そう言われても困るんだが。わからんものはわからん」

オレは立ち上がり、ぎゃんぎゃんと噛み付いてくる夜月の言葉を無視する。
紅蓮と目が合った。

《明日と言う日は定かならず、ですかな?》

すまして言う紅蓮に対してオレはさらに苦笑いを広げるしかない。

「そういうことにしておいてくれ」






























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2010.11.24  00:06:04    公開
2010.11.29  22:25:37    修正


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