
生あるものの生きる世界
123.sideユウト 神話を抱く町[カンナギタウン]
著 : 森羅
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side夜月(ブラッキー)
太陽はてっぺんを目指してさんさんと輝いている。
空は晴れ渡った青空!山の緑は目にいい。
なのに、だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・シーン。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シーン。
・・・・・・シーン。
《なぁ、ユウト》
「何だ?」
《・・・・・・何にもねー》
「そうか」
あぁ!もう!俺ってこんな沈黙が大っ嫌いなんだけどな!
だが、当のユウトは紅蓮と涼しい顔で山道を歩いている。
俺はその後ろをトコトコ付いていくしかない。
昨日、あの後少し経つとユウトは起きた。
真紅のことをどう説明すればいいのか非常に困る俺たちに対して血まみれになった自分の服を見下ろしながらユウトは一言。
『この血・・・・妙な事は何にもやってねぇよな?』
ってそれだけ。
俺たちが頷くと納得したのか明日にはカンナギに着くように行くぞ、って言って寝ちまうし。
俺たちには何がなんだか分からない。
俺が真紅の事をユウトに話さないように、ユウトも何か俺に話していないのかもしれないが。
もしそうであっても俺はユウトを責めることなんか出来ない。
俺が話さないのにユウトは話せって言うのが不合理だって事ぐらい俺でも分かるから。
だが、
じゃあどうやってこの沈黙を克服すればいいんだ!?
《はあぁー》
「・・・・どうした、夜月?」
俺の盛大なため息はユウトにしっかり届いていたらしい。
《いーや、ちょーっと疲れただけだ》
現在の、この沈黙に。
俺が応えるとユウトは、
「もうすぐ町に着くだろ。疲れたなら乗るか?」
と言って立ち止まってくれる。
ユウトが俺に気を使っているのは明白。いつもならこんなこと言わない。
茶化すべきなのか、素直に乗せてもらうべきなのか少し考えてから、
《なんだよ、優(やっさ)しー!昼から雨か?》
「・・・・昼は抜きだな・・・」
《冗談!冗談だから!ゆーとくぅーん》
茶化す事を選んだ。
不自然だったのは、ユウトにもバレていたのかもしれないが。
『世界に見つからないように』・・・真紅の言葉が俺の頭を掠めた。
sideユウト
何をやってるんだ、オレは。
なぁなぁなぁー昼飯ー、と繰り返す夜月は明らかオレに気を使っている。
いつもなら疲れたらすぐ飛び乗ってくるくせに。
何をやってるんだ、オレは。
先と同じ言葉を繰り返し、夜月と紅蓮に気づかれないよう澱んだ息を吐き出した。
とりあえず殺したりとかそう言う類の話ではなさそうなのは良かったが、目が覚めたら服は血まみれで、夜月も紅蓮もオレと目を合わせようとしなかった。
そんな状況を見た後に気にするなといくら言われても気になるに決まっている。
だが、聞いても答えないだろうことは様子を見れば確実だった。
すると当然のごとく流れるのは気まずい沈黙。
もくもくと歩いて頭を空にすることしかその状況を逃れる方法をオレは知らなかった。
―――――昼過ぎ
《こんな面倒な所に町造んなよ・・・人間ってよくわかんねー》
《同感でありますな》
やっと着いたカンナギタウンの入り口で夜月と紅蓮がそう言いながらオレの方を向いてくる。
そんなじと、とした目で見られてもオレが知るわけが無いだろうに。
逆にオレがその理由を知りたいところだ。
「・・・何だ?」
《何にも言ってねーんだけど。なぁ?》
《なぁ、ですな》
・・・・・・・・・・・・なら、そんないかにも何か言いたげな目で見ないで欲しい。
《あーあ、誰のせいでこんな面倒な町にまでくる羽目になったんだったっけなー?》
「・・・・・・・・」
そんな目で見なくても、夜月。無論、オレのせいだとも。
もっと言うならアヤのせいであり、さらに遡るとシロナさんのせいとなるが。
《ゆぅーっくり休みたいけどなー。どっかの誰かはトレーナーカード持ってねーしー?》
・・・そこまで言うか。
せいぜい嫌そうな顔をしてやるオレに夜月は満面の笑顔で向かい打ってくる。
《昼飯、期待してるからなっ♪》
マトマの実とやらを口に押し込んでやろうか。
夜月がさらに何か言おうと口を開くが、紅蓮のため息がそれを防いだ。
《夜月殿、もういい加減にするんですな。ユウト殿、目的の物はどうするんですかな?》
《お前もさっきまで参加してたくせにー》
夜月の抗議は無視してオレは預かり物を鞄から引っ張り出す。
そういや・・・。
「・・・そういや、どうすればいいのか聞いてねぇな。カンナギにとしか聞いてない」
《・・・え・・・じゃあ、どうするんですかな?》
「アヤが押し付けて走り去ったんだ。オレはこれが何かも知らん」
根本的な疑問に我ながらため息をつきたくなる。
これ、どうすればいいんだ?
《あそこで聞いてみればいいんじゃねーの?》
「ぅおっ!・・・急に乗っかってくるな、危ねぇだろ」
《俺は疲れた。ほら、あそこだよ。ユウトの苦手なとこ》
《あぁ、なるほどですな》
突然肩に飛び乗ってきた夜月が指し示すのはまばらな建物の中で一際目立つ赤い屋根。
つまり、ポケモンセンター。
確かにカード等諸事情によりオレはあそこが苦手だ。
・・・つかこの服血まみれなんだが・・・・・大丈夫だろうか。
ぼーと突っ立ってるよりマシだろ、と言う珍しくまともな夜月の言葉を採用して歩き始めた。
入り口から向こう側が見えるくらい狭い町・・もう村だな。道は舗装された様子はまったくなくまるきりあぜ道状態、家屋も数えるほど。町の中央部が谷の様にへこんで広場になっている。
町を見渡しながらとにかく歩いているが、賑っている様子も無く本当に何もなさそうな町だ。
《つまんねー町》
夜月がもらす言葉は失礼極まりないが、反論をする気はない。
紅蓮も同意見らしくちょっとこちらを見て苦笑いを浮かべた。
センターまであと半分無いくらいの距離、オレは階段の前にいたばあさんの後ろを通ろうとして、
「ちょっと、あんた」
「・・・はい?」
声をかけられた。
下の広場に降りる階段の前で何かを見ているばあさんがいるのにはとっくに気が付いてはいたが、まさか声をかけられるとは。オレは通り抜けようとした体勢そのままで固まるしかない。
かなりの年らしいそのばあさんはこちらを上から下まで品定めするように見て、
「この町のもんじゃないね。旅の途中かい?最初、ポケモンだけがいるのかと思ったよ」
「はあ、まぁ」
夜月が肩の上で笑っているが、もういつものこと過ぎて反論する気にもならない。
適当に相槌を打つ。
「服が血まみれじゃないかい。どうかしたのかね?・・・・あれまぁ、その手の中のもんは!」
「これをご存知ですか?」
びっくりしたように声を上げるばあさんにオレはアヤから預かった物を見せ、言葉を続けた。
「シロナと言う人からの預かり物なんですが、どこに届けたらいいのか知らなかったので」
「これはね、昔々のおまもりさ。時々見つかるものなんだけどね。そうかい、シロナがねぇ」
昔を思い出すように目を細めるばあさんはオレからそのおまもりを自分の手に取る。
なにか、思い入れのあるものなのだろうか。
「わざわざこんな町まで届けてくれたのかい。ありがとうねぇ」
「あ、いえ・・」
アヤから押し付けられたものです、とは流石に言えない。
何か言うべきかどうするか迷っていると夜月がオレに声をかけてきた。
《なー、ユウト。あれあれ》
「どうした、夜月」
夜月に示されるまま目線を広場にまで移すと広場の一番奥、ぽっかりと開いた洞窟がある。
洞窟入り口の両脇の壁には何か桃色と紺青色の動物のようなものが1匹づつ描かれていた。
《あれの中、入ってみたいだろ?》
別に。
《入ってみたいよなぁー?ゆーと》
いや、まったく。
《なぁなぁなぁってばー》
寧ろ、一人で勝手にどうぞ。
オレが黙っているとその様子を不審に思ったのかばあさんは声をかけてくる。
「どうしたのかね?」
《あれの中入ってみてーんだって言ってくれ》
「・・・・・あの洞窟、なんですか?」
違うってばー!と言う夜月が肩に突き立ててくる爪の痛みをこらえながらオレは聞いた。
するとばあさんは洞窟の方に目をやりながらにかっと笑う。
・・・・・元気なばあさんだ。
「気になるなら見ておいで。壁画があるだけだけどね」
「はあ、どうも」
何があるかわかったのに行くというのは時間の無駄の気がしたが、夜月はさっさとオレの肩から飛び降りて走って行ってしまう。これではオレは行くしかない。
オレは紅蓮に声をかけた。
「紅蓮、来いよ」
《毎度毎度の事ですな》
「自分の欲望に忠実なやつだからな。
・・・・・ありがとうございます、見てきます」
とりあえず、笑顔のばあさんに礼を言ってからオレは壁画があるという洞窟に入った。
「夜月、何があるんだ?」
《つまんねー。何にもねーよ》
「お前が入りたいと言ったんだろうが・・・」
熱しやすく冷めやすい夜月はもうすでに飽きたらしい。
まだ入ってからほんの30秒ほどなんだが。
《ユウト殿。これですな。壁画》
「は?・・・あぁ」
紅蓮に言われるままにオレは壁に目をやるが何が書かれているのかいまいち分からない。
円を作るような3つ・・3匹の何かとその中心に何か。まるで『かごめかごめ』だ。
もう少し目が暗さに慣れれば何か見えるのかもしれない。
sideシロナ
「おばあちゃん!」
そんな声は長老であるその人の耳にしっかりと届いていた。
太陽がまぶしいのか目を細めながら見上げ、声の正体がわかったのか大きく手を振る。
金色の髪をなびかせて町の中央、広場になっている所にトゲキッスに乗ったシロナはかろやかに着地した。
駆け寄ってくる祖母にシロナ自身も手を振りながら駆け寄る。
「おばあちゃん、久しぶり!ごめんね、来るのが遅くなって。こっちもいろいろ調べてたの」
高揚を感じ取れるシロナの声に、しかし祖母である長老は答えなかった。
「おばあちゃん?」
不安になって祖母の顔を覗き込むと、祖母は無言で手の中のおまもりを見せてくる。
「自分で届ければよかっただろうに。人を使うことを覚えるんじゃない」
「ご、ごめんなさい・・・」
その声は間違いなく怒りを表しており、シロナは自分が竜の逆鱗に触れてしまった事に気が付いた。
「そっちに行くって言うから・・・ついでに頼んだの・・・」
ちなみに、アヤはそんなことは一言も言っていない。
これは完全にその場逃れの嘘で子供の言い訳そのもの。
だが、ポケモンリーグのチャンピオンだろうと人間。怖いものはあるのだ。
シロナの言葉に祖母はふっと息を吐き出して言う。
「さっき来たよ。お礼を言っとくんだね。壁画のとこさ」
シロナはさび付いた笑顔で頷き、そさくさと祖母から逃亡を図った。
「アヤちゃん?」
奥に向かいながら出したシロナの声が洞窟に響く。
答えは、ない。
おかしいわね、と思いつつ奥まで着いた所で・・・・シロナは一瞬誰もいないのかと思った。
「あぁ、やっぱりアヤに頼んだのはシロナさんだったんですか」
「!?」
突然の声に、シロナは答えることが出来ず声の方向を凝視する。
ウインディとブラッキーを引き連れた少年が暗がりに溶け込むようにその場にいた。
2010.7.16 01:34:17 公開
2010.7.28 16:20:45 修正
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