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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

122.sideダレカ 真紅[フタリメ]

著 : 森羅

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side夜月(ブラッキー)

《誰だ・・・?》
「どういう答えが欲しいのかな?」

俺の鋭い声にそいつはどこまでも柔らかい声で返す。
ユウトが自分で傷つけた手の甲の血を舐め取って。
・・・・・頼むからユウトの顔でそんな笑い方をしないでくれ。心なしか悪寒がする。

《そのままの意味ですな。貴殿は誰なんですかな?》

別の意味で言葉が続かない俺に代わって今度は紅蓮の言葉が飛んだ。するとそいつは紅蓮の方を向いてさっきと同じように笑う。

「じゃあ、とりあえず『初めまして』。僕は・・・どういえば良いのかわからないな」
《ユウトじゃねぇんだろ?》
「微妙な所だね。・・・・こっちは何て言ってた?」

左目を指差しながら、『微笑む』そいつ・・・ユウトの顔で。
・・・・あー、ユウトが『僕』って言ってる。俺の頭、崩壊しそう。
つか、下手したら左の深紅よりお前の方が怖い。

ユウトがさわやかに笑ってる・・・。『僕』って言ってる・・・・・。

《夜月殿。呆然としている場合じゃないんですな》
《ぉう・・・・分かってるけどな・・・・》

なんか、ショックが大きすぎる・・・・。
だが、まぁ。

《そうだよ、それも含めて聞きたかったんだよ。お前が誰なのか。何なのか》

気を取り直して俺はさっさとそいつに言う。
そいつは、

「いいよ。僕が答えられる範囲で君の質問に答えよう。
ただし、彼らの手当てをさせてもらうよ」

赤色の辺りを見渡して哀しそうな目で笑って答えた。



「で、何から答えればいいのかな?」

慣れた様子でポケモンの傷口の手当をしながらそいつは俺達に話しかけてくる。
今、そいつは膝の上にポケモンを乗せるために地面に座り込んでいるので目線が合うのは俺のほうだ。俺と紅蓮は目を合わせてから、・・・・雰囲気で先に俺が聞く事になった。

《じゃ、まず最初の質問に戻るけどさ。お前誰なんだ?》
「だから、こっちは何て言ってたのかな?」

こっち、と言うのは左目。ソノオのときの深紅の話なんだろうが。
俺は素晴らしいほどの記憶力を駆使して答えた。

《『俺は俺以外何者でもない。俺はこいつでこいつはあいつ。それだけの話だ』》
「彼らしいね」
《知り合いなんですかな?》
「さぁ?」

誤魔化すような感じなのに紅蓮も俺も丸め込まれてしまう。
その笑い方はヒキョーだっ!
ふてくされる俺たちを見てフワッと笑うそいつ。

「話がずれてしまうからね。彼がそう答えたならそうさ。適切な解答だよ」
《それでわかんねーから聞いてるんだよ》
「そうかい?でもそれ以上は僕だって答えようがないね。僕たちは人間じゃないし、この子の別人格でもないし。・・・・・ただの零れ落ちてしまった者」

やっぱりよくわかんねー。
俺は紅蓮を見上げるが、紅蓮は険しい顔でそいつを睨んでいた。

《では、質問を変えるんですな。・・・名前は?》
「無いね。この子の名前が使いにくいなら何と呼んでくれても構わないよ」
《無い・・・?ふざけてる、というわけではなさそうなんですな》
「もちろん、ふざけてないよ。僕に名前は無い。生死すらね。ただ、在るだけの者さ」

終わりっ、と膝の上に載せていた手当ての終わったポケモンを放してそいつは次のポケモンを膝の上に載せる。その声は明るかったが、陰があるよう俺に感じさせる。

《・・・お前のこと『真紅』って呼ぶぞ?・・・・それで、だ。在るだけってどういうことだ?お前は一体何なんだ?》
「その質問に答えなきゃならないかい?話がずれるだけだよ。僕について知りたいのかい?彼について知りたいのかい?それともこの子について?」

柔和に笑っているが、口調は結構きつい。追い込まれている気分になっていく俺は目線だけで紅蓮に助けを求めた。気が付けば辺りは暗くなっていて、見上げた空には星が見える。紅蓮はため息の後、俺の代わりに真紅に問い詰めた。

《では、そちらは置いて置くんですな。
次の質問、ユウト殿が時々おかしくなる事があったんですな》
「さっきも危なかったね」

何食わぬ顔して言う真紅。だが、目線をこちらにあわせようとしていない。

《あれは貴殿たちのせいなんですかな?》

紅蓮は威厳をもって厳粛に尋ねた。

・・・・・・沈黙が少しの間その場の主の座に居座る。
もっともそれは真紅の言葉によってすぐに奪還されたのだが。

「僕や彼のせいのもあるし、そう言い切れないのもある」

真紅の声は静かで、穏やかで、理性的だが、哀しい。
深紅のような荒々しさも激しい感情の起伏も子供じみた無邪気さも、欠片とてない。
だが柔らかい笑顔の中に、感情じみた無邪気さの中に、共通してあるものがある。
それが、

『血の匂い』。
生あるものを殺した事のある独特の眼。

それは深紅と真紅両方の心の奥で飼われている。
それは紅蓮だって気が付いているはずだ。

「・・・どうかしたかい?」

気が付けば、深紅が俺を覗き込んでいた。
俺はかぶりを振って答える。

《・・・いいや。それより、さっさと教えてくれ。ユウトのあれは何なんだ?》
「じゃあ、一番初めにおかしいと思ったのは?」

一番初め?どこだ?
そりゃおかしいと言えばシンジ湖の時からおかしかった。
『契約』なんてできる人間なんか普通じゃねーし。
だが、まぁ、それをおいておくと・・・・。

《ソノオ。深紅のとき》
「あれか。あれはでも・・・・明白だろう?」

・・・言われてみれば。あれはユウトじゃないとわかってる。
じゃ、次だ。次。

《ハクタイ、祭りの時・・それからタマゴのとき》
「・・・・・・・」

てきぱきと即答し続けていた真紅の言葉が止まった。
その様子に紅蓮が更に追い討ちをかける。

《ロストタワーですな》
《それから、〈おもちゃ箱〉》
《後は・・・ヒョウタ殿との試合とスモモ殿との試合ですな》

ヒョウタのとき?おかしかったのか?俺はズガイドスを避けるので忙しかった。
だが、次から次へと出てくる言葉のどれにも真紅は言葉を返さない。
聞こえなかったかのように治療に専念している。
俺は答えを求めて声をかけた。

《真紅》
「・・・・・答えるよ。仲間探しさ。
ハクタイの祭、〈おもちゃ箱〉は同じだよ。あれはどちらかと言うとこの子が起こしたもの。
タマゴ、ロストタワー、公式試合はどちらかと言うと僕たちのせい」
《どちらかというと、とはどういうことなんですかな?》

そこは俺も気になる。『どちらかというと』といわれると逆も関係あるってことだしな。
真紅は肩をすくめてから、

「そのままの意味さ。
僕の影響はこの子に行くし、この子の行動は僕にも責任があるって事」

平然と答えるが、表情は少し険しい。
だが、それはすぐに優しい顔に戻った。・・・・見間違いじゃないかと思うほど。

「はい、これで全部終わりだね」

治療のすんだ最後のポケモンを真紅は放す。
気が付けば血色の湖に沈んでいたポケモンは気配すらなくなっていた。
もっともその鉄くさい匂いは消える事はしない。

「よかったよ。派手に血が出ていたけれど、急所は外れていた」
《ポケモン(俺たち)の生命力を馬鹿にしてるのか?》
「そんなわけがないよ。それでも、理不尽だろう?
何の理由もなくただ『力』を押し付けられたのだから」

すっ、と伸びた手が俺の頭を撫でた。
俺はくすぐったいような感触に首をすくめる。

《何かお前ってユウトっぽくねーなー》

ぼそり、と俺が言った言葉に真紅は目を見開く。

「そうかな?彼のほうが似ていたかい?でも彼ならこの現状に手を出さないよ。
でも、この子なら手を貸していただろう?」

言われてみれば、そうかもしれない。
真紅は手を引っ込めることなくそのままの体勢で紅蓮を見上げて尋ねた。

「質問は終わりかい?」

柔和に笑う真紅に対して紅蓮はにこりともしない。

《まだですな。と言うより詳しい説明を何一つとして貰えてないんですな》
「・・・・・そうだね。でもあまり話したくはないな」
《何でだ?》

俺の声に真紅は俺から手を戻して困ったように笑っていた。

「じゃあ、少しだけ。
この子の思考がポケモンに近いと言われるのは彼らの声が分かるから。
この子が正式な試合でおかしくなるのは僕たちがそれを嫌うから。
そして、それらは繋がっている。
この子はね、極力傷つけないようにしているんだ。生あるものを」

俺の質問への解答ではなく、紅蓮への解答。
ひっかかる言葉は山ほどあるが、真紅はもう答えるつもりはないと雰囲気で分かった。

「僕はこれ以上は話さないよ。話したくない。知らないで欲しいと望んでいるから」
《わけわかんねーことが増えたような減ったような》

俺の答えに真紅が笑う。

「何も起こらなければ良いと、願っているという事だよ。
・・・・あ、今の話はこの子には話しちゃいけない。
じゃあ、『世界に見つからないように』」

ひどく、悲しい笑顔を残して『ユウト』はそのまま倒れこんだ。

sideユウト

・・・・あ・・・・・・?

何が、起こったんだ・・・・・?

何も無い世界。黒と白と生死、それすらもなく時間も空間もはっきりとしない。
ここは。

知っている。
一度・・いや、二度オレは見た事がある。

『狭間の世界』とあとソノオの時に。

・・・・何が起こったんだ・・・・?

【・・・・何が起こったか?そんなこと『知っている』だろ?
知らないふりをして目をつぶって耳をふさいで言い訳を言ってるだけだ】

誰だ?

声だけが世界に響く。
それは世界が声を発したようにも聞こえた。

【『誰だ』なんて、とっくに知っているだろう?】

知らん。・・・・・・あ、いや、ちょっと待て。
紅蓮の時に聞こえた声、か。

【あぁ。そうだが。そんなことを言ってるんじゃねー】

じゃあ、どういう意味だ。

【俺が話しても良いが、そういうわけにもいかねーし。
あーあ、結局あいつの方がぐちぐちと話してるのか。いい加減にしろ】

はぁ?
オレに向けて言ってねぇよな?

【そろそろ戻れ。あぁ、後これだけは言っておく。
お前が目が覚めてから何か変わったことがあっても『気にするな』。
お前にはまだ知る必要が無い事だ。・・・もしかすると一生な】

何だよ、それ。

【気にするなって言ってるんだ。
『世界に見つかるな』よ・・俺が言えるのはそれだけだ】

だからお前は誰だって・・・・。

【わからないのか?お前は俺だって。俺はお前じゃないがな】


どういうことだ、という声は届かなかった。

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2010.7.12  00:35:28    公開
2011.10.2  20:30:42    修正


■  コメント (2)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

コメント有難うございます!!KaZuKiさん!
コメントの返事が遅れてすみません。読んではいたのですが、まとまった時間が取れなくて・・・。すみません。
いえいえ!読んでくださっているだけで光栄ですよ。ありがとうございますm(−−)m

今回出てきた『真紅』はまぁ、今までを読んでくださっている方々なら大方バレるでしょうね・・(苦笑)KaZuKiさんの想像している方で多分間違いはありませんよ。
はい、ケイヤは同一時間軸上に複数居る可能性があります。現状ではあくまでケイヤの予想、想像の範疇ですが。ただ、ネタバレを少し含むでしょうが(ネタバレ不可なら飛ばしてください)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ユウトは同一時間軸上に1人以上はいません。勿論、ケイヤ側の世界に居る本体ユウトを除けばですが。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ケイヤの存在はそんなに大きいですか?いえ、ケイヤも主人公である事は確かなのですが。ですが、それを言うならアヤもユウトももちろん主人公なのです。ケイヤは確かに燐と殺戮者に対する願いをパルキアに願いましたが、それは「会いたい」ではなく、「傍にいて」だったはずですよ?微妙なニュアンスの違いですけど。
ユウトと燐の入れ替えですか・・・。そこはネタバレが過ぎますので控えさせていただきます、すみませんm(−−)m
殺戮者・英雄については確かに彼らはきっかけであり、はじまりです。これ以上は・・・申し訳ありません!ですが伏線はすでにあらかた引き終えました。後は根本にへと遡って見てみて下さい。僕が言えるのはこれだけです。

鋭い考察ありがとうございました!えぇ、もうお好きなだけどうぞです。それと、心配していただき有難うございます。
それでは、失礼を。

10.7.18  14:05  -  森羅  (tokeisou)

どうも、ようやくコメント出させていただきます。
こっちの作品更新に熱入れるため中々来れないですいません、更新は毎日確認してたんですけどね。

今回出てきたのは一体『ダレ』だったのでしょうかね?
まぁケイヤサイドとのつながりを考えれば薄々予想も着くんですが、今回……といよりこれまで思ったことなんですけど、世界が交わったから崩壊を始める。そして同じ存在がいるから片方が弾かれる。
色々と過去に出てきた言葉を考えてみたんですけど。
この世界、とりわけシンオウ側の世界はケイヤ君は同一時間軸に複数いる可能性があるわけですよね?
これそのものも勿論世界にとってまずい、でも問題はケイヤじゃなくてユウト、もしもの仮定ですが、これまでの考察を考えるとユウトも同一時間軸に複数いる可能性はないかと思います。
あと、この世界の中心はユウトではなくケイヤ? 少なくともケイヤはポケモン……燐と会いたいと思いましたよね。
そして黒猫、まぁ死神のようなものらしいですが、あれによって生きても死んでもない存在にされた。(最近忘れがちだけど一応存在は薄いはず)、これは端的考えるとケイヤが望んだものが、世界(パルキア)が矛盾を消すために燐とユウトを差し替えたと考えられます。(まぁこのせいで矛盾が生まれ、崩壊が始まったのかも知れませんが)
正直、殺戮者たちもそれほど重要な存在には感じません。
むしろ彼らはきっかけに過ぎない、それもケイヤを主人公として導く意思に対しての、そういう神の見えざる手のようなものを感じました。

今回は感想より考察多めで申し訳ない。
では、次回もまた期待して待っています!
それとあまり無茶はなさらないように!

10.7.16  16:50  -  不明(削除済)  (KaZuKiNa)

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