![dummy](http://img.yakkun.com/dummy.gif)
生あるものの生きる世界
121.sideユウト 血染めの大地[アカイロ]
著 : 森羅
ご覧になるには、最新版の「Adobe Flash Player」が必要です。 また、JavaScriptを有効にしてください。
sideアカギ
カンナギという町は東西の高低の差からか半分テンガン山にめり込んだ感じになっている。
その町に行こうと思うなら西からテンガン山を突き抜けるルートか東から霧のかかった山を山越えをしなければならない。西からテンガン山を突き抜ける方が楽に見えるが、実際は暗い洞窟の登り道になるため結局どちらを選んでも楽とは言いがたい。
テンガン山の東側、中腹・・・すなわち、210番道路。
「・・・・ふん、くだらん」
べしゃ、とアカギが放した手から何かが零れ落ちた。
大地の色が赤銅色に染まる。
ふと、振り返ってみるとその色に染まっている地面は数メートルにも及んでいた。
この調子では、いつカンナギにつくのやら・・・。
先に目をやってもポケモンが潜んでいる様子はやはり続いている。
面倒な事、この上ない。
彼はその地面に転がってうめいている『モノ』よりも自分の能率を天秤にかけた。
そして、
「クロバット、“そらをとぶ”だ。私自身が行くほどのものではない」
そばを飛んでいたクロバットに声を一声かけると、
「くだらない生き物どもが。逆らわなければ良いものを」
そう吐き捨ててその場を飛び去った。
sideユウト
重い・・・。
時刻は夕刻。今日は野宿になりそうだ。
違うことを考えて重さが和らぐかと思ってみたがやはり、重い。
何が重たいって決まっている。
オレの上に載っている夜月が、だ。
「そろそろ降りろ」
《やだ。俺は疲れた。ユウトのせいで》
「・・・・・」
オレのせいだけじゃねぇと思うが。オレのせいなのだろうか。
結局、あの後無事に誤解を解くことができたオレはカンナギへの近道を教えてもらう代わりに子供を押し付けられた。・・・・もちろんポケモンの。
時刻は昼過ぎ。昼寝をしたい親ポケモンに対してガキどもは元気。
オレに四の五も言わさずポケモンを押し付けていった彼らには拍手を送るしかなく、ていのいい遊び道具にされたオレたちはたまったもんじゃなかった。
チルットはどこかに飛んでいく、ポチエナには引っ張られる、ビッバはオレの上で寝だす、・・・・とにかく大変だった。途中からどうやって対処していったのか記憶が無いくらいに。
もう2、3回あれをやれと言われたらオレは本気で保育士を志すかもしれない。
それはオレのせいだと言われればそうだし、夜月が一緒にはしゃいだせいだと言えばそうなる。
つまり、疲れているのは夜月だけじゃない。オレだって疲れているんだ。
その結論に達したオレは夜月を肩の上から突き落とした。
《痛ってー!何すんだよ!頑張ってただろ、俺は!》
「オレだって疲れてんだ!」
《ユウトはどっちかって言うとどっちでもいいし》
なんだ!?その自己中心的思考は!
つか、お前はその後ずっとオレの肩の上だっただろうがっ。
《わーん。カワイソウな俺。ゆーとがいじめ・・ギャア!》
「ほお。もう1回聞こうか、夜月。何て言った?」
オレは一発目を夜月の頭の上に落とした後、笑顔で聞いてやる。
《ユウトって・・・優しいなぁ!もう》
「・・・・・・」
《疲れてるのに俺を乗っけてくれてありがとう》
「・・・・・・・」
ひどく棒読みだが、とりあえずよしとしよう。
こいつが自分で歩くなら問題はない。
オレが夜月に踵を返して再び歩を進めると後ろで夜月が一言。
《ふんだ。ユウトのいけず。陰険。イジメ》
・・・・・無視することにした。
しばらく歩いてもやはり野宿は決定のようだ。
いくら近道とはいえ、山道。カンナギまでそう甘くはない。
特に嫌だとは思わないが、屋根と布団がある方が断然いいに決まっている。
と、夜月が立ち止まった。
「どうした?腹減たって言ってももう少し歩くぞ」
《ユウト、止まれ。風上に何かあるぞ》
「・・・・・・?何がある?」
夜月の声は本気だ。ここからとぼけるのでないのなら。
風上はオレたちが向かう方向。人間の鼻ではわからない何かを夜月は感じたのだろうか。
《何かある、か何かあった、だ。血のにおいがする》
「血?こんな所でか・・・・・?」
《俺がわけを知るわけないだろ。とにかく紅蓮出せよ。何があるかわかんねーし》
「あぁ、紅蓮」
夜月に言われるがままにオレは紅蓮をボールから出す。
出てきた紅蓮は顔をしかめた。
《なんですかな?血の匂いが》
「夜月の言っている事は嘘じゃなかったんだな」
《おい!どういう意味だ!それ!!》
そのままの意味だが、何か。
まぁ、茶化している場合じゃない事は確からしい。
「とりあえず、行ってみるか」
オレの声に夜月と紅蓮が頷いた。
・・・・・・その場所には血染めの世界が広がっている。
夕暮れ時の沈みかけた太陽が木々まで赤く染めているせいで余計に赤が映えた。
「・・・なんだよ、何があったんだ・・・これは」
オレの声に答えるものは居ない。
ポケモンの血。ポケモンそのものも地上に転がっていて、うめくような声が満ちていた。
「何があったんだ・・・?」
《ここまでなるのは普通のバトルじゃありえねー。
ポケモン同士でもねー。人間の仕業だ。・・・・ヒヨリみたいなやつの》
《・・・ですな・・・》
ようやく口を開いた夜月と紅蓮はそういいながら顔を背ける。
血の匂いがはっきりと鼻を突いた。
「ふ・・・けんな」
《ユウト?》
頭が、真っ白になる。
何がなんだかわからなくなってきた。
悲しいのか、苦しいのか、つらいのか、嬉しいのかそれすらもわからない。
握り締めた右拳をそのまま山の壁にたたきつけると、ぽたぽたと流れでた血がさらに大地の色を変えた。
こんな光景を、どこかで、見た気が、した。
「ふざけんなあああぁあぁ!!殺してやるっ!!!」
世界がオレの声で揺らぐ。
《ユウト!?》
《ユウト殿!?》
「こんな事、こんな事、オレは・・・」
こんな事、何だ?
そう思った瞬間、がくりと体から力が抜けた。
side夜月(ブラッキー)
急に力が抜けたみたいにユウトはそのまま倒れこんでしまう。
とっさに紅蓮が支えなかったら血まみれだぞ、ユウト。
《おい、ユウト?》
《ユウト殿?》
俺と紅蓮が交互に呼びかけてみても返事はない。
これ、まさかまた『あれ』か?
《ユウト?》
ユウトは“殺してやる”とまで言っていた。
アヤならともかくユウトはそんな事を言うタイプじゃない。
どちらかというと、この状況を見てもあまり動じないタイプだ。
なのに、叫んだ。
どう考えても、おかしい。
《ユウト殿?ユウト殿?》
紅蓮がまだ呼びかけているが、『あれ』ならちょっと間は何を言っても無駄だ。
聞こえてない。
が、
すっ、とユウトの目が開いた。
《ゆ・・・》
ユウト、と言おうとして途中で言葉が止まる。
これは・・・。
俺が気づいたのを見越してか『ユウト』が笑った。ひどく、優しい目で。
「ごめん。こんな登場をするつもりはなかったんだけど」
ごめんね、と繰り返しながら紅蓮の支えをはなれる『ユウト』は、
右目が、紅かった。
2010.7.4 15:02:59 公開
■ コメント (0)
コメントは、まだありません。