生あるものの生きる世界
117.sideケイヤ Break time[ティー・ブレーク]
著 : 森羅
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《ということは『トバリのしんわ』には裏があった、とそういうことですか?》
『刀匠』の話をした後、燐は開口一番にそう口にした。
そして、ぼくは燐の言葉に頷く。
「うん、多分ね。それから・・・・・・」
《なんですか?・・・・・・・・・大丈夫ですか?話は後でも構いませんよ?》
ぼくが言葉に詰まったせいだろう燐の心配そうな顔にぼくは笑いかける。
目は少しまだ赤いけど、頭は冷静さを取り戻しているから大丈夫。
でも、・・・・うーん。そうだ。
ふと思い立ったぼくはおもむろに床から立ち上がって自室のドアノブに手をかける。
《どうしました?》
「お茶にしよう」
見上げてくる燐にぼくはにこっと笑いかけた。
燐とぼく以外誰も居ないマンションの一室。
ぼくは真剣そのものの目で丁寧にティースプーンで紅茶葉を測る。
《そんなに丁寧にやる必要があるのですか・・・?》
「あるよ!」
燐の言葉にもぼくは視線をスプーンから動かす事がない。
葉っぱは人数分プラス1がベスト。
ミルクティーならミルクは温めたほうがいいし、インスタントのコーヒーでも入れ方によって全然違う。ちなみにぼくの妙なポリシーに賛同してくれる人は少ない。燐とゆーとをあわせても。
《妙なこだわりですね》
「いいじゃん。ちょっと時間をとったらおいしくなるんだから」
《はいはい、わかりましたよ》
少しあきれたような燐の顔は、見なかったことにしておいた。
しばらくしてやっとできた紅茶を部屋に運んで、燐と2人で一服。
完全に整理の付いた頭でぼくは順番立てて今までの情報を整理する。
「一番最初から順番に考えてみよう。
多分あってると思うけど、意見があるときは考え直すから言って」
《わかりました。どうぞ》
うん、とぼくは頷いて鉛筆で紙に時間軸を書きながら整理していく。
「まず『ぼくの』時間軸は
燐、凪(キッサキ)、パルキアの声、英雄、シロナ(ハクタイの森)、殺戮者、パルキア、刀匠。
あってるよね?」
《はい。この『声』はケイが気絶したときのですね?》
「・・・・うん」
格好悪いからあんまり言わないでほしいんだけどな。
でも事実は事実だからぼくは頷くしかない。
「それから『向こうの』世界の時間軸。それが、
刀匠、英雄、殺戮者、シロナ(ハクタイ)、凪(キッサキ)。
だとぼくは思う」
《英雄と殺戮者のあの者の時間軸はあの時聞きました。
ですがどうしてハクタイ、キッサキの順なのですか?》
燐はシロナと凪のところを指差しながらぼくに聞いてくる。
ぼくはちょっと考えてから答えた。
「考慮の基準はシロナの動向。キッサキ、ハクタイの順番だとシロナの動きがおかしい。シロナは仮にもリーグ本部の命令で動いてるって話だったのに、キッサキのエイチ湖にギンガ団が来てからハクタイのマグマ団から情報を奪うなんてあまりに『遅すぎる』からね。もちろんエイチ湖にぼくらが行ったときのギンガ団はただの調査だって言うなら逆の順でもいいんだけど、とりあえずはこうしておこう。逆なら逆でいいや。ギンガ団が『本格的に』動いてないなら順番にとくに問題はないし」
《わかりました》
OK。次行こう。
「じゃ、いままでのぼくらの行動の中での疑問点。それを片付けよう。
まず、燐。何がある?」
《順番に行きましょうか。なぜわたしが『この世界』に、『あの時』に来たのでしょう》
ぼくら・・というよりぼくの『非日常』の始まり。その瞬間を燐は聞いてくる。
ぼくは少し考えた。
ぼくの「望み」が燐を『こちら』の世界に居させてくれる。
でもそれならぼくが産まれたその瞬間から燐が居てもおかしくない。
ぼくが「願った」のはぼくがこの世界に生まれるよりも前なんだから。
でも、どうして『あの瞬間』だった?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うーん。
世界はバランスを取ろうと必死になっている、ってパルキアは言ってた。
だから、ギリギリ、つまりぼくが「望ん」だその年齢まで引き伸ばした・・・・?
・・・・うーん、ちょっと違う・・かな。それならもっと遅くてもいいし、ぼくが真実を知るために「向こう」に行ったときでもよかったはず。
『あの時』なにか変わったことでもあったっけ?
「・・・・ゆーと・・・・?」
《どうかしましたか?》
なんとなく口に出た言葉を燐が返してくるけどぼくは首を振った。
・・・・・・・ううん、違う。
ゆーとが事故にあった、それが2つの世界に影響を及ぼすとは考えにくい。
それを言うなら交通事故が起こる度にポケモンが目撃される事になってしまう。
じゃあ・・・・?
「場所は・・・、病院、だったよね」
《はい》
じゃあそっちかな?バランスが悪くなった事でいたるところに開いた穴。
病院にも開いたとして、それに乗じて燐がこっちに来てくれた・・・・・。
・・・うん、こちらの方が現実的だ。
ぼくはそれを燐に話す。
燐はしばしの沈黙の後、
《『仮説』・・としておきましょう。では次ですね》
「うん、次は?」
《そうですね・・・キッサキの町の時間の流れはどう思いますか?》
「燐が後から教えてくれたやつだよね?ぼくが湖に落ちたときの」
《そうです》
ぼくは紅茶に湯気に息を吹きかけてから一口。それから紙に目を落とした。
「・・・タイムリミットがあるとか・・?」
思いつきを口にしながらぼくは鉛筆でキッサキのところをコツコツと叩く。
燐はそれに首をかしげた。
《時間制限ですか》
「世界に与える影響を抑えるための、って事と考えたらつじつまは合うよ」
《・・・少々引っかかりますね・・・・》
うん、確かに説得力が足りない。どこが足りないのか具体的に言うのは難しいけど、なんだか納得がいかない。抽象的過ぎて捕らえどころがないんだ。だからしっくりこない。
ぼくは目を時間軸を書いた紙に落としながら考える。
ぼくにとってはキッサキは『過去』だ。
でも、『向こう』の世界を基準に置いたら・・・・・・?
『ですがどうしてハクタイ、キッサキの順なのですか?』
さっきの燐の問いにぼくはなんて答えたっけ?
・・・・・・・・・あれ・・・。もしかして?
「違う!」
《え?どうしました?何が違うんですか?》
いきなり声を上げたぼくに戸惑う燐の声はぼくには聞こえていなかった。
ぼくは鉛筆で紙に書いた時間軸、その2つのキッサキを結ぶ。
キッサキとキッサキは斜めのラインとぼくの頭の中の仮説が結ばれた。
「『未来』だよ、燐!『ぼくら』はもう1回『あのキッサキの時間』を迎えるんだ。
こっちの時間軸だとあのキッサキは『未来』に当たるとしたらつじつまが合う!
『ぼくら』が過去のぼくらにキッサキで出会うとしたら?
キッサキで時間軸が交差したとしたら?
同じ世界に同じ人間が2人いるわけがない。それは矛盾になってしまう。
だから、『ズレ』た。最初の、ぼくらにとっての『過去のぼくら』が飛ばされて矛盾を消した」
時間軸はすでに『あちら』と『こちら』でズレが生じている。
だからパルキアはタイミングを合わせてぼくらを適切な時代に送っていたんだから。
だったら、この仮説はおかしくはないはず。
燐は少しだけ考えてからぼくに聞いてきた。
《つまり、『わたしたちにとっての』過去のわたしたちがキッサキに行った時、同時に『わたしたち』もキッサキのその瞬間にいる、ということですか?》
「言い換えれば、ぼくらが凪と出会った時、『未来のぼくら』が同時にいたってこと」
あくまで『仮説』だよ、とぼくは付け加えながら思考顔の燐にお茶のおかわりを注ぐ。
燐はそれにお礼を言ってくれながらこう言った。
《それでは、それほどまでにこの世界は危ういのですね》
返せる言葉はぼくにはない。
苦々しさを紅茶で飲み込みながら、ぼくははた、と気が付いた部分を見つけた。
湖に落ちたときに頭をよぎった『約束』という言葉。
あれはその時間軸の錯綜の中で起こったフィードバックのようなものじゃないかな。
歪んだ時空、出会うはずのない世界とヒトの中で、ぼくは確かに祈ったのだから。
《ケイ?》
「ぅん?あっ、ごめんごめん。次だね。次は・・・」
燐の声に現実に戻ったぼくは紙に目を落とす。ぼくらの順番で言うなら次は英雄。
パルキアの分はとりあえずは完結しているしね。
といっても・・・。
「変なとこは・・・・刀匠のイメージくらいだよ」
《・・・なんですか、それ?》
あ、燐には話してなかったっけ。
英雄のところに行く時に一瞬聞こえた鎚を打つ音と男の人の声。
あのときはわからなかったけど、あれは『刀匠』だ。そして、あれもきっと湖の時と同じような時空の交差によって混ざった景色だと思う。
燐にそう説明してから思いたって英雄、刀匠、殺戮者を鉛筆でひとつの丸の中に収めた。
「・・うん。英雄、刀匠、あと殺戮者の彼については同じものとして扱おう。
そっちの方が理解が簡単だと思うよ。・・・この3人を一気に片付けるとして」
《剣を作った『刀匠』。剣を使った『英雄』、剣を振るった『殺戮者』・・・・。
では、『どうしてわたしたちが出会ったのは彼らだった』のでしょう?》
「え、それは・・・・・」
燐の純粋な疑問にぼくは答える言葉を持たない。
『刀匠』はともかく残りの2人についてパルキアは何と言っていたっけ?
『お前の見た2人の人間。あれらは罪人。だが、あれらはその一部でしかない』
一部。そう確かに一部といった。
ならどうして『彼ら』に限定されたんだろう?『他の誰でもよかった』はずなのに。
しばらく考えてみるけどまったく思いつかない。
だからぼくは素直に白旗を揚げた。
「わかんないや。ごめん、保留しておいて」
《まぁ・・・確かにデータが足りませんね》
燐はそう完結させてカップの紅茶を器用に飲み干す。
美味しいですね、とつぶやいた燐にぼくはにっこーと笑った。
そして紙の上で鉛筆を順番に叩いていって燐に聞く。
「こんなものかな?」
《いえ、後一つ》
「何?」
《『殺戮者』の行方ですよ》
燐はまっすぐにぼくを見ながらこう言葉を紡いだ。
ぼくは燐の言葉に『殺戮者』と書かれた所をコツコツと叩いてみせる。
「・・・近くに居るはずなんだけど。でも『居ない』って言ったんだよね、パルキアは。
『居る』んじゃなくて『在る』んだって。どういうことかなぁ・・・?」
いるけどいない。
いないけどいる。
『近く』の範囲だって分からない。それは一番近しいのは燐になるだろう。
けど、燐と彼を一緒にはできないよね、流石に。
ぼくは頭をがりがりとかいてから鉛筆を放り投げた。
「そっちも保留ーー!わからないよ。
ぼくの周りの人間が一体何人いると思う?『多すぎる』。
もっと明確なヒントがないと絞るに絞れない」
《まぁ、それもそうですね・・・・》
燐は小さくため息をついたみたいだ。
失望させたなら、ごめんね。
「頭の整理にはなったでしょ?
分かったのは、時間軸。それからキッサキの話は多分あってると思うよ。自信あるから。
自信がないのは燐のこと。あとは、過去の3人のこと。『彼』の行方」
《キッサキのことは自信がある、と?》
「うん。そっちはね。
・・・ぼくらが『あちら』にいけるのはあと最大で3回だってパルキアが言ってた。あのシロナの様子だと、まだ『ギンガ団』は動いてない。『時間』と『空間』その2匹を呼び出したら駄目なんだ。最後の境界線が切れてしまう」
《『ギンガ団』というのは重要なのですか?それにどこまでゲームと同じか・・・》
「『ギンガ団』の行き着く先がシロナと見つけた“世界創生計画”だって言うならこれは重大問題だよ。どこまでゲームと同じかは・・・わからないよ、もちろんね。でもさ、似てるんだよね」
ぼくは燐を見て肩をすくめてみせる。
「ゲームで見た『アカギ』とぼくが見た『刀匠』が、さ」
ばらばらだったピースが一つの形を成し始めた。
完成していく巨大な『パズル』。
その全体像はやっと見え始めたばかり。確証はどこにもない。
《ところで、ケイ?》
「ぅん?何?」
頭を使って疲れたぼくは頭を休めようと天井を見上げる体勢で目をつぶっている。
《もちろん、片付けはちゃんとしますよね?》
「はい?」
飲み散らかしたティーカップにポット。
スプーンに砂糖にミルク。
《ちゃんと洗ってくださいね?》
あいまいに笑うぼくに笑顔の燐の目は、笑ってなかった。
2010.5.26 15:03:12 公開
2010.6.1 22:29:05 修正
■ コメント (3)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
10.5.29 10:54 - 森羅 (tokeisou) |
こんばんはです、森羅様。やっと好タイミングでコメント出来ました\(^o^)/ と思ったのですが…何だろう、この着いて行けてない感は/(^o^)\ 久方ぶりの拝見でもう忘れてしまったのみたい…後で復習してきますー。 あれ、ゲームの世界にも刀匠って居ましたっけ…大掃除でカセットが消えたので確認出来ん><チクショ- 思い付くとしたらガンテツさんくらいしか(いつの時代だ ナチュラルにゲームと話がリンクしてるのがもう…ね。本家オンリーの私にはたまらんです(( それにしても燐とケイヤのコンビは和む(*・ω・) どっちも可愛いよハアハアh(ry 紅茶は葉っぱで淹れた事ないのでよく分かりませんね; ココア派の私に死角はなかった(キリッ 二つの世界を行き来できるケイヤが一番の鍵となりそうですが、彼の推理が世界をどう変えるのか楽しみにしてまっす♪ ではでは乱文失礼しましたっ! 10.5.28 22:56 - 不明(削除済) (lvskira) |
[編集後記] こんにちは、もしくはこんばんは。 お久しぶりの言い訳コーナーです(本来はいらないはずなのですけど・・・orz) 題名が「休憩」なのに、ひたすらに頭を使いましたね(汗 ケイヤサイドはたまにこう言うまとめみたいな所がないと整理が難しいと思うのですが、(とくに僕が)いかがでしょう? 不明な点、回収でききれていない伏線がございましたら、是非お教えくださいm(__)m ・・・ちなみに。 ケイヤが紅茶について熱く語っておりましたが、あれで美味しくなるかどうかの責任はもちません(ゑ)本かなにか書いてあったと思うのですが、紅茶を葉っぱで入れたことがない&インスタントコーヒーの美味しい入れ方と普通の入れ方での味の違いが分からないので、・・・・・申し訳ありません。 それでは、失礼を。 10.5.28 00:15 - 森羅 (tokeisou) |
着いていけない、ですか?すみませんっっ!本当にすみませんっ!!僕もこれ書いた後に数学のテストを受けたような大ダメージが脳に来てました(意味不明
本当に無駄にややこしくてすみません・・・m(__;)m
あ・・・ゲームの方には刀鍛冶はいません。これは完全にオリジナルです。ケイヤの「ゲームで見た『アカギ』と・・・」のセリフの「ゲーム」は「アカギ」にのみかかっていると思ってくださいm(__)m・・・編集しなおした方が良さそうですね・・・。すみません。
元ネタは全部ゲームですから逆にリンクが成立しないと僕の脳が足りなさ過ぎてお話が作れません^^;気に入っていただけたなら光栄です><
燐とケイヤのコンビは燐が目だって良いですー。ユウトやアヤは他にもポケモンがいるので夜月、スピカが目立ちにくい(特にスピカが・・・)ほんと、どっちも可愛いよ(馬鹿か
紅茶はね・・僕は全部インスタントですね(断言)これで淹れたら美味しいのか、味覚が良い人は是非って感じです(人任せ
ハミングさんはココア派ですか。美味しいですよねー。冬場によく飲みます。バンホーテンが美味しいと散々友だちに言われたのにまだ試していない僕・・orz
そうですねぇ・・・。2つの世界のどちらも行き来していてなおかつゲームの世界を知っているケイヤはお察しどおり最後一番鍵になる(目立つ)ポジションです。彼を入れると状況把握が早いので楽ですしね(便利屋か
それでは、コメント有難うございました!
P.S.ポケメは日曜日(以降)に返せると思います。
それでは、失礼を。