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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

116.side??? 刀匠[カヌチシ]

著 : 森羅

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ケイヤ君が見るのは、あまりにも哀しい「過去」。

だから、ここはボクが語って聞かせよう。
・・・いいよね?
記憶の鍵をひとつ開けて、
色褪せることない書物の頁を紐解いて、

ボクが保管してきた記録を、


  そっとお見せいたしましょう。


    *   


昔々、ヒトとポケモンが同じモノだった頃、
ヒトとポケモンの契約が存在していた頃、
一人の男がおりました。

その男は素晴らしい才能をもっていました。
それは、

「創り出す」ということ。

それは無限の力でした。
男はその力を使い、さまざまなものを生み出すことができました。

その様、まさに「神」の如し。

ヒトビトは男を崇め、畏怖しました。
そう、
崇めつつも、称えつつも、

「異質なもの」として扱ったのです。
ヒトにはできない事をできるその男を、

心のどこかで「恐怖」してしまっていたのです。

間もなく、男はそのことに気がつきました。
ヒトが自分を「否定している」事に。
ヒトが自分を「認めていない」事に。

そのときから、男の心は歪曲してしまいました。
そして、あまりにも歪んだ「願い」をもったのです。


『自らの力で「神」を創ろう。私が神だ』


それはあまりにも狂った願いでした。
あまりにも傲慢な想いでした。

けれども、男はそれを成し遂げてしまったのです。

星降る山(トバリ)に落ちた「星の石」。
荒れた大地(ソノオ)の久遠の「風」。
炎と、水と、木々を使って、
呪詛にも似た言葉で生あるものを呪いながら、

男は「剣」を、「感情無き器物」を創りました。
この世界に「変化」を与える事を望んで、

剣に槌を振り下ろし(命を与え)ました。


   *


そして、その後。
そこから生まれたのは、ご存知の通りだけど、

ひどく不器用でひどく悲しい「神々(ニンゲン)」。

彼らは命を奪う事はできても与える事はできず、
己か誰か、そのどちらかしか護る事ができなかった。

悲しみは消えることなく、狂気は空気に溶け込んだ。
流れる赤は大地を汚し、かつての契約は時と共に掻き消えた。

彼らは誰かに己の正義を押し付けねば戦う事ができず、
己の正義を否定する事でしか自分を保てなかった。

慟哭の叫びも阿鼻叫喚の声も聞き飽きてしまった。
叶わぬ願いも届かぬ祈りも数えるのを止めてしまった。

「神」は無力ではなかったが、ある意味では誰よりも無力だったのだ。


・・・・・・・え?
その話が一体何を意味するのかって?
その後「剣」はどうなったのかって?

これはね、とある真実。
時の流れに風化することなく保存された物語。

順番に答えよう。
この話が一体何を意味するのか。
必要なければいいな、と実は思っているんだけどね・・・・。

君達が「コレカラ」を知りたいなら、これはきっと知らねばならぬ物語。
君達が「コレカラ」を望まないなら、これはきっと知っても意味無き物語。

ボクが答えられるのはここまでだ。
あとは君達自身で知ることが出来るだろう。
そして、
その後、「剣」がどうなったのか。
これは君達もご存知のとおり。
剣は消えた。血塗られた歴史は幕を閉じただただ過去の事象として残るのみ。
だから、きっと君達が知りたいのは「結果」ではなく「経過」でしょ?
ボクが言うことは抽象的かもしれないけれど、

剣を創った男は「変化」を望んだ。
剣を使った少年は「未来」を願った。
剣を振るった少年は「祈り」を掲げた。

ただ、それだけの、「偶然」と言う名の何かだよ。

sideケイヤ

《ケイ!?大丈夫ですか?どうしたのですか?》

心配そうに覗き込んできてくれる燐にぼくはいつのまにか自分の部屋に戻ってきていた。
ぽろぽろと止まる所を知らない涙がどうして出てくるのかぼくは知らない。

悔しかったんじゃない。
悲しかったんじゃない。
つらかったんじゃない。
そう、きっとこの感情に名前をつけるとしたら、

寂しかったんだ。

ぼくが見続ける傍ら自らの命を剣に注ぎ込んで鎚を打ち続けたあの男(ひと)は、

悲しくて寂しくて、つらくて。
でもそんな感情を知らなかったんだ。
だから、その感情を履き間違えた。

これは憎しみだと。
これは嫌悪だと。

《ケイ?どうしたのですか?何があったのですか?》

再度聞いてくる燐にぼくは首を横に振る。
見ていることしか出来なかったぼくに泣く権利はないんだから。

《ケイ?どうしたのです?ケイ?》

今回のパルキアが送ってくれた時代ではぼくは『何も出来なかった』。
触れることも、話すことも。ぼくがここに居るという事を誰も感知してくれなかった。
だからぼくはあの男(ひと)に何も伝えられなかった。
伝えたいことも、伝えれることも、きっとあったはずなのに。
ぼくは『見ていること』しかできなくて。まるで映画でも見てきた気分だ。

《ケイ?》

燐にも話さなきゃならない。
パルキアと話したことも、剣の、『トバリの神話』の始まりも。
ぼくは燐と目を合わせた。

「ごめんね、燐。すぐ泣き止むから・・・」
《いいんです》

だから大丈夫だよ、と言いかけたぼくに燐の声がそれを遮る。
びっくりするぼくに燐はまっすぐぼくを見上げた。

《泣いていいんですよ。もちろん、笑っていて欲しいです。
ですが、それはわたしのエゴですから》

燐の赤色の目がこれ以上なく優しく笑う。

《だから泣いてください、降る雨と同じくらい泣けばいいんです。
それで、また笑ってくれるのでしょう?》

あまりの事態にぼくはきょとんとするしかない。
でも、ちゃんと言葉の趣旨は理解したよ、燐。

ぼくは燐に抱きついて黄昏色の中で泣いた。
少しだけ、少しだけ、あとほんの少しだけ。

泣きたくて、でも泣くことすら知らなかったあの男(ひと)の代わりに。

ぼくは初めて、

優しい涙もあるのだと分かった。





































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2010.4.30  00:17:10    公開
2010.5.14  00:26:43    修正


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