生あるものの生きる世界
107.sideケイヤ 千夜一夜物語[アラビアンナイト]
著 : 森羅
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side燐(キュウコン)
どうしてあのような軽率な行動に出てしまったのでしょうね・・・・?
自分が切られた時を思い起こしてそう思う。
ただ、あの一瞬、守らなければ、とそう思っただけ。
自分よりも・・・自分の命よりも、彼を大切に想ってしまったから。
それはきっと、ひどく短絡的な答え。
笑ってしまうほど、単純な理論。
そう、
理屈なんて『どうでも良かった』のですから。
理屈でもなく、合理的な答えでもなく、ただ・・・言葉に出すのは恥ずかしいですが、
惚れてしまったのでしょう。
あの頼りない笑みを浮かべるケイに。
自分よりも何よりも、
どのような傷を体に受けようとも、彼を大切に想う、と。
ただ、ただそれだけの、たった一つのわたしの『正義』。
それがわたしを動かしたのです。
sideケイヤ
目の覚めない燐をぼくは見つめ続ける。
彼が付けた火だけが、唯一の光源。夜の闇はぼくの時代よりも紫に深い。
寝るなんてとんでもなかった。というか、寝れない。
ゆーとのときと同じ。眠たいはずなのに、寝れないんだ。
上を見上げれば明かり取りの穴から夜の闇が覗く。かなり夜も更けたみたいだ。
「・・・お前はいつまで起きてるつもりだ?」
「燐が起きるまで」
彼の嫌そうな、眠たそうな声にぼくは即答する。
鞘に収まった剣を抱えるようにして座っている彼の眠そうな顔が炎に映えた。
・・・そういえば、どうして彼は寝ないのかなぁ?寝ていいのに。
ぼくは素直に疑問を口にした。
「寝ていいよ?ぼくは起きてるから」
「馬鹿か、お前。お前が起きてて俺が寝れるわけがねーだろうが」
・・・・あ、そっか。彼は誰も『信用してない』んだ。
だから、ぼくが寝首をかかないように起きてるってこと・・だよね、この言葉の意味は。
「ぼくは君に何もしないよ。燐を助けてくれたしね。だから、寝ても何もしないよ」
「信用出来るか」
ぼくの笑顔にふん、とそっぽを向いてしまう彼。
それは、まるで野生動物そのもの。
うかつに手を伸ばせば、間違いなく牙をむかれる。
仲良くなるには、どうすればいいんだろう?
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・ゆーとの方が詳しそうな話だなぁ・・・。
根っからの都会人であるぼくは動物相手には手が出ない。
比較的外で遊ぶ方が好きだったゆーとの方が絶対詳しい。
本人に言ったら「知るわけがないだろ」と怒られそうだけど。
そんなことを考えてうっすらと笑うぼくに彼はいぶかしそうな目を向けた。
「なんだ?」
「何もないよ。・・・・・ね、せっかく起きてるんだったらちょっと話さない?」
「・・・・・・なんでだよ・・・」
ぼくの我ながらいい提案に彼は脱力する。
ただ、燐が起きるのを待ってるだけの時間はもったいないって思うだけなんだけどな。
ぼくはそれを彼に伝えた。
「せっかく起きてるんだし。眠たい目をこすっているよりはよっぽどいいと思うよ」
「話すことなんかねーよ」
彼のみもふたもない答えはすぐに返ってくる。
けど、そんなことはない。会話はコミュニケーションの第一歩だ。
ぼくはこの『野生動物』と仲良くなるべく彼の言葉を無視して質問した。
「ね、君はどうして戦うの?」
「・・・もう、答えただろう」
「・・・・あ、・・そうだったね」
かつて、英雄にもした質問に彼の表情がわずかに揺らぐのが見える。
彼は戦っても何も残らないとそう言った。
残るのは罪だけだと。そして、その罪は消えないと。
でも生きるために彼は戦ってる。彼が守るのは自分だ。
「じゃあ、ちなみに聞くけど・・・・それって血?」
ぼくは彼の下の辺りが黒ずんだ着物じみた衣服を指差してさらに聞いた。
彼はぼくの質問に答えた方が楽だと分かったのか、ため息を一つ。
「あぁ。・・・血の色が赤だとでも思ってるんじゃないだろうな。
血の色は黒さ。罪の色のように受けるごとに黒く黒く染まっていく」
獣じみた笑みを顔に彼は答えてくれる。
ぼくはそれに曖昧に笑ってさらに聞きたいことを片っ端から聞いていくことにした。
「君は追われてるって言ったよね?あの男の人たちは君を追って来た人だって。
どうして君は追われてるの?」
「何をいまさら。・・・・・・・人を殺したからさ」
「・・・ぁ・・・・」
そっか。そうだよね。人を殺したら、それは罰せられるよね。
ぼくはそんな単純な事にも頭が回らなかった事を後悔した。
でもさ、それって・・・。
「殺して、追って来た人を殺してたら、永遠のサイクルだよね?」
「さいる?」
さいる?・・・・あ!彼にカタカナ英語は通じない!?
それはそうだ。だって彼は昔の人なんだから。
でも、軽くジェネレーションギャップを受けるぼく。
仕方なく日本語で言いなおす。
「あ、ごめん。えーと、つまりずっと続くよね?」
「そうだが。じゃあ、俺に死ねと?」
「そんなこと言ってない!」
きょとんとした顔であまりにあっさりという彼にぼくは全力で否定した。
だって、誰にだって生きる権利はある。生きる義務もある。
それくらいぼくにだってわかる、・・・わかるけど・・・・。
ぼくの内心の引っかかりを見透かしたように彼は剣をもてあそびながら、笑った。
「そうさ。ずっと続く。殺しても殺してもまだ殺さなければ生きれない。
それがこの世の理。この世の理屈。俺はそう教わった。
だが、それってどうなんだろうな?俺は時々不思議に思うんだ。
人を殺してまで、生きているものを殺してまで『俺』が生きる必要があるのか?
じゃあ、俺が死ねばいいのか?俺は死ぬべきなのか?
だが、結局は俺を殺してもその因果は断ち切れない。どこかでまた生まれるだけだ」
「・・・・・・そうだね・・・・」
ぼくはそれだけやっと答えた。
そうだ。
ぼくに剣を突きつけながら、彼は言ったんだ。
生き残ったものが正しいと、でも生き残ったものも敗者だと。
そうしなければ、『生きれない』と。
ひどく悲しい現実。
彼は自分の罪を『否定しない』。
悪だといって笑ってみせる。
けど、
自分の『生』には、疑問を感じているんだ。
本当に、生きていて良いのか、と。
本当に、そこまでして生きる権利があるのか、と。
剣を抱えるようにしてうずくまる彼は、
ひどく幼くて、
まるで剣にすがりついているようにも見えた。
side???
千夜と一夜の物語。
輝く星は過去を謳い、未来を想う。
正しき理屈は存在しない。
悪しき世界はどこにもない。
きっとそれは、誰よりも、
キミが知っていることだろう?
どんなに悲しい現実でも。
2010.3.24 00:18:20 公開
2010.3.24 13:39:29 修正
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