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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

106.sideユウト 昔話[ムカシバナシ]

著 : 森羅

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何が悲しくて、オレはこんなことを・・・・。

今はアヤが嵐のように走り去ってしまってから、約3時間経過したところ。
「働かざるもの食うべからず」というスモモの一声でオレはなぜかこの混沌化した家を掃除させられる羽目になった。
料理などほとんど出来ないので仕方がないが、アヤが作りかけていた『料理』は多分食卓にはあがらないだろう。米を泡だて器で砥ぐな。しかも水吸いすぎて粥になってたぞ。手伝っていた紅蓮の顔が引きつっていたのをオレは目撃済みだ。

雑巾を絞りながら、オレは他の4人の面々を盗み見た。
いわゆるジムトレーナーの皆様なわけだが、4兄弟でそれぞれげっそりとした顔をしている。
・・・・・・・・・気持ちはよくわかる。オレは心から同情した。

このジムがこんな行き過ぎた少女趣味状態になったのには深くも浅くもない理由がある。
この4兄弟に半泣きの顔でその聞きたくもない理由をつらつらと聞かされたオレは、聞き終わった後曖昧に笑うしかなかった。
一言で言ってしまえば『賭け』らしい。しかもひどく理不尽な。
確かにアヤが『罰ゲーム』と言っていたが気になっていたのだが、つまりそれがこの桃色一色の理由となるということだ。
簡単に4兄弟の話を要約すると、ノモセというところのジムリーダーにスモモが手合わせを頼み、その結果として敗北。そして今の状態、ということなのだが。

「向こうの方がジムリーダー歴も長いし、プロのレスラーなんだぞ!
スモモはアマなんだ。なのにどうしてこちら側『だけ』罰ゲームが付く!?」

『だけ』を強調しながら手に握り拳を作って熱く語るジムトレーナーの皆様にオレは心から合掌。
その被害をオレもしっかり被っているのだから他人事ではないのかもしれないが。
そんなことを思いながら絞った雑巾を広げていると、後ろからつつかれている感触。

《なぁなぁ、ゆーとく〜ぅん。俺、腹減ったんだけどな〜?》
「黙れ。お前も勝手に布団の中に入ってくるんじゃねぇよ。
しかも何時まで寝てたと思ってる?」

オレは後ろも振り返らず夜月の声に即答する。
だが、それでひるむ夜月ではない。

《あー、ひっでーなー。せっかく『可愛い』俺が添い寝してやったのにー》

可愛いを強調する夜月にオレは白い目を向ける。
お前の『どこが』可愛いんだ?
どちらかというと、悪夢を見るぞ。

オレは言葉の代わりに絞った雑巾を夜月に振り下ろした。

sideシロナ

「で、その成果がこれなの?」
『そうよ。文句はないでしょう?
貴女のお望みどおり、アカギ様の入手した資料。その全てよ?』

ミオの町。港町の磯の匂いがシロナの鼻を突く。
彼女は携帯電話の話し相手の声に聞こえるよう大き目のため息をついた。

「あきれたものね」
『あら?どういうことかしら?』
「あなたのことよ。短時間でここまでやるなんて・・・」
『・・・ほめ言葉として受け取っておくわ。もっともあの騒ぎがなかったら難しかったけれども』

電話の向こうの余裕っぷりは健在。
シロナの皮肉めいたセリフも全て丸め込まれてしまう。

『それじゃ、もちろん私の条件、呑んでくれるのかしら?』

相手がうっすらと笑っていることが、電話からでもわかった。
対するシロナは苦虫を噛み潰したような顔で答える。

「・・・・わかったわ。あなたのアクア団とギンガ団に入団していた頃のデータを全て消去しておく、それでよかったのね?」
『そう。お願いよ。約束を破ったら・・・“契約違反と言うことでコレを使わせてもらうから”』
「!?」

電話越しから聞こえた声にシロナは驚愕した。
それは、紛れもなく『自分の声』だったのだから。
一言も発せないシロナを無視して弾むような声がくすくすと笑う。

『何のために貴女に沢山の電話をかけたと思っているの?
サンプルは多い方が上手にできるのよね・・・』
「・・・・」

シロナは答えることも出来ない。
『無意味』だと思っていた電話にそんな裏があるとまで頭が回らなかった自分を責めた。

『もちろん、不用意に使うつもりはまったくないから安心して頂戴。
ひどい、なんて言わせないわよ?貴女にも同等の機会があったんだもの。
さて、商談成立と言うことでいいかしら?また、機会があればお会いしましょう』
「ちょっ!」

シロナの声もむなしくこの前と同じようにブツン、と電話が切れる。

「・・・やっちゃったか・・・。マズったわね・・・。ってことはこの電話番号も?」

シロナはつぶやきリダイヤルを押してみた。

『おかけになった電話は、現在使われておりません。こちらは・・・』
「・・・やっぱりね・・・。そんなに甘くないってこと?」

シロナは苦く笑ってため息と共に失敗を頭の端に押しやる。
そして、目を落とすのは失敗の代償に手に入れた膨大なまでのデータ化された『資料』。
電話の相手、すなわちアクア団のミズキが手に入れたものだった。

「えぇっと、『トバリの神話』『ソノオの花畑』『シンオウの昔話』・・・。
ポピュラーなのもあるわね・・・『生と死の世界』?これって!?」

シロナはかつて2人の少年に聞かれた神話とそれを重ねる。
大きくバツを打たれていたのか、読みづらい場所も多々あったがそれでも解読は出来た。

「『昔々、世界創生の頃、世界は混沌のうねりだけだった。タマゴが産まれ、
はじめのものが生まれた。時間が生まれ空間が生まれた。3つのものが生まれ、心が生まれた』」

ここらあたりは知っている。シンオウで一番ポピュラーな神話だ。
シロナは読み進む。

「『そしてさいごが生まれた』・・・・『最後』!?」

こんな話聞いたこともない。
不本意ではあったが、知らない神話を前に神話好きのシロナは胸躍らせている自分を見つけた。

「『さいごは、もう一つの世界に閉じ込められた。表裏一体の、もう一つの世界に』」

神話はここで終わっている。
じれったい気持ちを抑えシロナは、携帯電話に手を伸ばした。
コールは二回。懐かしい声が電話の向こうから聞こえる。

「もしもし、おばあちゃん?・・・うん、元気。
久しぶりに戻ってもいい?・・・・うーん、いつごろって言われても・・・。
適当に帰るわ。聞きたいことがあるから。うん、じゃあ、また」

シロナは電話を切り、ミズキが手に入れた資料を全て読んでいく。

残された神話には、何か意味があるという確信を持って。



























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2010.3.20  22:38:41    公開
2010.3.23  12:55:55    修正


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