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生あるものの生きる世界

著編者 : 森羅

104.sideユウト 不落の城[ルーク]

著 : 森羅

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「どうしてそんな気の無い顔をしているの?貴方は素晴らしいものを持っているでしょう?
世界中のポケモンの研究者達が一生をかけるような問題だって貴方なら一瞬よ。
そうでしょう?貴方はその無限の力で何を望むの?」

繰り返すように、尋ね返してくるアクア団。
オレは読んでいた機械を彼女に押し返した。
同時に飽和状態に達してもかろうじてしがみ付いていた絆創膏がテープごと剥がれ落ちる。

「・・・何も、望みません」

オレは自分を落ち着けて言った。
そう、何も。
オレはこの力自体に期待するものは何もない。
せいぜい便利か不便か良くわからん付属品みたいなもんだ。
無限でもなんでもない。

「嘘。望みの無い人間なんて居ないわ。
望みがないというのなら、貴方は死人ね。死人は何も望まない」
「オレは、生きてませんよ」

そう言ってかすかに笑える自分が自虐的だとわかっていた。
だが、事実である事も確かなのだ。
この世界においてはオレは死者に位置する人間。
オレの世界はこちらにとっての黄泉なのだから。
しかし、オレの精一杯の抵抗も目の前のアクア団は微笑んでかわしてしまう。

「そうね。そうかもしれないわ。
貴方の事、調べてみたの。ここの組織は馬鹿馬鹿しいことばっかり言ってるけど、パイプだけは太いのよ。シンオウ中の情報がここに居ても入ってくる。貴方、特徴的な髪と目なのに、検索してもまったく引っかからなかったわ。住民登録も、トレーナーカード登録者にも、・・・死亡登録もね」
「まぁ・・そりゃ、そうですね」

逆にオレの名前があったら吃驚だ。

「貴方は一体誰?」
「一応人間、多分ですが」
「名前は?」
「そちらが先に名乗ってください」

オレが言うとアクア団はボールを腰から取り出してウインク。そして笑う。

「当ててみて」

・・・・・・・試されているのか?
そういうのは好きじゃないんだが。
・・・ないんだが、当てないと話が進まんのだろう。

「この人の、名前は?」

ため息交じりでオレはボールの中のポケモンに聞く。
すると、女の子のような高めの声が返ってきた。
引っかかって可哀相ね。せいぜい頑張りなさいな、というねぎらいの言葉と共に。

・・・・・・・・なんともいえない心境だ。

「・・・水城(みずき)、さん」
「正解」

半ば驚いたような、半ば予想が的中して嬉しそうな、そんな表情を浮かべるミズキさん。
オレは続けて言う。

「オレは、ユウト。で、教えていただけますか?利用された報酬に。
一体何をしたかったのか。オレたちをどう利用したかったのか」
「アクア団とマグマ団を壊滅させて欲しかったのよ」

間髪無く返ってくる答え。それは内緒話のような含みを持っていた。
・・・・・・・アクア団とマグマ団を壊滅させて欲しかった・・・・・・?
マグマ団だけならまだわかる。だがこの人はアクア団だったはずだ。
疑問を持つオレはミズキさんを見るが彼女の顔に張り付いた微笑は消えることはない。

「組織が壊れたのにその末端だけが生き残るなんておかしいわ。
そう思わないかしら?それにね、私、これからギンガ団が何をするか楽しみなの。
だから、いつ反乱を起こしてもおかしくないマグマ団とアクア団は消えて欲しかったのよ。
現在のマグマ団のリーダー格はそこの恐怖政治の彼ともう2,3人いたかしら?でも、ハクタイの洋館で誰かに壊滅させられてからはおとなしいからやっぱりそこの彼だけかしらね・・・。とにかく彼は倒れた。アクア団のリーダー格は私。私が居なくなれば次のまとめる物が出来る前にギンガ団の誰かが指揮を取ってまとめてくれるわ。これで実質的に壊滅ね」

・・・・・・・・・・・・なんだと?
オレは何もいえない。

「ところで、ギンガ団の目的を知ってるかしら?『新しい世界を創り出す』よ?笑ってしまうわ。
まるで御伽噺だもの。でも、それが本当に可能なら、楽しそうだと思わないかしら?」

『世界を、創る』・・・・・?
オレはその言葉が引っかかった。
何か、オレの頭の一番奥で小さな警報が鳴ったような、そんな違和感、不安感。
だが、それはすぐにミズキさんの次の言葉によって打ち消されていく。

「不思議そうな顔ね。話が繋がらない、どうしてだかわからない、そんな顔。
そうねぇ、私がどうしてアクア団に居たのか、そこから説明した方が早いかしら。
私はね、『傍観者』になりたいの。『観察者』でいたいの。一番近くで全てを見る観客、でも主役にはなりたくないわ。だからこそ、アクア団に入った。
実際面白かったわ。カイオーガやグラードン。レックウザまで間近で見れたもの。
アオギリ様の語っていた夢も叶えられるのか興味があったわね」

そして今はこのギンガ団が何をするか興味があるの、と彼女は言葉を結んだ。
・・・・・・よくわかった。
つまり、この人も。

「そこの、マグマ団と同じですか」
「違うわ」

返ってくる言葉に何が違う、とオレは思う。
この人も『傍観者』だ。何が起こるのか楽しみにして、自分は一切手を加えない人間。
面白そうだから、で全ての理屈を片付けてしまう。
そこのヒヨリとどう違う?

「何か言いたげね。でも違うわよ。そこのマグマ団と一緒にしないで。
私はね、ある程度の節度は守っているつもりよ?そこのマグマ団見たく面白そうだから、の一言で殺し合いをさせたりはしないわ。そんな事、興味も無いもの」
「興味があればしている、ということですよね。何も違いません。
同じですよ。箱を開けることばかり考えて何が入っているのか考えもしない」
「・・・まぁ、そうね。でも、だからこそ私は『ここにいるんじゃない』」

だからこそ、ここにいる・・・・?どういうことだ?
そのとき、ぐらりと足元がふらついた。目の焦点が合わず、視界が歪む。
・・・くそっ、血を流しすぎた。

「あら、大丈夫?
そうね、私は自分のそれがあまりほめられる事じゃないってわかってるつもりよ?
研究者の立場、といえば聞こえは良いけれど、それだけじゃ済まないわ。
だから私はいつもセーブをかけるようにしているのよ。
私の名前はミズキ。『城(ルーク)』よ。『王(あたま)』がなければ無害だわ。
いつも常に下に居るようにしているの。私を止めてくれるよう。押さえてくれるよう。
それに、『王(キング)』がいる方がずっと上手く動ける事を自認しているもの」

チェスになぞらえて自分を語る彼女。
・・・・・わかった。ヒヨリよりはマシだと思っておこう。
だが、だったら、なぜ。
オレは疑問を問う。

「だったらなぜ、今回はこんなことをしたんですか。
『傍観者』のスタイルじゃない。自分のせいだとわかったらここにはいられない。
そこまでする意味がわからないのですが」
「もっともね。でもね、私、今回はちょっと危ないと思ってしまったの」
「・・・・危ない?」
「そうよ。アカギ様。彼は異質だわ。アオギリ様だってもう少し人間味があったのに。
彼にはそれがないの。まるで機械だわ。・・・・・いいえ、違うわね。
私たちを人間としてみていない。だからそう感じるんだわ。
私はそんな人の下で動くのは嫌なの。それなりの応酬がないとやっぱり駄目よ。
だから、今回だけ遠くから見ることにしたの。全ての結末をね。
もちろん、そのための根回しは全てしたわよ?
マグマ団、アクア団を壊滅させ、貴方達も利用させてもらった。
いいカモフラージュになったわ。私のことを誰も気にも留めなかったくらいに。
そして私は依頼を遂行。貴方に見せた昔話やその他の資料、それをいただいた。
それで取引するのよ、私を誰も追ってこないように」

オレは気の無い拍手をぱらぱらと送った。
この中で一番得をした人間こそ、この人だろう。
ミズキさんは笑いながら一歩オレに近づいて耳元でささやく。

「貴方に全部教えてあげたのは、貴方も面白そうだからよ。楽しみだわ。
どうなるのかしらね?何が起こるのかしら?
存在しないはずの貴方は、一体何を欲するのかしら?」

オレは動けないまま。
だがそれはミズキ本人の事よりも、言葉の方がオレにとっては重要だったからだ。

オレの、欲しいもの。
オレは何かが欲しいと思ったことはあまりない。
欲しいものは、・・・・・望むものは、何だ?

「さて、急がないとね。
貴方のガールフレンドが今せっせとマグマ団たちを掃除してくれているから。
そこを通って逃げないといけないから急がないと、なのよ。
貴方も気をつけて逃げなさい。あと30分もしないうちにここの主が帰ってくるわ」

・・・・・・・ガールフレンドとはアヤのことか。
あれを彼女にする奴は相当な物好きだけだろう。そしてオレは断じて物好きではない。
強いカルチャーショックを受けながらも首を横に振るオレ。
それを見ているのかいないのかミズキさんは先程のボールからマリルリを出した。

「じゃあ、また、会うかしら?
因果と言うものがあるなら、また逢えるかもしれないわね。
お互いの幸運を祈りましょ」

言うだけ言って、きびすを返して彼女は立ち去ってしまう。
彼女が扉の向こうに消えてからオレは動こうとして、

体が動かなかった。

・・・・・・・・・ろ?これは、マズいんじゃねぇか?
引きつった笑いが漏れるのが嫌でもわかる。
ガラッという崩壊音のタイミングがなんとも、涙が出そうなくらい絶妙だ。

「夜月、悪ぃ・・・。もしここの床が抜けたらお慰みだ」

夜月に話しかけてみるが、当然のように夜月からの返事は無かった。
なおさらオレはむなしい気分になる。
そのままずるずると壁に寄りかかるように座り込む事、15分ほど。
つまり、

「あんた、馬鹿でしょ」

アヤが来るまで動けなかった、と言うことだ。

あぁ、さすがにオレも馬鹿だと思う・・・・・・。
オレは天井を仰いだ。

side???

生あるものは願い望む。
望んで欲し、願い求める。

あるものは切望し、
あるものは渇望し、
あるものは羨望し、
あるものは熱望し、
あるものは待望し、
あるものは希望し、
あるものは願い、
あるものは絶望する。

誰も彼も、何かを願う。
誰も彼も、何かを望む。

叶えてほしいと、そう願う。
叶えてみせると、そう誓う。

けれど、
一体いくつの願いが、叶えられずに消えてゆくのだろう?

そうそれは、きっと星の数ほども。
























































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2010.3.15  11:29:22    公開
2010.3.16  23:42:57    修正


■  コメント (2)

※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。

コメントありがとうございます!!45さん!
いえ、この前は「コメント書いたつもりでいた〜」でしたよ。
お久しぶりです。

一応、そこまで重要なわけではございません。かなり省いても良かったネタなんですが、理詰めで責めてくるこんな言い争いを書くのが好きで・・つまり趣味です(断言したぁ!?)
あぁ、ミズキはもう出ませんよ。最後にちょろっとだけ出番があるかなぁと。・・・あ!いや、もしかしたら出るかもしれません。そういえば出したいシーンがありますし・・(便利屋扱い)ただ、あまり彼女が目立っても仕方が無いので、ちょっと迷いますがね(そうさ、これは元々はギンガ団が重要なはずなのだ!)

紅蓮のシーン気に入っていただけたなら何よりです。
あれは本当はヒヨリを叩き落してやろうかと思ったりもしたのですが、まぁ紅蓮とユウトの結論ですので。

契約に関しては、ご意見をいただきまして補足説明コーナーを作ります。結構すごい・・・ですかねぇ?はっきり言ってポケモンをしゃべらせたいから足した設定なんですけど・・・^^;

ミズキにしろヒヨリにしろ良くわからないですね(書いた本人が何を)ユウトも言ってますが、面白そうだからの理由だけで全ての理屈を片付けてしまう人たちです。ミズキはまだ理性的ですが。ミズキにいたっては利益も無益も嫌なんですね。ある意味映画を見ている観客と同じです。映画の主人公を格好いいと思うけれど、しんどそうだからそれになりたいとは思わない。色々なシーンを見て(例えば敵方)、主人公の知らないようなことを知って先に結論を導き出すのは面白い。この例えでわかっていただけますでしょうか・・・・・?(無理だ)

ゆーとは、元々ひん曲がった性格ですからね・・・どうなる事やら。

それでは、失礼を。

10.3.17  19:04  -  森羅  (tokeisou)

お久しぶりです……と言うか、毎回感想を各タイミングは必ず「お久しぶりです」と言っている気がして来ております(−−;)

なんだか、とても重要なゾーンだったような気がしますね。
ミズキさんはなんだか今後もいいタイミング(?)で登場しそうな勢いな方でしたね。

さて、かなり話が戻るかもしれませんが。

紅蓮の偶然の登場から、地震相殺のシーンから、元主を助けるシーンにかけて……めちゃめちゃ興奮しました^^
なんと言うか、紅蓮はよき道を選んだんじゃないかな〜と思います。一生後悔するよりは、絶対良かったかと(いや、後悔しないかもしれませんが^^;

そして、契約の話が出てきましたね。
……なんだか、とてつもない物だったんですね。
モンスターボールを壊すほど、強い契約。もしかして、モンスターボール誕生の裏には、この……深読み禁物ですね^^;

傍観者ですか……実際彼らってよく分からないです(笑)
いや、自分だけかもしれませんが「主役じゃないからこその位置」で、狙撃するかの様に導き、興味ある人間を主役へと仕立てる……すみません、意味分からない事を書いてしまいましたね。

ただ、ゆーとには、周りから何かを得てもまっすぐと立っていてもらいたいですね(ガンバレー

では、失礼します。
……なんだか、凄く変な感想文になってしましましたorz

10.3.17  17:03  -  不明(削除済)  (45syost)

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