生あるものの生きる世界
101.sideアヤ 想定内[ヨソウガイ]
著 : 森羅
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「アル、頑張って。・・・あと、もうちょっ・・・とっ!」
《はいな》
敵は大部分がアルフェッカによって『防御』され、鎮圧されていっている。
最初の方はどこからか湧いて出てきていたけど、もう湧いては出てきてない。
「・・アヤさん、すごいです!!」
手放しでほめてくれるスモモちゃんの声にあたしはちょっとだけ顔が火照る。
ありがと、とだけ口早に答えて、あたしは前に向きなおした。
もう、あとは十数人だけ。
アルのHPも気になるけど、これだけなら!
「アル!もうちょっとだから、頑張って。“がんせきふうじ”!」
《はいな。・・・もうちっと楽しみたいがお終いらしい、申し訳ないねぇ!》
相手のポケモンに向かってかアルフェッカはそう言って、“がんせきふうじ”を繰り出す。
そして、“がんせきふうじ”に飛ばされたポケモンに対してアルは止めを刺しに駆けていって、
廊下の曲がり角、アルにとっての真横から放出された『水』に吹っ飛ばされた。
sideアクア団
小さく舌打ちをもらしてからアクア団の彼女はマリルリを率いて曲がり角から出て行く。
攻撃を仕掛けてしまったのは失敗だと、そう思いながら。
「こんにちは」
クチートが駆けていこうとしたのと反対側、つまりトレーナーのいる方向を見て彼女はとりあえず挨拶。もちろん、まともな返事が返ってくると彼女は微塵も思ってはいないのだが。
「・・・あんた、誰?」
黒色の髪とブルーグレーの目が印象的な女の子が先程攻撃を受けたクチートと見比べながら彼女に問うた。やはりというか、予想内の答えに彼女は小首をかしげて話しかける。
「最近の子供ってみんなこうなのかしら?年上は敬うべきよ?」
「誰って聞いてるのよ」
・・・どうしてこう、もう少し余裕と言うものがないのかしら?
せかせかと生きるだけじゃ『つまらない』というのに。
彼女は小さくため息をついてから素直に回答した。
「アクア団よ。見てわからない?」
ただし、たっぷりの皮肉を込めて。
だが、その皮肉は相手には伝わっていない。
「見ればわかるわよ。そんなことを聞いてるんじゃないし」
「じゃあ、何かしら?」
誰と聞いてきたのは貴方でしょう?というセリフを彼女は飲み込んで微笑を浮かべつつ聞き返した。逆にしどろもどろしてしまっているのが相手である少女の方。
自分が何が聞きたかったのか、何を話せばよかったのかを『敵に弱気を見せられない』という事ばかりを考えすぎた結果、忘れてしまっている。否、そこまで考えていなかったのかもしれない。
「・・・・あんた、あたしたちの邪魔をしに来たの?」
やっと考えがまとまったのか、恥ずかしさに少しだけ顔を火照らせ少女は聞いてきた。
その言葉に彼女は困った顔をしてみせる。
実は、彼女もこちらに手を出すつもりなどさらさらなかったからだ。
彼女としては『依頼』を終わらせ、自分が解放した『鼠』たちが『ギンガ団』を『潰さない』程度に適当に『マグマ団とアクア団』の戦力を削ぎ、そして彼女自身が無事であればそれだけでよかったのだから。だが、実際問題彼女はクチートに攻撃をしてしまった。
それは至極単純なミス。
『見つかりたくない』という思いが彼女をさらに慎重にさせ、その結果、『目の前を横切っただけ』だったクチートに過敏なほどの反応を示してしまった、ただそれだけ。
彼女にとっては想定内の想定外。
こうあるはずがないと思いつつももしかしたら、と思っていた予想範疇の予想外。
彼女は仕方が無い、と息を吐いて少女に向かって微笑んでみせた。
「邪魔、ね・・。どう思う?」
「あんたに聞いてるのよ」
「あら、怖い。そうねぇ、『どちらでもいい』わ。そんなこと。
ただ、出会ってしまったからには戦わないと。・・・・ね?」
頭の中で計画を微調整して、彼女は微笑(わら)う。
ごめんなさいね。『貴女とは少しだけしか遊べないわ』。
懺悔とも言い訳ともつかない言葉を彼女がつぶやいたのを知るものはいない。
sideアヤ
「アル。まだいける?」
《・・・まったく、盲の妾(わたし)に何をするんだい。
あーぁ、あぁー・・まったく、仕方が無いね。・・・心配するこたぁない、大丈夫だよ》
アルは自分の大顎を重たそうに持ち上げて立ち上がり、相手であるマリルリを見つめた。
対するマリルリは、表情一つ変えない。
《借りは作るのも作られるのも嫌いでねぇ。申し訳ないが、今返させてもらうよ。
・・・・・あーちゃん》
呼びかけられてあたしはすぐに頷く。
アルはHPはともかく技のPPがほとんど残ってない。
あたしが無茶させたのが悪いんだけど、こんな最後の最後に出てくるなんて思わなかった。
でも、
『護りたい』。
『負けたくない』んじゃない。
『勝ちたい』んじゃない。
『護りたい』・・・そう、あたしが戦う理由はそれだけでいい。
「マリルリ。“まるくなる”から“ころがる”」
「アル!“てっぺき”!」
鋼鉄化した巨大な顎がマリルリの“ころがる”を受け止める。
だけど、
《・・・・っく・・・!》
「嘘っ!」
アルフェッカは受け止めきれずに後ろに押し出される。
メキッ、と床が沈んだ。
「・・・特性は・・力持ち・・・・?」
「大正解」
おもわずつぶやいた言葉にはにこやかな喝采が送られた。
でもあたしはそれを無視する。
「アル。大丈夫?」
《大丈・・・・あーーーっ!!妾(わたし)の、妾の顎(あぎと)・・・・・。
メキッって。メキッって・・・・ぅう・・ぐすん》
自分の顎を手で撫でるアルフェッカの目はちょっぴり涙目。
その様子は抱き枕を抱いているようで可愛い。
だけど、確かにアルの武器である大顎には見事にヒビが入っていた。
これじゃ、もう接近戦は望めない。
《ぐすっ・・・ばいがえし・・・。これのうらみは絶対倍返しするでなぁ!!!》
「アルッ!?」
あたしの指示なんかまったく聞かないでアルフェッカはマリルリめがけて飛び出してしまう。
「馬鹿ね。“みずのはどう”」
「アル!!」
《舐めるんじゃないよっ!》
アルフェッカの声に呼応するかのようにマリルリの足元から蔓状の植物が生え、“くさむすび”がマリルリを絡めとった。
結果、マリルリは“みずのはどう”を放つことなく見事に転ぶ。
その隙をアルフェッカがみのがすはずがない。
ひっ、とマリルリの表情が変わるのをあたしはしっかりと見た。
次の瞬間、くるりと後ろを向いたアルフェッカの顎がマリルリに食らい付く。
“かみなりのキバ”のバチッという放電音、つづいて焦げたような匂い。
それだけでも効果抜群なのに、アルフェッカに容赦は無かった。
つまり、逃れようと立ち上がったマリルリにさらに“かみなりパンチ”まで叩き込む。
それは、目が見えないとは思えない、神業にも近かった。
《最低だね。女の子に・・・・一体何をするのかねぇ》
ふんっ、とマリルリのほうに向きなおして仁王立ちするアルフェッカに、
あぁ、そっか・・こいつは『あの』ゲンのポケモンだった、とあたしは確信する。
戦闘不能となったマリルリにアクア団の表情が少しだけ変わった。
「戻りなさい、マリルリ。さて、どうしようかしら?」
「・・・・・どうするの?」
「どうして欲しいかしら?」
アクア団の顔が渋い顔をしたのはたった一瞬だけ。今はまた微笑が浮かんでいる。
「面白いわね。もう少し遊んであげてもいいのだけれど」
すっ、と一つのボールを取り出しゆっくりとスイッチを押す。
「そろそろ『時間切れ』。貴女にとっても、私にとっても。・・・・“えんまく”」
アクア団がつぶやいた言葉の意味をあたしが理解する前にボールから出てきたシードラによって吐き出された黒い気体が視界をさえぎる。
あたしはアルフェッカに指示を出そうとして、
「ルカリオ、“はどうだん”です!」
「・・くっ!」
先にアクア団から小さな悲鳴が上がった。
はっとして後ろを振り向くといつの間にかスモモちゃんがルカリオを従えている。
気が付けばもうアクア団の姿はない。
「あ、すみませんです。つい・・・・」
ルカリオをボールに戻して笑うスモモちゃんにあたしは肩の力を落としてアルフェッカと目をあわす。
《別に妾はもう追うつもりはなかったでな》
「え・・・・?」
アルフェッカの予想外の答えにあたしは少しだけ戸惑った。
その様子を見てアルは不思議そうに顔を覗き込んでくる。
《変な事を言ったかい?あーちゃんがしたかったのは『護ること』じゃなかったのかね。
なら、不要な戦いは必要なかろうて》
あ、・・・そっか・・・。
あたしはいまさらながらにそのことに気づかされた。
必要ない戦闘を無理にする必要はどこにもないんだ・・・・・。
あたしはいまだ不思議そうな顔をしているアルフェッカに笑いかける。
「アル、お疲れ様。戻って」
《はいな》
アルフェッカを戻してあたしは、
「ありがと。さ、行こ!紅蓮を追いかけないと」
「え、あ、はいです!」
スモモちゃんの手を引いて紅蓮の走っていった方を追いかけた。
2010.3.3 15:05:22 公開
2010.3.25 14:49:23 修正
■ コメント (4)
※ 色の付いたコメントは、作者自身によるものです。
10.3.9 12:28 - 森羅 (tokeisou) |
コメントありがとうございます!!ハミングさん!! 半日睡眠ですか?うらやましい限りです(おい アルフェッカを強くしすぎたorzこれじゃますますシリウスの影が薄くなる・・・・!可愛かったですか?あぁ、マリルリは♀ですね〜、残念。 ゲンのポケモンが古めかしい言い回しなのはひとえにルカリオのせいでしょう。みんな彼に感化されて(ry アクアの彼女にもいい役を与えすぎましたね^^;彼女ばっかり目立つ事目立つ事orzzなんだかんだでキャラが気に入ってしまって嬉しそうに役与えたから・・・・;『時間切れ』はそこまで深い意味ではありません。あぁ、そっか的な理由です。 それでは宿題頑張ってくださいね! 失礼を。 10.3.9 12:18 - 森羅 (tokeisou) |
やっと繋がった……最近見たい作品が見れなくて不満なKaZuKiです。 私以外にもこの原因不明の攻撃に悩んでいる人は多いようです。 今回まさかのアクア団の彼女でましたよねぇ。 というか、明らかに最近メイン並に動いている彼女が名前が無いというのは、うちのワンピースの少女みたいです……。 しかし、アルの最後のラッシュは圧巻でしたね。 かみなりパンチにかみなりのキバって……実際にゲームでやると、それでも倒せない可能性あるからクチートは怖い。というかマリルリは普通にHP振るからなぁ……。 さて、次ではまたユウト君のよう。 さて、真っ暗闇の一室でどういう大反撃をするのか? 期待して待っていますよ! 10.3.8 20:01 - 不明(削除済) (KaZuKiNa) |
こんばんはです、森羅様。貴重な休日の半分以上を寝て過ごすとか\(^o^)/ アルフェッカ無双過ぎる…敵の勢力ほとんど一体で壊滅させちゃいましたね^ ^; アゴをかばうアルに萌えt(爆☆殺 このギャップはオスポケ相手だったら一撃必殺ですわ(ゑ ルカリオにしてもそうですがゲンのポケモンって何でみんな古めの言い回しなんだろう… アクア団の彼女は戦略的撤退といった所でしょうか。今までの言動からも大物臭がしますし、虚勢という事はまず有り得ないでしょうけど。 「二人にとっての時間切れ」の意味が気になりますが、今は急いでゆーとの援護に行ってあげて; 彼女が張った伏線にも期待しつつ宿題を終わらせてきます(さっさとやれ ではでは乱文失礼しましたっ! 10.3.7 22:25 - 不明(削除済) (lvskira) |
やっと繋がった・・・??もしかしてパソコンですか?
僕、最近上手く繋がらなくて変な画面ばっかり出てくるのですが・・・っと関係なかったらすみません;
やっぱりアクアの彼女、目立ちますね・・・・・。個人的にはマグマの方が好きなんですけど、キャラが動かしやすい事この上ない・・・。
名前も一応考えていたりもするのですが、出そうかどうか迷い中です。一応彼女はメインキャラではなくサイドキャラなので(でも目立つという)真裏も最近ご無沙汰ですね。続き楽しみにしてます♪
アルフェッカの最後のラッシュ、あそこまでやらせるつもりは無かったのですが、気が付いたら書いてました^^;マリルリは確かにHP高いですが、“くさむすび”まで食らってますしギリギリ戦闘不能まで持ち込めたのではないかと。。
次ははい、ユウトサイドです。彼、結構ギリギリですからね。
上手く動かしてやれるよう頑張りますです。
それでは失礼を!